脱炭素型循環システム 法律案

 3月15日に環境省で「資源循環の促進のための再資源化事業等の高度化に関する法律案」が閣議決定された旨報道発表があった。

 中央環境審議会循環型社会部会静脈産業の脱炭素型資源循環システム構築に係る小委員会で検討されていた「脱炭素型資源循環システム構築に向けた具体的な施策のあり方について」が環境大臣へ意見具申された(2024年2月16日)。この意見具申を踏まえ今回の法律案が閣議決定された。https://www.env.go.jp/press/press_02763.html

 当該小委員会でのタイトルには「脱炭素型」といワードが記されているが、今回提示された法律案ではこの「脱炭素」という文字は入らず、資源循環の促進、それも高度な再資源化事業でということが強調された法律タイトルとなっている。筆者としては、脱炭素を強調しても良いのではと思ったが、資源循環はネットゼロに貢献しているという前提で、資源循環の中に脱炭素が含まれているという解釈になったのだろうか。

 資源循環、再資源化事業の高度化の取組みは、個別リサイクル法(自動車、家電リサイクル法)やプラスチック資源循環促進法を通じて行われているが、この施策だけでは足りない、何かもっとブレイクスルーする施策が必要と国は感じているようだ。

 今までの施策とどのような役割分担をしてくのか心配な部分は多分にあるが、その心配よりも、国は実行力ある施策展開に焦っているようにも思える。未だ、法律案ということで法律内容の骨子のみであるが、その概要、注目すべきポイントを以下に解説する。

(1)  目的と背景
 
当該法律の目的は法文案では以下である。

この法律は、効率的な再資源化の実施、再資源化の生産性の向上等による温室効果ガスの排出の量の削減の効果が高い資源循環の促進を図るため、再資源化のための廃棄物の収集、運搬及び処分の事業並びに再資源化の実施に用いられる技術及び設備の高度化を促進するための措置等を講ずることにより、環境の保全及び国民経済の健全な発展に寄与することを目的とする。

 法律の目的にある背景は以下である。

 資源循環は、ネットゼロ(我が国排出量の約36%を占める分野の削減に貢献可能)のみならず、経済安全保障 (資源の安定供給の確保)や地方創生など社会的課題の解決に貢献でき、あらゆる分野で実現することが必要。

欧州を中心に世界では、再生材の利用を求める動きが拡大しており、対応が遅れれば成長機会を逸失する可能性。我が国としても、再生材の質と量の確保を通じて資源循環の産業競争力を強化することが重要。

このような状況を踏まえ、資源循環を進めていくため、製造側が必要とする質と量の再生材が確実に供給されるよう、再資源化の取組を高度化し、資源循環産業の発展を目指す

 太字で協調したように、製造側が必要とする質と量の再生材が確実に供給されるような仕組みが確立していないことが、一番の課題と言えそうだ。

(2)  目的達成のための措置
 
目的達成のため以下の措置が挙げられている。

〈ア.基本方針の策定〉
再資源化事業等の高度化を促進するため、国として基本的な方向性を示し、一体的に取組を進めていく必要があることから、基本方針を策定し公表する。国が目指すべき目標を定め、資源循環産業の発展に向けた施策の方向性を提示する。

〈イ.再資源化の促進〉
資源循環産業全体の底上げを図るため、再資源化事業等の高度化の促進に関する廃棄物処分業者の判断の基準となるべき事項を策定し、公表する。資源循環産業のあるべき姿への道筋を示すことで、産業全体の底上げを図る。   また、特に処分量の多い産業廃棄物処分業者の再資源化の実施状況を報告させ、これを環境大臣が公表する。資源循環の促進に向けた情報基盤を整備し、製造業者等とのマッチング機会の創出を通じた産業の底上げを図る。

 判断基準に関連して、環境大臣は以下のような内容を廃棄物処分業者に定め、廃棄物処分業者はそれを遵守することとなる。

   環境大臣が、資源循環促進のための廃棄物処分業者の判断基準を定める。内容としては、製造業者等の再生資源の需要の把握とその供給、再資源化技術の向上、温室効果ガス削減のための施設改善、再資源化率目標の設定とその達成のための計画などの事項。

   環境大臣は、(判断基準と比べて達成度が低いなど)必要な場合には、廃棄物処分業者に対して指導、助言ができる。

   特に、一定量以上の産業廃棄物処分を行う「特定産業廃棄物処分業者」の状況が著しく不十分な場合には、勧告でき、従わなかった場合には一定の手続きを経て命令できる(命令違反には罰則有り)。

   特定産業廃棄物処分事業者は、毎年度、産業廃棄物の区分毎に処分量と再資源化量などを環境大臣に報告する義務がある(報告内容の緩和規定有り)。他の産業廃棄物処分業者は任意で提出できる。環境大臣は報告された事項について、公表する。

〈ウ.再資源化事業等の高度化の促進〉
 
先進的な再資源化事業等の高度化の取組みを環境大臣が認定する制度を創設し、認定の効果として、廃棄物処理法の特例を措置する。国による最新の知見を踏まえた迅速な認定による制度的支援を通じて先進的な事例を重点的に支援し、先進的な事業を全国的に波及させていく。

認定を受けた場合の廃棄物処理法の特例措置として、廃棄物処分業の許可のみならず、廃棄物処理施設設置の許可も免除される。

認定の類型として以下の3つを挙げている。

〈① 事業形態の高度化〉
製造側が必要とする質・量の再生材を確保するため、広域的な分別収集・再資源化の事業を促進(例:ペットボトルの水平リサイクル)

〈② 分離・回収技術の高度化〉
分離・回収技術の高度化に係る施設設置を促進(例:ガラスと金属(太陽光パネル)、紙おむつのリサイクル)

〈③ 再資源化工程の高度化〉
温室効果ガス削減効果を高めるための高効率な設備導入等を促進(例:AIを活用した高効率資源循環)

これら措置で、特に<イ>と<ウ>に関連した高度化の再資源化事業については、国が仕切ってやっていくという意気込みを感じる。そもそも廃棄物処理業は、皆さんもご存じのとおり、「業許可制」であり、その審査は各地方自治体がその任務を担っている。そういった枠組みを覆すように、高度化再資源化事業者の判断基準や認定は国で管理していくというように解釈できる。

(3)  注目すべきポイント
<ウ>に示す「国の認定における特例」が、今般のポイントとなると筆者は見ている。
 これまでのリサイクル関連の法律や広域認定制度では「処理業許可」については当該法の規定により、廃棄物処理法に基づく許可を不要とするものがあったが「都道府県知事から廃棄物処理施設設置許可を取得すること」までは免除されてこなかった。今回の法案ではこれまで免除されてこなかった「廃棄物処理施設の設置許可も不要」となり、国(環境省)の審査(認定)のみで、「業許可」と「施設設置許可」の取得が不要となる。

 国(環境省)の審査のみということは、大げさに言えば、地方自治体の都合・解釈云々に拘わらず、事業ができるということになる。再資源化事業を全国展開する時の問題として、廃棄物を扱う際の管理管轄は地方自治体であり、関与する全ての地方自治体の見解を聞かなければならない場合があるということである。そして、自治体ごとに見解が異なれば、事業を統一見解で、法律的に良しとする方向で進めなくなるという課題があった。ある自治体は違法でないと判断したとしても、他の自治体で違法と解釈した場合は、違法ということでは事業が進まないといったケースを筆者は何度も見てきた。こういった課題がこの法律案でクリアになる。今回の法律の対象となる事業を開始、あるいは拡大しようと思っている既存企業にとっては、大きなチャンスと言える。
 一方で、これまで地方自治体の管轄の下、廃棄物事業進めてきた既存の廃棄物処理業者にとっては、脅威になる。廃棄物処理業者らが許可制の中で厳しく取り締まられている中、かたや、高度化の再資源化事業は特例でその許可制という縛りが緩和、免除されているという、二極化の構図になりかねない。

今回の法律で認定を受ける場合は、許可制度並みの厳しい審査となることは予想され、地方自治体との関係も少しは残りそうだが、革新的な認定制度となることは確かだ。

詳細は、以下のURLを参照下さい。

https://www.env.go.jp/press/press_02916.html


 

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