Xで昨年ずらずらと書いたツイノベを見つけたので、まとめてみました。


皆様いかがお過ごしでしょうか。もう三月も終わりですね。
お忙しい年度末、皆様お仕事お疲れさまです。
私も少々色々とまとめておりました。上手くいけば半月後くらいに良いお知らせを皆様にお伝えできそうです(*^_^*)
そんななか、息抜きでXを開いたところ、私のツイノベに🧡を付けて下さった方がおりまして。
ああ、こんなのあったっけ。と思い出しまして、ここにまとめてみました。
ツイノベなのに普通の短編ほどの文字数があります。まとめていて笑っちゃいましたw
ツリーを読むのは面倒という方も、ここで一気読みできますので、よければ息抜きに読んでみてください。
これ、突き詰めて長編書きたいなと思った話でしたw(忘れてましたw)




聖剣の記憶を持った不思議な少年×異世界から召喚された青年



 昔聖剣が魔の力に負けて粉々に砕け散ってしまった。
 その聖剣には魂が宿っていると言われており、聖剣を手にした者たちは皆聖剣の声を聞いたという。
 魔に支配された暗黒の時代が数百年続いた時、苦難に陥っていた人族に光明が差した。
 それは、異なる世界からやってきた一人の青年だった。
 青年は聖なる魔力をもち、魔の力を払うという能力を持っていた。
 けれど、青年自体に戦う力はなく、青年も自身の力を使いこなせていなかった。
 人族の住む土地をまとめていた王は、青年に選りすぐりの護衛を幾重にもつけ、魔の力が蔓延る地を浄化せんと、青年を旅に出すのだった。

「……って言うのが、俺がここにいるいきさつ。王様酷いよなあ。監視だらけのがんじがらめで浄化の旅とか。こちとらひ弱なサラリーマンだっつーの」
「そのさらりーまんってのがなんだかわからないけど、ちゃんとあんたからは聖なる魔力が感じられるから浄化は大丈夫だと思うよ」

 隣に座った少年は屈託のない笑顔で俺にそう言った。

「何だよ浄化って。こっちの教会の僧侶に浄化魔法の方法聞いてもぜんっぜん出来ないんだよ。一度も成功してねえの」

 それを浄化してくれないと困るだの浄化失敗したら使えないだの、勝手に困れよ、と少年に愚痴をこぼすと、少年は目を細めて本当に楽しそうに笑った。

「あんたがやりやすいように浄化すればいいんだよ。何もこの世界のやり方に合わせることないよ。知ってるんでしょ、呪文みたいなの」
「知ってるってか……一応寺生まれだからお経はたたき込まれたけど……でも、あれ異世界のやつだぞ?」
「だってあんた自体が異世界の人じゃん」
「なるほど……」

 なんとなく少年の言うことに納得して、俺は休んでいたテントから外に出た。  
 旅に出発してまだ一番最初に浄化する予定の場所から動けていない。何せ浄化できていないから。それなのに他の地方から早く来いとか無能とか色々と言いたい放題言われているのは不思議と耳に入ってくる。
 ……何より、王様が俺を囲い込んで使い潰す気満々に見えるんだよな。
 仕事なら報酬が欲しいというとそんな余裕はないと答え、戦えないというと自分の手足を俺の周りに配置する。
 何をするにも周りを固められた、一秒たりとも人の視線がなくならない生活は、想像するよりも地獄だった。
 しかも聖なる魔力はあるくせに浄化出来ない無能のレッテル。
 俺の心が潰れるまで、一月も掛からなかった。
 あの狭い我が家が懐かしい。ひとりぼっちが懐かしい。ジャンクな食べ物が恋しい。
 ここのご飯はかなりまずい。何より、王宮はきらびやかで豪華な食事が毎日出されているのがわかってるのがもう無理。
 だったらちゃんと報酬出せよといらだつ。
 もう逃げよう。斬り殺されてもいい。ここで精神が殺されるよりはマシ、というところまで追い詰められ、詰め込まれた馬車から飛び降りた瞬間、俺を抱きかかえたのが、先ほどまで横に座っていた少年だった。
 いつの間にやら隊列の中にいた少年の出自はわからない。
 けれど、少年の目には一切のさげすみの色がなかった。
 他の騎士たちは、浄化がことごとく不発に終わる俺に無能という視線を投げてくる。
 魔物が出たら、必ず一匹は俺のすぐ近くまで来て、俺が恐怖におののくのを笑っている。
 護衛じゃないのかよと突っかかったら危機には力も解放されるかもと肩をすくめられて心が折れかけたとき、少年は皆を一瞥して、一言吐き捨てた。

「無能はお前らだよ。なんでこんな雑魚をここまで通すんだ。危機だから力が開花? そんなんで開花するわけないじゃん。浄化の力なんて慈悲の力なんだから。こいつがお前らを守ってやりたいと思わない限り発動なんて無理に決まってんじゃん」

 激高する騎士たちを鼻で嗤った少年は、一瞬で全員を戦闘不能にした。
 傷一つつけることなく。
 いや、身体のどこかに内出血くらいはあるだろうし、肋骨の一本くらいは折れてるかも知れないけど。
 地に伏した騎士たちを一瞥して、少年は俺を振り返った。
 その顔は、さっきまでの顔とは違い、一切の悪意と屈託がなかった。

「俺があんたを守るよ。ようやく見つけたんだ。俺のーー」
「え、何?」

 何が起きたのか理解できないまま、俺は差し出された少年の手を取ってしまった。
 触れた手の冷たさに、なぜかどっと安堵が押し寄せ、俺は縋るように少年に抱きついて、泣いていた。
 この子は、大丈夫だと。訳もわからず。

 それからは、護衛の騎士よりも近くで、少年は俺を守り始めた。
 護衛いらないんじゃないかってくらい、少年は強かった。
 魔物がいたら、一瞬で消し去り、その動きは人間では出来ないほどに速く力強かった。
 少年は魔法も得意で、しばしば俺のテントを外から干渉を受けない空間にしてくれた。
 ようやく逃げ場の出来た俺は、どうして浄化魔法を発動できないのかという魔道士の呆れたような視線や、少年を侍らせて仕事を放棄する異世界人と陰口を叩く騎士から逃げるように、度々少年の元に逃げ込んだ。
 少年は嫌がることなく、俺を受け止めてくれた。そうすると、不思議と心が落ち着いた。

「あのさ、ちょっと俺の世界での浄化で魔法発動するか確認していい?」 「異世界には魔法などないのではなかったのですか?」
「ないけど、こっちの魔法はなんか肌に合わないんだよ」

 どいて、と魔道士を手で追い払うと、俺は魔の力が発生している大樹に向かった。
 慣れた手つきで手を組み、深呼吸をする。
 手にする数珠はないけれど、まあ大丈夫。
 俺は目をつぶると、家で小さい頃からたたき込まれてきたお経を読誦した。
――読経する際は必ず心に慈しみの気持ちを持つこと。そして、強い想いを乗せること。小さい頃、祖父が教えてくれた。
 確かに気持ちを込めれば、読み終えた時の気持ちがまったく違った。
 小さい頃は素直に聞いていたけれど、兄さんが寺を継ぐことになり、俺は行き場がなくなった。
 本当はたくさんやることはあったんだ。住職にならなくても、たくさんの他の仕事があったし、そんなに住職になりたかった訳でもなかった。
 けれど、いざ学生が終わり、人生の岐路に立たされた時、並ぶ祖父と父と兄の背中に、自分の居場所がないと感じてしまったんだ。
 それからは三流の大学に行き、中規模の企業に就職し、家を出て、賃貸マンションで一人暮らし。
 職場とマンションとの往復しかすることがなくなった。
 この世界に喚ばれた時、帰ることが出来ないということにはかなり憤ったけれど、それでも、俺の力が必要と言われて、ほんの少しだけ、嬉しかったことも事実。
 ようやく、俺もあの背中に並ぶことが出来るかも知れないって。
 異世界を救う偉業を成せるなんて、俺だってやればできるんだって。
 けれど蓋を開けてみれば浄化の旅はボランティアで、衣食住は全て王家から直接店に払われるので俺が金を手にすることはなく、寝室ですら三人は常に立って見張りをしていた。
 今考えると、現金を手にした俺を逃がさないための仕様だったんだと思う。
 そう気付いた時に、必死で浄化の魔法を習ってもまったくできなくて、少しずつヒビが入っていた心はとうとうパリンと割れた。
 しかも浄化魔法はどれだけ高名な魔道士に習っても一度も発動せず。
 周りはさげすみながら頑張れと言う。
 頑張れる訳がない。
 魔法なんて俺の世界にはなかったんだから。
 魔力の動きをとか言われても何にことかすらわからない。
 魔法の基礎なんてわかるかぼけ! と何度心の中で叫んだかわからない。

「おっとだめだ。さっき少年も言ってただろ。こんな負の感情じゃ浄化しないって」

 あふれ出すこの国の人達への暗い感情を押し殺し、もう一度深呼吸して続きを言葉に乗せる。

 祈りの言葉が、宙に乗って消えていく。
 先ほどまでまったく何も感じなかった魔力の動きがとてもよくわかる。
 なるほど。俺の慣れた形で表せばこれほど簡単に浄化ができるんだ。
 じゃあ、それを教えてくれて嘲笑じゃない笑顔をくれて俺を物理的にも精神的にも助けてくれたあの少年のために浄化しよう。
 少年だってここにいるってことはここの住人だ。
 だったら、少年のためだけに、この世界を綺麗にしよう。
 少年の息がしやすいように。

 そんな想いは、読経にのって風と共に溶けていく。
 目には何も見えないけれど、確かに浄化出来ていると実感できた俺は、とても重い荷物をその場に投げ捨てた気分だった。

「やっぱり最高に気持ちいい。あんたの魔力は、俺の糧だ」

 いつの間にやらすぐ近くにいた少年は、うっとりと目を瞑り、俺の読経を聞いているようだった。
 君のためだけにこの祈りを捧げるから。
 その気持ちはやっぱり風に乗って、少年に届いたようだった。


 終わってみれば、二番目に行く場所の付近まで浄化されたようだった。
 そう連絡が来たのは、俺が質素なご飯に深い深い溜息を吐いている時だった。
 そして、周りの騎士たちがにわかに騒がしくなった。
 何事かと椀を置いて見に行ってみれば、ここの近くに住む村人たちが集まっていた。その手に供物をもって。
 痩せた土地で取れる野菜はやっぱり痩せていたけれど、村人たちの喜びの声と共に食べる痩せた野菜は、今までこの国で食べたものの中で一番美味しかった。
 騎士たちは聖人に近付くなと威嚇していたけれど、村人の歓喜の笑顔は、騎士たちに囲まれるよりもよほど心地よかった。
 ここに来て初めて満ち足りた気分で毛布をかぶれば、俺のテントに少年がそっと入ってきた。
 そして外界との遮断の魔法を掛けてくれる。
 外に声が漏れない便利仕様だ。

「今日は助言ありがとう。君のおかげでようやく浄化が成功した」
「うん。あんたの気持ちはちゃんと伝わったよ。すごく気持ちよかった」
「ところでどうして君は俺を助けてくれるの?」

 俺のすぐ目の前に座り込んだ少年に、素朴な疑問を投げると、少年はスッと目を細めて、その見た目にそぐわない深い笑顔を顔に浮かべた。

「俺の話は、あんたには信じられないかもしれないよ」
「え、でも俺の荒唐無稽な話も少年は信じたろ。信じるよ」

 俺の言葉に、少年はふはっと笑い声を上げた。

「あんたはさ、聖剣を扱う資格がある。むしろ、昔聖剣を使ってたやつにそっくりだ」
「聖剣……って、何百年も前に壊れちゃったやつ?」
「そう。壊れた聖剣。その聖剣には、賢者と呼ばれた男の魂が宿っていた」

 少年は遠くを見つめて、話し始めた。

 
 数千年前、それこそ今よりももっと魔の力が強かった時代。この世界をもっと希望のある世界にするためにと、世界中を歩いた男がいた。
 その男は、ついに聖剣という魔を消滅する物を作る方法を古代遺跡で発見した。
 その聖剣を作るため、男はその身を全て聖剣に捧げた。
 とうとう聖剣が出来上がった時には、すでに賢者の身体は朽ち果て、賢者の意識はその出来上がった聖剣に宿っていた。
 今まで使えていた魔法は使えたため、賢者はそれから聖剣として、聖なる魔力を持つ者たちと、魔の力を屠り始めた。
 けれど、その聖剣には、寿命があった。


「壊れるのは必然だったんだ。賢者も薄々気付いていた。けれど、勇者と呼ばれた聖剣の使い手に、そのことを伝えることは出来なかった。希望が絶望に変わるのは、いともたやすいことだから。残っていた良心が、勇者に聖剣の寿命を伝えることをよしとしなかったんだ。思えばそれが間違いだったんだけど」

 少年はフッと小さく息を吐いた。

「先に、もう少しで壊れるからと伝えて、聖剣の製作方法を伝えればここまで混沌とすることはなかったんだ。でも、その聖剣は、作り方を、後生に伝えたくなかった。絶対に」
「……どうしてか、聞いてもいいか?」
「もう、気付いてるんじゃない?」

 少年の言葉に、俺の眉が寄った。

「人柱……ってか賢者の命が必要だった、って感じ?聖なる魔力のある」
「……ご明察。だから、製作方法も全て消し去ったよ」
「……なあ、聖剣……いや、賢者。じゃあ、どうして今、そんな姿になっているんだ?」
「生まれ変わっても、ずっと記憶があるんだ。賢者だった時の、そして、聖剣だった時の力もそのまま持っているし、何なら剣の形も取れるよ」
「すげえ、万能じゃん……」
「ううん、全然。だって、俺自身は聖なる魔力の近くにいないと力が補充できないから。使った力はなくなっても増えることはないんだ。この身体になってから。だから、あんたから離れたらもう本来の力は使えない」
「俺、充電器?」
「じゅうでんきというものがどんな物かはわからないけど。そうだね」
「じゃあ側にいて。俺さ、こんなやべえ性格の騎士たちの中にまた一人って多分もう無理。王宮にすら帰りたくない。まだ旅してる方がまし。ご飯はまずいけど、きっと騎士たちの料理が下手くそなんだよ」

 こんな料理の腕で野営とか、騎士って実はかわいそうだよな、と言えば、少年は目を丸くした後、本当に楽しそうに笑った。

「しかも宿じゃなくて毎日野営だし、飯はまずいし、文句しか言われないし。やっぱりこれがボランティアって冗談じゃないって思う」 

 俺を見下していた王様の顔を思い出し、胸のムカムカが蘇る。

「きっと少年なら王様にも文句言えるんじゃないかな。俺と一緒に旅して、王宮に行って、賃上げ交渉して、払い渋りされたら、聖剣になって二人で暴れよう」

 俺の提案に、少年は涙を流して笑いながら、頷いた。
 

 その後の旅は順調に進んだ。
 最悪だった食事は、村人から恵んで貰った野菜を自分たちで料理して、少年と二人で食べた。
 少年は当たり前のように俺の横にいて、一緒に笑って、一緒に寝た。
 そして気付いた。
 少年は、俺と最初に出会った時より、明らかに成長していた。
 少年と会って一月経った頃はまだ俺の胸くらいにあった頭が、同じ目線になった。
 周りの騎士たちも、少年のその成長の早さにいぶかしげな視線を向けている。
 手を出さないのは、一瞬で負けるからと、俺がいつもそばにいるから。

「思春期は一年で15センチ伸びるっていうけど……」

 腕を組んで首を捻れば、少年は、大人びた笑顔で「だって充電されてるから」とうそぶいた。


 その日は肌寒く、ふと夜中に目が覚めた。
 目を開けると、すぐ目の前に少年の顔があった。
 とても綺麗な整った少年の顔は、成長したことで、色気をまとい始めていた。そんな少年の顔がほんの数センチ、いや数ミリの距離にいる。
 目をまん丸にしてその瞳を見ていれば、少年の目がそっと細められた。

「バレちゃった」

 囁くようにそういう少年は、そのまま俺の口に自分のそれを重ねた。
 重ねられた口が、何やら心地よいような、慣れた感触のような気がして戸惑えば、毎晩こうして魔力を貰っていたんだと少年は暴露した。

「……もしかして、充電ってキス?」
「うん。でもたまにあんたの反応がたまらなくて収まりつかなくて苦労したけど」
「おさまりつかない?」
「うん、ここが」

 そう言って俺の手を取った少年は、あろうことか、ギンギンの股間にその手を導いた。

「まって。なんでこうなる?」

 手を離そうにも、そこに押しつけられて否応なく硬い感触が掌に伝わる。
 カッと頬が熱くなる。
 こんな自分の以外のマックスの雄なんて初めて触ったよ、と頭から湯気を出しながら呟けば、少年は肩を揺らした。

「俺にとって、あんたはすごく素直で可愛くて美味しい相手なんだ」
「可愛いって何だ素直ってなんだ美味しいって何だ。どれも褒め言葉に聞こえない」
「聖剣である俺にとっては、絶対に手放せない唯一ってこと」
「ゆいいつ?聖なる魔力を持ってるから?」
「それも含めて全部。そんなあんたを虐げる人間はあんまり許せないし、二人でさっさとおさらばしたいけど、聖剣としての本能が、人族を助けろって言ってるのが辛いんだよ。だから、あんたの王宮で暴れようって言う提案がすごく最高にぐっと来た。そのために、力をためようと思ったんだ」
「なるほど……? いいのか悪いのかわからないけど、キスするのがこんなおっさんでごめんな……?」
「見た目も歳も全部含めて、あんたが最高」

 気負いなく、当たり前のようにそんなことを言う少年の言葉は、俺の胸にじわりじわりと染み込んだ。

「……嬉しい、な」

 本心が口から零れる。 少年にそう言われるのは、最高に嬉しかった。祖父に、両親に、兄に褒められるよりも。


 一年をかけて、国の予定された場所の浄化は終わった。
 一年経っても、周りの騎士たちとは仲良くならなかった。
 俺が少年……もう青年か。青年とずっと一緒にいたから。
 二人でその世界を完結させていたから。
 陰口はその後なかったけれど、騎士が俺たち二近寄ることもなかった。
 王都に入る前に乗り換えた豪華な馬車で、俺は王都の広い道をゆっくりと進んで行った。
 乗り心地が違う。
 最初から最後までこの馬車だったら、あれほど吐かなかったのに、とは思ったけれど、外観が派手すぎて正直好きにはなれなかった。
 国の危機なのに、こんな豪華でいいのかな、なんて心配さえした。
 少年は俺の横に当たり前のように座っている。
 すでに少年の身長は俺が見上げる程になり、その身体はとても引き締まって強そうだった。
 自信満々で笑みを浮かべる少年は、俺が見てもクラクラするような色香をその身体にまとっていた。
 俺たちの凱旋を見るために道に集まった周りの女性の目は、少年に釘付けだった。
 俺は少年を伴って、王と謁見した。
 作法がわからないので、周りが跪いて頭を下げる中、少年と共に立ったままだ。
 むしろ頭なんか下げたくなかったし、少年は聖剣だから、王であろうと別に敬わなくてもいいんじゃないかと思う。

「よくやった、聖人よ」

 王の言葉に、俺はフハっと吹き出した。

「別に聖人じゃないですけど」
「聖なる魔力を使える者は、この国では聖人と定められている」
「俺、この国出身じゃないですから」

 俺が反論したことが気に入らなかったのか、王はスッと目を細めた。
 そういう顔をすると、威厳って言うか威圧がすごい。頭を下げそうになるサラリーマン根性を引っ込め、俺はキッと王を見上げた。

「浄化終わりました。一年の専属浄化代、ただ働きはさすがにないですよね」
「……報償をやろう。この国の伯爵位を」
「一番いらねえ……」

 思わず言い返すと、王様が険しい顔をした。
 さすがに不敬と切り捨てられるかも。でも、本気で一番いらない報償だった。

「例えば、俺がその地位を貰って、なんかいいことあるんですか?」
「上位貴族の地位だぞ。どこが悪い」

 伯爵というと、公爵と侯爵のその下の上位貴族最下位じゃなかったっけ。扱いやすく、かといって権力を持たせすぎない地位を出して来る辺り、やっぱりこの王様は好きになれないな、と溜息を飲んだ。
 旅の途中、この世界の庶民が一年どれくらいの金で暮らしているのか聞いた。
 金貨一枚あれば、一人一年暮らして行けるらしい。
 けれどそれは清貧な生活が前提で。
 王都の外から王宮までのたった数時間乗っただけの馬車は、俺が帰ってきた時のための特別製で、金貨千枚必要だと、そっと聞いた。

「一年の浄化作業の賃金として、金貨千枚。それとまた浄化しないといけない場所があれば、都度依頼してください。相応の報酬を払ってもらえるなら、伺います」

 あくまで商売として浄化しますよという態度を前面に出せば、王様は嫌そうな顔をした。そして、ふと俺の横に目を向けた。

「何やら不届き者が入り込んでいるようだ。つまみ出せ」

 王様の一言で、周りにいた騎士が一斉に少年に躍りかかる。けれど、少年は笑いながら、剣の一本も手に持たず、すぐにその騎士たちを制圧した。

「不届きものじゃないよ。俺は、こいつの剣。あんたの派遣した騎士はまったく使えなかったからね」

 少年がそれこそ少年の姿だったときにコテンパンにやられた騎士たちは、うなだれて何も言えなかった。
 王様は青筋を立て、「引っ捕らえろ!」と叫んだけれど、王の周りにいる近衛がこれじゃ、誰が来てもだめだって気付かないのかな。
 そう思っていたら、ローブを羽織った人達が一斉に謁見室に入ってきた。
 そして少年に一斉に魔法を打つ。
 けれど、少年は聖剣なわけで、そんな魔法効きもせず、これまたすぐに制圧した。

「もっと強いやつ連れてきてくれたら、俺剣になるのに」
「でも剣の姿になって俺が握ったら、逆に俺剣使えないから弱体化しないか?」
「大丈夫。俺が勝手に動くから」

 やってみる? と軽く提案してきた少年は、俺が何か言う前に、身体を光らせた。
 眩しい! と目を瞑り、光が収まったときには、俺の手に、とても精巧な装飾が施された神々しい剣が握られていた。
 不思議と、その剣の重さは感じなかった。
 そして、剣は俺の手を通して、俺の身体を勝手に動かした。
 剣聖俺の爆誕だった。
 俺はただ意識するだけ。
 自分がこんなに動けるんだ、と感心して次々現れる騎士を制圧していく俺を、俺は少しだけ楽しんだ。
 王様以外の全てが地に伏したところで、俺の身体は動きを止めた。そして、ふっと隣に少年が現れる。

「どう?」
「正直、めちゃくちゃ楽しかった」

 素直に答えれば、少年はフハっと、会ったときと同じような屈託のない笑顔で笑った。

 こうして、王宮制圧は終わりを告げた。
 金貨一千枚をカツアゲした俺たちは、その金で一軒家を買って、王宮からだいぶ遠い街で生活を始めた。
 少年……青年は相変わらず隣にいて、毎晩俺から聖の魔力を貰っていく。
 段々と大胆に激しくなる魔力充電は、同じくらいの愛情を俺に充電してくれて、何の文句もなく。むしろ俺からねだったりも……ゲフンゴフン。
 こうして、俺はようやく自分の居場所を見つけた。
 もう前の家族には会えないけれど、寂寥を感じる間もなく与えられる愛に、俺の顔はいつでも笑顔だった。




以上。ハッピーエンド。
楽しんで貰えたでしょうか。
読んでくださってありがとうございます。
ムーンさんとアルファさんの連載はちょっと滞りがちですが、少しずつ時間を取って頑張りますので、気長にお待ちくださると幸いです。

それと、内緒話なのですが、そのうちアルバ君の高校編を連載したいと思いますので、お待ちいただけますと幸いです。こちらはアルファさんの方でだけ連載となります。
書籍化記念SS的なアルバ君高校生SSを書いていましたが、それは一旦非公開にして連載再開すると思います。(まだそう決めただけでなんの用意もしてませんが、ここで宣言すればやらざるを得ないだろうという自分追い込みをしております!!!!)
と言う訳で、新年度四月!
皆様も心機一転無理なく頑張ってください!

朝陽

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