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魔女っ娘ハルカ⑧(小説)

〜二十数年前〜

夕刻、ミーフガーにて

「これより入江家による、先祖供養及び、我が孫“海人”の成就祈願を執り行う。ここに集いし者は、神に祈り先祖に感謝し、この先に新たな未来を築き上げる海人の門出を祝いたもう…」

私の祖母が、ユタとして神事を行っている。
今日は、私が晴れて三十路となり新人ユタになるための祈願式をしてもらっている。


おばぁ

祭壇には、酒、魚、干物、団子、そして昔から代々受け継がれてきた家宝の宝玉が金色に光って真ん中に置かれている。

父が太鼓を一つ鳴らす。
母が柏手を打つ。
祖母が祝詞を唱える。
「あな尊き、ヒヌカン(火の神)よ…
 あな尊き、アムィゴ(水の神)よ…
 全てに通ずるアマテラスよ…
 どうか祈りを聞きたもれ…」

祖母は唄い祈りながら円を描くように踊る。

続いて私も祈る。
「神様、私はやっとここまで辿り着きました。神の道を開いて下さい。そして、私の行うべきウグヮン(儀礼)をお示し下さい。」

母が御神酒を酒器に注ぎ、祖母が口をつける。次に私が口をつけ、並んで祈る。

父がもう一度、太鼓を鳴らす。

テルコ(太陽神)が水平線にさしかかり、割岩の中程に見えた時、それは起こった。

(ゴゴゴゴォーーー…………!)

突然、地鳴りが足下を駆け巡り辺りが暗くなってゆく…
先程までの神聖な空気な一変し、ただならぬ雰囲気が私達家族を包んだ。

「要らぬ邪のモノが呼び寄せられたか…」
祖母は宝玉を懐へとしまい、父と母に祭壇を片付けるよう指示を出した。

「日の神と月の神が姿を消すのを待っていたか…」

私は岩陰からこちらを伺う邪のモノに気づいた。
「おばあちゃん!あそこに何かいる!」

「海人…平気だよ。アンタはバァバの後ろに隠れてなさい。」
祖母は私を自分の後ろに居させ、両手を広げ小さな背中で守ろうとしてくれている。

岩の窪みから邪気を放つ異様な気配…
それは、大きく畝っており気味の悪い姿でこちらに向かってくる。

「ウワバミじゃ…」

口から鋭い歯を剥き出しにし、恐怖を植え付けるような眼光で私達を睨みつける。


ウワバミ(大蛇)

父が棒切れを拾い上げ、大蛇に挑むが…
いとも簡単に跳ね除けられ、母もろとも身体の下敷きにされる。

「お父さん!お母さん!」

私は祖母の後ろから回り込み、大蛇に向かって突進していった。
それを、大蛇は頭でかわし倒れた私に噛みつこうとしてくる。

「やめろ!やめろー!どけー!」
私は手足をバタつかせ、蛇の下敷きになっている父母が動けるよう後方におびき寄せた。

しかし、大蛇は首を上へと伸ばし直滑降で私に襲いかかってくる。

「あっーーー!」
もう駄目だと諦めた瞬間。
「海人!」
と、祖母が私を覆うように倒れ込んだ。

「あ゛ぁぁ……海人…大丈夫かい…?」
大蛇の牙に串刺しにされながら、私を気遣う祖母。
「おぉ、…おば…おばぁ…ちゃん…」
私は家族のあり得ない光景を目の当たりにし錯乱していた。

「海人や…お前は心が優しい良い子だ…とっても、良い子だ…けど、世の中にはこういった不幸を好む畜生もいる……いいかい、…私がいなくなっても挫けるんじゃないよ…アンタは強い心を持ってるんだからね……頼んだよ…」

祖母はそう言い終わると呪詛を唱えだした。
私を何とかこの場から救うために、自分の命と引換えに、禁句の呪いを唱えだした。

「オンバサラ……アビラウンケンソワカ……この者に永遠の魂を…アギチャビヨイ!」
呪詛が私の身体を大蛇から引き離す。
それと同時に魂をも身体から引き離す。

身体と魂が離別した私は、空に浮かびながら祖母が大蛇に喰われていく惨状を見ていた。

「あぁ…あ……なんで…こんな…酷い……」
祖母を飲み込み、父と母を払い除けた大蛇はズルズルと滑るように海へと消えていった。

「私は…私は……どうしたら……」
魔物に侵された私の家族は、闇の静寂によって覆われていった。

しばらくすると、島の人が駆けつけ父と母と私の身体は救急車に乗せられ病院へと搬送された。

それから二十数年…
………………………………………………………………………………

ミーフガーの窪地に座るハルカ。
「おばあちゃん…元気かな…」

海からそよ風が吹いてくる。
「元気ではないよね……どうしてるかな…」

祖母に語りかけるようにハルカは話し出す。
「あのね、聞いてよ!おばあちゃん。昨日ね、ヒメ様って神様に会ったんだよ〜。そしたらね、どうしたら宝玉を取り返せるかって事を教えてくれてね!なんか、結構大変みたいなんだけど何とかなりそうなの!」

少し考え込みながら…
「でもね、私にはどうもパートナーが必要らしくてね…私のコトを大切に想ってくれる人じゃないと駄目なんだって。そうじゃないと、私の力は発揮されないんだって…どうしようね。」

海を見つめながら…
「今ね、一緒に過ごしている人がいるんだけど、ちょっと気になっててね…優しいし、頼りにはなるんだけど、少し心配な事もあって…それに、危ない目に合わせるかも知れないし、やっぱり一緒に付いてきてもらうのは無理かなって…そうだよね…やっぱり良くないよね。」

つぶやくハルカの頭上に青い光が射す。

「あはっ…wこの丸いのおばあちゃんかな?」

青くボンヤリと光る丸い球体は、とても温かくハルカを照らした。

「お父さんとお母さんも見守ってくれてるのかな…ずっと、支えてくれてるんだものね…」

優しい光を穏やかな気持ちで見つめるハルカ。

「よし、わかった。ありがとう。帰るよ」

光に背を向け草原に歩き出すハルカ。

「次に来る時は、必ずお土産持ってくるから待っててね!またね〜!」

ハルカは光に手を振り、故郷の地を去った。

続く。。





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