ド・ドンパ!!
先日、2021年から運行を休止していた富士急ハイランドの名物コースターが、国土交通省の公式認可が降りず、正式に運行停止となった。
このニュースを見た時、はるか数十年前の苦い記憶が蘇ってきてしまった…
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(ど、どんぱっ…ど、どんぱっ…ど、どん…)
富士急ハイランドに新しく出来た、新型ジェットコースターに乗る為に、もう一時間以上この音を聴きながら列に並んでいる。
「まだかな〜」
彼女(直子)がクリスマス旅行に行きたいと言うから、「るるぶ」で調べたのだが、スキー場の予約はどこも埋まっていて、妥協案として富士急ハイランドにいくことになった。
朝食バイキング付の宿を予約し、初めて山梨県までドライブがてら旅行に来たのだ。
お互いに絶叫系のアトラクションが好きなので、まず「FUJIYAMA」に乗って富士山を眺め、「ドドンパ」に乗ってから「戦慄迷宮」に行こうと考えていた。
「楽しみだね〜」
「早く乗りたいね〜」
待ってる間もイチャついて過ごしているので、待ち時間もさほど苦にならない。
遠目に見える漏らした時用の下着の自販機が少し気になった。
「あっ、もう次だよ!」
平たくて奇抜なデザインのニューコースターが、俺達の前に現れる。
「わ〜超楽しみ〜!」
俺達は前の横並びに座り、イチャつきながらスタートを待った。
眩く光を放つスタートゲートのトンネルにスタンバイし、コースターが発車するカウントダウンが始まる。
俺は横を向いて彼女の顔を見ながら話をしていた。
「スゴイ速いらしいよ〜」
「一気に180km位まで加速するみたいね」
「大丈夫〜?笑」
「俺は全然余裕だよ、だって…」
(3…2…1…ドドンパー!)
まだ、俺が彼女と話をしている最中に、急加速で発進する新型ジェットコースター。
信じられないくらいのスピードで、一気にレールを滑走してゆく。
今まで体験したことのない迫力と圧迫感により、横を向いていた俺の顔面は後頭部の座席に打ちつけられ軽い脳震盪を起こしかけていた。
そういえば、出発前のアナウンスでしっかりと頭を座席に押し付けて置いて下さいと言われたな…
ケガ防止の為に、ちゃんとスタッフは注意喚起していた。
どうせ、今まで乗ってきたジェットコースターと大差ないだろと、タカをくくっていた俺の不注意だ。
メインの一回転の所も、ほぼ記憶がない。
ただ、隣で大はしゃぎしている彼女の声だけが鮮明に脳裏に焼き付いている。
「ヤバい…首痛い…早く終われ……」
凄まじい勢いで走るコースターのスピードが徐々に落ち着いてくるのを感じ、俺はホッと胸を撫で下ろした。
「スゴイー!もう一回乗りたーい!ねぇ…」
この興奮を共感し合おうと、俺の方を見た彼女は顔面蒼白の俺に驚いた。
「えっ…大丈夫…?」
「うぅ…ん…ちょっとね。気持ち悪い…」
「マジ?!漏らしたりしてない?」
「あ…それは…大丈夫…」
「とりあえず、少し休もうか…」
「ごめん…」
彼女に肩をかしてもらい、出口通路を降りる。
これから乗車する人々が、なんとも言えない視線を俺に向けてくる。
「え…そんなにヤバいの?」
「男の方が体調崩したの?笑」
「顔が真っ青なんだけど…」
俺は売店のベンチに座らせられ、直子に介抱してもらった。
「なにか飲み物買ってくるね、何がいい?」
「ん…えーと…ソフトクリーム…」
「飲み物は?」
「ソフト…クリーム……」
なんで俺はソフトクリームを食べたかったのだろう…
糖分が必要だったのか?
これは今でも謎のままだ。
俺は直子の買ってきてくれたソフトクリームを少しずつ食べて、落ち着きを取り戻していった。
「どう?」
「体調は大丈夫。でも、首が痛い」
「あ〜、あのスタートの時か…」
「加速の勢いで…打ち身になってる…」
「戦慄迷宮はまた今度にしようか」
「…ごめん」
俺達はこのあと激しいアトラクションを諦めて、トマースランドを眺めたり、お土産コーナーをウロウロしてホテルへと向った。
ホテルでのベットも、俺が極力動かなくて済むように直子が上になって色々してくれて、事なきを得た。
朝のバイキングで俺のプレートに、食パンや目玉焼きをのせて持ってきてくれる直子。
「飲み物は?」
「お…オレンジジュースで…」
「ソフトクリームもあるよ。笑」
「今は大丈夫…笑」
一度、別れたのに復縁してくれた彼女。
もう、彼女に情けない姿は見せたくなかったのにな…
でも、これからは今回みたいに旅行したり、楽しい所に色々と二人で出かけて、素晴らしい思い出をたくさん作りたい。
そう、思っていた。
「次はディズニーね〜!」
「はいはい…笑」
まさか、この時すでに二股かけられていたなんてね。
浮かれ気分の俺は、知る由もなかったよ。
ど、どんぱっ…。。
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