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輸入盤・レコード

 17年前のブログ。
1980年代後半にレコードが市場から無くなり、それを懐かしむ昔話を書いているが、現在ではCDが無くなりつつあり、そのレコードが復活してきている。
レコードやミュージックテープでの新譜も出る時代なんて当時では想像つかない。
メディアやソフトの形態は変化するが、それは単なる伝達手段に過ぎないということ。
しかし、レコードが復活した一つの要因はカッコイイという感覚的なものだ。これ重要なこと。
2023年11月1日


 僕の中学・高校時代は“ポパイ”が創刊され、“ぴあ”“シティーロード”“あんぐる”などの情報誌が発行部数を伸ばし、エンターテイメント情報が街に溢れ始めた時期だ。ウォークマンで音楽を聴きながら、“あんぐる”片手に、“WAY OUT”のトレーナーを背後霊のように肩にかけた人々が、完成したばかりの渋谷109の前にたくさんいたのだ。サーファー、陸(おか)サーファー、トラッド、JJ、ハマトラなど新しいファッションが街に溢れ、バタ臭い文化が充満していた。

 アメリカやヨーロッパの文化が急に身近に感じられるようになった事象のひとつに輸入盤が求めやすくなったことがあげられる。タワーレコードが本格的に日本進出し、渋谷に大きな黄色い看板を打ち出した時(東急ハンズの斜め前)、それまでの一部マニアの中だけの輸入盤ワールドが壊れていった。ディスク・ユニオンやレコファン、シスコレコードなどに足しげく通ったレコードオタク達は、ちょっとしたショック状態になった。なんせ、一般人が当り前のように輸入盤を買っているのだから。

 輸入盤=日本盤を買わない人=ちょっと音楽にうるさい人・・・などといった組立てが容易に展開できたからレコードオタクにもアイデンティティがあったのだが、タワーの登場でレコードオタクの優越感もどこかへ吹き飛ばされてしまったということだ。黄色い地に赤い字でTOWERと書かれたビニール袋を持っていることで、一般人がちょっとしたツウを気取ることができた時代になっていった。

 タワーレコードに入ると輸入盤独特の匂いが鼻をかすめる。アメリカの匂いだと、勝手に思い込む。歌詞カードも日本語のライナーも入っていない(当り前か)輸入盤は、不親切だけど、お洒落に見えたのだ。
“おっ、あの人は輸入盤をもっている・・・。”
“歌詞カードが無いのに聴けるということは、あの人は、英語が堪能なのでは・・・”、と勝手な妄想を膨らませながら、みんなが輸入盤を持ち歩く。渋谷109前のファッションに“タワーの黄色い袋”も付随するようになった。

 輸入盤のいいところは、邦盤では見たことのない作品が数多くあったということだ。そりゃそうだ、町のレコード屋の限られたスペースの中で陳列される作品(邦盤)は売れ筋でなければならない。3ヶ月動かなければ、流されてしまうこともしばしばある、と以前レコード屋でバイトしていたKさんが教えてくれた。
その点、タワーのようなメガストアーができたことは、僕のような音楽好きにとってはありがたい場所だった。何でも揃っている(雰囲気になる)から。
 メディアが発達し情報が大量に流される中、その情報に応える受け皿がようやく整備されてきたといった形だ。
いくら、良い良いと勧められた“マウンテン”、“トッド・ラングレン”、“MC5”、“ゲス・フー”、なんてアーティストの作品は、町の普通のレコード屋で見たことなかったもの。
 合わせて、MTVが巷を賑やかし始めた時代。
僕は“チャーリー・ダニエルズ・バンド”のビデオクリップを見た後、すぐに町のレコード屋に走った。しかし、そこにはチャーリー・ダニエルズ・バンドではなく、チャーリーズ・エンジェルが置かれているだけだった。CHの棚はチャーリーズ・エンジェルズで終わっていたのだ・・・。結局タワーでチャーリー・ダニエルズ・バンドを買った。情報量と供給体制に難があったのだ、あの当時は。情報ばっかり垂れ流してモノが無い、という。だから、タワーレコード様々である。 

 輸入盤は安くて、タワーを使えばすぐに手に入り、こりゃいいやと思っていたが、中を開けてビックリ。盤が波打っていて、まともに聴くことができないこともあった。今ほど流通系が確立されていなかったので海外からの長旅で塩化ビニールが変形してしまったものが多かったのだ。中にはカット盤といって、ジャケットに鋏が入れられており、B級を意味するものもあった。
 そして、1985年あたりを境にレコードはCDに姿を変えた。CDの輸入盤はレコードのときと比べて、邦盤と変わり映えがしない。
第一、手に持ち歩く時、CDは鞄の中に収まってしまうから、黄色のタワレコの袋の威厳が無い。

 輸入盤の思い出は遠い過去のものになりつつある。やはり、輸入盤はあの匂いがないと・・・。
レコードの中でも特別な存在だったな。

2006年4月1日
花形

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