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¬ PERFECT World 3話

2話


3話

ルーシアが来てから1ヶ月が過ぎようとしていた。

 ケンを始めとして出会った子供達は、全員この村の商店や役場の重役の子供達だった。

 商人の村であるこの村の学校はまず、全員に読み書きと算数、コミュニケーションスキルを学ばせる。
10代半ば頃からは専門職への道がそれぞれに拓かれる。

 専門職は大まかに分けると、技術専門職と経営専門職。
職種によっては技術も経営も学ぶ必要があるので、専門職の学校ではあらゆる年齢の学生が日々学んでいる。

 ルーシアは村長のお墨付きもあり、パーフェクトである事を買われて医療の知識や武術の訓練など、あらゆる所に臨時講師として招かれていた。

 今日はそれぞれの学校が共通して早く終了する日。
ケン、ナユリ、マコト、トーマ、リナ、サニーとルーシアの7人は賑やかに学校からの帰路を歩いていた。

「はい、次は誰のマネでしょうか!」
手を挙げてそう仕切ったマコトがパントマイムを披露し始める。
 右手側で大きく丸を作り、それを両手で挟むように持ち上げる。
その後一旦バウンドさせる様な動きをした後、左側へ持って行った。

「ハイ!流通のジョイ先生!!」
リナが嬉々として答える。
「正解!“いいかぁ、ヘリ輸送に掛かる費用にはぁ~”」
と、今度はセリフ付きで同じジェスチャーを繰り返し始めたマコトだった。

 皆が笑い声を上げる中、甲高い声が市場に響き渡った。
「おだまり!なんだいこの誓約書は!あんたら、親切にしといて結局金をふんだくろうって魂胆なんだね!そんな金うちにゃないよ!出てっとくれ!早く!」
「シオンのお母さんだわ」
ナユリがそうつぶやいて、叫んでいる女性の元へと駆けて行った。

 少しふっくらした感じの体型、一つに束ねた髪は肩甲骨の下あたりで揺れている。女性はナユリが来たことで少し落ち着いた様子を見せた。

しかしその隙をついて、女性に怒鳴られていた二人組が何やら詰め寄っている。
「ルーシアさん!来てください」
その声と同時に、ルーシアはナユリの横に来ていた。

 さすがに呼んだナユリ自身も驚いたらしく、目を丸くしてルーシアを見ている。今は正面にいる男女二人組も少なからず驚いた様だった。

顔をよく見てみると、1ヶ月前にケンの家ですれ違った二人だった。

「・・・なんだ。村長の家で会った子じゃん。・・・あんた、あの時私たちに殺気みせてたよねー。気に入らない」
鋭い瞳。ハッキリした物言い。かなりの厚さのブーツを履いていて、化粧はやや濃い派手めな女性。

「ミルー、落ち着けよ。この時代、互いが警戒するのが普通だろ?失礼、お嬢さん。俺はDtype94のナリユキ。で、こっちがBtype104のミルー。・・・あんたも他のパーフェクトを見て緊張するってことは、あの国とは関わりたくないんだろ?俺達も流れ者でいたいから、同じだよ。」
ミルーと同じ背丈に見える、ナリユキと名乗った男性がサッパリと言った。

「・・・Ttype40のルーシアだ。なにか、揉めていた様だが?」
話が嫌な方向にずれそうだったので、ルーシアは二人のパーフェクトに警戒の眼差しを注ぎながらナユリと女性の前へ進み出た。

「いや、ちょっとね。その奥さんが娘さんの手術に同意しておきながら、今頃反対しだすもんでね」

「おかしいじゃないか。手術費だけでいいって言っておきながら、事前検査に耐久テストでごちゃごちゃと・・・ルーシアさん、この人たちがパーフェクトの手術をしてくれるって言うんだけど、そんなに検査が必要なものなのかい?」

「誰が手術を受けるのかにもよります。・・・やはり、シオンさんですか?」
 
この発言で、一気に場の緊張感が高まった。

「いい加減、いちゃもんつけるのやめてくれない?あんただって、この土地の者じゃないんでしょう?」
「私は・・・ただ、これ以上不幸な人たちをふやしたくないだけだ」

 その一言で、今まで柔和路線を敷いていた男が睨み始めた。
「俺らの手術が、不幸にするって言いたいのか?文句を言うなら、多数決で決めたっていいんだぜ」

男は言いながら指を鳴らし始めた。まるで喧嘩を始める前の準備運動。女も、戦闘態勢の構えを見せている。元々気の合わなさそうな者同士、第一印象も悪い。

 いざとなれば、この村を壊してもいいんだという雰囲気を漂わせている二人。感情に敏感なパーフェクトでなくとも、周辺の村人は二人から溢れる殺気をひしひしと感じていた。
 
「多数決なら、あたしも入れてよ」
女性の中音のハスキーボイスが響き渡る。
一瞬にしてルーシアを取り巻きつつあった殺気が消えた。

 ルーシアの視線の先に、青色のショートヘアに短いスカート、肩だしの上着にハイヒールといった格好の女性がいた。

「ルー、あんたいつ見ても変わってないね。争い事が嫌いなのに、すぐに巻き込まれる。適当に躱せばいいのに出来ないのよね。ま、この二人はどう言っても争いになりそうだけど。でも・・・あなたたちがナンバーを持ってるパーフェクトならわかるでしょう?この村がどんなに居心地がいいか。その弱みに付け込もうとするのなら、今すぐ村から出ていくか村の外で決着をつけましょう。それが嫌なら、一週間後のヘリまでおとなしくしてて。彼女の方はそんな靴で砂漠を戦えないでしょう?」

「人の事言えないでしょう。ハルだってヒールじゃない」
二人組より早いルーシアの突っ込みに、ハルと呼ばれた女性は笑顔を送った。
「だーいじょーぶ。ちゃんと替えの靴持ってるから。・・・で?何でもめてんの?」

 ハルがルーシアと二人組を交互に見る。女が呆れたというジェスチャーを見せ、ハルの横を通り過ぎて行った。
男が慌てて追いかける。
「おい、まさかこのまま行くつもりか?」
「あたしに素足で戦わせるつもり?冗談じゃない!この村の人たちにちょっかいかけなきゃいいんでしょう?適当に買い物に来た金持ちにでもふっかけるわよ。本来そっちの方が効率いいしね」

市場の中心地へと消えて行った二人を見送った後、母親の女性は安堵の表情を浮かべた。
と、緊張感もなくハルがルーシアに抱きついて来た。
「久しぶり!!まったく、ああ言えば最短で追っ払えたんじゃない?で?私本当に原因がわからないんだけど?」
ルーシアは顔をほころばせてハルを迎え入れる。

「心臓疾患の子供の手術を強行しようとしていたようなんだ。・・・お母さん。前にも言いましたが、心臓を患っている方の手術成功率はかなり低いんです。成功症例もありますが、それらは大抵大きい病院クラスです。町医者感覚では、なかなか・・・」

「そう、でしたよね。・・・あの二人が今の技術ならできるって、言ってくれたから・・・やっぱり、騙されていたんですね」

 落ち込み、うなだれた肩を震わす女性。そこへ一人の少女が女性の元へと駆けより、抱きしめた。
「お母さん。もういいの。大丈夫。私、今のままでも大丈夫だよ。強くなる。お母さん言ったじゃない。体の強さだけが、本当の強さじゃないって。心が強い人も、立派な人になれるって」

その言葉に我に返った様に顔をあげ、ゆっくりと少女の方に向き直る。
「そうだね。お母さん、その言葉を忘れていたよ。心を、強くしようか。ごめんね。お母さん忘れていたよ。シオンがいるなら、それだけでこれ程嬉しいことはないんだって事を」
「ケン、行こうか」
小声でルーシアが言った。

二人の母子を愛おしげに眺めていた瞳はどこか悲しげだと、ケンは思った。
 
 村のはずれ、ケンの家の裏にあたる所に丘がある。その丘へ向かいながら、ルーシアはハルの紹介を始めた。
「私と、同じ研究所にいた仲間よ。事情があって一緒に旅はしなかったんだけど、一番の親友なの。ハル、こっちからケン、ナユリ、マコト、トーマ、リナ、サニー。・・・ここに来たって事は知ってると思うけど、1ヶ月程前からここにいて、その間お世話になっている人達よ」

 ルーシアの言葉づかいに驚いたハルは目を丸くさせた。そんな些細な変化に気づくはずもなく、6人はハルに次々と質問を投げかけていく。
 
「そういえば、何歳になるんですか?」
リナが思い出したように質問を投げかける。満面の笑みでハルは明るく答えた。
「わかんないのよ。私、誰かに年を数えてもらったことがないから」

 空気が固まったのがわかった。やはり、ここで暮らしている子供たちには中々想像出来ないことなのだろう。ハルがそのままの笑顔で先を続ける。

「まー、記憶がある時から数えると今15年くらいかな。小っちゃい時期とかも合わせて考えると20~24ってとこぐらいじゃない?ま、そんな気にする事ないわよ。だって年齢って人を見る目安でしょ?私、誰が見ても20代前半だもん。私は気にしてないよ?」

「ふっ、そうだよな。愛に年齢は関係ないんだよ。ハル、俺の恋人にならないか?あ、ルーシアも、俺の何人かいる恋人の一人なんだけどね」

 一番最初に笑顔でこの話を乗り切ろうとしたのはトーマだった。恒例の女たらしモードに入り、手の甲にキスをして笑顔で誘う。

1拍間が空いて、軽くあしらう口調でハルが笑う。
「ごめんなさい。友達と彼氏の取り合いをする趣味はないの」
あっさりと振られたトーマに、ケンが追い打ちをかける。
「いつ、誰が、お前の彼女になったんだよ!嘘つくのもいい加減にしろっ!!」
追い打ち、というよりキレかかっている様でもある。

 ルーシアはその輪から外れる様に、到着した丘の上で腰を下ろした。さわやかな風が、丘を越えた先にある池へと流れていく。
 

 質問も落ち着いた頃、丘を登ってくる少女の姿が、ようやく8人の視界に入った。
「ナユリちゃーん」
聞こえるか聞こえないか、ぎりぎりのか細い声に気づいたルーシアも、少女の姿を見て立ち上がる。

 肌が白く、腰まで伸びた黒髪を風になびかせてやっと辿り着いた少女は、満面の笑みで8人に顔を向けた。
体全体の線の細さが、長い療養生活を想起させる。先ほど母親を元気づけた少女、シオンだった。

「シオンちゃん、大丈夫なの?ずいぶん速いペースでここに来たんじゃない?」
心配そうにナユリがシオンへ手を差し伸べる。その手を握りながら、シオンはしっかりと背筋を伸ばして答えた。
「大丈夫。・・・どうしても、さっきのお礼が言いたくて。あの・・・お名前は?」

「私はハルよ。・・・ルーとはもう知り合いなのかな?」
「はい。いろんな旅の話を聞かせてもらってます。あの・・・ハルねぇって呼んでもいいですか?ルーシアお姉ちゃんの事も、ルーねぇって呼ばせてもらってるし」

「えぇ、いいわよ」
「じゃあ、改めて・・・ルー姉、ハル姉、さっきは助けて頂いて、ありがとうございました」

 思い切りよく頭を下げ、懐かしい呼び名でルーシア達に話しかける。
顔を見合わせたルーシアとハルの間に、懐かしい場所の記憶が蘇る。

「ハル姉も今まで旅してきたの?旅の話を聞かせて」
「そうね。じゃあ話をしようか」
ハルが動き出した、その時だった。

シオンがナユリの手を離れ、膝をつく。
「シオン!本当に大丈夫なの?旅の話なら、家に来てもらっても聞けるじゃない」
ナユリが泣きそうになりながらシオンの説得にかかる。

 それを見ていたルーシアが、シオンの目の前にしゃがみ込んだ。
「シオン、無理はしないで。話が聞きたいのなら家へ行くよ。それくらいなんでもない事よ」

シオンは首を振って、意思の強い瞳でルーシアを見る。
「ダメ、だよ。この丘で話を聞くから、楽しいの。部屋で聞いたってきっとちっとも楽しくない」

「シオンちゃんにとってこの丘は別世界ってわけだ。つらい時には僕を呼んで、シオンちゃん。どこにいても駆けつけて、シオンちゃんを背負ってここまで来るから」
トーマがシオンの手を取り、顔を近づける。

「トーマ!そのくせ直しな!!」
リナがトーマの手を離して、トーマをシオンから遠ざける。
「シオン、ごめんねー、毎回毎回。本当に、男ってカワイイ女の子に見境ないんだから」

 トーマをちらりと見て軽い感じでシオンに謝る言葉は、まるで男の子をからかっているかの様。
「リナ!それはいくらなんでも言い過ぎだろう!」
この話に関係ないはずのマコトが突っかかってきた。

「あーら、言い過ぎに越した事はないんじゃない?どっかの誰かさんたちはこの前も観光客の女の人をナンパしてたじゃない」
「それは!・・・えぇーい!!」
“ナンパ”の話にマコトとケンが顔を合わせる。

 行動が筒抜けになっている気まずさに、マコトがリナを捕まえにかかる。しかしそれよりも先に、リナが池に向かって走り出した。マコトが追いかける。サニーがそれをさらに追いかけて行った。

原因となったトーマと言えば、追いかけっこをしだした二人を放っておいてシオンを口説きにかかっていた。

「いつも、こんな調子なの?」
ハルが呆れた様にルーシアに聞いた。ルーシアは苦笑しながら答える。
「そうね、こんな感じ。ケン、止めに行かなくていいの?先に助けるのはシオンね。で、トーマと一緒にあの二人止めた方がいいよ」
「・・・ルーシアは行かないのか?」
少し気まずそうなケン。まだ“ナンパ”の事を引きずっているのか。

 一方ルーシアは気にする様子もなく答える。
「ん。ハルがこの状況にややついて行けずにいるからね」

 ケンがシオンとトーマの間に割って入り、しぶるトーマを連れて池へと走って行った。ルーシアはハルとナユリとシオンを連れて、ゆっくりと池の畔へと降りていく事にした。
「トーマって、すごく軽いのね・・・将来心配じゃない?」
ハルがポツリと言った。

その言葉にシオンに寄り添っているナユリが反応する。
「そんな事ないです。確かに、女の人を見ると見境なく口説いちゃいますけど。でもちゃんと一人の人と付き合ってます、し・・・」
言葉尻が小さくなってゆく。

シオンがその変化に、ナユリの前へと回り込んだ。
「まだ、あの彼女さんと付き合ってるんだ。でも、我儘すぎるって嫌がってたんじゃなかったの?」

 意外と事情に詳しいシオン。ナユリとシオンの仲の良さ、そしてナユリの想いが伝わってくる。
「ん・・・何だかんだで、仲直りしたって・・・って、いいじゃない、この話は」
少し足早になったナユリの視線の先には、マコトを追いかけているトーマがいる。

「ナユリちゃんはトーマ君が好きなんだ」
ハルの声に、勢いよく振り返ったナユリのその顔が赤い。
「やっぱりわかりやすいよね、ナユリって。でも気づいてるのは女の子たちだけだし、安心して?」
ルーシアがからかい口調で話す。

畳み掛ける様にハルが興味津々の顔をナユリに向けた。
「どんなところを好きになったの?」
ナユリは視線をトーマに戻して  まだマコトを捕まえられない様だ。
途切れがちになりながらも話し出した。

「私・・・4歳の時に親を亡くして、今のお父さんに引き取られたんだけど・・・ずっと、今のこのグループでしか遊んでなかったの。で、ある時村に来た観光客にいじめられて・・・そんな時に、トーマが助けに来てくれたの」
ナユリの顔が徐々に誇らしげな表情に変わっていく。

「喧嘩に勝った後、周りで見てただけの村の人たちに『ナユリだって一生懸命生きてんだ、周りに溶け込もうとしてるのがわからないのか』って、一喝してくれて・・・たぶん、弱い者いじめとか差別とかが嫌いなだけなんだろうけど・・・ずっと、お兄ちゃんたちと一緒に私を助けてくれて・・・最近なんて、全然叶わない相手なのに諦めようとしなくて・・・」
赤くなりながらも、次々と出てくるエピソード。

「単に正義感の強い負けず嫌い。ってだけの話にも聞こえるんだけどねぇ」
シオンの冷静かつ冷たいツッコミ。言葉につまったナユリは、すねた様で足早に歩き出した。

 すぐ先では、トーマとケンがようやくマコトとリナを捕まえた所だった。
「いーもん、それでも。私は好きだもん」
今は池から吹いてくる風が、ナユリの囁きを3人の元へ届けてくれた。
 
「やっと捕まえた。お前ら、なぁ。ハルもシオンも突然お前らが騒ぎ出したって、ついていけないだろう」
リナの腕を捕まえているケン。マコトの両腕をがっちりと押さえているトーマ。ケンが息を切らしながら二人を窘めた。

「だってお前、俺はお前の為にもっ・・・」
マコトの言葉に、ケンが口を押えにかかった。

自由になったリナに「お姉ちゃんつーかまーえた」と無邪気に抱きつくサニー。

「いいんですよぉ。それだけ二人、仲良しって事でしょ?私なんか喧嘩する体力もなくて、うらやましいですぅ」
一見すると重い話だが、シオンはおどけた感じで笑っている。
受け入れているような、諦めているような。

でも足掻いている様にも見える・・・

「シオーン」
丘の方で声が聞こえた。
「あ、お母さんだ」
少し気まずそうな様子でシオンが丘を仰ぎ見る。頂上にある木の隣に見えた人影がこちらへ向かって歩いてきた。

「シオン。あんたって子は。今日はお医者様が診てくれる日だっていうのにこんな所に来ちゃって。どうもすみません。根掘り葉掘り聞かれませんでしたか?体は弱いのに、好奇心は人一倍強くて。どうしてもお礼をしたいのと、話を聞きたいからって隙を突いて家を出られちゃって。あ、あなたが悪いって言ってるんじゃないんですよ。さっきは本当にありがとうございました」

 マシンガンの様にハルとルーシアを交互に見ながら話すシオンの母親にハルが答える。
「いいえ、シオンちゃんをここまで来させてしまって申し訳」
「いーんですよ、そんなの。お礼ならこちらから行くのが普通の礼儀ってモンだし、それは正しいんですけどね。あ、それじゃあ失礼しますよ。これからお医者さんが来るんでね。ほら、行くよシオン」

 母親に急かされ、シオンはろくにさよならも言えずに帰って行った。シオンと母親が丘の向こうへ姿を消す。
「は、はやい・・・」
ハルがあっけにとられた様子でそれを見送った。皆がその様子に笑い出す。
一通り落ち着いた後、トーマが気まずそうに口を開いた。

「ごめん、俺これから家の手伝いしてくるわ」

「あ、私お父さんからお遣い頼まれてたんだった。お兄ちゃん、私も帰るね」

 ナユリも、さっさと行ってしまったトーマの後を追って帰って行った。時間は午後4時。確かにもう解散してもいい時間だが、それにしても少しあっけない。
だがそれぞれの事情までも口出しは出来ないのも事実。
幼馴染の変わりない風景に見えて、年月は間違いなくそれぞれの道を選んでいる。

「あーあ。トーマもナユリちゃんも行っちゃった。ねぇ、お姉ちゃん。私先に帰るね」
サニーがつまらなさそうにリナの服を引っ張った。
「え。ちょっと待って。私も一緒に帰るよ。ケンも帰る?」
「んー。俺もうちょっとここにいる。先帰っていいよ」

言いながらも、ケンの視線の先にはルーシアがいる。その分かりやすい言動に、リナは何か言いたげにケンを見たが・・・諦めて、サニーの手を引いて帰って行った。
マコトもそんなリナをフォローする様についていく。

 残ったケンは、池を見てぼーっとしているルーシアを見ていた。声をかけようとしたハルを止め、ケンはルーシアの横に座る。
「どうしたんだ?ぼーっとして」
ルーシアはケンを見ずに、池をじっと見たまま答える。

「シオンは、本当は手術をしたいんじゃないのかなって思って・・・」
「ルーシアは、パーフェクトであることが嫌なのか?」
ルーシアはケンの問いに答えずに、近くにあった小石を池に向かって放り投げた。
 
波紋が、池いっぱいに広がって行く。
 
「ケンは、パーフェクトになりたいの?」
「いんや。俺はこのままで十分だよ。・・・ルーシア、他のパーフェクトと違うしさ。なんかこう、えばってないし、手術に高い料金請求しないしさ。あと、パーフェクトである事を受け入れてる感じでもなさそうだし」

ケンの質問にポツリと答える。
「長く、なるよ」

 短い言葉。だけどケンとハルにはそれで十分だった。ハルは二人に背を向け、住宅地の方へと戻っていく。
「構わないよ。遅くに帰るのはいつものことだろう?」

1ヶ月前に初めて会ったとは思えない程に心が通っている。ルーシアはケンに微笑みかけた瞳を、再び遠くへと向けた。



4話


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