何者

朝井リョウの小説、「何者」を読んだ。これを読んだ後で批評めいたことを書くのは気が引けるが書かずにはいられない、影響力のある作品だった。
大学生の就活をテーマにした作品で人物描写がとてもリアルな作品という印象。
主人公視点で語りの人物となる拓人、バンド活動をしていて明るい性格の光太郎、留学経験があり冷静な印象の瑞月、同じく留学経験があり様々な活動のアピールをしていて活発な印象の理香、理香と同棲しており就活に否定的な態度の隆良、主にこの5人を中心に物語は進んでいく。
表面的には就活の情報交換やエントリーシートの添削など、協力的な集まりが定期的に催されるが、随所に挿入されるSNSの投稿や本人がいないところでの会話から他人の不幸を願う、他人のから回った頑張りを笑う描写が垣間見える。
内定を勝ち取ったところで、その内定先の悪評を探して悦に入ったり、達観した振りして、その実傷つくことから逃げるなど、読んでいて心の痛くなる小説だった。
主人公は達観して、就活を頑張るアピールをSNSに投稿する人や、また就活をせずにやりたい夢に向かって頑張る人を内心では笑うような人間性の持ち主。しかし、そんな醜い一面は人間誰しも持ち合わせている。そんな心理を突いて、終盤までは読者は傍観者として読み進めていくが、別の登場人物から傍観者的目線に対する非難がされる。これは拓人のみならず読者にも向けられた言葉のようにも捉えられる。この引き込まれ方が本作の最大の魅力と感じた。
しかし、物語は批判的に終わるのではなく、「カッコ悪くても理想の自分に近づけるように努力したほうがいい」という理香の主張に感化された拓人の面接シーンで終わる。これは自分を顧みて前に進む等身大の人間の姿だ。醜い一面も痛みに向かう一面も持ち合わせた人を描いた作品といえる。

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