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第一章 第十一話 リュウガ対王子カミーユ部隊との戦い

リュウガは突風のように速い愛馬の背に乗り、
イストリア王国へと向かっていた。

今回はいつもと違い、別件である天魔の戦いについて、
語らねばならないことが多くあり、ミーシャとの
時間を作れるかどうか、まだ不明のままであったが、
顏を見れたらそれだけでも良いと、想いを寄せながら
天を駆けて向かっていた。

イストリア王国に近づくにつれて、高度を落として
城塞である上空近くから、近づこうとした時、
突然、巨大な投石を連続して飛ばしてきた。

リュウガはアニーに「安全な場所にいてくれ」
と語り掛けて、すぐにアニーから飛んできた投石に
飛び移った。

それと同時に感心していた。
大国でありながら、論ずる事の無意味さをよく理解
していること驚嘆に値した。

本来なら対立する者たちが、無駄なことを言い合い、
なかなか結論に達しないものだが、イストリアでは
そのような見苦しい争いはなく、王のもとでしっかりと
した体制が敷かれている事を改めて知った。

アニーも自分も、夜の闇に完全にとけ込んでいたのに、
場所を完全に把握されていた。自分だったから夜目から
攻撃に対して、すぐに対応出来たが、この様子からして
すでにイストリア王国では能力者がいるのだと思った。

身体能力は低いが、城塞都市でもあるこのイストリア王国
に仕える者であれば、と考えながら飛んでくる投石を利用
して、近づきつつあった。

その時、確かな力を感じる投石が飛んできた。
明らかに違うと即座に感じ取ったリュウガは、能力は未知数
であったため、回避の道を選んだ。

足場にしていた投石に向けて蹴りを放って、高々と跳躍した。
その投石は砕け散り、次に来ている投石の力の正体を
見極めるべく、上空からマントで落ちる速度を弱めながら、
徐々に降下していたが、先ほどとはまた違った感じのする
巨石が飛んできた。

リュウガは能力者をこれまで見た事が無かったため、
刹那の間よりも長い時間を熟慮に費やした後に、行動に移した。

連絡の不備で来たからこうなった以上、武器は使えないと
考え、徒手で相手に重度の傷は負わせないまま、終わらせる
必要があった。

彼らはリュウガのように高くは跳躍できない様子を見せていて、
落ちてくるタイミングで攻撃するように、彼と同じように投石
から止めどなく飛んでくる投石に飛び移りながら、攻撃態勢を
取っていた。

多少は出来るなと思いながら、ゆっくりと落ちてゆく青年は、
夜目が使えることを相手は知らないと思い、わざと隙を作り
どうして来るかを誘った。

マントが強風によって荒れ狂う海のように波打っている時、
リュウガから見て、完全な死角が生まれたように見せかけた。

予想通り、迎撃のマニュアル通りの動きを見せた。
リュウガからは見えないはずの下方から、二人は襲ってきた。
どちらもが剣での鋭い刃の突きで仕掛けてきた。
夜とは言え、光が全く無い訳では無かった事は完全に
死角だから除外されたのだろうと思った。

二人ともが悪くはない動きをしていた。
マントの中にいる者に対して、斬りつけた場合、
それごとバッサリ斬らないと剣筋を流される恐れがある
ことから、両者は銀色の剣先で突いてきた。

リュウガはその剣先が肌に刺さる一瞬の隙に、腕を逆回転に
可能な限り回して、マントを以て、絡め取るようにして
逆回転させた腕を更に逆回転させて鋼をマントで包み込み、
取り上げた後に、左右に振り回して勢いを生ませてから、
そのまま両者に向かって投げつけた。

剣先では無い柄ではあったが、リュウガが生んだ勢いは、
実に威力のあるものであった。

金髪の一人は避けたが、もう一人には当たって、
落下していくのを見たリュウガは、
その落ちてゆく速度よりも、遥かに速く地面
まで下り立つと、落ちてきた男に軽い拳打を放った。

が、落ちてきた男は空中で回転を加えて、落ちながら
その速度を増していき、体勢から見て回転蹴りだと
見抜いたリュウガは、試しに受けてみることにした。

漆黒の暗殺者は、蹴りが放たれる瞬間まで待ち、
蹴りと同時に拳打から右腕を瞬時に横にして頭上に上げた。

その一瞬を見逃さず、足を引いて、そのまま蜘蛛のような
体勢を取り、低い姿勢を保ちながら連続回転蹴りを放って
きた。

そしてその隙をついて、鞘を避けた者が背後から刈るような
鋭い横蹴りが放たれる時に、後方へ飛ぶことによって横蹴り
の威力を殺して、そのまま回転から掌で目元を隠しながら、
強さでは無い間合いを空ける掌底を放った。

リュウガは軽く試すつもりでいたが、予想より遥かに
鍛練を積んでいる事に驚き、このまま暫く遊びじゃない
戦いをすることにした。

風の音から更に三つの投石が放たれた事をいち早く察知し、
それぞれの石には手練れが乗っていると思ったリュウガは、
先手を取って頭上まできた巨大な石に向かって飛び上がると、
その上まで跳躍して、回転踵落かいてんかかととしを
食らわせた。石に乗っていた者は既に地上に下りていたのを
見て、リュウガは1人で笑みを浮かべて軽く何度か頷いて見せた。

それはサッと危機を察知して、蹴りよりも素早く地上へ下りた
事への称賛する行為であった。いつもの黒衣を着ていれば、
攻撃はしてこなかったはずであったが、新しい装備に変えていた
事から刃黒流術衆を真似した者だと思われているようであった。

実戦に勝る経験はない。言葉通り、リュウガは相手は実戦で
殺しに来るであろうと思い、それを受け入れてどの程度まで
戦えるのかを調べる事にした。

相手は5人になったが、リュウガ程の者になると、人数は
ほとんど無意味であった。作戦や能力者がいるのであれば、
自分ほどの相手に対して、どこまで健闘できるものか知りたい
気持ちが勝り、少しだけ己の力試しをしてみる事にした。

五人に囲まれていたが、まるでそこにいるかのような見事な
残像を残して、痛めても壊れる事は無い太ももに対して、
膝をついて拳打を打ち込んだ。

骨は折れてないが、脱落者だとリュウガは思った。
男は立とうとしたが、足が上がらず、視線をある男に向けた。
最初に来た金髪の男で、余りにも強くなっていたので
気づけなかったが、紛れも無くイストリアのカミーユ王子で
あった。彼が頷くと、足を痛めた男は邪魔にならない位置まで
片足で歩いていき、木を背にして様子を見ていた。

リュウガは本領発揮させるために口元を隠して、殺気を込めた
眼光で睨みつけた。演技とは言え、強さ的には格上の相手から
強い眼光を浴びせられたカミーユは、睨み返してきた。

彼は口元を隠していたので、見えないものであったが、
笑みを浮かべて、どうやって自分と戦うつもりなのか楽しみで
仕方なかった。彼自身も戦いと呼べるほどのものは、
❝神の遺伝子❞発動後では初めてのことであった事から、
己の力を出来るだけ引き出せる事への楽しみも含まれていた。

カミーユが何やら作戦があるのか、見た事も無い手つきで
合図のようなものを出した。
初めて見る手での命令を見て、単調ではあるが、しっかりと伝わる
言った通りの鍛練を積んでいる事に感心していた。

しかし、実戦での戦いに於いては、リュウガの方が遥かに
強かった。彼は時間の経過が止まっているような俊足で、
カミーユに攻勢を仕掛けた。

仮にこれが本物の実戦であれば、当然狙われる結果が生まれる
ことには、まだ気づいていないようだった。
指示を出す者はイコール指揮官を意味していたからだった。

彼はすぐさま半回転して、背中にある大きな盾で暗殺者の拳打を
受けた後、再び半回転する時に腰に捻りひねりを加えて、
同時に腰当てにつけていたナイフを抜くと、刺さずに斬るように
振ってきた。

リュウガはすでに間合いを即座にとっていたため、カミーユの動きに
違和感を覚えたが、すぐに理解した。
彼は益々、若き王子に感心を抱いた。

相手、つまりは俺は強敵だと感じて、次の動きを見事に読んできていた。
ナイフはそのまま勢いをつけて投げつけた。
リュウガはそれを2本の指だけで受け止めたが、咄嗟にそれを地面に
投げつけて、すぐに後方へ大きく飛びながらマントで身を隠した。

「チッ!」カミーユは思わず舌打ちを鳴らした。

そのナイフの柄には火薬が詰まっていて、導火線の火花と重さから
気づいたが、その威力から発する爆風の強さはかなりのものだと
思って目元以外はマントに包まれていたが、直線上にいるカミーユの顔つき
と視線から、見事だと声をかけてやりたくなった。

リュウガは瞬間的に本気で動いた。彼はあらゆる事態に備えるために、
天使や悪魔は基本的に弱いものほど群れでいる事を知り、
気配の断ち方や、咄嗟に逃げる方法は一族の技にもあったが、
彼はそれとは別に、他の生物の事も色々調べていた。

主には、逃げ方や奇襲などについて学んでいた。
当然、体の成り立ちが違うため、可能な限りに限定されるもので
あったが、今の状況ならいけると彼は踏んでいた。

海老などのような生物は後方へ飛ぶ時には、瞬発力と水の抵抗
を出来る限り抑えるために、身を縮めていた。それは人間にとっても
可能な動きであり、後方に避ける際に、より安全に、そして背後の敵に
対しても通用するものだと考えていた。

彼はその習性を活かして、カミーユの眼の行き場所から予測して、
瞬間的に一気にその身を消すかのように、爆風に合わせて跳ねた。
後ろにいた剣を構えていた騎士たちは、目の前から一瞬にして消えた
者に対して警戒していたが、ガクンッと体勢が崩れて、そのまま倒れた。

何故かは分からなかったが、殺さずに、
一人目と同じように立てなくしていた。
しかも二人同時であったため、カミーユともう一人の騎士は
何が起きたのかを把握できず、焦りの色が出ていた。

彼は二人の太ももに拳打を食らわせたあと、上空へと
飛び上がって、アニーの背中に乗りながら、カミーユたちを
見ていた。

もう充分だろうと思い、二人にも見える明かりの届く場所
まで降下すると、そのまま羽ばたきながら下りてきた。

「リュウガさん!」
「腕を上げたな。正直驚いたぞ」

もう一人の方は身体能力はある方であったが、能力者であるかは
不明であった。イストリア王国のカミーユ王子の方は17歳にして、
今も尚、身体上昇中であると話してきた。

リュウガが自分もそうだと言うと、当然の如くのような顏で
笑顔で頷いていた。
「実はアレックス王に頼み事があって来たが、話がまとまれば
俺に従う者たちも滞在する事になる。一族とは縁を切ってきた」

「それでしたら父も安堵するはずです! 正直言ってリュウガさん
を婿養子にとは言い難いと話してましたので。ミーシャも驚くほど
喜ぶと思いますよ! 毎日のように貴方あなたの話ばかり
していますからね!」

清々しい笑顔で金色の髪を靡かせながら、
興奮ぎみなカミーユは言葉を口にした。

「滞在中は鍛練の稽古をしてもいいが、俺のはキツいからな。
だが、お前も騎士たちも思っていたよりも、遥かに強かったぞ。
正直ここまで強くなってるとは思わなかった」

「稽古してください! 耐えて見せます!」
昔の頃を思い出すように、目を輝かせていた。

笑みを浮かべながらも、その眼は真剣であった。
リュウガは瞳をつぶって頷いた。

「では話を進めるためにもアレックス王に会おう。
いい返事が貰えれば何よりだが、世界は余りにも一気に
変わり過ぎた」

「でも我々にも貴方のような希望があります。
貴方が戦う限り、我々は貴方の後に続きます」

リュウガは笑いが出た。

「変なことでも言いましたか?」

「いや、まあ、そうだな。そこまで信頼されている事が
可笑しくてな。思わず笑いが出ただけだ」

「誰もが思っていることです。知らないのは普段は森に
籠っておられるからでしょう。しかし、貴方たちの話は
どこに行っても耳にします」

カミーユの言葉は的外れでは無かったが、秘密にしていた
ことでもあった。話が内から洩れたのか、当事者が洩らした
のかを考えたが、今となってはどうでもいい事だと思った。

「若君。三人をお任せしてよろしいでしょうか? いち早く
報せたほうがよいかと存じます。おそらく不安に思っている
はずでしょう」

「分かった。先に行って危険は無い事を報せてくれ。
あと父にもリュウガさんが来られたと伝えてほしい」

「分かりました。御先に失礼致します」

「そういえば、忘れてたな。俺はあまり得意では無いんだが、
確か‥‥‥ここだったはず‥‥‥どうだ?」

リュウガは片足を痛めた騎士に対して、指先で何かを探るよう
にしながらグッと深く押した」

「‥‥‥ウッ‥‥‥あぁ、これはすごい。動かせます」

「良かった。俺の仲間もサツキが得意で、教えてもらった
ことがあるんだ。二人にも動けるように試してみよう」

彼は難解な顔つきで、二人ともが動けるようにしていった。

「そんな事まで出来るのですか? 俺は知らなかったが、
奴等の事を調べるうちに初代が残した本に書かれていたらしい」

「サツキさんってあの凄く綺麗な人ですよね?」

「そうだ。あれも双子でな。サツキは賢い女で、不敗の戦い方
を好む。兄のアツキは接近戦を得意としていて、二人とは同じ
年齢で、俺とは兄弟のように育ったせいか、一番頼りにしている。
サツキがタイプなら話してみるか?」

「いえ! そういう意味では無くて普通に綺麗な人だった
印象があっただけで‥‥‥好きな人はいるのですが‥‥‥
事情が込み入ってて‥‥‥父との話が終わった後でもいいので、
また改めて相談させてください」

「訳ありか。流れ的に上手くいきそうだな。仮に断られても
相談には乗るから安心しろ」

カミーユはほんの少しだけ笑いが出た。

「どうかしたか?」

「いえ。やはり貴方は変らず貴方のままですね!
あの日から僕もミーシャも父も母も変わりました」

「どういう意味だ?」

「貴方がミーシャにあげた物は至宝の宝だと後で
知りましたが、至宝中の至宝の品で、初代以外では
あの品を贈ったのは貴方だけだと知りました。
効果は絶大で、あの後、平原南部での争いはなくなり
ました」

「そいつは何よりだ。ミーシャは今でも気に入ってる
のか?」
くつわを並べながら、問いかけた。

「ええ、一番のお気に入りでいつも付けてます。
ミーシャは気づいてないようですが、
あの後、大変な事になったのでは‥‥‥?」

「その様子だと、ロバート王はアレックス王にも
話てないようだな。うちは酷い有様でな‥‥‥
命も何度狙われたか忘れちまったくらいだ。
レガやアツキ、サツキ以外の者たちがいたから
俺は死なずに済んだが、実弟のコシローのほうは
完全に壊れちまったよ」

カミーユは異質な話を聞き、言葉が口から出なくなった。


第一章 第十二話 アレックス王の英断


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