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学生メーデー2024基調提起

学生メーデー2024は昨年以上に多くの人が集まり、いまの大学のあり方に疑問を抱く学生や、学業の継続に切実な不安を抱く学生が増加し続けていることをあらためて感じる行動となりました。

学生メーデーの集会では私が基調提起を務め、いまの大学の問題について網羅的に取り上げました。今回の基調提起は、大学の問題について正確に記述するだけでなく、参加した学生が持ち帰って自分の大学でビラを作って貼る際の参考になればいいなと思って書きました。ぜひ、この文章が各地で有効活用されてほしいなと思っています。

① 学問の自由を保障せよ

【学費の減免無償化】
 日本政府は国際人権規約の「高等教育無償化への漸進」につけていた留保を2012年に撤回した。にもかかわらず、その後の取り組みは人権規約の理念を反映しているとは言い難い。給付奨学金が拡充されたが、「家庭」の経済条件でしか判断されず、給付のための条件も厳しい。そして大学院生はこの対象外となっている。また、政府が2025年から始めるとする「大学無償化」政策は、少子化対策を名目とし、3人以上の子どもがいる家庭の一部しか恩恵を受けることがない。私立大学の学費は上昇を続け、2019年には首都圏の国立大学でも学費の値上げがあった。
 学生が自由に高等教育を受けるために、高等教育の無償化は不可欠である。経済的条件によって高等教育への道が閉ざされることがある状況は学問の自由が保障されているとは言えない。そして、このような学生が到底払いきれない高額な学費は、学生を「保護者」に従属させ、学生を管理するものとして機能する。また、学費支払いのため、アルバイトが生活の中心になってしまう学生も少なくない。
 高等教育機関で学ぶための経済的ハードルを撤廃し、学生が自律して稼ぐことのできる額までの学費の減免、そして最終的には無償化することを求める。

【奨学金の拡充と返済免除】
 奨学金の返済ができずに苦しんでいる若者が多くいる。日本学生支援機構によれば7%の学生が奨学金返済を延滞しており、若者が将来を思うように描けない現状がある。高額な学費により借金を余儀なくされた労働者は、不正に対して声をあげづらいなど、より弱い立場に置かれることは明白である。このような構造は早急に変えなければならない。
 学費の免除とあわせて、奨学金債務者の債務の取り消しと減額を求める。

【留学生の学費値上げ問題】
 この4月から国立大学における外国人留学生の学費が自由化され、外国人学生の学費が値上げされる。これは学生間の分断の拡大や、日本人学生への学費値上げのきっかけとなりうるものであり、強く反対する。
 こうした政策は経済的に豊かでない国から留学生が来ることがいっそう難しくさせるものでもあり、本来であればより慎重に検討されなければならないものである。

【福利厚生の保障】
 学生が大学で学ぶにあたって経済的ハードルが高い現在においては、安価な自治寮をはじめとした福利厚生の充実が欠かせないはずである。しかし、運営交付金の削減や文科省政策を背景として、困窮学生のセーフティーネットである学生寮や学内保健室/診療所が次々と廃止に追い込まれている。また、トイレや図書館などの学生生活を送るために最低限必要な設備がクラウドファンディングによって資金を集めなければならない状況があり、学生として強い危機感を抱かざるを得ない。
 福利厚生施設の拡充とその基盤となる運営交付金の充実を、大学での学びを諦めざるをえない学生が出ないよう求める。また、大学設置基準において学生寮が必須ではなくなったことについて、取り消しを求める。

【植民地主義の問題】
学問は人類全体の利益のためにおこなわれなければならないのであって、一部の国民国家や集団のものとなってはならず、ましてや抑圧の道具となってはならない。学問が帝国主義による侵略戦争や植民地支配、ナショナリズムの増幅、差別構造の維持の強力な手段として機能してきた歴史を踏まえ、こうした学問のあり方とは決別する必要がある。
いまの大学改革は、大学での学問を「日本の経済成長」や日本の影響力の拡大のための道具として見ており、このような考え方は批判されるべきである。また、「経済安全保障」によって、外国との研究の協力や交流が制限される流れが生まれつつあり、強く危機感を抱いている。
また、現在も続くパレスチナの民族浄化・植民地支配を支えるイスラエルの各大学と提携する各大学には、提携の破棄を求めていく。
また、私たちは学問をする者として、自分たちが取り組む学問が及ぼす影響に自覚的になるとともに、差別や抑圧の解消に取り組むことを確認する。

②   「選択と集中」を終わらせよう


【選択と集中路線】
 国立大学法人化以後に進められた「選択と集中」路線によって、国公立大学の学問をするための環境は著しく悪化した。毎年約1%の運営交付金が減らされるなかで、基本的な設備の不足や教員数の減少、近視眼的な研究の増加、競争資金を獲得するための事務的な負担の増大によって教育研究の基盤の維持が危機に晒されている。また、学生が研究者としてのキャリアを描きにくくなっていることも深刻な問題である。よりよい研究成果を得るためには裾野の広さが重要であり、現在のように一部の研究にのみ資金が集中する状況は学問の発展を阻害する。
 学問の発展のため、選択と集中路線の撤回と「広く薄い」資金運用を求める。
 
【大学間の格差拡大への反対】
 選択と集中によって一部の大学へと資金が集中する中で、文科省は「多様性」を建前として、各大学に特定の役割を全うするように押しつけた。その結果として、各大学での格差が拡大し、地方大学とトップ大学の設備や環境に大きな差が生じて生きている。これは健全ではない。地方大学では、学生が研究するための資金や設備が十分にないという事態が頻発している。
 大学間の格差を是正し、すべての学生が不自由なく学ぶことのできる環境を整備することを求める。

③   大学自治を守ろう

【戦争と大学自治】
 戦後の日本で大学自治が殊更に重視されてきたのは、過去の侵略戦争において、大学が戦争に協力し、学生が戦場に送られ、そして政府に都合の悪い学問が弾圧されたことで学問の自由が失われたという歴史を繰り返さないためである。
過去の戦争への反省から守られてきた大学の自治が切り崩され、社会全体でもまた同じような現象が同時に進行している。これは人々から国家権力に抗う力を奪い取るものであり、国家権力のむきだしの暴力性の極限としてある戦争の危機をいっそう高める。私たちは平和な社会と国家によって歪められることのない学問の場を求める。

【国際卓越研究大学制度】
 国際卓越研究大学制度によって、これまでの「選択と集中」路線の失敗は総括されるどころか強く肯定されてしまった。特に学外者が過半数を占め、大学の方針について決定できる合議体の設置は、大学自治を実質的に無効にしてしまう。
 また、年間3%の成長を求めることは現実的ではなく、大学のあり方を歪めてしまう。学問は経済的に不合理だからこそ公金を投入する必要があるという前提に対し、現在の政策は倒錯している。
 そして、合議体の学外委員に中期目標や予算について拒否権を新たに付与するという方針が報じられた。学外者が学長以上の権限を有するこの方針は大学の自治を破壊するものであり、絶対に認められない。

【国立大学法人法改正】
 卓越大に設置される合議体を各大学に押しつけることはないと明言されていたにもかかわらず、国大法成立の半年後に、政府は国立大学法人法を改正することによって、大規模大学に合議体の設置を義務付けることを発表した。騙し討ちともいえる突然の発表、そして拙速な採決が行われたことに対し、断固抗議する。

【学生自治を守れ】
 学生自治は大学自治における重要な要素である。学生自治は縮減され、学生自治会などが潰されてきたという歴史がある。学生は自らの権利を求め、大学当局と交渉する主体である。既存の学生自治を縮小しようとしたうえで、学生との間で確認した確約すらも無視する動きがあり、断固抗議する。

④   学園における民主主義の実現と学生の権利の保障


【ガバナンス改革】
 全国の大学で進められている「ガバナンス改革」によって学内の民主主義的手続きが失われ、大学のトップダウン化が進んでいる。政府の意向が大学運営に強く反映され、大学の自治が形骸化してしまうのみならず、強力な学長権限によって学生の利益などまるで眼中にない大学の「私物化」が起こってしまっている。私たちはこのような大学のトップダウン化に強く抗議する。
また、学長選挙の形骸化やそもそも選挙すらおこなわれない大学もあり、学内民主主義が危機に瀕している。すべての大学で学長選挙に則って総長を選び、学内の民主主義的手続きが完遂されるように求める。

【学内規制の撤廃と学内における言論活動の保障】
 多くの大学で掲示物や学生の言論活動に厳しい規制が課されている。大学という空間は、言論・表現の自由を最も保障する場でなくてはならないはずである。
 私たちは、すべての大学のキャンパスが、学生の表現・言論活動を制限することのない公共空間となるよう求める。

【学生処分許すな】
 京都大学での抗議活動に参加した学生が、処分されそうになっている。大学当局との対話を求める学生の動きに対して、処分をすることは決して許されない。ほかの大学でも処分を示唆しながら学生の活動を厳しく制限し、やめさせようとする動きがある。また、学生の活動に対して警察権力の導入も行われた。
 私たちは、このような大学当局の動きに対し強く抗議するとともに、処分を許さない力関係を作ることを模索していく。

【差別・ハラスメントの是正】
 差別・ハラスメントの問題は、問題意識が高まりつつあるとはいえ、いまだ深刻である。現在でもアカハラやセクハラによって、自らの希望する進路を諦めざるを得ない学生が数多くあり、ハラスメント相談室が機能していない例も少なくない。統一的なハラスメント対応・支援の枠組みの設置を求める。
 大学のシステム内における性別や通名についての差別的取り扱いを撤廃し、セーファースペースの確保などとともにセクシャルマイノリティやミックスルーツの学生が安心して学べるキャンパスを求める。

【校則問題】
 中学高校では、いまだに学生の人権を軽視した理不尽な校則が存在し続けている。学生を一律に統率し、管理するような教育のあり方についても私たちは強く抗議する。


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