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ポケモンWCS2023に実況として参加しました

こんにちは。eスポーツキャスターの水上です。
今年も「ポケモンワールドチャンピオンシップス2023」の「ポケモンユナイト部門」にて実況として参加させて頂きました。メッチャ楽しかった。
元々noteに感想を書くつもりはあったのですが、どういう風に纏めて、どう書こうというのが上手く定まらず2週間も経ってしまいました。今もとりあえず書き出してみよう、みたいな感じで始めたので、どう纏まるかは解りませんが、何卒よろしくお願い致します。


事前準備の話

どんな大会でも、選手情報を調べたりゲーム内の環境(強いポケモン、ドラフトの考え方等)を調べる準備は必要になります。実況の7割くらいはここで決まりそう。しかし、世界中からチームが参戦するこのWCSでは、その量やかかる時間が膨大になります。
とにもかくにも各リージョンの配信を見るのがマストなんですが、今回は全11リージョンで決勝だけでも各地域10時間程の配信、予選とか含めたらもっとある中で、それぞれのメタやWCSに出場する31チームの特徴を拾い切らなきゃいけない。
これは去年もやった事でしたが、ま~キツイ。いくらユナイトが好きでも言語の解らない配信を何個も何時間も1人で見るのは弱音も吐きたくなるというものだったんですが、今回はちょっとした対策が出来ました。それが。

WCSキャスター陣Discordサーバーでした。どうせ皆見る必要はあるんだし一人で見るより皆で見た方が良くない?という事で、僕・ちょもすさん・篠原さん・たきしまさんの「皆で各国の配信見たりするサーバー」が出来上がりました。ノリだけで招待したVGC部門解説のRefuさんもなぜかいた。
実際これは大成功だったと思います。色々話しながら見れると気持ちも楽だし、自分1人じゃ見落としてたような発見も沢山出来て、去年よりもしっかりとした資料を作る事が出来ました。お陰でチーム紹介noteも割と自身のある出来栄えになった。

この紹介note、今回31チームでかなり大変だから書けないかな…と思っていたんですが、本当に沢山の人に見てもらえたし、ユナイトユーザーじゃない人にもしっかり届いたし、なぜか急に公式アカウントから引用して頂いたしで、意地で書ききって良かったなと思っています。読んでくださった方々、ありがとうございました。

話を戻して、去年僕がロンドンで解説をした時の反省が「1人で準備しようとした」事でした。諸々大変なとこを1人でやろうとした結果キツイ所もあったし、資料に自信は持てないし、本番のパフォーマンスもイマイチだったと感じていました。なので次の機会があったらとにかく人を頼っていこうと考えていたのですが、その反省は活かせたように思います。

反面、今年の反省はスケジュール管理でした。8月に入ってからEVOやユナイト甲子園等大型の仕事が続き、WCSチーム紹介のnoteも書こうと思ったらマジで時間的余裕が無く、2日に1日は徹夜するみたいな生活が続いてました。
僕らは本番2日前の8/9日に横浜入りしたのですが、その日も紹介noteを夜通しで書き上げてそのまま寝ずに行く…みたいな感じで、結構周りの方々にもいらぬ心配をかけてしまった。
とはいえ仕事を減らす、みたいな選択はしたくないと思うので、もっともっと余裕を持って準備に取り組め、というのを教訓にして来年持っていけるように頑張りたいと思います。ハワイ、行きてぇ。

街並みの話

色々なところで話題になっていたのでご存じの方も多いと思いますが、WCS期間中“横浜”が凄い事になっていました。

桜木町駅前
パシフィコ横浜
パシフィコ横浜入り口

ポケモン一色。こんなのはまだまだ序の口で、横浜に足を踏み入れた瞬間、ポケモン達がそこかしこでトレーナーを出迎えてくれます。
これはただただ感動の一言でした。ロンドンに行った時は会場内はもう物凄くポケモン!!って感じだったのですが、会場から出てしまえばそこは確かに僕らが暮らしている現実の世界で、だからこそ会場内に入った時は夢のような感覚が強烈に襲ってきました。
ところが今年はどうでしょう。会場の外のみならず、会場からそれなりに離れている駅ですらポケモンだらけ。ポケモンが僕らの世界に迷い込んだのか、はたまた僕らがポケモンの世界に迷い込んでしまったのか?そう思わせるような空気がどこにいても感じられて、横浜に滞在している間常にふわふわとした心地でした。

ポケモンというコンテンツはしばしば僕らとポケモン、引いては2次元と3次元の間にあるはずの壁を取っ払い「ポケモンとあなたはいつも一緒にいるよ」という魅せ方をしてくるな、とこれまでも思っていたんですが、今回はその方向性の一つの集大成を見たように感じました。

そして、これだけの規模で本当に丁寧に「ポケモン」の世界を作り上げてくださった事がめちゃ嬉しかったです。妥協しようと思えばどれだけでも出来ただろうし、そうじゃなくてもパシフィコ横浜の中だけで世界を作るのでも誰も文句言わなかったと思う。けどそうはせずに、街全体を「ポケモン」にしてくれた。
そのおかげで僕自身もポケモンと一緒にいるような気分を本当に味わう事が出来たし、だからこそ自分もしっかりと仕事をして、少なくともこの世界にどろをかける様な事をしてはならんな…と思わされました。

会場内も勿論凄かった。全体が和で統一されたテイストは、SVのDLCとして予定されている「キタカミの里」を彷彿とさせますよね。

本番の話

1日目直前

迎えた本番。僕と、恐らくちょもすさんも気持ちは同じだったかなと思うのですが、僕たちに課せられたミッションはとにかく「楽しむこと」と思って臨みました。誰よりも「ポケモンユナイト」を楽しみ、そしてそれを感情と声に乗せて伝える事だと、そう思って席に座っていました。が。

や~~~~~楽しかったねぇ~~~~~~

結論から言えばめーっちゃ楽しかったです。目の前では超ハイレベルな戦いが行われているし、各グループ1位抜けだけがDay2に進めると言う厳しい条件の上で、配信外で戦った日本チームの結果も気になるし、じゃあ休憩中も裏で休んでる訳にいかんやろがい!って会場中歩き回って色んな試合見回ったりと本当に全力で楽しめた気がします。

楽しみ過ぎて、開幕1試合目から全力で声を出して周囲に喉を心配させてしまったのは失敗でした。ていうか喉が心配になるくらいの声量って普通に聞き辛いから視聴的にも良く無くて、そこは明確に失敗だったなと思っています。でものっけからMjk対TTVなんて激熱マッチ持ってくる方が悪くない?

それから、これも多分楽しみ過ぎた故なんですが、ポケモンユナイトの勝利条件やドラフトルールの根っこの説明。なぜ人はレジエレキを倒し、ゴールを壊し、レックウザに向かうのか。そういう基本的な説明をあまり挟まないまま進行してしまったのも失敗でした。「WCS」と言う大舞台だからこそ、日頃ユナイトをプレイしないポケモンファンの方も視聴者にはいたはずで、そこに向けた話基本中の基本となる話をどうして出来なかったのか、というのは明確な後悔です。
いやでもこれものっけからMjk対TTVなんて激熱マッチ持ってくる方が悪い様な気がしてきたな…

Day2。今年は何故か「立つ」文化、あった。

Day2にも日本チームのMjk、おやすみマクロの2チームが残って、最後まで僕たち日本のユーザーを楽しませて頂きました。結果として3位と4位に日本チームが並び、勿論選手の皆さんは本当に悔しい気持ちだと思うけど、僕たちからすれば感謝と嬉しさでいっぱいです。
今回キャスター陣で懸念されていた事は、グループ抜けがあまりにも条件厳しいがために「Day2日本チームゼロ」も全然あり得る、という事でした。それくらい他リージョンも強いし、日本チームも厳しいグループに送られていた印象がありました。
ですが蓋を開ければ3チーム中2チームが抜けて、最後まで配信を盛り上げて頂けて深く感謝しています。

思えば今回の日本代表となった3チームはそれぞれ
・2年連続代表・SecretShip
・誰もが認める最強プレイヤー集団・おやすみマクロ
・今年新たに競技シーンに現れた新星・Mjk
とそれぞれ背景が異なり、視てる側としてもとても楽しくかつ応援したくなるようなチームが揃っていたように思います。
そしてそんな中でDay2まで進んだMjkとおやすみマクロは流石だったし、Day1で敗れてしまったSecret Shipも、彼らがまた世界で戦う姿を見れて嬉しいと思ったファンはとても多いはずです。僕もその1人です。

少し数字の話にはなってしまいますが、今年のユナイト部門配信の同時接続者数は、去年の最大値を大きく上回ったそうです。多分ユナイトの全大会配信を振り返っても最高値になったんじゃないでしょうか。
それはひとえに日本の3チームが、海外の強豪相手に一歩もひかず、互角以上の戦いとそれを超えていく姿を見せ続けてくれたからだと思います。僕もキャスターを初めてそれなりの年数が経ちますが、今回ほど選手に救われたなと思う大会もそうは無かった。
Secret Ship、おやすみマクロ、Mjk、僕たちを「ポケモンユナイト」に夢中にさせてくれてありがとう。まずは1年間、本当にお疲れさまでした。これからも各選手ひとりひとりを応援しています。

それから会場で話してくれた皆さんや、そうではなくとも配信席に向かって手を振ってくれたりと、本当に好意的に接してくれた方々、差し入れをくださった方々、ありがとうございました。
ユナイトのオフイベントというのは中々貴重なのですが、本当に歩いているだけで話しかけて頂く事が凄く多くて、普段見えない所でどれだけ応援してもらい支えて頂けていたかを実感出来ました。
特に今回は気力が重要になる現場だったので、誇張抜きで皆さんに声をかけてもらった事で力をもらえ、僕のパフォーマンスも良い方向に進みました。SNSに写真を上げてくださっているところを発見しては今も嬉しくなります。ありがとうございます。

ちょっとした余談ですが、今回海外のキャスター陣とも交流が取れました。

お互い存在は勿論把握しつつも言語の壁があったのですが、日本ユナイトキャスターのコミュニケーション大臣こと篠原光さんが何と英語も得意とされていたため交流が取れ、写真が実現しました。
お互いなんなら去年から存在は知っていたので、こうして記念になるものが残せて嬉しい。向こうのキャスターの方々が別れ際「お前の記事めっちゃ良かったよ」っと言ってくれました。すごくうれしい。

今年のWCSはLuminosityの2連覇で終了。圧巻でしたね。
決勝に日本チームが残らなかった事で、とにかく盛り上げよう!と思い色々小細工を弄したのですが、そんなものが必要にならないくらい、見ている人間を釘付けにしてしまうようなスター性が彼らにはあったと思います。
勿論、ルーザーズから快進撃を続けたOMO Abyssinianも凄かった。
来年も彼らは勿論強いだろうし、今年いなかった強豪もきっと出てくると思うと、今から楽しみです。僕も実況頑張らなければと思わされますね。

終わりの話

ユナイト部門が終わった後は夜にT2や他選手の皆さんと良く解らない所で話したりして、翌日はWCS最終日を全身で楽しみました。なんとあのテツオさんにも会えた。

ゲーム部門はテラスタルすると壇上が光る

去年のロンドンではユナイト部門が終わった瞬間とんぼがえりで、他部門の決勝が見れなかったのでとても嬉しい。ポケモン好きなら誰もが憧れるような舞台に演者として参加して、最終日は他部門も観戦して最後の最後まで残っちゃって、本当にWCSを全力で楽しみつくす事が出来ました。贅沢な経験だったと思います。

そろそろ1年以上経つので時効かと思って記すのですが、去年解説として出たロンドンでのユナイト部門が全て終わった後、他キャスター陣や選手、そして大会運営に関わる方々とも一緒になって話す時間がありました。
そこでは決勝が終わってテンションが高まっていた事と、めちゃくちゃ良い大会の後だった事、そして深夜という要素により謎のエモさが生み出されていて、それに乗じて運営の方に向かってこんな事を言った覚えがあります。

「僕やっぱり実況したいです」

基本演者は示された役割に対して「やる」か「やらないか」しか無く、他の選択肢に口を出すべきでは無いと考えているんですが、その時は雰囲気に後押しされてそんな事を口走りました(嫌な顔一つせずに聞いてくれた運営の方には本当に感謝しています)
去年の解説も勿論楽しかったし、光栄な立場でした。けどやっぱり試合中も「解説としては口を出すべきではない場面」で喋りたくなってしまう事が多く、解説をしていると「やっぱ根は実況なんだな」と感じる瞬間が度々訪れます。ロンドンの地で「WCSにキャスターとして参加する」夢は叶いましたが「WCSに実況として参加する」という夢はまだ叶っていない。そんな感覚でした。

だからこそ今回は本当に待ちに待った、という舞台でした。
この先あるかも解らない日本開催で、再びWCSの地を任せてもらえて、実況。絶対に良いものにするぞ、という気持ちはいつも持っているのですが、その気持ちもかなりマシマシだったと思います。その気持ちがひいては聞き苦しさに繋がってしまったかな、と思う箇所もあるにはあるのですが。
けど、実況としてオープニングをスタートした所から僕は嬉しかった。自分の声でWCSの配信がスタートする経験、あまりに贅沢すぎない?と思いつつ、エンディングまで任せて頂けて、本当に夢が叶ったという心地でした。
WCS実況と言う大役を全うできたかどうかは、自分ではなくご覧になって聞いてくれた皆様が判断する所ではあります。皆様から見て、僕はどう映っていたでしょうか。誰よりも楽しそうにしている姿が映っていれば良いな、と思います。

でも人は強欲なので、夢が叶ったとはいえこんな最高の舞台、一回味わったらもう忘れられないよね、と思います。去年もきっと似たようなこと言っただろうなとは思うんですが、今後僕が何かが原因で「WCS」に「演者」として参加出来なかった時、本当に悔しく、苦しい思いをするであろう事は目に見えています。期間中配信も見れず部屋で無機物の様に過ごしている姿がもう手に取るように解る。

流石にそれは嫌なので、来年もWCSに参加できるよう、また1年頑張っていきます。
2年間WCSを見て、選手たちや「ポケモンユナイト」全体がレベルアップしている事を本当に強く感じました。僕も実況をどんどん磨いていかなければならないな、と思います。

改めて選手として、運営として、参加者として、視聴者として、どんな形でも「WCS2023」に関わった皆様。
ありがとうございました。

裏の話

ここから先は見なくて大丈夫です。あまり楽しくはない、というか辛い方向性の話を書こうとしています。
書かないべきか、書くにしても記事を分けるべきではと思うのですが、今から書こうとしている事で僕が感じた思いや経験は本当に初めての事であり、それはまだ鮮明に思い出せるうちに残しておいた方が良い、と思う事。
そして間違いなく「WCSの話」ではあるので、やはり書くとしたらここしかないかなと思う事。何より、どこかで残す形で吐き出したがっている自分の存在も自覚しているため、やはり書こうと思います。
繰り返しますが楽しい話では無いので、苦手な人はここで戻ってね。お願いします。





WCS期間中、僕たちキャスター陣の元に訃報が届きました。
去年のWCSからずっと、一緒に「ポケモンユナイト」の実況を担当してきたなないさんのものでした。

公にその事が発表されたのは8/10日、WCS前日の夜だったけど、僕たちは8/10日のお昼ごろ知る事になりました。
いちはやく報せを聞いていた「ポケモンユナイト」の現場スタッフの方が「夜になって突然知るより、少しでも時間があった方が良いだろう」として僕らキャスター陣4人にだけ教えてくれました。結果として、この判断にはかなり救われたと思います。

それを知ってからすぐは、衝撃は勿論あったけど、余り自分の気持ちに変化はありませんでした。どちらかと言うと、実感出来なかったという方が正しいかもしれない。つい数日前までEVO、ラスベガスの地で楽しそうにしている姿は写真や配信を通して知っていたから、その様子と死という言葉があまりにも繋がらなさ過ぎた。何かの間違いで、普通にまた会える可能性の方がまだ自分の中で現実味があった。
とにかくその時は考えないようにして一旦は「WCS」をしっかりやり切ろう、と思っていたし、お昼を食べている時はそれが出来ると思っていた。

けど時間が経つにつれてじわじわその事が頭の中を埋め尽くしてきた。リハーサルが始まる段になったので一旦忘れようとしても、彼の顔が頭から離れない。思考のレイヤーの一番上に一生いる。
気付けばリハは終わっていて、余り何をしたかは記憶に残っていなかった。
この頃には「なんなんだマジで」みたいに思っていた。それが表に出てしまったのか、ちょもすさんには体調を心配されてしまった。申し訳ない。

その後ご飯を食べようとはなったけど、朝の集合時間が速くて皆それなりに疲れていた事、4人で食べるには良い所が見つからなかった事で解散となった。
ちょもすさんは1人で寿司を食べにいくと言い、僕は帰るつもりで途中までついていった。その道すがらで初めてその日「なないさん」の話をした。報せを聞いてから多分名前を口にしたのも初めてで、話をしているうちに「色々吐き出しといたほうが良いかもな」と思い、予定を変えてちょもすさんについていった。この時この選択をしていて良かったと今でも本当に思う。

お店に着いてからはほとんど彼についての話をしていた。内容は誤解を恐れずに言えば文句とか、悪口に近いもので、もしどっかで録音されてたら普通に立場を失いかねないものでもあったと思う。
そういう不謹慎な形に落とし込んで笑いながらじゃないと吐き出せないし、会話が成り立たない気がした。何を言わずとも自然とそういう形になったあたりは対戦ゲーマー故かもしれない。喋りながら、もし彼がここにいたら「終わってる」って言われてそうだなと思っていた。

それと同時に「明日どんな顔で配信出れば良いんだよ」というのも良く言った。「ポケモンユナイト」に何の関係も無い人ならまだしも、なないさんは深く関わっている人だ。今回のWCSに彼がいない事を嘆く声も沢山聞いてきた。だから難しかったし、余裕も無かった。
いち演者として、配信を盛り上げるのは大前提として課せられた仕事だ。であればそこに水を差すような言動をする事は好ましくなく、SNSでも彼の訃報には一切触れずに明日を迎えるべきかもしれない。
でも何事も無いように始めるのも無理がありすぎる、と話していた。その話題は大体「あいつのタイミングが終わってる」に着地していた。

19:55分ごろ、とにもかくにも訃報が世に出る前に明日の告知をした方が良いだろうと思いXを開いた。文面を考え、明日はWCS、楽しみましょうといった内容をポストした。その投稿時間は20時2分。
ポストした直後、ちょもすさんが「水上さん、出たよ」と言った。なないさん所属の事務所から、20時ちょうどに公表されていた。
こうして僕は、訃報直後に仕事の告知をする不謹慎キャスターになった。

その時は頭を抱えていたけど、それのお陰で「しっかり触れた上で明日に臨もう」という気持ちは固まり、改めてXを開いた。とはいえ文章難しすぎるだろ、と考えている時、初めて彼の死に向き合っていたような気がした。
僕もちょもすさんも何かしら気持ちに整理をつけて明日を迎える事は無理だろうと解っていて、それでも何とか「楽しもう」と結論付けてその場を解散した。

その後はホテルに戻った。いつも仕事の前日にやる事は決まっていて、そのタイトルをプレイする、用意した資料を見直す、ソシャゲのデイリーを終わらせるの三つだけど、今回はどれも手に着かなかった。
Xを開けば悲しみやお悔やみの言葉で溢れていて、目を通すうちにリハーサル中に感じていた「なんなんだマジで」という感情が強めに蘇ってきた。
明日はみんなが楽しみにしてたWCSで、初めての日本開催で、僕もやっとWCSの実況が出来て、この日のためにみんなで色々準備してきたのになんなんだ。一瞬でそういった人の気持ちを、しかも前日に全部持っていくんじゃあないよ。自分が大会シーンに水を差す事を一番嫌がってたじゃないかあなたは。なんなんだマジで。
身体は疲れていたのか、そうこうしているうちに眠る事は出来た。寝落ちに近い形でアラームをかけ損ねていた事には肝が冷えた。


僕は友人にしても家族にしても、身近な人間が亡くなるという経験をこれまでした事が無かった。だから今回感じている気持ちは本当に初めての事だらけで、どう対処していいかも解らない事だらけだった。
けれど結局、最後には「試練だなぁ」と思う事にした気がする。

少し話が逸れるけど、前に友人と「プロとは何か」みたいな具体性の無い話をした事がある。その時僕は「少なくとも、どんな状況でも求められている、もしくはそれ以上のパフォーマンスが出来る人」と答えた。
この考えは今でも変わってなくて、じゃあやっぱりこれは試練だった。僕は明日プロのキャスターとしてWCSの舞台に立ち、ならばどれだけ身近な友人に不幸が起きようと、与えられた役割だけは絶対にこなさなければいけない。それが自分のこうあるべきだと思うプロの姿であり、配信が僕の言葉から始まる以上、今回ばかりは僕にしか出来ない事であるとも思っていた。
人の死を試練だとかいう姿勢が不謹慎だと言われたら返す言葉は無いのだけど、そうやってとにかく自分の責任を背負い込む事が、なんとか地に足を付けるための手段だった。

配信が始まった直後の僕がどんな顔をしていたかは解らない。今もそういう気にならず、オープニングの部分はまだ見返せていない。
けど、間違いなく試合が始まってからは楽んでいたと思う。選手たちの熱すぎるプレイが、僕をポケモンユナイトの世界に引きずり込んでくれた。だから、このWCSは本当に選手たちに救われたと思う。
それに2日目は、自分たちなりに向き合う事が、少しだけど多分出来た。この辺りの話は、またいつか。

なないさんは、不思議と共演機会の多い人だった。
同じ実況キャスター同士、言っちゃえば席を奪い合う様な存在でもあったけど、お互い多くのタイトルで仕事をしていたからか一緒になる機会がかなり多かった。
もっと稀な事に、僕が解説に回ったり、時にはなないさんが解説に回ったりする形でペアで喋る事も多かった。それこそWCS2022のロンドンではペアで喋ったし、仕事が被り出した2022年に絞れば、多分一番共演した人なんじゃないかと思う。本人に伝えたことは無いけど実はかなり声が好きだったので、一緒に喋る時は結構楽しみだった。

WCSが終わって、告別式にも参加させてもらって、2週間経とうとしてるけど、未だに3日に1回くらい、彼の顔が急に頭に浮かんできて思考を持ってかれる事がしばしばある。けどWCS当時はこれがずっとだったから、少しづつ忘れていくんだろうなと思うので、ならばやっぱりここにこれは記すべきな気がした。

これからも沢山、なないさんの話はしていきます。特に彼の終わってるエピソードに関しては多くの人に伝えるべきだと思う。
誰かがうっかり放送禁止用語を配信中に言う度に「こいつ言った!」と嬉しそうにしていたなないさん。あまつさえ配信を再生してみんなにその場面を聞かせて嬉しそうにしていたなないさん。けれどいざ現場に立ったら常に選手第一で仕事をしていたなないさん。そんな話を今後も沢山広めていきますので、よろしくお願いします。
WCSで買ったお土産、告別式で渡しそびれたので、いつか僕がそっちに向かう時に持って行くね。









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