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私の愛読書(ビジネス編)『ストーリーとしての競争戦略』の要約

企業の競争戦略の本質がわかる本。
また、この競争戦略の考え方はビジネスの多くのシーンで応用ができる。


著者 
一橋ビジネススクール特任教授 楠木 健氏



〈目次〉
1.結論
2.戦略とは何か 
(1)競争戦略と全社戦略 
(2)競争戦略のゴール 
(3)競争優位の源泉
(4)「違い」のつくり方
3.ストーリーとは何か
(1)ビジネスモデルとストーリー 
(2)ストーリーは人を動かすエンジン
(3)ストーリーが戦略づくりを面白くする
(4)ストーリーの5C
(5)コンセプト
(6)クリティカル・コア


1.結論

本書のメッセージをひとことで言うと、「戦略の神髄は思わず人に話したくなるような面白いストーリーにある」

つまり、戦略を構成する要素がかみ合って、全体としてゴールに向かって動いていくイメージが動画のように見えてくる、全体の動きと流れが生き生きと浮かび上がってくる。

これが「ストーリーとしての競争戦略」である。


2.戦略とは何か
そもそも戦略とは何なにか?

その本質は「違いをつくって、つなげる」ことだと言える。

違いというのは競合他社に対する違い(差別化ポイント)のことだが、個別の違いをバラバラに打ち出すだけでは戦略にならない。

それらがつながり、組み合わさり、相互に作用する中で優れた戦略となり得る。

本書ではこの「つながり」、すなわちストーリーにフォーカスをあてて戦略の本質を明らかにしている。


(1)競争戦略と全社戦略
戦略には「競争戦略」と「全社戦略」の2種類がある。

「競争戦略」とは、特定の業界、つまり競争の土俵が決まっていて、ある企業の特定の事業がその競争の土俵で他社とどう向き合うかに関わる戦略を指す。

したがって、競争戦略は事業戦略ともいえる。

一方で「全社戦略」とは、複数の事業分野を有する企業が、各事業間のバランスをどのように構築して、最適な事業ポートフォリオにするかを考える戦略を指す。

戦略を考えるときは、これらの戦略のレベルの違いを意識し、両者を混同しないことが重要である。

タイトルの通り、本書では「競争戦略」のみを扱っている。


(2)競争戦略のゴール
では、競争戦略の目指すところはどこにあるのだろうか。


それは、「長期にわたって持続可能な利益」と言える。

市場シェア、成長、顧客満足、従業員満足、社会貢献、株価など、ゴールになりえそうな基準はたくさんあるが、これらは持続的な利益なくして成立し得ない。

例えば、市場シェアをゴールにした場合、商品の価格を半額に下げれば利益は大きく減少していまうが、シェアを拡大する可能性は高まる。

顧客満足に関しても、潤沢に使える資金(利益の蓄積)がなければそれを維持することは困難である。 

利益とは端的に言うと、「収入からコストを引いたもの」で、とてもシンプルである。企業の社員にとって、わかりやすく、目標として浸透しやすい。

企業がまず追及すべきこととしては、「長期にわたって持続的な利益」である。


(3)競争優位の源泉
競争戦略のゴールが「利益」であるとした場合に、それはどこから生まれるのか。


ひとつは「業界の競争構造」である。

つまり、世の中には利益を出しやすい業界と、利益を出しにくい業界がある。

もうひとつの利益の源泉が「戦略」です。

戦略とは「違いをつくって、つなげる」ことであり、この「違い」が利益を生み出すと言える。

ここで、「どの業界を選ぶべきか?」と思う方もいるかもしれない。しかし、本書では業界の選択はスコープ外としている。

なぜなら、ある業界が利益の出やすい魅力的な業界あれば、特別な戦略の必要性はほとんど無い。また、そんな魅力的な業界はめったにない。

したがって、競合他社との「違い」こそが、競争優位を生み出す源泉といえる。


(4)「違い」のつくり方

「違い」には、種類の違い(Strategic Positioning)と程度の違い(Organizational Capability)の2つのタイプがある。

前者はポジショニング(以下、SP)、後者は組織能力(以下、OC)のことを指す。

SPは「他社と違ったことをすること」であり、OCは「他社が簡単にまねできないやり方(ルーティン)をすること」と言えます。

SPの戦略の本質は「いかに競争圧力を回避するか」という思想であるのに対し、OCは競争圧力を受け入れ、それに対抗しようとする戦略です。

どちらが「正しい」とか「強力な」論理だということではなく、優れた経営にはどちらも必要である。

この競合他者との「違い」を念頭に置き、いくつもの「違い」をつなげて、ストーリーにしていく。

ここまでの話をまとめると、以下の図のようになる。



3.ストーリーとは何か
ここからは「ストーリーとは何か」について解説していく。


戦略をストーリーとして語るということは、「個別の要素がなぜ齟齬なく連動し、全体としてなぜ事業を駆動するのか」を語ること。

もう少し嚙み砕いて言うと、個々の打ち手である「静止画」を、因果論理で縦横につなげて「動画」にするイメージである。

この「動画」のレベルでの他社との違いを作ろうという考え方だ。


(1)ビジネスモデルとストーリー 
ストーリーと似た言葉に「ビジネスモデル」がある。


実際、両者は多くの点で共通する部分があるが、本書では明確に区別している。

両者の違いを端的に示すと、「ビジネスモデルが戦略の構成要素の空間的な配置形態に焦点を当てている」のに対して、「ストーリーは打ち手の時間的展開に注目している」。

ビジネスモデルは全体の「かたち」をとらえることができるが、構成要素の因果論理が巻き起こす「流れ」や「動き」の側面をとらえにくいという性質がある。そのため、ストーリーと区別して考える必要がある。

(2)ストーリーは人を動かすエンジン
ストーリーの面白さは、戦略の実行にかかわる社内の人々を突き動かす最上のエンジンになる。


実行を担う人々が、自分の仕事がストーリーの中でどこを担当しており、他の人々の仕事とどう嚙み合って、成果にどうつながるのか、というストーリー全体についての実感があれば、戦略の実行にコミットすることができる。


(3)ストーリーが戦略づくりを面白くする
ストーリーという視点は、何よりも戦略をつくる仕事を面白くしてくれる。

自分で心底面白いと思える、思わず周囲の人々に話したくなる。


(4)ストーリーの5C
ここからは、「どのようにしてストーリーを組み立てていくのか」を説明する。


ストーリーを組み立てるときに柱になるのは以下の5つ、「戦略ストーリーの5C」である。

■戦略ストーリーの5C
①競争優位(Competitive Advantage)
・ストーリーの「結」…利益創出の最終的な論理

②コンセプト(Concept)
・ストーリーの「起」…本質的な顧客価値の定義

③構成要素(Components)
・ストーリーの「承」…競合他社との「違い」

④クリティカル・コア(Critical Core)
・ストーリーの「転」…独自性と一貫性の源泉となる中核的な構成要素

⑤一貫性(Consistency)
・ストーリーの評価基準…構成要素をつなぐ因果論理

この中で、「コンセプト」と「クリティカル・コア」は特に重要であり、後ほど詳しく説明する。

まず、それ以外の3つについて説明する。


「競争優位」はストーリーの結論となる部分で、要するに「どうやって儲けるの?(長期利益を実現するの?)」ということ。

これに関しては「競合よりも顧客が価値を認める商品やサービスを提供して儲ける」か、「競合よりも低いコストで提供して儲けるか」のいずれかである。

ストーリーは終わりから組み立てていくべきものなので、まずは起承転結の「結」をはっきりイメージすることが先決である。


「構成要素」は、前述した違い(SP・OC)」のことで、

「一貫性」は、それらの構成要素を「いかにしてうまくつなげるか」、言うなればストーリーの「筋の良さ」だ。


サッカーで例えるならば、個々のパスが「構成要素」であり、それらがどのようにして縦横につながり、シュートに至るかが「一貫性」である。 


(5)コンセプト

起承転結の「起」にあたるのがコンセプトである。

文字通り起点になる部分なので、ここでコケると「承転結」でどんなに頑張っても筋の良い話にはならない。

コンセプトとは「顧客に対する提供価値の本質を一言で表現した言葉」で、「本当のところ、誰に何を売っているのか」ということだ。

こうしたコンセプトは、顧客の声を聞いた結果として出てきたものではない。

顧客に聞いてみたところで、「こういう新しいメニューを取り入れてほしい」とか「閉店時間をもう少し遅くしてほしい」といった「ニーズ」が出てくるのが関の山です。

優れたコンセプトを構想するためには、常に「誰に」と「何を」の組み合わせを考えることが大切である。

それらを表裏一体で考えることによって「なぜ」が初めて姿を現すからだ。

ごく日常の生活や仕事の中で、嬉しかったこと、面白いと思ったこと、不便を感じたこと、頭にきたこと、疑問に思ったこと、そうしたちょっとした引っかかりをやり過ごさず、その背後にある「なぜ」を考えることを習慣にする。

回り道のように見えて、これがコンセプトを構想するための最上にして最短の道である。

また、コンセプトを決めるということは「誰に嫌われるか」をはっきりさせることでもある。

ターゲットではない顧客をはっきりさせ、はっきりと嫌われてよい。

誰に嫌われるかを意図することが、優れたコンセプトを描くための最も効果的な入口になる。

筋の良いストーリーをつくるためには、コンセプトと因果論理でつながらない構成要素は意識的に切り捨てるという姿勢が重要だ。

裏を返せば、コンセプトは判断に迷ったり、行き詰まったときに、常に立ち戻ることができる何かでなくてはならない。

そこに立ち戻れば、迷いが解消し、決断に向けて背中を押してくれるのがコンセプトである。


(6)クリティカル・コア

戦略ストーリーの5Cの中で最も重要なのが「クリティカル・コア」で、ストーリーの優劣を決めるカギになる。

起承転結の「転」にあたる部分で、サッカーで例えるなら「キラーパス」にあたる。

クリティカル・コアの定義は「戦略ストーリーの一貫性の基礎となり、持続的な競争優位の源泉となる中核的な構成要素」となる。これを満たすために必要な条件は以下の2つである。

■クリティカル・コアの条件
①他の様々な構成要素と同時に多くのつながりをもっている

②一見して非合理に見える

もう少し嚙み砕いて言うと、
①は、「一石で何鳥にもなる打ち手である」ということ。 


②は、ストーリーから切り離してそれだけを見ると「非合理でやるべきではないこと」のように見えるが、「ストーリーの中に位置づければ、強力な合理性の源泉になる」ということだ。

「一見して非合理だが、ストーリー全体の文脈に位置づけると強力な合理性を持っている」という二面性にこそ、クリティカル・コアの本質がある。

なぜなら、「違い」をつくっても、それが他社にすぐ模倣されてしまうものであれば、「持続的な競争優位の実現」には至らないからだ。

「まねできない」のではなく、「まねしようと思わない」ような「違い」をつくることが重要だ。



参照元: 「マーケティング図書館」ホームページ

以上

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