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Dear slave 親愛なる奴隷様 Loveですぅ! 第25話 芸能人?

駅カフェで茉白ちゃんは大きくため息をついた。

「大丈夫?」心配になって聞いてみる。

「全然大丈夫だよ、初めてのことで少し緊張しただけだから」

「そうなんだ」僕も安心してフーッとため息をつく。

「ミコトさんだっけ、突然茉白ちゃんって聞かれたときは、何が起きたのか分からなくて超ドキドキしちゃった。だって芸能人に知り合いなんていないし」

「ごめんね、僕も琴音さんが来るなんて聞いてなかったからさ」

「えっ、琴音さん?」

「あ、ごめん、本名は琴音さんなんだ。モデルの時はミコトになるんだ」

「そうなんだ、芸能人って色々あるんだね?」不思議そうにしている。

「琴音さんは芸能人じゃないよ、バイクのモデルをやってるだけだよ」

「えっ、モデルも芸能人じゃないの?」

「えっ、モデルも芸能人なの?」

 二人とも顔を見合わせて首を横にした。

「もしかして星七くんの身内って他にもモデル人がいるの?」

「いないよ、あっ、でも母さんは昔レースクイーンだと言ってたけど多分ウソだと思うよ、だってかなり太めだし」母さんを思い出し、少し笑ってしまう。

「そうなんだ、レースクイーンか、もしかしたら若い頃は今の琴音さんみたいだったかもしれないね」うなずいている。

「いやいや、絶対にそれはないよ」僕は手を横に振って完全否定した。

「星七くんのお父さんってどんな人?」

「普通のサラリーマン、食品会社に勤めてる。でも車が好きで暇さえあれば車を磨いているよ」

「そうなんだ………星七くんの名前の由来を聞いてみたいって思ってたけど………」

「ごめんね、何にもひねりがなくて」僕は恥ずかしくなって俯く。

 家に帰るとミコトさんはジャージになり、琴音さんに戻っていた。

「おかえり星七、茉白ちゃん可愛かったねえ」横目でジリジリみてくる。

「今日は何しにきたんですか!」唇をかむ。

「えっ?見学に来たって言ったじゃん」不思議そうな表情だ。

「来るなら先に言っておいてください、びっくりするでしょう?」

「だって行くって言ったら星七は来ないでっていうでしょう?」

「まあそうですけど………」

 何もかもお見通しってことですか?………………心の声が漏れそうになる。

「明日も行こうか?」ニンマリしている。

僕は床に崩れ落ちそのまま土下座状態になる。

「お願いです、もう勘弁してください」

「大丈夫よ心配しなくても、もう目的は達成したから!」

「えっ、目的?」僕は顔を上げて琴音さんを見る。

琴音さんはニッコリ笑ってVサインをした。

 翌日の図書館には多くの人が訪れた。1年生の展示物に出版社やモデルまで駆けつけた事が話題になり、人が人を呼んだからだ。文芸部の人たちも見に来た。そしてなんと校長までやってきた。

 文化祭が終わると、僕は特別賞という何かわけの分からないものを頂いた。結局琴音さんと玲司さんのおかげなのだ、僕は少し後ろめたくて恥ずかしかった。しかしその事で僕はみんなから少しだけ認められた、それは少し嬉しい気もする。

 日常に戻ると待っていたように隣のそいとげが僕の袖を引っ張る。

「どういう事?何も言い訳を聞いてないんだけど?」睨んでいる。

「言い訳?」僕は不思議な顔になった。

「ミコトちゃんの事に決まってるだろう!」ツバまで飛ばしてきた。

 うわっ、きったねえ………僕は後退りする。

「別に言い訳することは何もないと思うけど?」

「前に俺の雑誌を見た時、ミコトちゃんを見て不思議そうな顔をしてたよな!」

「あれは琴………ミコトさんがモデルをやってること知らなかったから驚いただけさ」

「ふ〜ん、じゃあなんでこの人を知ってるって言わなかったんだよ!」

「それはプライベートの問題だからね」素知らぬ顔で答える。

「だいたいミコトちゃんとどう言う関係なんだよ!まずそこからだ!」

「えっ、イトコだけど?」

「何〜!、ミコトちゃんはヤホーのイトコなのか?」

「何か問題でも?」

「だってミコトちゃんはスタイルいいじゃん!」

「それで?」

「顔も可愛いし!」

「だから?」

「すべてヤホーにはないものじゃん!」

「悪かったな、チビで可愛くもなくて」

「まあ兄弟でも似てない人もいるし、イトコならしょうがないか………」

「何がしょうがないんだよ、いい加減にしろよ?」かなりイラッとしてきた。

「まあイトコという事は認めてやろう、だからこの雑誌にミコトちゃんのサインをもらってきてくれ」雑誌を押し付けてきた。

「へ〜!散々人に色々と言っておいて頼み事かよ」僕は冷めた目で見る。

「いいじゃないかサインをもらってくるくらい、イトコなら簡単だろう?」

「簡単だけど、気持ちが動かないなあ」僕は雑誌を押し返す。

「悪かったよ〜ヤホー、だから頼むよう〜」雑誌を押し返してきた。

「嫌だね」僕はさらに押し返す。

 ふと気づくと近田先生がそばにいた。

「俺はサイン入りの雑誌を持ってるぜ!」得意げにそいとげを見ている。

 何だこの人は、最低の先生だな!心の中で思う。

「樹神これを授ける、感謝しろよ、そしてミコトさんによろしくな」そう言って書類を差し出す。

「えっ、何?」見ると免許の取得承諾書だった。

「今後もバイク文化の研究をがんばれよ!」そう言って手を振り帰って行った。

「何だよヤホー!お前もバイクの免許をとりたかったんだ」嬉しそうに覗き込んでいる。

「えっ………………」僕は言葉を無くす。

「なあヤホー、同じバイク仲間じゃないか、これ頼むよう」また雑誌を押し付けてきた。

僕は面倒になって、呆れ顔で受け取った。

 今日は文化祭の片付けも終わり図書部員の仕事はないので、茉白ちゃんとも会えない。仕方がないので家に帰り食事とお風呂の準備をする。日常業務は決して待ってくれないのだ。

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