マガジンのカバー画像

江草令の書評マガジン「読んだよ」

93
本を読んで、その感想を江草が記します
運営しているクリエイター

記事一覧

『アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か?』読んだよ

カトリーン・マルサル『アダム・スミスの夕食を作ったのは誰か?』読みました。 アダム・スミスは言わずと知れた「神の見えざる手」の概念の提唱者です。自由市場に任せておけば自然と「神の見えざる手」が良いように経済を最適化してくれる。だから各自が利己的に振る舞うことが経済にとって良いのであるとする考え方ですね。 流石に今では普通はそこまで素朴な考え方ではなくなってますが、それでも今なお強い影響力を持ってる経済思想です。 こうしたアダム・スミスの経済観からすると、労働をしてその対

『テクノ・リバタリアン』読んだよ

橘玲『テクノ・リバタリアン 世界を変える唯一の思想』読みました。 江草のハンドルネームの下の名前は実は橘玲氏の「玲」を意識して付けているぐらいで、江草は長年の橘氏のファンなんですね。(でもせっかく「令和」だから「令」にしようというノリで玉偏は取ってしまったのです) さすがに多作の氏の著作を全部追いかけれてはいないのですが、このたびの橘氏の最新刊『テクノ・リバタリアン』は内容が気になって読んだのでした。 みんな大好きイーロン・マスクやピーター・ティール、サム・アルトマンな

『センスの哲学』読んだよ

千葉雅也『センスの哲学』読みました。 以前読んだ同氏の『勉強の哲学』や『現代思想入門』も好きだったので、入門的哲学書三部作の最終作と位置づけられる本書も手に取ってみたのでした。 著者は、小説でも注目活躍されてる哲学者の千葉雅也氏。日本で最も有名な哲学者の一人なんではないかと思います。そんな著者の最新作、既に広く話題となってるようです。 で、普通の書評ならここで内容の解説めいたことを始めると思うのですが、さすが哲学書だけあって、江草が説明するには正直手に余ります。 もち

『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』読んだよ

三宅香帆『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』読みました。 結論から言うと、とても良かったです。面白過ぎて一気読みしました。タイトルからして当たりの予感はしていましたが、やっぱりこれはかなり好きなやつでした。 先日読んだ『人生のレールを外れる衝動のみつけ方』も良かったばかりなので、今シーズンはなかなかに豊作過ぎますね。ありがてえありがてえ。 さて、本書。 著者が、就職してフルタイム勤務をし始めた途端にあんなに大好きだった読書ができなくなった経験をきっかけに生じた「なぜ

『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』読んだよ

谷川嘉浩『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』読みました。 なかなかすごいタイトルの書籍ですが、いきなり感想を言ってしまうと、これはめちゃくちゃ良かったですね。 著者は哲学者の谷川嘉浩氏。恥ずかしながらあまり具体的な活動は存じ上げないのですが、他ではこの『ネガティヴ・ケイパビリティで生きる』でも共著者の一人として登場されてますね。(こちらは江草は絶賛積読中) で、今回の『人生のレールを外れる衝動のみつけかた』。タイトルからも分かるように「衝動」がメインテーマです。

『クリティカル・ビジネス・パラダイム』読んだよ

山口周『クリティカル・ビジネス・パラダイム』読みました。 江草的は、だいたいの本を読ませていただいていて、Voicyも全聴了しているぐらいの山口氏のファン。 とくに前作の『ビジネスの未来』が江草的には大ヒットだったので、 このたび、最新作の『クリティカル・ビジネス・パラダイム』も早速手に取ったのでした。なんでも『ビジネスの未来』の続編的な立ち位置ということですし。 して、読了。 いやー、本作も面白かったですね。 氏の狙い通りと言うべきか、クリティカル・ビジネスやり

『未婚と少子化 この国で子どもを産みにくい理由』読んだよ

筒井淳也『未婚と少子化 この国で子どもを産みにくい理由』読みました。 少子化問題について解説された新書ですね。 少子化問題には江草も強い関心を持っているので、ちょこちょこ関連書籍を読んでいます。日本の書籍で言うと山田昌弘『日本の少子化対策はなぜ失敗したのか?』を以前読んで感想を記しています。 読んだきっかけで、今回の筒井氏の『未婚と少子化』を読もうと思ったのは、異次元の少子化対策についても触れられている近著であることと、本書概要の紹介文で とあって、「子育て支援」と「

それはエラーなのかバグなのか 〜『おどろきのウクライナ』を読んで〜

橋爪大三郎、大澤真幸『おどろきのウクライナ』読みました。 今なお続くウクライナの戦争について、橋爪氏と大澤氏の対談を収めた一冊。社会学者のお二人は『ふしぎなキリスト教』を始めその他の書籍でも共著を出されていて、よく対談される名コンビと言えます。 テーマとしては「ウクライナ戦争とは何なのか」を文明論や宗教論から紐解きつつ、そして「ポストウクライナ戦争の世界」を語る意欲的な内容。あくまで2022年以前の対談であるため、2024年現在からすると正直情勢の見立てが変化してしまって

『14歳からのアンチワーク哲学』読んだよ

「中二病」はなぜ中二なのか。 皆さんもふと思ったことがあるかもしれないこの疑問。一応それっぽい説明を江草も聞いたことがあります。 なんでも、中二に当たる14歳前後の年頃は、人の脳の抽象的思考力がグンと伸びる時期なんだそうです。 実際、小学校までは算数で「カメは何匹いるでしょう」みたいな具体的な状況を想起させるような問題が多かったところが、中学数学になった途端「Xを求めよ」「因数分解をせよ」みたいに急に抽象的な問題ばかりになりますよね。(当然個人差はありつつも)多くの生徒

『きみのお金は誰のため』読んだよ

田内学『きみのお金は誰のため』読みました。 最近立て続けての小説読破となりました。 とはいえ、本作は小説といっても、教養解説系小説のジャンルに当たるものになるでしょう。たとえば『おカネの教室』とか、『嫌われる勇気』とか、『働かない勇気』とか、『宇宙怪人しまりす医療統計を学ぶ』とか、『国家』とか、『理性の限界』とか、そういう系です。最後の方はもはや小説ぽくはないですが、対話形式で解説や議論が進むという点では通底するところはあるということで。ストーリーや会話仕立てにすることで

『君が手にするはずだった黄金について』読んだよ

小川哲『君が手にするはずだった黄金について』読みました。 こないだの成瀬シリーズに立て続けて小説読了。なんか、急に小説を読みまくりたくなる時期ってありますよね。 今回の『君が手にするはずだった黄金について』も本屋で推し推しっぽかったので、勢いで買った作品です。前情報全然なしで買っちゃいました。 といっても、作者の小川哲氏は以前感想文を書いた『君のクイズ』で読んでことはある作家さんだったので、きっとこれも面白いのだろうと安心して買うことができました。 そして、読了。

『成瀬は天下を取りにいく』読んだよ

宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』読みました。 本屋さんに行くとよく平積みされてたり、宣伝ポスターみたいなんが貼られてたりしていて、以前から気になっていた作品。 ジャンルとしては滋賀を舞台にした青春小説らしい。江草もちょいちょい小説読みたいバイオリズムになるのもあってついに買ってみたのでした。 そして、読了。 いやー。良い。良いですな。さすが推されてるだけある。 心が洗われる感じがいたしますね。 まず、とにかく読みやすいのでサラリと読めました。 主人公である成瀬

『日本人のための経済原論』読んだよ

小室直樹『日本人のための経済原論』を読みました。 同氏の『日本人のための宗教原論』が面白かったので、その流れで経済の話も読んでみることに。 いやー、こちらもとても面白かったです。 経済学の解説入門書的な扱いの一冊にも関わらず、有効需要や需要曲線を説明するグラフや数式に混じって、いきなり中国の科挙の歴史の話が出てきたり、ヨーロッパの絶対王政の話が出てきたり、キリスト教や仏教などの宗教ネタも出てきたりと自由奔放さが凄まじい。20世紀を代表する「知の巨人」と評されてるのも納得

教養として宗教を学ぶ意義

先日『ふしぎなキリスト教』の読書感想を書いたところ、フォロワーの方から小室直樹『日本人のための宗教原論』をオススメいただきました。 うれしいKindle Unlimited対象。 江草が「色々な宗教の勉強したい」と語ったのを受けての迅速なリコメンデーション。とてもありがたいです。 それで早速『日本人のための宗教原論』読了したのですが、いやー面白くて勉強になりました。 内容としてはキリスト教、仏教、イスラム教、儒教という4つの宗教のそれぞれの特徴と違いを解説する比較宗教