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ATEM Constellationを利用した映像ルーティングの構築

前回はオーディオインターフェイスのためのオーディオインターフェイスと銘打ってオーディオのルーティングを紹介しました。

今回は映像のルーティングについて紹介していきます。

今回の目的

映像系統と音声系統をスイッチャー上で重ね、UVCとSDIでそれらを出力するシステムを構築していきます。ほか、Unreal EngineやTouchDesignerでも映像の入出力を可能とするためルーティングが柔軟なものを目指します。

実はこれは今までもある程度実現できていたんです。RolandのV-1HD+を利用したもので機能的には今回構築するものとそれほどは変わりありません。ですが、起動時間が長いのと(30秒くらい?)、音量をチェックしづらくGUIを利用できる設定アプリの対応がiPadのみ、そして何よりファンノイズがうるさくてデスクの上に置いておくには憚られることから更新となりました。

今回の映像のルーティングで求められるレイテンシーは100ms以下、できれば50ms以下です。
これはリアルタイムでのやりとりをする際、レイテンシーを極力抑えなければコミュニケーションとして破綻してしまうからで、100ms以上のレイテンシーとなってしまうと同時に話し始めてしまったり、逆に双方一口も喋らずにシーンとした時間が続いたりする羽目になり、この状況下では相手の出方を伺うのに気を取られ、コミュニケーションが成立しません。
NDIなども使ってみましたがやはりレイテンシーが許容範囲を超えて不採用。150Mbps以上の帯域が利用可能なネットワークなら~16msとあったのですがどこか設定が間違っていたのでしょうか(もちろんNDIにエンコードするまで、デコードしてからの処理時間などもあるのでしょうけれど)

機材選定

映像をルーティングするための機材にはATEM 1 M/E Constellation HDを選びました。
映像関連で4Kを扱うとなると、そういった機材はだいたい消費電力が大きくてファンの音がうるさいので除外です。自分の用途ではHDでじゅうぶん。会場の映像と配信の映像など2系統以上を同時に扱うわけではないのでConstellationシリーズのラインアップでも一番コンパクトな1 M/Eとなった次第です。

ATEMの機器自体のレイテンシーは10ライン。1080pの60fpsだと0.15msなのでかなり優秀ですね。

音声系はすでに揃っているので新たに買い足すものはありません。今回の映像ルーティングで利用する音声機材をおおまか挙げておくと

  • SSL SiX:ミキサー

  • ElectroVoice RE20:ダイナミックマイク

  • sE Electronics  VR2:アクティブリボンマイク

  • RME Fireface UCX II:オーディオインターフェイス

  • SSL B-Dyn 500 module:エクスパンダー、コンプレッサー

  • Empirical Labs DerrEsser:ディエッサー

となります。

ATEM 1 M/E Constellation HD

10系統の3G-SDI入力、6系統の3G-SDI出力、マルチビュー出力とリファレンスの入力を持つスイッチャーで、USB経由でUVC出力も行えます。また、ATEM Software Controllerと言うソフトウェアを利用してイーサーネット接続によるリモートコントロールが可能です。

V-1HD+と比べて嬉しいのは

  • シュッと立ち上がる(だいたい6秒ちょっと?)

  • UVC出力機能

  • Mac/WinからUSB接続のほかにもイーサーネット接続でコントロール可能

  • Fairlightミキサーでゲートのみならずエクスパンダーが利用可能

  • マクロを登録可能

  • Adobe Photoshopからメディアプールに直接送信可能

  • それなりに静か(入出力チャンネルが増えたり、周辺の温度が高くなるとうるさくなるかも??)

などなど、いろいろと嬉しい機能が詰まっています。FairlightってあのビンテージサンプラーFairlight CMIのFairlightなんですよね。2016年にBlackmagic社に買収されていたようです。

Blackmagic Design社の製品ではルーティングだけならVideohubという選択もありましたが、音声をエンベッドするのとミキシングも必要なのでやはりATEMシリーズを、ほかにATEM miniシリーズもありますが、あちらはスイッチャーではあるものの、どちらかというと配信用途が主で出力が少なく(とはいえExtremeだと4系統あります)、音声入力が3.5mmで心許ないためConstellationを選択しました。
もちろん配信やそのレコーディングをしようとするとエンコーダーが内蔵されていたり、レコードもできるATEM miniシリーズのコスパが光ります。同じことをConstellationシリーズを使って実現しようとするとWeb PresenterシリーズやHyperDeckシリーズが必要になってしまいます。

Constellationシリーズは映像音声用の入出力端子が全てSDIとなっており、HDMIと比べてどちらがいいかは一概にはいえませんがSDIのほうがシンプルで自分は好きです。信号の流れも一方通行ですしコネクタの信頼性も高いです。
SDIはロックがついていて外れにくいというのはよく言われますが、それ以前にHDMIのコネクタってすこし力を入れるだけで映像が途切れたりするので怖いんですよね。

SDIは業務用としての性格が強く、一般のHDMI機器と組み合わせるにはコンバーターを利用して変換して利用します。それはいいのですが、お察しの通りケーブルジャングルの密集度がまた高まっています。コンバーターを駆動するのに電源が必要でさらに拍車が……。

ルーティング

各カメラから映像を取り込み、スイッチングによってマスター映像の作り込みを行います。

音声系統はミキサーやオーディオインターフェイス上で作り込んだものをATEMに取り込んでマスター音声として利用します。この段階で音声を映像にエンベッドしてしまうことで音声ディレイなどの問題を解消しておきます。

音声はSSL SiXからバス経由で取り出します。バスを使う理由はSiX上の各チャンネルの音声を映像配信に載せるか否かをスイッチ一つで切り替えられるためです。
音声はSiX上のEQ/Comp、もしくはアウトボードやRME Fireface UCX IIのDSPを使ってノーレイテンシーで整えておきます。コンピュータからの音声はUCX IIからSiXに送っているのでバス切り替えのスイッチを押せばバスにミックスされます。

音声系はこんな感じのルーティングでかなりシンプル。

音声のルーティング

これに映像系を重ね合わせてみると

映像・音声のルーティング図

こんな感じになり、ATEMへの映像入力が4、出力が3なのでまだまだ余力があります。オーディオのように機材がぐわっと増えたりはしないとは思いますが今後が楽しみ。

上のようにルーティングを作っておくことでどのコンピュータでもミーティングをすぐに行えますし、その際に他のコンピュータから出力した映像を混ぜ込むといったことが可能になります。

設定と操作

今回、映像系の設定はルーティングがメインなので入力と出力の設定をするだけです。音声系は外部入力の音声を使うのでその設定とリミッターをかけておくくらい。

今回の構成で一点気をつけるとするとUVCはいわゆるウェブカムとして利用可能ですがUltraStudio RecorderやDecklinkを使って取り込んだ映像はウェブカムとしては認識されません。これが何を意味するのかというとGoogle Meetなどではそのままでは使えないということ。OBSのVirtual Cameraなどを介してブラウザなどで利用することになります。じゃ、UVCのほうがいいのかというとそんなことはなくてUVCのほうがいろいろと制限が多いです。それでもサポートされているアプリケーションが多いのは強みですね。

ATEMの操作は本体、もしくはMacやWindowsからATEM Software Controlを利用して行えます。ほかにもBitFocus社のCompanionというアプリを組み合わせることでStream DeckやOSC、MIDI経由でコントロールが可能になります。細かい部分さえ最初に設定してしまえばあとはStream Deckからの操作で事足りるので便利ですね。

こちらのCompanionはオープンソースで開発されており、ビルドスクリプトも完備されていて手元ですぐにコンパイルできるので、プロトコルさえ解析できれば、もしくはライブラリがすでにあるのなら繋ぎこみのソフトウェアを書くことで公式の対応ハードウェア以外のものもすぐに試すことができそうです。

あとこのATEM 1 M/E Constellation HDには電源スイッチがないので電源スイッチ付きのタップを利用して使わない時には電源を切っています。コンバーターなどの電源もこれで一気に制御できて便利です。


まとめ

映像系はハードウェアさえきちんとしたものを用意しておけばそれほど難しい部分はなさそうという感想を持ちました。もちろんそれなりの出費にはなります。
ですが、込み入ったことをソフトウェアで実現して同期やレイテンシーなどの問題で悩まされるよりは格段に楽で、自分もソフトウェアを利用したルーティングを試みましたがレイテンシーがあっという間に100ms以上となり利用に全く耐えませんでした。

と、今回のシステムが組み上がるまで紆余曲折ありましたが最後はハードウェアの購入で解決という、やっぱりそうなのかというオチのないことに。