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欧州: EU ELV(廃車)指令

欧州委員会が2023年7月に発表したELV規制改定案がブラッセルで議論を巻き起こしているところ、その提案概要をサクッと整理した。

記事要約

  • 「資源の塊」な自動車。2-3万点の部品から構成され、鉄やアルミ、プラスチック繊維製品ゴムなどが使用、それらを適切に処理するためのELV法規が2000年に制定。

  • EVL改定提案内容は、部品の再利用推進やリサイクル材利用推進、情報提供義務、他、中古車輸出や廃車輸出の区分や運用、使用済み車両管理やメーカーの責任などを規定。

  • リサイクル材の利用義務など、これまた車両生産のコストアップにつながること間違いない法規。




1. 背景

1.1 自動車の原材料

「資源の塊」ともいわれる自動車。現在主流のガソリン自動車は2-3万点の部品から作られ、使用されている資源も多種多様。特に多いのは鉄とアルミだが、石油から作られるプラスチック繊維製品(例:シート、内装)、ゴム(例:タイヤ)などもある。それがまとめられているのが下記の図(なお、原材料自給率はあくまで日本のもの)。なお、ガソリン車両以上に軽さが求められるEVは、鉄より軽いアルミや樹脂の使用割合が高くなる。

自動車部材の原材料
(出典:自動車リサイクル高度化財団 HP

1.2 法規背景

廃車済み車両をしっかりと回収し環境への悪影響を抑えつつ、自動車に使われるこれら貴重な原材料をしっかりと回収しようという動きが環境意識の高まりとともに始まる。工程としては、消費者が廃車処理した後車両は解体事業者の手で分解・取り外しが行われ、その後粉砕・洗浄処理が行われ、再利用可能な者については自動車部品メーカへと販売されるという流れ。

使用済み自動車のリサイクル処理
(出典:自動車リサイクル促進センター

欧州では2000年に、使用済みの自動車から出る廃棄物を削減し、自動車の環境負荷を軽減することを目的としたELV/End of Life Vehicle指令を制定。自動車メーカー、ならびに材料、装置メーカーは、設計段階からリユース・リサイクルを念頭に置くことを求められ、2003年7月1日以降に上市される自動車の材料および部品については、例外品目を除いて、鉛、水銀、カドミウム、六価クロムの含有を禁止された(さらなる詳細はこちら)。

さらに2005年、自動車型式認証における再使用、再利用、再生の可能性(3R、注)に関する指令(3R型式認証指令)が採択、自動車の型式認証プロセスと紐づけがなされた。OEMに対しては、自動車の95%以上は再利用&回収可、85%以上はリサイクル可とするよう設計するように義務が課された。

さらに2015年12月、欧州委員会が資源循環アクションプランを公表、材料回収&リサイクルをさらに促進し、重要な原材料を域内に囲い込むことを目指す戦略で、54の行動計画繊維やバイオ廃棄物などに関する3つの法案を盛り込んだ内容。

欧州委員会の資源循環アクションプラン

さらに2020年3月、新資源循環アクションプランを採択。EUグリーンディールなどを踏まえた内容で、資源を可能な限りEUの経済活動の内部に引き留めることを目標は据え置きつつ、製品設計と生産に焦点を当てた形。その4本柱は下記の通り:

  • 持続可能な製品設計の促進製品・部品の再利用、リサイクル材料利用などを促進する法案作り

  • 消費者の修理する権利強化:製品修理情報や耐久性情報へのアクセス強化

  • 業界別イニシアティブの立ち上げ:電子・情報通信機器、車両&バッテリー、包装、プラスチック、繊維、建設、食品。概ねリサイクル、再利用、無駄の削減などを強化していくという内容。

  • ごみ削減:ゴミ分別、ラベリング、域外へのごみ輸出最小化など

実際の車両回収・リサイクル状況について欧州委員会が委託調査先にアセスさせたところ、廃車回収や車両に含まれる有害物質の低減は進んでいるものの、いくつか問題が浮上。

  • ①車両設計における部品再利用やリサイクル材利用がまだまだ進んでおらず(プラスチックに至っては19%のみ)、第一次原材料に頼っている、

  • ②廃車時の車両扱いの詰めが甘い(金属廃棄物は裁断され、分別、価値化されず廃棄、プラスチックや電子部品、複合材料のリサイクル率は非常に低いなど)。結果、重要原材料が回収されていない。

  • ③回収自体されないケースもあれば、EU域外に輸出されるケースも頻発、

  • ④さらなる資源循環を目指さないと脱炭素は難しい。

この流れで出てきたのがELV法規の改定。

2. ELV法規改定概要

2023年7月、欧州委員会がELV改定法案を公表(厳密には、3R型式認証指令とと1つにして規則化)。2024年3月時点で、コデシに則り、欧州議会&EU理事会で政策議論中。主な提案内容は下記:

  • 部品の再利用推進:ダッシュボードやバッテリー、モーターなど部品を解体しやすいよう設計する義務

  • リサイクル材利用推進:車両使用されるリサイクル・プラスチック含有率(25%@2030 年)、さらにその25%以上は廃車由来。

  • 情報提供義務:リサイクル材使用割合の報告義務(新型車認可申請時)、部品の安全な取り出し方や交換に関する情報を電子的手段で記録した「車両の持続可能性パスポート」導入義務

  • 他、中古車輸出や廃車輸出の区分や運用、使用済み車両管理やメーカーの責任などを規定

無論、自動車業界からの反応は、現在の提案内容では法規遵守は難しいとのこと。欧州自動車工業会(ACEA)としては、特にリサイクル材の利用率目標が厳しい。価格の問題もあるが、そこまでリサイクル材が市場に出回っているかというそもそもの問題がある。また、どこまでリサイクル材で代替可能かもアセスが必要とのこと。

一方、リサイクル業界の反応は、同法規がリサイクル促進になり自分らのビジネスが広がることから概ね歓迎、欧州リサイクル産業連盟(EuRIC)は、プラスチックだけでなく、鉄材やタイヤ・ゴムについても設定すべきとの提言も行っている。

3. コメント

リサイクル材の利用義務など、これまた車両生産のコストアップにつながること間違いない法規。メーカーとしては、リサイクル材の確保や価格交渉に追われることになる。CRMA法規NZIA法規のように、まずは努力目標として設置するのが無難だと思うが、対象が業界となると、途端に法規を厳しくしがちな欧州委員会。

欧州議会&EU理事会の政策議論は選挙後に持ち越し、選挙後はどちらかというと産業や社会的な側面を懸念する政治団体が主役になるはずなので、業界にとっても多少風上が変わるかもしれない。


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