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【読書】 グローバル化の勝者と敗者

18年位前に世に出た本だが、2024年担っても色褪せないノーベル経済学者スティグリッツの名著。自由貿易協定を考える上で参考になる叡知が詰まった一冊。

要約

  • Win winと言われるグローバリゼーション、その名の下、様々な自由貿易交渉が行われている。

  • しかし勝者と敗者がいるのが現状。政府がしっかりと手綱を握り、慎重に事を進める必要がある(例:中国などアジア諸国)。

  • 早急な市場開放は特に途上国にとっては危険。また先進国でも敗者となりうる人々がいる。そこら辺をケアするのは政府の役割。



1.本の紹介

誰もがご存じ誰もが知ってるジョゼフ・スティグリッツ(1943年-)。情報の非対称性の研究で知られるノーベル経済学者でコロンビア大学教授だが、その活躍は学会にとどまらず、アメリカ政権や世銀等で要職を勤める。

経済学者ジョゼフ・スティグリッツの画像

本のタイトルは、「Maiking globalization work」(2006年)、邦訳は「世界に珍しいをバラ撒いたグローバリズムを正す」(2006年、徳間書店)。

2.本の概要

①グローバリゼーションの光と影

1990年代初頭から、国際的な資本の移動の加速化(例: 海外投資等)、世界貿易機関/WTOの設立(1995年)と国際貿易交渉の進捗等の現象が世界経済を席巻、各国経済の国際化という潮流を先進国及び途上国双方に恩恵をもたらすwin-winをもたらすグローバリゼーションという現象として、半ば熱狂的に歓迎した。

しかし、グローバリゼーションの深化に伴い、理想と現実の間に大きなギャップがあることが認識され始め、1999年シアトルで開催された貿易交渉時に貿易自由化に反対する大きなプロテストが展開された。

1999年シアトルにおけるWTO交渉時の反対運動
1999年シアトルにおけるWTO交渉時の反対運動

プロテスト側の懸念は以下5点:

  • 貿易交渉が公正でない: 先進国に都合の良いルール作り、貧しい途上国は経済悪化

  • 環境側面や生活/医療等社会的側面への配慮に欠ける

  • 途上国は、国家主権を脅かされている(自由化/債務放棄のconditionalityにより、国民の生活水準を支える政府施策を打てない)

  • 先進国及び途上国において、勝者と敗者がいる(win winではない)。

  • グローバリゼーション=米国式新自由主義的経済政策の押し付け(自由化も、先進国に都合の良い金融やキャピタル移動の自由化、プロセス品の輸入などに対しては引き続き高い関税をキープ)

②政府の役割

中国を筆頭とするグローバリゼーションの恩恵を受け、経済成長を成し遂げた東アジア諸国の存在もある。これら成功例を見ると、国内市場の自由化に際して、政府のポリシー・ミックスがグローバリゼーションを経済成長や生活水準の向上に繋げる役割を担った(例: 各種法的枠組みの整理、基本教育の拡充、セーフティネット強化、公共インフラ投資、環境対策)。

③よりフェアなグローバリゼーションに向けて

具体的には下記の施策を掲げる(割愛あり)

  • 公正な貿易関係: 各途上国の状況に応じた貿易協定を考える(特恵国待遇も含め)&先進国側の非関税障壁も併せて考える。

  • 医薬品などを中心に先進国の特許権保護に重きをおく多国間特許取決め/TRIPsの見直し(例:生死にかかわる薬品へのアクセス、途上国内の伝統的な薬草を先進国企業が特許化し独占販売するBio-piracy行為対策等)

  • 環境対策(例: carbon tax)等を貿易交渉と併せて検討する。

  • より民主的な貿易交渉プロセスを確立する(democratic deficit対策: 各種ステークホルダーの巻き込みや意見反映など)

3.感想

共産主義の崩壊&ポスト冷戦の文脈で加速したモノ・カネ・ヒトの国際的な移動。WTO等の制度的な体制も作られグローバリゼーションが加速していく。私も覚えているが、EPAやらFTAやらを各国政府が推進、そのときのスローガンがWin Winだった。市場原理に基づく典型的な新自由主義的思考と論調。

※市場原理主義と新自由主義の概要は以下

結局それは特定の条件下にのみ当てはまるということ。細かく見ていくと敗者となった国、人々がいるのは確か。要はそこら辺をどうケアするか、そのためには賢くやる気のある政府が必要という著者の主張は同感。

そしてこの本が発行されたのが2006年で15年以上立つ。環境側面や医薬品の取り扱い等の含め著者の提言通りの方向で進んでいる側面もあるが、2024年時点でも引き続き問題になっているものも多々ある(先進国と途上国の不平等など)。

最後に一言

15年たっても色褪せないスティグリッツ先生の書、とても勉強になる。

本記事は、あくまで私がポイントだなと思った部分のみ書き出しまとめているだけです。この概要記事がきっかけとなり、この本に興味を持っていただけたら幸いに思います。


併せて、他の記事もご覧いただけたら幸いに思います。


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