不可・嚥下

最近、思う。
私は多分、自分の内側から殺される。
決して暗い意味じゃなく、一種の強がった願望みたいなものかもしれないけど、思う。
わたしは自分が誰なのか、わからない。でも、内側の誰かに殺される。そんな気がしてる。
彼には勝ち目がない。

自分の限界を問うとき、彼も私も一体化する。
夜、カーテンを締切って、真っ暗な中、そこには視界は無く、ノイズと、毛布の感覚が身体の輪郭を縁取るだけ。その中に身を置いてみると、自分の有限性、はたまた知るはずもない無限という概念に出会う。

わたしはいつか死ぬ。
わたしの大切な人も、嫌いな人も、死ぬ。
わたしはそれを止められない。
頭は良くない。歌も絵もうまくない。善い人でいられない。
朝は終わる、夜も終わる。
ここにある有限。

でも、季節は変わるし、時間は戻らず、流れるのみ。
あなたの考えていることは見えない。
わたしの将来もみえるものじゃない。
私以外の場所に広がる暗闇の果てをわたしは知らない。
有限性の裏に潜む、無限。

認識の有限と、想像という有限の中で生きる無限と、想像の先にあるだろうという想像の向こう側の無限。

わたしは納得がいかない。
どうしてわたしは、って言葉の先に言葉を繋げようとするとき、まさに無限の有限みたいな気持ちになる。内側の彼はたぶん無限の有限なんだと思う。溢れだすのに、吐き出したいのに、胸でつかえて上手く吐けずにそれでいてむくむくと育って、わたしはそのまま窒息して死んでしまう。その感覚、全部思い出せるし、全部思い出したら完全再生されて苦しくなる。逃げ道を探すにも見つけられなくて、わたしはまた忘れたふりをして、「彼」なんて言って他人のせいにして、それでも逃げられなかったら卑屈な道に走って、うっかり大事なものまで失ってしまう。自分のせいなのに、悲しいな虚しいなって泣いてる。いろいろ間違ってる、たぶん。

でも、真面目に生きたい。
真面目に生きようって思わせてくれた人がいて、だからいまは、正しいとか凄いっていう人生にならないとしても真面目に生きていたい。
真面目に生きる人と一緒に居たい。流されて生きているんじゃなくて、生きることを選んでる人と生きたい。真面目に生きる人を馬鹿にする世界だなって感じることが最近よくある。直接じゃなくても、なんというか、楽に生きようなんていうのがあったり、より効率的に生きようみたいなのがあったり。でもそれって生きるってことに対する見方がわたしと違うのかも、とか、それって本当に生きることなのかな、とか思ってしまう。生きるだけで苦労してる人は損、不適合、弱いみたいなのは、わたしは、違うって言いたい。ちゃんと生きようとしたら、多分、そんなに簡単な事じゃないんだとおもう。
幸福度は世界の見方に因るっていう。ぼくもそう教えてもらった。でも楽観視は時に逃げで、そうなると僕は自分で自分を苦しめてるようなものだけど、それに満足してたりするし、いまを耐えて、生きてる実感が欲しい。寂しいのは、ひとりで戦ってるから、戦友が欲しいだけだったのかもしれない。

少し寂れた廃墟みたいなビル、冷たい風に煽られて絡まりそうな込み入った電線、垢抜けない飲み屋の並ぶ高架下を歩きながら、人間らしくていいやと思った。
綺麗に磨かれた窓ガラスが光る都会のビル街、揃えられた街路樹、目的地にむけて脇目も振らずに進む人々、そういうのは、ぼくはちょっと苦手になった。

「彼」はたぶん、後者みたいな世界ーかっちり揃えられた机に肩を並べて正しさを多く詰め込めた者が勝ち、みたいなダンジョンーで、知らず知らずに僕の中で育てられてた。ぼくは真面目に生きたくて、それをしっかり飲み込んで、彼に栄養を与えてた。でも、本当の身体の方が上手く育ってくれなくて、次第に内側から殺されるようになっていた。
なにがしたい?が分からなくなって、何が楽しい?‪ が分からなくなった。
同じ栄養を食べて育った同じような生き物が沢山できて、それはもう気も合うし“楽しい”。僕の本当の身体は“楽しい”の邪魔で、いつか内側の彼にシャットダウンされてしまう。そういう殺され方をするんだ、って、今は思っている。
もっといえば、最近彼は自我を持つようになって、本体の非有用性を言葉を使って訴えてくる。自分の内側から、私を否定する声が聞こえるみたいな感じ。これはもはやわたしなのか、私が私を殺そうとしてるみたいだ。いつまで他人面で誤魔化せるだろうか。

戦えるだろうか?わからない、分かるはずがない、でも、生まれてしまった、生きのびてしまった、生きるしかないのなら、生きることがゆるされてるなら、不条理な宣戦布告も飲み込もうと思う。それで死んでも、元あったところに帰るだけ、救われたという事実だけはなかったことになるけど、それ以外は誰にも気付かれずに何も変えずにあるようでない有限と無限の壁みたいなものに飲み込まれるだけだから。

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