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ルポ・タワマン~僕たちは、好景気というものを知らない~

生まれてから、ずっと不景気だった。
僕たちは、好景気というものを知らない。

高度経済成長とともに生まれ、バブル経済をしゃぶりつくし、年金をもらって余生を楽しむ。そんな薔薇色の人生年表は、平成生まれの僕たちにとっては、絵に描いた餅である。

ザ・ブルーハーツが「3%で見栄も吹っ飛ぶさ」と唄ったのは、消費税が導入されて間もなかった1995年のことだ。それから四半世紀が過ぎた。
2022年、気が付けば消費税は10%にまで上がっている。

起き抜けにコンビニで1杯の珈琲を買い求めるにも、それなりの決心がいる時代が来てしまった。

かつては定番だった「良い大学に行かないと、良い会社に入れないよ」というお説教も、恵まれた時代の子どもたちにしか通用しない、まったくおめでたい妄言である。
それではまるで、「良い大学に行けば、良い会社に入れる」みたいじゃないか。

「ジャパン・アズ・ナンバーワン」が歴史年表のインクの染みと化してしまったいま、ブラック企業でも入社できれば御の字なのだ。寝る間も惜しんで働いて、それでも都内に住むことは難しい。

僕たちは、明日の保障すらない不安定な毎日を、下を向いてやり過ごしている。躓いて転んで、これ以上惨めな目に逢わないように、足下ばかりを見て歩いている。

上を向いて歩いても良いことがないことを、経験的に知っているからだ。

僕たちは呟く。
「こんな社会じゃ頑張っても仕方ない」

本当にそうだろうか? 成功者なんて身近にはいないのだろうか?

そんなことはないはずだ。
試しに出勤の途中、昼休みのランチの帰りでも良い、上を見上げてみて欲しい。

きっと、あることに気付くだろう。

日本は不景気のどん底にあるとみんなが言うが、そこには天を突くようなタワーマンションがそびえ立っているではないか。

どんなに社会が不景気でも、そこに暮らす人々は、確かに存在してきた。

考えてみると不思議な話である。

大企業の正社員であっても、都内に済むだけで息も絶え絶えのこの時代、一部上場の企業が1%以下と言われる現代社会において、いったいどんな人間が「タワマン」に暮らしているというのだろう。

彼らと僕たちは、どこで生きる道を違えたのだろうか。そもそも、そこにはどんな人々が暮らしているのだろうか。

こうして僕たちは、タワマンを自分には関係のない存在と見なして、これまで素通りしてきたことに気付く。

毎日のようにその足下をせかせかと歩きながら、そこにどんな人々が暮らしているのかを、実のところ僕たちは全く知らないのだ。

僕たちの頭上にあるタワマンは、成功者たちのパラダイスなのだろうか。ということは、そこには成功へのカギが隠されているかもしれない。

それとも、そこは欲望渦巻く伏魔殿なのか……。

タワーマンションという、最も近くにある秘境を、僕と一緒に旅してみよう。(円)


北山:1994年生まれ。ライター。「文春オンライン」、「幻冬舎plus」などに寄稿。文系院卒。世の中で一番尊い出版社は河出書房新社だと思っている。署名は(円)。


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