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Traveler's Voice #3|藤本敦央

Traveler's Voice について

Traveler's Voice は特別招待ゲストの方からエスパシオに泊まった感想をインタビューし、読者のもとへ届ける連載記事です。この企画の目的は”自分ではない誰か”の体験を通して、エスパシオを多角的に知っていただくことと、ゲストが日頃行っている活動を合わせて紹介するふたつの側面を持っています。ご存じの方も多いと思いますが、エスパシオは「いつか立派な観光ホテルになる」と心に誓った山口市にあるラブホテルです。この先どんなホテルに育っていくのか、まだ出発地点に立ったばかりですが、この企画を通してゲストの過ごし方や価値観を知り、計画にフィードバックしたいと考えています。インタビュアー、執筆、カメラマンを務めるのは「エスパシオ観光ホテル化計画-OVEL」を進めているプロデューサーの荒木です。それではインタビューをお楽しみください。


ゲスト紹介

Traveler's Voice 第3回目のゲストはインテリアデザイナーの藤本敦央さんです。藤本さんは山口市仁保で「日ト」というギャラリーカフェを経営しながら、インテリアデザイン事務所「aer-artisan」を営んでいます。仁保という自然豊かなエリアを活動拠点としていることもあって、自然と共生しながら独自の生活スタイルを育んでいます。空間を読みとる能力に長けたインテリアデザイナーからいったいどんな意見が聞けるのでしょうか。


藤本さんが泊まったお部屋紹介

藤本さんに宿泊していただいたお部屋は303号室です。淡いグリーンの壁紙に黄色いアートが映えるインテリアです。南側の大きな窓からは、やわらかな朝日が差し込み、心地よい目覚めを演出します。


インタビュー

Araki:おはようございます。藤本さんはここから車で15分ほど離れた場所に拠点を置いていますが、馴染みの深い土地で、それでいて来る機会のないであろう場所で一晩過ごしてみていかがでしたか。

Fujimoto:まずはじめに感じたことは、いつも見慣れた景色を高い位置から見渡すことで別の世界にいるような気分になりました。それと同時に、いかに日々をアイレベルで過ごしていたのかと気付かされた瞬間でもありました。いつもは家族4人で過ごすことが多いので、ひとりで物を考える時間はとても新鮮で、有意義な時間を過ごさせていただきました、ありがとうございます。

朝からワーケーション

Araki:そうですね、地方にはビルが少ないので自分の街を見下ろす視点は新鮮に感じるのかもしれません。藤本さんはインテリアデザイナーだから、空間についてもぜひ聞いてみたいです。

Fujimoto:ぼくが気に入ったのは部屋の広さと窓の大きさ、そして時間の移り変わりによって表情が変わるところです。むかし、北京の商業施設のデザインを担当している時期があって、そのとき泊まっていた5スターホテルの空間ボリュームを思い出しました。空間の贅沢さだけで評価するなら、エスパシオが東京にあればおそらく1泊12万くらいですよね。こんなに広い空間はラグジュアリーホテルと比較してもあまり無いと思います。それとなにより窓の大きさが気に入りました。窓によって昼と夜の印象ががらりと変わります。昼は外の景色に目が行き、夜は空間に意識が集中する、昼間にはとくに気にならなかったアートが夜になると存在感を放って、そこではじめてアートと向き合えたような気がします。そしてコンセプチュアルアートが故の、どこまでも深く意味の世界に潜り込んでいけることが作用し、さらに夜の過ごし方を演出できているように感じました。その一方で、昼は景色が主役になっていて、それを阻害しないように、優しい色で構成された空間デザインだと思いました。

Araki:ありがとうございます。やっぱり景色には勝てないですよね 笑。同業者への質問ってほんとに難しいなと思いながら質問しているんですけど 笑、藤本さんが考えるこの場所の新しい使い方などあれば教えてください。

Fujimoto:そうですね、ここで4人くらいでミーティングできれば有意義な時間が過ごせそうですね。騒音のない静かな空間とホテル特有のセキュリティがあるので、集中するための空間として最適だとおもいます。あとはテレワークにも向いていますよね。環境を変えると思考も変わるので、クリエイターにとって素晴らしい場所だと思います。

アートと記念撮影

Araki:なるほど、地方でもそのようなニーズはあるのかもしれませんね、ちょっと探ってみます。それと続いて聞いてみたかったことが、ライフスタイルってどこまで提案すれば良いと考えていますか。というのもぼくはオープン間際にライフスタイルの提案を控えめにするようにしたのですが、その理由は、ライフスタイルをこちらから提案するのではなく、それぞれの習慣性を受け入れることに本質があるんじゃないかと感じたからです。

Fujimoto:たしかにそうとも言えますが、説明があろうがなかろうが、自分で使い方をぱっと決めることができる人って、ハートが強い人だと思います。そして意外とそういう人はマイノリティで、大半はサポートすることを待っています。実はぼくも昨晩はじめてレコードプレイヤーに触れたんですけど、YoutubeのHowTo動画がなければ、触ってよいものかどうか荒木さんに電話していたと思います 笑。ぼくのイメージではライフスタイルを提案することは、安心感を与えるための優しさだと捉えています。みんなハートが強いわけではないということを忘れないようにしています。

Araki:丁寧に言葉にしていただきありがとうございます。心にすとんと落ちました。では、少しデザイナー目線の質問をさせてください。藤本さんはSNS以降突如ポジティブになった「フォトジェニック」とどのように向き合っていますか。

Fujimoto:ぼくは全力で向き合ってますよ。20代の頃イタリアにバックパッカーしていて、そこで見た「海」に涙が出るほど感動したことがあります。それ以降、ぱっと見と言われる、そのぱっと見に全力で向き合っています。フレーミングされた絵面にこだわることには、時間を超えた大きな意味があると信じています。

美味しい珈琲を淹れていただきました

Araki:意外な答えでした。というのも日トギャラリーに訪れたとき、視覚的美しさはさることながら、音がとても心地よく計画されていることに感動したんですね。だからてっきり、フォトジェニックをこれほど肯定するとは思ってもいませんでした 笑。ちなみにぼくはフォトジェニックであることと快適性を分けて考えるように気をつけています。できるだけ視覚に依存しないように耳を澄ませてデザインしています。ではでは最後の質問です。今まで大規模建築を集団で設計していた藤本さんが、山口市の仁保という場所で独立したことや、日トギャラリーの未来について教えて下さい。

Fujimoto:デザインについては、目の届く範囲のなかで仕事をしたくなったと言えます。生活については、細々と楽しくやっていきたいと考えています。もっと正しく言えば、仕事と生活を区別することなくフラットに生きていきたいという想いが、デザインと生活その両方に反映されています。抽象的な表現になってしまいますが、実際そんな生活を6年続けていると、畑を耕すこととデザインすることの差が溶けていく実感があります。いままで頭で考えていたことが、身体から自然と滲み出てくるようになり、ようやく自然界で起きている現象に素直に向き合えるようになったと強く実感しています。

日ト・窓から見た雪景色

日トについては、ぼくにとって実践の場所であり、視野を広げるための場所です。仁保というローカルな場所を選んだ理由は、街から適度な距離がある事と、景色が良い事です。ぼくは日トに来てくれる人を「お客さま」と捉えていなくて、「遠くから来てくれたいい人」として全力でもてなしています 笑。そういう事柄ひとつ取ってみても、目の届く範囲におさめることがぼくにとっては、大切なことなのかもしれません。

Araki:なんだろう、藤本さんのその安定感に憧れます。話を聞いているだけで、デザイン、生活、日ト、それらの境界がどこにあるのか分からなくなってくるし、もっと言えば、「ここで採れた野菜おいしいですね」と「藤本さんのデザイン素敵ですね」このふたつの差異がもはやどこにあるのかさえ分からなくなってきました 笑。そんな藤本さんに聞いてみたい質問が再び浮上したので、もうひつだけ質問させてください。藤本さんはエンターテイメントとどのように向き合っていますか。

Fujimoto:ぼくにとって何がエンターテイメントと思えるのかは、難しいところなのですが、外部の力を借りて体験し、記憶に残す事のできるものだとすると、どのエンターテイメントを自分の中に取り込むべきか、とても悩んでしまいます 笑。複数人で体験するものに関して言えば、サービスを受ける側の人の感情も含まれた上での記憶になるので、僕としては肯定的な感情でその場にいる様にしています。そういう感情が集まってその場に共振の様なものが生まれるので、体験する側の心持ちみたいなものが重要だなぁと思います。

Araki:自然と向き合うような話が続いたので、最後はパッと明るい話で終わらせようと質問したのですが、いやいや、藤本さんはどんなことに対しても構えが一貫していますね、凄いです。今日はありがとうございました。今後とも近所付き合いよろしくお願いします 笑。


day of stay:January 24, 2024

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