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Traveler's Voice #2|シモーナ

Traveler's Voice について

Traveler's Voice は特別招待ゲストの方からエスパシオに泊まった感想をインタビューし、読者のもとへ届ける連載記事です。この企画の目的は”自分ではない誰か”の体験を通して、エスパシオを多角的に知っていただきながら、ゲストが日頃行っている活動を紹介するふたつの側面を持っています。ご存じの方も多いと思いますが、エスパシオは「いつか立派な観光ホテルになる」と心に誓った山口市にあるラブホテルです。この先どんなホテルに育っていくのか、まだ出発地点に立ったばかりですが、この企画を通してゲストの過ごし方や価値観を知り、計画にフィードバックしたいと考えています。インタビュアー、執筆、カメラマンを務めるのは「エスパシオ観光ホテル化計画・OVEL」を進めているプロデューサーの荒木です。それではインタビューをお楽しみください。                              


ゲスト紹介

Traveler's Voice 第2回目のゲストは国際ボランティアで2023年8月から洞春寺に滞在中のシモーナさんです。彼女は洞春寺で馬の世話をしながら、山口育児院でボランティア活動をしています。故郷であるドイツを離れて暮らす彼女からエスパシオはどのように見えるのでしょうか。


シモーナさんが泊まったお部屋紹介

シモーナさんに宿泊していただいたお部屋は302号室です。広いツインベッドルームで、黄色に包まれながらゆったり過ごせるラージサイズのお部屋です。ベッド側の窓からはテニスコートのアートが見え、南側の大きな窓からは、カーテンにディフューズされたやわらかな光が差し込み、心地よい時間を演出します。

6人で囲める広いソファスペース
ダブルベッドサイズのツインベッドルーム

インタビュー

Araki:今日は宿泊していただきありがとうございました。NYタイムズの発表以来、取材で忙しくされていると思うのですが、昨晩はゆっくり眠れましたか。

Simona:いつもは遅くても11時くらいに寝るよう心掛けていますが、あまりに部屋がリッチだったので 笑、ついつい久美さんと深夜2時まで騒いでいました。今は洞春寺に住んでいるので、ヨーロッパ的なインテリアに懐かしさを感じつつ、大きな窓から見える日本の景色と洋風インテリアとのコントラストを感慨深く眺めていました。逆にイメージしてもらえると分かると思うのですが、あなたがヨーロッパに旅行に訪れたとして、そこにある日本家屋の中からヨーロッパの景色を眺める、不思議な気分になると思いませんか。

ヨーロッパ風、すんとしたポートレイト撮影

Araki:なるほど面白いですね。部屋と景色はシームレスに繋がっていることが自然なのに、観察者が変わると切り離れて見える。まるでドイツから来たシモーナが日本の景色を見ている状況を俯瞰したようですね。いきなり深い感想が聞けました 笑。では、景色以外に感じたことはありましたか。

Simona:黄色に包まれるウォーミーな雰囲気も素敵だったけど、お風呂が好きなわたしにとってはバスルームが最高でした。洞春寺では僧侶たちが五右衛門風呂に入り、レジデンスしている私たちはシャワーブースを使っています。ドイツではシャワーで済ますことが主流なのでストレスは感じていませんが、久しぶりの大きなバスタブにはやっぱりテンションが上がりました 笑。ついついリッチな気分になって、お風呂上がりはバスローブを纏ってバルコニーでセルフィ撮って楽しみました 笑。

バスライフの再演

Araki:バスライフを楽しんでもらえて嬉しいです。こんなにお風呂が広いのはここがラブホテルだからですが、はじめて日本独自のラブホテルを利用されていかがでしたか、そもそもラブホテルは知っていましたか。

Simona:日本に来る前からラブホテルの存在は知っていました。ラブホテルは日本人らしいクレイジーなイメージがあります 笑。でもエスパシオはそのイメージとは違って居心地の良い空間になっています。見るだけならクレイジーな空間にも関心はあるけど、宿泊するならリラックスできるほうが良いですね。ドイツでは家族や友人と毎晩のようにカードゲームをする習慣があって、わたしはいつもトランプを持ち歩いています。宿泊したこの部屋は広いツインベッドルームで、ソファやテーブルも大きくて、いつもよりリッチな気分でカードゲームを楽しめました 笑。

Araki:ありがとうございます、快適性を重視してデザインしているので嬉しいです。ドイツ人がそんなにカードゲームが好きとは知りませんでした 笑。では、ホテルから少しはなれて旅の話をしましょう。シモーナは今までどんな旅をしてきましたか?

Simona:ドイツでは親の故郷であるクロアチアとギリシャに家族旅行することが習慣になっていました。旅先では家族の家に泊まっていたのでホテルはあまり利用したことがありません。私にとっての旅は家族旅行と、勇気をふりしぼって1人でやって来た山口のふたつです。ドイツにはバカンスという長期休暇制度があるので、その制度を利用して6週間ほど余暇を楽しむ習慣があります。いろんな国を回る人もいるし、ひとつの場所に長期滞在する人もいます。日本にはバカンス制度がないのでみんなどんなふうに旅をしているのか不思議に思っています。

友達と過ごすバルコニー

Araki:長期休暇は羨ましいです。日本は制度の問題で短期滞在にならざるを得ないので、その土地に住む人や文化に触れずに旅が終わってしまいます。そう考えると日本人の多くは旅を味わえていないのかもしれませんね。では、シモーナについて教えて下さい。山口に来て日々どんな暮らしをしていますか。

Simona:山口には国際ボランティアで来ているので、洞春寺に滞在しながらお寺の仕事や山口育児院の仕事を手伝っています。2023年8月25日に洞春寺にやって来ました。ボランティアの活動期間は1年間です。あっという間に半年が過ぎてしまって、今から別れのことを考えて悲しくなることがあります。そうそう、初めて洞春寺に来たときのことを鮮明に覚えているのですが、飛行機が韓国に緊急着陸して5時間機内から動けなかったりして、洞春寺に着き深野住職と挨拶をかわせたのが夜も深くなったころでした。ようこそ山口へ、という住職の言葉に対し「めっちゃ疲れた」と返したのが私たちのファーストコンタクトでした 笑。そのあと、お寺の住居スペースに案内されて、さらに驚くことがありました。目の前に広がる光景は私がイメージしていた整然としたお寺ではなく、これでもかと散らかり尽くしたカオスな空間でした。それから私の片付けの日々がはじまります 笑。そうこうしているうちに10月になって、毛利家から馬のシャルがやって来ました。シャルは今年の4月で25歳を迎える老馬で、洞春寺で余生を過ごしています。部屋の片付けも落ち着いたので、今はシャルの飼育係が私の仕事です。洞春寺は落語やアートなどのイベントも多く日々いろんな人が訪れます。ドイツではあまり喋らない大人しい性格だったのに、ここに来て一気にソーシャルライフに花が咲き、自分でも驚いています。それに加えてNYタイムズの発表があり、最近は取材のオンパレードです。実は今日もNHKの取材だったのですが、エスパシオのインタビューがあるので明日に変更してもらいました 笑。なにはともあれ、日本の中でも山口市の洞春寺に身を置けたことの幸運に感謝しています。

Araki:山口を満喫していますねぇ 笑。でも、数ある選択肢の中からなぜこんな田舎を選んだのですか。

Simona:それはよく聞かれる質問ですが、実は私の生まれ育った村は山口市と比べものにならないほど田舎です。人より羊のほうが多い、農家と自然しかない村です。なので私にとって山口市は田舎ではありません。アートセンターもあるし、なにより多様な人が交流する街だと思っています。

花柄のシャツが素敵です

Araki:たしかに、日本の地方が他国の地方と比べて田舎であるとは言えませんよね。観光はもっと相対的に捉えることが大切なのかもしれませんね。エスパシオが観光ホテル化したころにはシモーナはもう日本にいないと思うのですが、3年後どこでなにをしていますか?

Simona:将来についてはいろいろ悩んでいますが、おそらくドイツで働いていると思います。ドイツで働きながらときどき日本に訪れることが理想です。というのも日本とドイツの労働環境は大きく違うので、日本で腰を据えて働くことがまだイメージできていません。それと、私の育った村では、二十歳になると結婚して子供をつくる友達が多くて、彼女たちと比べると私は変わった生き方をしていると思います。今はここでの暮らしに集中し、将来のビジョンはこれから考えていこうと思います。でも実を言うと、3年後の未来より半年後に訪れる別れのことばかりが気にかかっていて、もうすでにドイツに帰りたくない病にかかっています。

Araki:日本にとどまる方法をみんなで考えましょう 笑。長期滞在することで心の奥深くまで記憶が宿り、関わる人と家族のような親密さが生まれて、わああ、そりゃ半年後の別れは辛いでしょうね。でもそれほどの感情が芽生える経験ができていることは素晴らしいことです。まだ旅の途中ですが、山口での暮らしがシモーナの人生にとって良きターニングポイントになっていれば嬉しいです。ではではインタビューお疲れさまでした。明日のNHKの取材も頑張ってください。またシャルにも会いに行きます。


day of stay:February 14, 2024


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