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【MTG】重厚学概説 ~タフネスで殴るメカニズム~


はじめに

 本noteは、「パワーではなくタフネスに等しい点数の戦闘ダメージを割り振る」能力、通称、重厚/Backboneについて解説するものである。
 原文は某イベントの合同誌に寄稿したものであり、それに加筆修正を加ええたものが本noteとなる。原文執筆時から時間が経ち、重厚界隈の情勢もやや変化したため改めて筆を執ることにした。
 重厚というメカニズムを知るものも知らないものも、本文が重厚への理解を深める足掛かりとなるだろう。

重厚/Backboneとは

 パワーではなくタフネスに等しい点数の戦闘ダメージを割り振る状態を意味する。
 この能力の影響下にあることによって、パワーの値に依らず(0以下であっても)タフネスに等しい点数の戦闘ダメージを与える。

かわいい

 例えばこの《着飾ったラクダ》が重厚の影響下にある場合、与える戦闘ダメージはタフネスの値を参照して4点だ。
 あくまで「戦闘ダメージを与える際にタフネスの値を参照する」能力なので、格闘などのパワーを参照するカードの処理では通常通りパワーを参照する。
 ちなみにタフネスの値というのは基本的にはカードに書かれた値のことなのでマイナス修整ではなくダメージを負っている場合は打点が減らない。《着飾ったラクダ》に《稲妻》を撃っても依然として(3点のダメージを負った)タフネス4のクリーチャーであるため、重厚の影響下にあれば4点のダメージを与える。

 ところで重厚/Backboneという単語は、能力語でもなく、キーワード能力でもない。
 DCGであるMTGAで、パワーではなくタフネスに等しい点数の戦闘ダメージを割り振るようにするカードの影響下にあるクリーチャーをフォーカスすると出てくる謎の単語だ。
 (重厚と名付けられたことを告知する記事以外の)公式の記事でそのような単語が出てきたことはなく、正式な名称、あるいは開発部用語であるかは若干怪しいところであると言えよう。
 とはいえ、この「パワーではなくタフネスに等しい点数の戦闘ダメージを割り振る」を毎回懇切丁寧に記述、あるいは発話する手間は相当なものなので、本noteでは以降、「パワーではなくタフネスに等しい点数の戦闘ダメージを割り振る」を重厚と呼称する。

 そして可能ならば本noteの読者も重厚という単語を積極的に使ってもらいたい。
 重厚を用いるデッキも《策略の龍、アルカデス》の一枚岩ではなく、もう少しバリエーションがあり、それらを横断的に検索するために重厚という単語が広まってくれると重厚が好きなPWの助けになるからだ。

重厚の歴史

 重厚はどのようなカードによって与えられるのか。それを歴史と共に解説していく。
 まず重厚を付与するカードの元祖は《包囲の塔、ドラン》である。

初出は2007年

 この時点では白黒緑アブザンの3色のクリーチャーという限られたデッキでしか採用できないものだったが、次に緑単色のエンチャントである《突撃陣形》が現れたことで重厚界隈には衝撃が走った。

初出は2015年

 緑単色という採用のしやすさと2マナという軽さ、エンチャントという触られにくさに加え、防衛を持つクリーチャーを起動型能力で動かせるようになっている。
 防衛持ちを重厚にすれど《包囲の塔、ドラン》では不可能だった防衛持ちの壁で攻撃することができるようになったのだ。
 2023年現在、これよりも軽く、影響範囲の大きい重厚付与カードは存在せず、重厚デッキを組む際は「まず《突撃陣形》を4枚揃えよ」という格言が 生まれるほどの[要出典]マスターピースである。
 唯一欠点と呼べるものがあるとするならば、起動型能力で(G)を払わねばならず、対象を取るという点だ。
 
 そのような不満点の反映なのか、基本セット2019で《策略の龍、アルカデス》が登場する。

初出は2018年

 防衛を持っているクリーチャーを重厚にし、無条件に攻撃を許可する能力を持っており、更にはドロー能力もある。
 このドロー能力と本体の優秀なP/Tから、通常の構築や統率者戦でも人気を誇る最も有名な重厚カードだろう。
 有名すぎて重厚デッキは全部壁デッキだと思われる一因でもある。
 このアルカデスの登場で理論上、重厚はすべての高タフネスクリーチャーを重厚にし、気兼ねなく攻撃することができるようになった。
 しかし、アルカデスもまた、防衛を持たない通常の高タフネスクリーチャーを重厚にしないため、専用のデッキ構築を求められるカードだ。
 防衛を持つクリーチャーと防衛を持たないクリーチャーの間にはまだ壁があった。片方が壁だけに。
 それらの問題のほとんどを、次のカードが解決する。

色とマナコスト以外に何も弱点のないカード

 自軍すべてを重厚にし、防衛を持たないクリーチャーの攻撃を可能とする《厳戒態勢》である。
 過去に印刷されてきた《包囲の塔、ドラン》、《突撃陣形》、《策略の龍、アルカデス》の良いとこどりと言える集大成の1枚だ。
 理論上ではなく、名実共に《厳戒態勢》があれば、すべてのクリーチャーを重厚にし、攻撃させることができる。

 実際、重厚付与カードの種類もこの《厳戒態勢》以降大きな変化はなく、歴史的にはこのカードのデザインが最後となる。
 ここまでのカードのテキストを理解すれば、これ以降のカードはすべてここまで挙げたカードの亜種なのでぜひ覚えてほしい。

 《厳戒態勢》は白青のカードであるが、公式の記事によると重厚は白単色でやることであり、アンタップ能力を持たせることで青っぽくなったという。
 それならばいずれ白い《厳戒態勢》が出て、以降はそれが重厚付与カードのスタンダードになるのだと、誰も誰?信じていた。
 しかし、そうはならなかった。
 次項では大きな変革を終えたあとの分類について語る。

重厚の分類

 ――ローウィンで登場した《包囲の塔、ドラン》の誕生から16年。
 WotCの開発は、
 防衛持ちを殴らせない《包囲の塔、ドラン》派、
 防衛持ちしか殴らせない《策略の龍、アルカデス》派、
 両者を受け入れる《厳戒態勢》派の3つに分かれ混沌を極めていた――。

 なんで極めるんだよ!!!!!!!!

 歴史の項目で述べた通り、重厚にするカードは、その影響範囲や特徴がそれぞれで微妙に異なる。
 それでいて《厳戒態勢》以降に登場したカードは、それ以前のカードの要素を踏襲しているため、それらの影響範囲や特徴には共通項が多い。
 そのため、以前はそれらのカードが持つ要素を基に、冒頭のように3つに分類されていた。

 しかし原文執筆時から時が進んだことで新たな分類が生まれ、現在では4つに分類できるようになった。
 この項ではそれらのカードの影響範囲の分類を、最初にそのデザインで作られたカードを参照し、
・高タフネス派
・パワー容認派
・防衛派
・折衷派
の4つに分類し、解説する。

高タフネス派(ドラン派)

 重厚にするカードは基本的に《包囲の塔、ドラン》の能力のように、条件を問わないことが多い。高タフネスであれば影響と恩恵を受けられるので、この影響範囲を持つカード群を高タフネス派と分類する。
 この高タフネス派の特徴としては、挙動がオーソドックスなことが挙げられる。
 パワーではなくタフネスで戦闘ダメージを与えること以外に複雑な要素は何もなく、他の要素を考慮する必要もない。
 シンプルな挙動故に、最も多くの重厚にするカードに使われている。
 反面、基本的に防衛持ちを動かすことができず、防衛持ちの高タフネスクリーチャーは防衛というデメリットを背負ったままだ(ブロック時にダメージは与えられる)。
 そのため、防衛を持たず、高タフネスであるクリーチャーと相性が良い。
 ちなみに《包囲の塔、ドラン》と《E. Honda, Sumo Champion》は敵味方問わず、すべてのクリーチャーに影響し、それ以外の高タフネス派のカードは自分のクリーチャーにのみ影響するので更なる細分化が可能だが、自分のクリーチャーだけを見た時に挙動の変化はなく、都合が良いため、どちらも高タフネス派に分類される。

パワー容認派(古きもつれ樹派)

 この分類はイクサラン:失われし洞窟にて《床岩の亀》が登場したことにより新たに生まれたものである。
 元は《古きもつれ樹》というカードが持っていた影響範囲で、パワーよりもタフネスが高いクリーチャーだけを重厚にするという、高タフネス派の上位互換のような影響範囲だ。
 2/1のようなパワーの方が高いクリーチャーであっても、高タフネス派の重厚にするカードでは強制的にタフネスでダメージを与えることになり、打点が下がっていたのだが、このタイプの影響範囲は問題なくパワーでダメージを与える。
 以前は《古きもつれ樹》1枚しかなかったため高タフネス派の亜種という分類だったが、《床岩の亀》の登場により、明確に異なると判断した。
 このパワーが高いクリーチャーと共存できるカード群を、パワー容認派と分類する。
 この分類の特徴は先述したようにパワーの高いクリーチャーと共存できることにある。
 そのため柔軟性が高く、高タフネス派の上位互換であるが、重厚にするカードを使ってデッキを組むのなら、パワーの高いクリーチャーを入れる意義は薄い。パワーが高く、カードパワーも高いカードを入れるのであればそれを主軸に重厚でないデッキを作ったほうが強いだろう。
 また、どれがパワーで殴ってどれがタフネスで殴るかという管理の煩雑さもあるため、あくまでリミテッドのような高タフネスのカードと高パワーのカードが併用されうる限定的な環境でのみ機能する派閥だと思っている。

防衛派(アルカデス派)

 《策略の龍、アルカデス》を祖とする分類として、防衛を持つクリーチャーのみを影響範囲とする重厚関連カードがある。
 この要素を持つカード群を防衛派と分類する。
 防衛派の特徴として、防衛を持つクリーチャーを防衛を持たないかのように攻撃させられるというものがある。
 防衛を持っている以上、攻撃ができないままでは重厚にする意味があまりないので当然と言えば当然なのだが、影響範囲まで防衛持ちのクリーチャーのみに狭まっているため上記2つの分類より使いにくさが目立つ。
 《突撃陣形》のように影響範囲は高タフネス派だが、起動型能力によって防衛持ちを攻撃させられるようなカードも存在しているため、影響範囲が防衛持ちのクリーチャーのみであることは基本的にデメリットである。
 ただ、先述のように防衛持ちクリーチャーの攻撃を許可する能力がおまけでついているのがこの分類の特徴なので、防衛持ちのクリーチャーを重厚にしたい場合は、基本的にこの分類のカードを使うことになるだろう。

折衷派(厳戒態勢派)

 この分類は、《厳戒態勢》というカード1枚のための分類である。
 なぜ1枚のカードのためだけに分類を作るのかというと、高タフネス派と防衛派の上位互換に他ならないからだ。どちらの派閥にも属せるのであれば、どちらでもない派閥に分類したほうが分かりやすいと判断した。
 この派閥のカードは、自分のクリーチャーすべてを重厚にする影響範囲と、防衛を持たないかのように攻撃させる能力を併せ持つ。
 高タフネス派の影響範囲と、防衛派のメリットによって、すべてのクリーチャーを確実に重厚にしてくれるこのタイプのカードを折衷派と呼ぶことにする。
 この派閥のカードがあればパワー容認派以外は必要なくなるのだが、《厳戒態勢》以降、この手のカードは1枚もない。
 WotCも忘れているのか、あるいは意図的にデザインしないようにしているのかは不明だが、《厳戒態勢》が偶然、重厚カードとして集大成だっただけなのかもしれない。
 他の分類のカードが不完全、あるい欠陥デザインだというわけではないが、それでも、《厳戒態勢》のような完全なデザインを見せられて、取り上げられるのは納得がいかないという気持ちもある。
 現在ではパワー容認派の台頭により、折衷派もすべての派閥の上位互換ではなくなってしまったが、重厚デッキを組むにあたっては折衷派が未だ強力であることには変わりない。

まとめ

 重厚は影響範囲と持っている特徴により、4つの分類がある。
 それらは、すべてのクリーチャーを重厚にする高タフネス派、低パワー高タフネスのクリーチャーだけを重厚にするパワー容認派、防衛を持つクリーチャーのみを重厚にして攻撃を許可する防衛派、すべてのクリーチャーを重厚にし、防衛を持つクリーチャーの攻撃を許可する、高タフネス派と防衛派の利点を併せ持つ折衷派に分かれる。
 過去には折衷派がすべての派閥の上位互換と言って良かったが、パワー容認派の出現により、必ずしも上位互換ではなくなった。
 しかし、パワー容認派はそもそもパワーでも殴るならパワーだけで殴ったほうが強いという問題があり、依然として純粋な重厚を使用したデッキを組む際には折衷派が強力である。
 これらの分類はあくまで一個人の独断と偏見に満ちたものであり、WotCの認識と異なっている可能性が高い。
 ただ、実際のカードの使い心地としてはこの分類が妥当だと信じている。
 もしこれから先、これらの分類を覚えていてくれるのならば、重厚関連のカードを見かけた時、どの分類であるかをぜひ思い出してほしい。

重厚の利点

 マナレシオが良く、打点の高いクリーチャーを1マナや2マナから展開して殴り抜けることができるのが重厚の利点だ。
 例えば先述の《着飾ったラクダ》は1マナ0/4のバニラクリーチャーであるが、重厚の影響下であるなら実質的には4/4相当であり、最速で2ターン目に4点を叩き込むことができる。
 これは《僧院の速槍》で攻撃して《稲妻》を顔面に撃ちこんだ赤単並みの速度であり、なおかつ《着飾ったラクダ》のサイズは他のカードの影響がない限り恒久的に不変で4打点のままだ。
 低マナコストで高いタフネスを持つクリーチャーはMTGの歴史に数多く、それら1マナ4/4や2マナ6/6相当のクリーチャーを叩きつけ、そのまま殴り抜ける。その爽快感が重厚デッキの楽しさだろう。

 また、時折存在する《塔の防衛》のようなリミテでも採用を躊躇うレベルのタフネスのみを上昇させるカードが強力に扱える。
 《塔の防衛》は+0/+5の修正と到達を自分のクリーチャーに与えるが、これは重厚の影響下では実質的に+5/+5ということだ。
 このようなタフネスのみを異様に増加させるカードによる奇襲性は抜群で、そのようなカードが環境に存在する限り、勝ち筋となり得るし、楽しい。

 そして重厚デッキを使っていると、マナコストに比してタフネスが妙に高い、あるいはタフネスへの修正が高いカードに興奮できるようになる。
 《怒り狂う島嶼、キャリクス》のような誰もの記憶に残るような超高タフネスカードのみならず、2マナ0/6や、3マナ0/8のような壁を見て「これは強いな」と思えたり、装備品による+0/+3が実質+3/+3の破格の修正に見えてきたりする。
 これにより、MTGを好きになる要素が一つ増えると言って良い。
 これも一種の重厚の利点ではないだろうか。

重厚の欠点

 一方、重厚にするカードがない状態であれば、低パワー高タフネスのクリーチャーは見た目通りになる。《着飾ったラクダ》であれば1マナ0/4のバニラクリーチャーだ。
 重厚にするカードがないと一切機能しないというのが、重厚の明確な欠点である。
 特に《突撃陣形》を始めとする置物タイプの重厚にするカードは2枚目以降が手札で腐ることが多い。
 バウンスなどのインスタントタイミングでの妨害に備えて2枚目を戦場に出すことはあるが、赤単相手などは完全に無駄札と化す。
 それを引けないとゲームにならないが、2枚目以降が必要ないといういびつな構造になりがちなのが重厚デッキの辛さだ。

 この欠点をWotCも理解しているのか、昨今では、自分のクリーチャーを重厚にする非伝説のクリーチャーが数を増やしてきている。
 《包囲の塔、ドラン》や《策略の龍、アルカデス》と異なり非伝説であるため2枚目以降も腐らずクリーチャーとして投入でき、デッキの枠を圧迫しない。
 しかし、これらの新顔はデッキの役割として完璧なのだが、どれもこれも特筆すべき能力を持たないわりに重いという問題を抱えている。
 軽さを犠牲に2枚目以降が無駄になる置物を取るか、重くとも2枚目以降が腐らないクリーチャーを取るかという選択を重厚デッキは迫られていると言えよう。

おわりに

 今回は重厚という概念を広めたくて筆を執った。
 パワーではなくタフネスを参照する。これは通常のMTGでは存在しない評価軸である。
 初心者はタフネスの高いカードを好むらしい。つまり重厚が好きな自分は未だに初心者から抜け出せていないのかもしれない。
 しかし、MTGに触れ始めた頃に心動かされたカードで戦うことができるのは、初心者の自分を肯定されているようでありがたいことである。
 これからもMTGは長く続くだろう。カードも印刷され続ける。
 その時、重厚という能力を時折でいいので思い出してもらえれば幸いだ。

本当のおわり

 寄稿した内容をコピペして、ちょろっと追記して終わるはずだったが、思ったよりも筆が乗り、それなりの長さになった(元の内容が少なかったというのもあるが)。
 元の内容が割といろいろな要素を削ってなんとか詰め込んだ代物だったので、こうしてリメイクできて良かったのかもしれない。
 特に元の文を書いたときには影も形も……いや、影くらいはあった《古きもつれ樹》と同じ影響範囲のパワー容認派について書けたのは僥倖と言える。
 最初に見たときは、柔軟性が高い影響範囲だけどリミテ用の調整だろうなあと思っていたが、まさか2枚目が登場するとは。
 さすがに2例目が出てしまったら既にある分類の例外とするわけにはいかず、いずれどこかで分類を修整しなければならなかった。
 その機会を無理やり作り出すための舞台が今回の記事だと言える。

 改稿ついでにタイトルについて解説すると、○○学会という時折見かけるネタを、重厚でもやってみたかったのでそれにあやかってつけられたものだ。
 つまりこの記事は重厚学会の学会誌、あるいは教科書か何かをイメージしていたのである。だとすると分量少なすぎじゃないか?
 色々と、書き上げたことや元の文に言いたいことはまだあるが、長々と書いてしまうと本文のどの項目よりも長くなってしまうので、ここで終わりとしたい。
 願わくば、この記事によって、MTG重厚学会の会員が増えることを祈っている。

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