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【まるでドクターストーン】過酷な環境にも耐えうる芽胞の微細構造

もし、いかなる環境でもしなない無敵の生命体がいるとしたらどんな形でしょうか?

当然、そんなSF映画のような生き物は存在しませんが、実は私たちの身近なところに熱、乾燥、紫外線、圧力、化学薬品すべてに耐えられる生き物の形があります。

生き物の形と表現したのは、それが特定の生き物を指すわけではないからです。一部の細菌類が自らを究極の防御体制にする芽胞と呼ばれる状態はまさにあらゆる環境に対して高度な耐性を持っています。

以前、カレーで食中毒を起こす原因としてウェルシュ菌と芽胞の関係について紹介しましたね。

今回はもう少し踏み込んで芽胞という形態がどのような構造を持っているのか?いかにして過酷な環境から身を守っているのかについて見ていきたいと思います。

そもそも芽胞って何?という方は過去の記事をご覧ください。

一言で芽胞を表現するならば、細菌にとってある種の休眠状態と言えるでしょう。普通に活動している最近は栄養型と呼ばれ60~70%を水分が占めています。一方で芽胞になると水分量が極端に減り30%程度になります。活動を停止して、再び自身が活動できる環境が訪れるまで、長いこと待つことになるんですね。


さて、芽胞について簡単にわかったところで、芽胞の微細構造について紹介していきましょう。

芽胞の微細構造

芽胞は大きく分けて3つの領域でできています。外側から芽胞殻、コルテックス、コアと呼ばれます。ここでは、それぞれの領域について具体的に見ていきます。

https://nutrition.nuas.ac.jp/tips/000037.htmlより引用

芽胞殻

細菌にとって厄介な敵と言えば自らを分解しようとする化学物質、つまり酵素です。芽胞は薬品耐性が強く、当然酵素に対しても非常に高い耐性を持っています。その重要な役割を果たすのが外側に位置する芽胞殻です。

芽胞殻は容積・重量ともに芽胞全体の約50%を占め、分厚い防御層としての役割を果たします。主にシステインの含有量の多いケラチン用結晶性タンパク質という状態です。

この芽胞殻はさらに外層と内層に分けられます。

外層は分解酵素の1つであるプロナーゼに対する抵抗性を示します。

それに対して、内層はラメラ構造という層状の構造を持っており、その間をアルカリ可溶な物質で充填されています。層の間を充填しているこの物質はなんだかよくわからないですが、細胞へ気を加水分解する酵素リゾチームから芽胞を守るバリアとなります。

このように芽胞殻の2段階の防御態勢により、芽胞のコアは守られるようですね。

コルテックス

次に芽胞殻とコアの間に位置するコルテックスについて見てみましょう。コルテックスの情報は少なかったですが、こちらも数層の層状構造を持つようです。

化学的な成分としてはペプチドグリカンという物質でできています。このペプチドグリカンとは、最近の細胞壁にあるペプチドと糖からなる高分子化合物の一種だそうです。

芽胞は内部のコアを守るため脱水状態になっていますが、コルテックスはこの脱水機構に重要な役割を果たしていると考えられています。

コア

最後に、細菌を復活させるための情報が含まれているコアについてです。コアにはDNA、RNA、リボソーム、酵素タンパク質などが存在しています。まさに細菌を休眠状態から呼び起こし再度増殖するための情報が眠っています。

さらに、コアにはカルシウムイオンやDPAが多く、これらの物質が細胞内リガンドとともにガラス状、ゲル状、または結晶状態で存在しています、そしてこれらが脱水状態にあるコア内部のタンパク質を保護すると考えられているそうです。

最後に

今回は細胞の究極の防御形態である芽胞の構造について紹介しました。

人間からしてみると驚きの能力ですが、一部の細菌にはこのような驚きの能力が備わっているようです。正直、食中毒などを考えると細菌の増殖はやめてほしいですが、生き物の保存方法や薬品への高い耐性の応用というのは人間からしても非常に勉強になるのではないかと思いますね。

個人的には、ドクターストーンの石化のようだなと思いました。トップ画はドクターストーンから引用

参考文献

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kenbikyo1950/23/1/23_1_9/_pdf

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsb1944/37/5/37_5_829/_pdf/-char/ja


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