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【最終回コラーゲンの世界】コラーゲンと医療の未来~ドライアイから遺伝子研究まで~

ついにコラーゲンの世界も最終回となりました。

これまでコラーゲンを食べるたり塗ったりすると健康にはよさそうだという話をしてきましたが、医療となるとさらにセンシティブな話になります。

薬と毒は紙一重とも呼ばれるように、私たちの体に直接働きかける医薬品という観点から考えると、その安全性がとても重要視され、そんなに簡単には一般に普及しません。

そして、実際にコラーゲンが薬として使われるということは内容です。

それではどうしてコラーゲンが医療と関係してくるのでしょうか?

今回はそんなこれからの未来を作るコラーゲンと医療の関係について紹介したいと思います。

医療におけるコラーゲンの未来

コラーゲンの利用方法としては大きく分けて2つの方向があります。

1つは、その優れた物質的特性を利用した医療部材への応用です。過去回でコラーゲンがもつ多種多様な能力を紹介しましたよね。分子量によって溶ける温度を制御したり、粘度を適切に調整したり、いろんな形に成型したりなどなど…

この能力は材料としてはとても重宝します。なおかつ、体に入れても安全な素材というのも大きいですよね。この食べても安全なコラーゲンを使って薬を封入するカプセルや後に紹介する止血シートなどに応用されています。

もう1つの応用先は、もっと複雑な遺伝子研究についてです。近年の遺伝子解析技術によりコラーゲンのα鎖の遺伝子本体の欠陥やコラーゲンに関係する酵素の遺伝子の欠陥が病気に関係していることがわかってきました。

聞いたことがありそうな例でいえば、筋ジストロフィー症の一部や骨形成不全症などです。しかも、この手のコラーゲンに関係した遺伝子疾患は数多くあり、その発症率は5000人に1人というのは驚きです。

複雑な遺伝子の研究をするために、ノックアウトマウスと呼ばれるコラーゲン関連遺伝子を改変したマウスを作り、そのマウスで実験することで遺伝子がいったいどんな影響を与えているのか調べています。

このような医学・生物学的な研究によりわかったメカニズムをもとに、私たち人間の体の謎を解き明かしていくということですね。

さて、ここからはコラーゲンの具体的な応用例をサクサクと紹介していこうと思います。

具体的な応用例

まずわかりやすいのが止血剤です。手術の際に大量の出血を防ぐために使われる止血シートには体が拒絶反応を示しにくいアテロコラーゲンを繊維状にして使います。このシートは血小板の粘着や凝集を促し高い止血効果を発揮することができるという優れものです。

末梢神経の再生にもコラーゲンは有用です。コラーゲンでできたチューブで神経をつなぐと、そこで神経の再生を促すことができます。コラーゲンは体にとっても害はなく、コラーゲンチューブは治癒後に分解されて体に吸収されます。つまり後から回収する必要もないわけですね。

心臓の機能が悪くなると、人工心臓を入れたり、最終的には心臓移植が必要だったりします。最近この心臓病に対して有効な解決策として、細胞シートと呼ばれるものが開発されています。

細胞シートとはその名の通り本人の体から採った細胞を培養して作り出されるシートのことで、このシートを心臓に何枚か貼ると、心臓の機能が復活するというすごい技術です。

その細胞シートを作製する際には、細胞培養という過程が必須なんですが、これが難しいんです…そこで使われるのが高純度のコラーゲンです。コラーゲンは細胞を増やすための重要な足場として働きます。

大掛かりな手術の必要な医療だけではありません。私たちの生活の中で関係がありそうな病気がドライアイです。ドライアイって目が乾くだけじゃないの?と思われるかと思いますが、実はそうではないようです。

ドライアイは涙の成分バランスが崩れたり、涙の量が不足すると生じます。涙が目にいきわたらなくなることで、目が乾燥してしまうのです。それではこの状態をどのようにしてコラーゲンで解決するのでしょうか?

コラーゲンは涙を排出する涙点と呼ばれる涙の出口に栓をします。お風呂のお湯が流れるのを防ぐために栓をするようなイメージです。コラーゲンを使った治療薬は体温によりゲル化して涙の出口をふさぎます。それにより涙が眼球の表面にとどまりドライアイを防げるんです。

引用元

もちろんコラーゲンは体に害を及ぼしにくいので、時間とともに分解。排出されていきます。このように見るとコラーゲンの物質としての面白いさがそのまま医療に用いられているという感じがしますよね。

他にも、コラーゲンは歯周組織の再生用材料として使われたり、寝たきり患者の床ずれの予防などにも効果的だったりと非常に幅広い領域での活躍が期待されます。

最後に

これまで全11回でお送りしてきたコラーゲンの世界もこれにていったん終了となります。

コラーゲンのミクロな形から、人類がこれまで利用してきたコラーゲンの歴史、そして近年の健康や医療といった幅広いテーマをいっしょに見ていきました。

この連載で紹介したのはあくまでコラーゲンの基礎であり、世の中の学術研究を見渡せばもっと奥深い不思議なコラーゲンの世界があるはずです。

今後も、面白い科学の話があったら随時紹介していこうと思います。

参考文献


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