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Human|編集者を目指すきっかけになった雑誌《SIGHT》(自己紹介テンプレ③)

文章力アップ自主トレメニュー」を、何人かの方に読んでいただいて、さらに実際に書き始められた方もいらして、「書くこと」で自分自身を見つめ直したいという方が踏み出す一歩を踏み出すきっかけになったのは、単純にうれしいことです。

今週も書き始めてくれた方がいました。日本料理の三ツ星店に勤めてる佐藤匠さんです。

今回は、自主トレメニューの3回目にあたる好きな店紹介です。

《SIGHT》の姿勢が、未だに僕のなかにある

東京都内で「MAGARI」という屋号で編集者をしている江六前一郎です。本名です(笑)。たまに前一郎さんと言われますが、「えろくまえ」までが苗字で、「いちろう」が名前です。コロナ禍のなかで5月からフリー編集者になりました。

noteは長くやっているのですが、この機会に改めて自己発信をしていきたいと思います。第3回目は、僕が編集者を目指すきっかけになった雑誌《SIGHT》について書いてみたいと思います。

1977年生まれの僕にとって、10代から20代前半を過ごした、1990年代は、雑誌ブームの時代でした。1960〜80年代のブリテイッシュロックを聴いて、バンドでギターを弾いていた僕にとって、音楽雑誌を通じて、その雑誌ブームの熱気を感じていました。

当時は、CDセールスが好調な時代。ミリオンセラーなどが年に何度も出ていて、レンタルCDとかリユースCD、CDウォークマンなど、音楽産業の変革期にありました。ロッキング・オンが《ロッキング・オン》《ロッキング・オン・ジャパン》といったメイン雑誌だけでなく、新雑誌の創刊、フェス事業の展開など、音楽雑誌というマイナーな専門誌のジャンルから、音楽を扱うメジャーブランドへと変貌を遂げた時期でした。

H》、《bridge》(ともに1994年創刊)、《BUZZ》(1997年創刊)といった雑誌が次々に創刊するなか、僕が当時欠かさず読んでいたのが、《SIGHT》(1999年創刊)でした。

音楽誌には、「流行を追う」という宿命があり、どうしても新作を発表したアーティストの特集が主流で、そうすると結局、どの雑誌も同じ人を扱っている感じがして、定期購読をするよりも、取り上げている人に興味があるか、という基準で買うような感じでした(若いからお金もないし)。

そんなときに《SIGHT》は、ロッキング・オンを創業した編集者、渋谷陽一さんが編集をするというフレコミで創刊しました。扱うのは流行のアーティストでなく、1960〜70年くらいのロック、そして映画やアートを含むカルチャー全般の総合誌でした。

もともと、ロッキング・オンと言えば、1万字インタビューなど、読み応えのある記事が定評ありましたが、《SIGHT》では、それがさらに推し進められて、ロック、もしくはロック的な、ポップカルチャーの視点で、時代を捉え直そうという画期的なテーマを持っていました。

20代前半の僕にとっては、このロックをインテリ、文化的に捉えようとする《SIGHT》の視点がメチャメチャかっこ良く映りました。とくに創刊第3号だったと思うのですが、ローリング・ストーンズのキース・リチャーズがタバコをくわえてこちらを見る写真に「老いてこそロック」という特集タイトルが入った表紙の号は、本当に何度も読み返したものでした(しかもまだ持ってる)。

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バンド活動をやめて、編集者になりたいと思ったときに、「キース・リチャーズにインタビューをしたい」というミーハーな部分もありましたが、「ロックの教科書をいつか作りたい」と考えていたのは、たぶん《SIGHT》の影響だっただと、今思い返すと改めて感じます。

《SIGHT》が現行する同時代的で評価しづらいものを、カルチャーとして定義したい、という姿勢は、その後、僕の編集姿勢にずっと受け継がれているように思います。

たとえば、料理のことについても、モダンクイジーヌ(現代料理)や、現在の食の評価メディア(ミシュランや世界のベストレストラン50、食べログなど)を料理の視点から近代史と関連づけてまとめていきたいと常に考えているのは、あきらかに《SIGHT》の影響だと思います。

また、このnote自体も、料理や美術に特化するのではなく、音楽を入れて、より実際感のあるものにしたのも、料理史や絵画史、音楽史をやりたいのではなく、僕たちが生きる時代をどう歴史に結びつけていくかということへの創作だと僕は思っていて。これもまさに《SIGHT》から得た姿勢だと思っています。

《SIGHT》は、その後、判型が小さくなった頃から渋谷さんの個人の言論誌のようになってしまって読まなくなってしまったんですが、創刊から2、3年の《SIGHT》を同時代に読めて本当にラッキーだったな、と思っています。

就職は、もちろん音楽誌の編集を目指していたのですが、願いは叶わず、編集プロダクションに入社したというのは、またいずれ書ければと思います。

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自主トレメニューにあった、好きなお店のことを書いてみる、を編集者バージョンで書いてみました。

編集者になるきっかけだけでなく、自分の美意識だったり、作り出すものへの視点について決定的に影響を受けた雑誌の紹介しています。もし飲食店の方に置き換えるなら、たとえばフランス料理に憧れていても、グランメゾンなのか、ビストロなのか、それとも地方のレストランなのか、因数分解していくと、100人いれば100通りの影響を受けた瞬間があると思います。

そうした瞬間をできるだけ丁寧に書きながら、その時の得たものが、今の自分の根底に流れているということに繋げられると、あなたがいま何を大事にして飲食店で働いているのかという人物像までも、単なる紹介エピソードだけでなく、読者に伝えることができると思います。

僕も、今回《SIGHT》のことを思い出してみて、かなり今の自分の編集者としてのスタイルに影響を受けていることを改めて感じました。

こうした、自分でも思いもよらない発見が流のも、書く楽しみの一つです。ぜひチャレンジしてみてください!

料理人付き編集者の活動などにご賛同いただけたら、サポートいただけるとうれしいです!