襟瀬かな

日常。

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最近の記事

36色入りの色鉛筆

職場の利用者様と塗り絵をしたら、思いのほか楽しくて驚いた。それに、集中しすぎて頭の中が凪になる。塗り絵には私を心地良い時の中へと引っ張り込む威力があると気付いた。 それからというもの私は、手が空いた少しの時間でも利用者様と一緒に色鉛筆を手にするようになった。 「ここは何色でぬればいいんかね?」 花の塗り絵に取り組む利用者様に、 「好きな色でいいと思いますよ」 と応えた。それでも「わからない…」と困っている様子だったので、私は赤の色鉛筆を差し出した。 毎回彼女は丁寧

    • 100パーセントの事実

      ゴールデンウィークは実家で過ごした。 静まり返った夜中、突然ガタガタと神棚が揺れ出した。 実家の仏間で息子と娘と川の字になって床につき、しばらくしてからの事だった。 夢なのか現実なのか、神棚は怒り狂ったように揺れている。 私はそれを夢うつつで聞きながら違和感を覚えた。 地震にしては、私の身体は少しも揺れてはいない。 しばらくガタガタしたかと思うと、私の頭近くにドス! と何かが落ちてきた。 私はひどく驚き、布団から身を起こした。 左横を見ると、スマホゲームをしていた息子が唖

      • しらす召喚

        娘が、「鼻をフン! とやったらこんなん出てきた!」 と言って見せてきた。 鼻から出たにしては大きすぎる物体だった。 軟骨のような細い塊がティシュの中にあり、私はひどく驚いた。 スッキリしたと言う娘の顔は清々しい。 しかし私は、こんな大きな塊が鼻から出てくる非現実っぷりに心の臓が高鳴った。 私はオエオエ言いながらそれを観察してみた。 訳の分からない物体は鼻クソだろうと決めつけてゴミ箱に捨て去るだけなら簡単だ。 しかし私の心が納得しなかった。 これは別パラレルから転送された

        • アサリさん

          スーパーでアサリを買い、砂抜きをしていて困ってしまった。 塩分濃度は3パーセント。 バットにアサリを入れ、ひたひたの塩水を入れる。しばらくすると貝からは本体がにょきにょきと飛び出してきた。 カタツムリに似ている。 いくつかの個体が目を出すかのようににょきにょきと飛び出してきて、一番活きのいい個体がピュっと塩水を吐き出してきた。 同じアサリでも個体によっては貝の柄も大きさも色も違う。個性があるんだと思った。 冷凍物のあさりの貝は全て色も柄も区別できないほどに揃っていたの

        36色入りの色鉛筆

          カラスの友達リスト

          最近カラスを近くで見る機会が多い。 毎朝職場の秘密基地のベンチに腰掛け、スマホを触りながら、就業10分前まで時間を潰す。 それから厨房の外壁とフェンスの間の細い道を歩いて職員玄関へと向かうのだ。 その時、大抵カラスが通り道に止まっている。 毎朝カラスは私の姿を確認すると、とても親切にフェンスへと退いて私に道を譲ってくれるのだ。 今日はそんなカラスが二羽もいて、私は嬉しいような怖いような、そんな気分で彼らの前をゆっくりと歩いた。今日こそはじっくりと彼らを見てやろうと決心し

          カラスの友達リスト

          オールシーズンあなたの事を考えた

          ここ一年、カメムシとの遭遇が半端なかった。 人類とカメムシ、どちらの数が多いのか、同等か、それともカメムシか。カメムシの方なんじゃないのか? 地球はカメムシに乗っ取られようとしてるんじゃないのかと思わせるほど、私たち人間の豊かな生活を侵略してきた一年だった。 つまり、洗濯物がヤツらが苦手な寒い冬でも外に干せなかった事に私は憤りを覚えるのだ。 春夏秋冬。 カメムシ、夏と冬ぐらい私に安心させて洗濯物を外に干させてよ。そうやって私たち、互いを敬って同じ地球上で共存してきたじゃ

          オールシーズンあなたの事を考えた

          米と乾電池と私

          夕飯作るか……。と、ガスコンロに鍋を置き火をつけようとしたが、火がつかなかった。 点火用の乾電池があるところに電池切れのランプが赤く点灯している。そんなの数日前から知っていたが放置していた。 私は乾電池を引き出し、『まだ行けるでしょ?』と心の中で呟き、単一乾電池二つをコロコロと転がして再セットした。それから点火をすれば火がつくことは承知していたからだ。 時計だってそうだ。力尽きていると思わせて、単三乾電池をコロコロとすれば数日は動き続ける。まるで尻を叩かれて最後の力を振り絞る

          米と乾電池と私

          食べ頃のアイスクリーム

          冷凍庫の中に私のアイスがあるはずだった。 一箱6個入りで、一人2個の分け前で食べられるカップ形のチョコチップ入りバニラアイスだ。しかし、探せど私のアイスは見つからない。 「誰か私のアイス食べた?」 子供たちに問うと、娘は首を横に振り、息子はパソコンを触る手を止めた。 「オレが食べた。ゴメン」 私はその言葉に驚かずにはいられなかった。 私の分け前は二つも残っていたはずなのだ。確かに長い間食べるタイミングを逃しここまで来たけれど、まさに今が食べようというその時だったの

          食べ頃のアイスクリーム

          南天の実と鳥のいない空

          最近鳥の姿を見かけなくなったと同僚が言った。 南天の実を食べる鳥がいないから、今年は珍しく実が残っている……と。 意識を向ければ確かにそうだと気がついた。 いつでもそこに居るはずの、ふてぶてしくゴミ袋を漁るカラスすら見かけない。それに、南天の実の赤色がやけに印象に残った。 気にし始めたら鳥のいない空が寂しく思えた。 かくれんぼの鬼をいつまでも続けさせられているような不安が付き纏う。それが何日か続くと、いよいよ私は別パラレルに飛ばされてしまったのかもしれないと、厨二病的思考

          南天の実と鳥のいない空

          髪型一つで世界が変わる

          例えばコケシ物語とかいうアニメがあったとして、それを実写化されたなら、私は脇役で出演できるほどにコケシなのかもしれない……。と、自分を疑った。 『んふんふ』とでも呟けば、なめこでも行けそうだ。 そう思い始めたら、私は自分の髪型に疑問を抱かずにはいられなくなってしまった。 製作者の美容師さんが悪いのでは無い。 このボブヘアーはとても手入れが楽で忙しい朝は大変感謝している。 けれども私の毛量が多すぎて、実力以上に頭がデカくなり濡れ衣を着させられた気分になるのだ。さらに洗い流

          髪型一つで世界が変わる

          いつか消えるもの

          左の唇の端が切れている。 去年から治っては切れてを繰り返していたが、年末に再び現れたそれは未だにそこにいるから、もはや私の一部のようになっていた。 口角炎と言うやつらしい。 大して気にするものでもないが、夕方欠伸をするとピリッと痛みが走った。思わず「痛い!」と声が出たほどだ。 鏡を見れば、午前には無かったはずの右側の唇の端までもが赤く裂けている。 左側の口角炎は、右側にも仲間を引き連れてきたというわけだ。 それにしてもこんなにも短時間で口角炎が現れるとは、私は午前にど

          いつか消えるもの

          寝具に歓迎されない日

          木曜日が好きじゃない。 土日が休日の私は、木曜には既に一週間分の疲れが蓄積し、明日は休みだと錯覚するほどだ。けれども明日は金曜日で出勤せねばならない。 その現実を突き付けられる木曜日がとても嫌いだ。 朝から『今日は9時に寝る!』を目標にし、晩酌もそこそこに床へと入った。 目標達成の9時だった。 ところが、いつも快適に寝られているはずの寝具が硬く感じた。木の上に寝てるのかというほどに身体が痛い。枕までもが誰かがすり替えたのかと疑うほどに高さがしっくりと来なかった。 おかし

          寝具に歓迎されない日

          美しい夕日を見た時

          最近外出する際、「行くぜよ!」と言ってしまう。 何かをし始める時は、「やるぜよ!」だ。 豆腐を買えば、「揚げ出し豆腐を作るぜよ!」となる。 とにかく「ぜよ!」を言いたくてたまらなくなってしまった。 なぜ故にそうなったのか。 ドラマの「JIN-仁- 」の影響だ。 私は最近、ドラマ鑑賞にハマっている。 テレビ番組は観ないしアンテナ線も繋いではいないが、「テレビ」という電化製品は、テザリングで映像を映し出すスクリーンとして置いてあるのだ。 今年はマッコト沢山のドラマを観た。

          美しい夕日を見た時

          直樹さん宅は素晴らしい

          今更になって私、半沢直樹を観ている。 いつか観ようとは思っていたが、視聴に至るまでに随分と時が流れてしまった。 なぜ今更なのか。 それはリアルタイムで放送されていた頃、世間の皆が面白いと騒げば騒ぐほど流行りになんて乗るものかといった天邪鬼な私が邪魔をしたからだ。それに、直樹さんは小難しい人という偏見もあった。とても私とは住む世界が違いすぎる……。 例えば、竪穴式住居に住む私が高級住宅街のお宅に訪問するほどに敷居が高すぎて、友人からのオススメも聞き流し、観ることなくここまで

          直樹さん宅は素晴らしい

          来年のカレンダー

          今年はもう残すとこあと二日。 この前職場のユニットの出入口にうさぎの置物を飾ってから半年ほどの体感なのに、早くもうさぎは時代遅れの置物となってしまうようだ。 すぐそこに辰が待機してるよな。と思って、慌ててうさぎを撤去し、龍の飾りを展示しておいた。 速い。その速さは年を越す毎に加速しているように思える。例えばマラソン大会でグラウンドを走る私は先頭を走っていると思いきや、実際は一週遅れで走っていたような違和感だ。 YouTubeの動画再生を1.5倍速にするみたいなスイッチを誰か

          来年のカレンダー

          今年のクリスマス

          クリスマスにケーキを作る行為。 特に誰にも求められてはいないし、作るの面倒だなって思う。だけど買うより作る方が断然安いし、作り始めてしまえば出来上がりまでの道のりはテンション上がってくる。子供達も自然と手伝いに来て、レシピとにらめっこしながら完成した時の、あの写真撮影の時間……。 面倒くさがりの私でも、作ってよかったって思えた。 達成感がすごくて、今ある私の実力以上のケーキの出来栄えにほくそ笑んでいたのは、去年までのこと……。 今年は心底ケーキを作るのが面倒に思えた。 だ

          今年のクリスマス