見出し画像

十勝チーズの魅力

十勝といえば、国内で生産されるナチュラルチーズの3分の2がつくられているチーズ王国。あるチーズ教室のオンラインセミナーで、十勝で作られた7つのチーズを食べる機会がありました。どれもとても美味しかったので、備忘録のつもりで印象を書いていこうと思います。

①十勝野フロマージュ「ベル・ネージュ」
フランス語で「美しい雪」の名の通り、真っ白でふわふわな白カビチーズ。フランスのチーズ「ブリアサバラン」みたい。口溶けはとってもなめらかで、とにかく優しくて。心地よい酸味があるので、軽めのスパークリングワインと合わせるのが良いかも。外が明るいうちから、やってみたい組み合わせ笑。

この工房を始めた赤部さんは、元サラリーマン。森永乳業に入社して40年、十勝工場で練乳や粉乳の製造にかかわっていた赤部さんに、54歳の時、転期が訪れます。町の名物になるようなチーズを作ろうというプロジェクトが立ち上がり、定年前に何か新しいことをやりたい!と思っていた赤部さんは開発担当者としてこのプロジェクトに手を挙げます。その後自費でフランスに研修に行ったりと独学でチーズを学び、その甲斐もあってプロジェクトは見事成功。赤部さんは定年でチーズづくりを終えるのが惜しくなり、2020年に独立。この工房をオープンするのです。その時、赤部さんは60歳。第二の人生は見事花開き、今に至るわけです。人生、何歳からだってチャンスができるし、それまで積み重ねてきた経験や信用があるからこそですよね。味わいはもちろん、その物語を知ったら、さらに勇気をもらえた気がしました。

②NEEDS「大地のほっぺ」
NEEDSはチーズコンクール常連の工房なので、チーズ好きなら一度は食べたことのあるかもしれないチーズ。ミルクのお餅をイメージしてつくられたという「大地のほっぺ」は、その名の通り、もっちりした弾力が魅力のチーズ。最初はあっさり、後口まろやか。フランスのチーズで言うと、サヴォワ地方のセミハードチーズ「ルブロション」に似た感じ。ワインはなんだろうな。少しコクのある白ワインとかオレンジワインとか、合いそうですよね。

調べてみたら、NEEDSは120年の歴史があると言うこと。120年前ということは1900年! そんな昔からチーズづくりをしていたなんて、十勝の奥深さを感じます。そして近年は、この地のチーズ作りを後に出てくる協働学舎とともに引っ張ってきた存在です。昨年公開された菅田将暉主演の「糸」の舞台となったチーズ工房としても話題になりましたね。

③半田ファーム「チモシー」
ここはHPやパンフレットがとてもオシャレ。乳牛は自由に動き回れるような環境づくりにとこどん拘ったチーズは、牧草の名前がつけられています。塩水で洗ったウォッシュタイプですが、臭みは全くなくミルクの香りを爽やかに感じるマイルドなチーズでした。

こちらのつくり手さんは、とても個性豊かでいい意味で「Going my way」を行く方らしく。お会いしてみたくなりました。十勝には40もの工房があるので、チーズもそうですが、つくり手さんもいろんな個性があって当然。十勝というテロワールのもと、さまざまなタイプのチーズが生まれるのは、やはりテロワールの生かし方がそれぞれだからということ。ワインと同じく、やはり「人」ありきです。こちらの「チモシー」には十勝ワインの絞りかすをまぶして熟成したタイプもあり、今度池田町の赤ワインと一緒に試してみたいです。

④キサラファーム「トゥレプ」
十勝千年の森というアートから食を通じて自然を体感できる大きな庭園の中にある工房です。山羊と牛両方を放牧していて、トゥレプは牛乳80%、山羊乳20%でつくられたセミハードチーズ。旨味爆弾と思えるくらい、両方の乳の個性のいいとこ取りをしたチーズでした。セミハードだけど歯応えを感じる適度な硬さ、香りは牛の甘いミルクの香り、味わいには山羊乳を感じる微かな酸味。後味に塩キャラメルのようなニュアンスも。複雑で旨いなあ、としみじみ。もう一度食べたい!って思えるチーズでした。ワインは北海道産のピノ・ノワールを合わせたいですね。

⑤広内エゾリスの谷チーズ社「コバン」
小判型をしたチーズ「コバン」といえば、協働学舎の看板チーズと思っていたら、実は協働学舎を卒業したチーズ職人が独立して昨年2020年春に始まったばかりの工房で、この「コバン」も商品ブランドごと引き継いだのだそうです。なんて素敵な暖簾分けなのでしょう。

そしてまた、新生「コバン」を食べてびっくり。めちゃくちゃトロリ。クリーミーで、誰もが笑顔になれちゃうようなチーズに進化してました。これは今後が楽しみですねえ。お酒に合わせるより、そのままこの味に集中して楽しみたいって思わせるチーズでした。歴史ある工房とこういった新しい工房が両方存在していること、そのふたつが手を取り合って切磋琢磨していることが、十勝の魅力ですね。

⑥協働学舎新得農場「レラ・へ・ミンタル」
十勝、いや日本を代表するチーズ工房と言っても過言はないと思います。
アイヌ語で「レラ」は風、「ミンタル」は遊び場。その名の通り、十勝に流れる風のような爽やかなチーズです。

こちらの代表の宮嶋望さんは、日本チーズ界のレジェンド的存在です。1978年から約40年超、社会生活に悩みを抱える若者も受け入れ、みんなで協力してチーズをつくり上げる精神と愛情たっぷりのチーズたちは、チーズファンを虜にし続けています。

そして私にとっても、協働学舎新得農場は、チーズの魅力を教えていただいた思い出深い工房です。

今から20年以上前、ここでモッツァレラチーズチーズづくり体験をしました。牛たちがいかにストレスなく暮らせるか。そのこだわりを伺い、製造過程を一つ一つ教えてもらいながら、実際にチーズづくりを体験し、出来立てほやほやのモッツアレラチーズを食べた時の感動は今でも忘れられません。

なぜチーズづくりをするのか。チーズづくり体験をしながら、宮嶋さんにお聞きしたことが心に残っています。

「せっかく美味しい牛乳も飲んでくれる人がいなければ無駄になってしまう。需要と供給のバランスはとても難しい。酪農が盛んなこの土地が抱える課題を解決したかった。この土地の風土から、美味しいチーズができることは間違いない。牛たちがのびのびと育って、その乳の美味しさを存分に引き出してあげて、長期に渡って味わえるチーズにする。これが解決策だと信じて進んできた。」

それから20年あまり。その間にも、宮嶋さんはたくさんの研修生を受け入れ続け、ここで学んだ造り手たちが、今全国で美味しいチーズを生み出しています。彼らのチーズたちを楽しむこともファンとしての楽しみです。

⑦十勝プライド「十勝ラクレット モールウォッシュ」
最後にご紹介するのは、十勝川温泉の「モール泉」で熟成させたチーズ。このモール泉は肌に吸い付くような植物性の優しい泉質で、ずいぶん前にこの温泉に入った時、肌がすべすべになって驚いたのを思い出しました。この植物由来の温泉水には、チーズの発酵を助ける成分が豊富に含まれているらしく。芳醇な香りと味わい、優しい後口の魅力的なチーズでした。

十勝プライドは、2015年に発足した協同組合。「十勝産のチーズを世界ブランドへ」という目標を掲げて、7つのチーズ工房が連携。モールウォッシュは、ラクレットの統一ブランドとして開発したチーズでした。

共同で熟成庫を持ったり、管理をまとめてすることで生産効率を上げ、産地みんなで一緒にブランドを作っていくという思想。とても素敵ですよね。

コロナが落ち着いた時には、現地に行ってチーズやその景色を楽しみたいですね。今は将来の楽しみを貯めておく時。それまでは、チーズを食べて応援! です。

※ご紹介したチーズは、北海道アンテナショップ「どさんこプラザ」で購入可能です!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?