記事に「#ネタバレ」タグがついています
記事の中で映画、ゲーム、漫画などのネタバレが含まれているかもしれません。気になるかたは注意してお読みください。
見出し画像

『乙女理論とその後の周辺 -Belle Epoque-』 総括感想

☆シナリオ(33/50)

☆キャラ(35/40)

☆その他(7/10)

☆総括(75/100)

 プレイ時間は約15時間。エッテアナザーが何よりの目玉であり、前作『乙女理論とその周辺』のりそな、メリル√と比べても全く遜色ありません。良く出来ていますし、納得感があります。りそな、メリルアフターも収録され、前作が好きな方にとっては間違いなく満足できる内容です。一方、このレベルのシナリオを前作時点で用意出来なかった点、何よりこの程度の尺のシナリオをフルプライスとして提供している点は明確にメーカー側の落ち度であると私は考えます。そこを容認出来るかの違いでしょう。


〈注意 この先ネタバレを含みます〉



☆作品紹介

 前作『乙女理論とその周辺』(以下『乙りろ』)発売から約3年の時を経て、ついに『乙りろ』のFDが発売します。それが本作『その後の周辺』です。私は前作『乙りろ』に対してはかなり言いたいことがあります。しかし、その上で点数としては78点という最大級の評価をしています。詳しくは『乙りろ』の評価記事を読んでいただくとして、本作です。   
 私は前作のりそな、メリル√を高く評価します。りそな、メリル√においては大蔵一族の複雑さ、一族間の不和をテーマにしながら一定水準以上の解決に誘導出来ています。特にりそな√は凄まじい完成度でまとまっており、その完成度は『月に寄りそう乙女の作法』のルナ√にも見劣りしなかったのです。その点は本当に評価点でした。
 一方、前作には致命的な弱点があります。その最たる例がエッテ√です。はっきり言います。エッテ√があるからこそ私は『乙りろ』に80点以上の点数を点けていません。理由は明確で、エッテというせっかく魅力的、かつフルプライスで描き切れるであろう尺が余っているにも関わらず、そのシナリオがあまりにもおざなりでした。これは本当に由々しき事態であるとともに、制作陣側に何らかの事情があったとしか思えません。予算の関係もあるでしょう。その点、本作はエッテアナザーというシナリオを用意していると噂では聞いていました。本作を本当に楽しみにしていましたし、全力でプレイしました。

☆シナリオ(33/50)

 作品としての総合力か、商品としての集客力か。

〇全体構成にまずツッコミたい

 本作をクリアしてまず思った感想は「え、もう終わり?」です。正直、尺に関してはフルプライスであるのに極めて不足しています。まずはそこを商品として批判します。内容も下記に記述する「エッテアナザー、アフター」、「りそなアフター」、「メリルアフター」の計4シナリオなのですが、それがまた短い。エッテアナザーは流石に長い尺を用意していましたが、それ以外は2時間が良いところです。もう少し他サブヒロイン(ディートリンデ、リリアーヌ等)を掘り下げるシナリオを用意する、全シナリオの分量を増やす等やりようはいくらでもあります。しかし、その努力する姿勢を本作では全くと言ってよいほど感じません。
 何より言いたいのは前作『乙りろ』のエッテが可哀そう過ぎるという点です。本作の存在は前作『乙りろ』の失敗を認めていることになります。私は商品として作品を世に出す以上、相応の責任をメーカー側に負ってもらいたいと考える人間です。前作『乙りろ』のエッテ√にも責任を持って欲しかったとともに、その改善という形で本作をリリースすること自体、前作と、それをプレイしたプレイヤーに失礼というものだと強く感じます。

〇作品としてのシナリオ総合力は極めて高い

 ではシナリオ自体はどうだったのかと言うと、完成度はかなり高いと言えます。相変わらず文章は2024年現在では正直時代に即していないながら、非常に情緒が深く、かつユーモアに富んだ大変分かりやすいシナリオです。私はソシャゲにはそこまで詳しくありません。しかし、現代の主流がソシャゲのような短文を書き連ねるタイプのテキストだとしても、私は本作のように趣深い、重いテキストを読んでいくプレイヤーでありたいと考えます。
 そして、肝心の中身なのですが、これがまた素晴らしい。特にアンソニー、エッテの掘り下げがほぼ完璧なのが大きいです。特にアンソニーの掘り下げは前作で出来ていなかった点にして大蔵家回りの不足点でもありました。そこを理解した上で、エッテとともに救済したのは流石、ライターさんの実力を感じましたよ。また、前作『乙りろ』感想で触れていなかったのですが、リリアーヌと華花に対して多少なりとも(本当に多少でしたが)掘り下げ、補完があったのも大きかったです。強力で納得感がある作品はFDであろうと、補完、補足を忘れません。本作も心意気は一流以上です。この点、並びに文章を時代に合わせようとせず、自己流を貫こうとする姿勢は尊敬するところでありますし、積極的に評価していきたいところです。

 続いて、各シナリオごとに見ていきます。

〇エッテアナザー、アフター

 上記でも触れましたが、本作の核にして、最重要要素です。基本的には良く出来ていると言えます。特に最後のウォーキングからの家族投票に干渉するシーンは説得力があります。ここまでのエッテの覚悟、遊星の優しさが終着した、まさにハッピーエンドです。エッテもヒロインとして、一学生として、モデルとして成長しています。そこが、私が『乙りろ』で見たかった場面ですので、本当に嬉しかったですね。
 アンソニーの掘り下げも、まさかエッテアナザーでやってくれるとは思いませんでしたね。しかし、思い返せば納得します。駿河という憧れにどうにか近付きたい、役に立ちたいという欲求は、ある意味エッテのメリルに対する感情と重なる部分があるでしょう。アンソニーとエッテが物語上で密接に関わることは実際のところ、そんなにありませんでしたが、アンソニーがエッテアナザーで関わってくるのには納得感があります。アンソニーは結局のところ、駿河という絶対的な存在に怯えていただけで、そんな自分では駿河の信頼までは絶対に得られないという理解があった。そこが分かっていたからこそ、アンソニーなりに努力した結果がエッテアナザーなのです。
 総合的に見て、『乙りろ』のりそな、メリル√と比較しても遜色ない出来になっていると感じます。一方、りそな、メリル√の関係性はあくまでも鼎立的と言えます。逆に言えば、エッテアナザーの完成度はそのまま『乙りろ』のりそな√(と厳密にはメリル√も)の影響を多分に受けていると言ってよいです。別の言い方をすれば、エッテアナザーとはオリジナリティに若干なりとも欠け、面白いながらも新鮮味という点ではいまいちに映ってしまいました。
 さらに言えば本作は、エッテを売りにしている時点で、『乙りろ』の失敗(と言ってよいでしょう)をメーカー側が認めている。これを真摯ととるか、失礼と取るかは人によって様々かと思います。しかし私は後者ですね。商品として世に出した以上は責任を持ってもらいたいとは前述した通りです。その意味で、あくまでもFDの領域を出ないエッテアナザーを「作品として」高く評価することは私には難しかったのです。
 なお、Hシーンですが、こちらはかなり良かったとお伝えしておきます。流れが自然だったのと、遊星(朝日)に対するエッテの反応がりそなチックでややS入っているあたり、大変私好みでした。
 また、エッテアフターについては一般的なアフターの領域を出る程ではなかったので、あまり言及は出来ません。エッテは可愛かったですし、物語の締めとして納得できましたが、エッテの物語はほとんどエッテアナザーで終わっています。モデルとしての成功も雑誌媒体で成功しているという情報が出ただけで嬉しいですが、個人的にはもう少し発展して、アフターを展開させる(例えば、エッテの才能に着目する、モデル、女優的側面を強調する等)ことが望ましかったのかなと思います。

〇りそなアフター

 『乙りろ』でその感動もひとしおのりそな√。そのアフターです。物語としてはりそなの成長が日本組と比較されて、最終的に勝利して、実績も残るというこれまた王道です。しかし、りそなアフターは王道で良かった気がします。個人的に素晴らしいと思ったのが、りそなのCGの使い方です。パリで遊星の手を引き、歩くりそなのCGです。これは明確に前作『乙りろ』の公園の素晴らしいCGとの対比です。画像を掲載出来ないのが本当に残念ですが、私としてはりそな主導で歩くCGを見ることが出来ただけでも、りそなの成長を見ることが出来て素敵でした。
 また日本組の登場もありながらも違和感なく(=りそなの面子を潰すことなく)物語を展開させた手腕も流石です。感動しました。前作『乙りろ』の不満点の一つに私はルナが前面に出過ぎていて、流石にりそなとのバランスが取れていないと認識していると語りました。本作アフターではその点を完全に改善した上で、りそなの成長をフューチャーした。素晴らしい物語でした。尺が不足しているとは強く感じる他、エッテアナザー同様発展の余地がまだ残されているなと感じるところがあり、全てが全て満足という訳ではありません。しかし、読んでいて楽しい気分にさせてくれるも物語でした。

〇メリルアフター

 メリルの矜持を読むことが出来るアフターでした。メリルアフターの肝は何と言っても、大蔵家にシンデレラストーリーで加入したメリルのその後でしょう。しかし、前作感想でも触れましたが、メリルの才能は本物です。ゆえに強力な武器を持ちます。同時に純粋無垢にして、慈悲の心も持つという性格面で完璧超人です。この点を大蔵家で生かしていけるという未来を示唆されただけでも大変嬉しかったです。
 実は私は『乙りろ』のメリル√の不満点らしき不満点があまりないのですよ。理由はりそな√のように、明確に気になる点があるわけでもなく、細かい点にツッコミたい点はあれど、大枠としての物語はしっかりしており、ただメリルの性格上、性質上、物足りない部分も主に恋愛面で当然発生するよね、という感想でした。本作アフターではHシーンが地味に面白いのもあって、『乙りろ』メリル√の恋愛面における未熟さを補う形になっていました。その点、制作陣の、前作の不足点を汲み取る努力に大変感謝します。

 以上、シナリオでした。総合すると良い点も多くあります。しかし本作をフルプライス作品として見た場合、かなり物足りないと言わざるを得ません。そこははっきりと指摘させていただきます。

☆キャラ(35/40)

 キャラはもう最上位と言ってよいでしょうね。私がキャラに35点も点けるのは結構稀です。その理由は当然、エッテの補完…と意外というか順当というかアンソニー、衣遠、駿河の掘り下げが出来ていて、かつ丁寧だった。これだけで前作より4点は加算したくなります。
 ヒロインに関して言えば、やはりエッテが好きになりました。まあ、これは掘り下げが進んでいるので当然と言えば当然なのですが、彼女のひたむきさ、軽快さというかフットワークの軽さに心を打たれました。一方、エッテにも弱さがあります。恋愛面においては積極的になり切れない、押しの弱さもその一つです。本作ではそういった弱い(悪いわけでは全くない)点も慎重に掘り下げていると認識しています。ただただ素晴らしかったです。
 続いて、りそな、メリルです。彼女達も自分のアフターを中心に、りそなに関してはエッテアナザーも含めてその魅力を前面に押し出しました。個人的には両者とも日常シーンは勿論のこと、Hシーンでもそのキャラ性が輝いていたと考えます。りそなはいたずら好きで、兄、遊星を思う心が。メリルは純潔にして純粋、それでいて他者を慮る能力に長ける点。これらが日常、物語、Hシーンで前面に出ていました。私はこれらの点を心から評価したいです。
 衣遠、駿河、アンソニーといった大蔵一族も掘り下げられています。とんかつネタには笑いました。特にアンソニーは軽快さと身軽さを有しながら、確かな優しさ、純粋さも持ち合わせている、それでいて駿河を信頼しきっているようで信用し切れていない、したいのに出来ない点も上手く表現できており、同情出来たとともに、共に頑張ろうと思わせてくれました。
 ただ、私の個人的な好みで言えば、シリーズ通してやはり朝日(遊星)には勇気と力を貰っていると感じます。何より主人公に好感が持てる。それだけで100点満点です。エッテアナザーでも彼の優しさ、人を騙す覚悟、何より葛藤を強く感じることが出来ました。それだけで、遊星の新しい一面を見ることが出来たようで大変嬉しいです。遊星(朝日)の女装慣れには笑ってしまいました。やはり女装主人公でしか得られない栄養素というのはあります。本当にありがたいです。
 ではなぜ40点満点ではないのか、というとサブキャラの掘り下げが不足し過ぎていた点、そしてエッテに対する仕打ちがあまりにも可哀そうだという作品外の事象に尽きます。前者については言うまでもないでしょう。ディートリンデ、ヴァレリア、リリアーヌ、華花、カリンといった強力なサブキャラクターを本作では結局、活かしきれていませんでした。特にリリアーヌはその生い立ちや境遇に同情出来る余地が残されているだけにここで掘り下げなくて、どこで掘り下げるのかという気分になり、かなりがっかりしました。さらに言えば、個人的にロシア少女、ヴァレリアも好みでして、彼女の裏の努力や日本語を習得するに至った過程等知りたい事も多々あります。是非、掘り下げて欲しかったのですが、叶わなそうです。本作の尺余りではそれが叶ったはずなのです。しかし、本作ではその予算、ないし全く別の事情でそれが叶いませんでした。本当に残念です。同様のことが、エッテの不憫さにも言えます。結局、エッテは『乙りろ』で補完し切れていないことを反省し、本作で掘り下げをしているのですが、そのミスを公式が認めてしまった。それは商品価値の不足を公式自らが認めたことに他なりません。私はこの点は本当に残念で、キャラクターにも失礼だと考えます。よって、キャラクター部門からも少し減点しています。
 以上です。本作のキャラクターは十分なポテンシャルを持っていますが、サブキャラや一部キャラの境遇を考えるととても満点を与えるに不足だ、しかし限りなく評価できるという点を踏まえ、35点を点けました。

☆その他(7/10)

 音楽面は流石の一言です。OP曲『Rainbow blossom』もしっかりとしたメロディーに、元気が出る曲調で、希望が生まれます。まさにパリが舞台の本作にしっくりくる名曲と言えるでしょう。曲名が示す通り、示したいテーマは虹です。
 世界観設定ですが、こちらも流石ですね。やはりパリが舞台ということを覚悟の上、全力で取材に臨まれた形跡があります。服飾のみならず、モデル界隈にも本作は手を広げているのですが、その世界観構築はやはりNavelブランドだけあり、しっかりしていると言えます。『乙りろ』同様、言語の壁を感じる描写もあり、またフランスという国の地理関係も(私は詳しくありませんが)、よく練られていると感心しました。強力に彩られた強い世界観構築がなされているとはっきり言えます。
 さて、問題のシステムです。本作は2016年発売の作品です。流石に古過ぎませんか。私は正直、時代に対しての古臭さを感じました。まず2016年作品でバックログからのシーンジャンプ機能が、Navelほどのメーカーで実装されていないのが信じられません。しかも本作は軽快にテキストを読める類の作品ではありません。その情緒をゆっくりと堪能するタイプの文章です。ゆえにバックログからのシーンジャンプ機能は必須であると主張したい。前作『乙りろ』の踏襲と言えば聞こえはいいですが、はっきり言います。これはシステム面の向上を明確に怠っているだけです。商品として不便に感じました。他の面は概ね良く出来ているだけにこの点だけがかなり目立ちました。
 以上から、世界観、音楽が非常に高いレベルでまとまっていながらも、システム面に難があるという点で非常に残念ながら減点対象です。総じて7点ですね。

☆総括(75/100)

 総合的には良作(B)認定です。本作は非常に面白い作品であることは間違いありません。そこには自信が持てます。『月に寄りそう乙女の作法』シリーズが好きな方には間違いなくお勧めできる強力な作品と言えるでしょう。ただ、流石に『月に寄りそう乙女の作法』(所謂小倉朝日)シリーズはこれにて一段落でしょうね。これ以上、小倉朝日で物語を広げるにはかなり無理をしなければならないことは想像に難くありません。その意味で、本作というまずまずの完成度を誇る作品で小倉朝日の物語を締められたには賞賛に値すると思います。その点、お疲れ様でした。
 一方、本作を一つの作品として、エッテ回りのことまで考えると、前述したような大きな粗はどうしても出てしまいます。それは仕方がありません。しかし、私にはメーカーであるNavel様からの誠意をどうしても感じることが出来なかった。それはプレイ時間約15時間で、フルプライスで売っていることからも明らかでしょう。これは本作だけの責任ではありません。前作『乙りろ』の時点で前述した通り、何らかの事情があったことは容易に推測出来ます。しかしユーザーである私達が満足出来る作品になっているかと言うと、大変申し得訳ないのですが、不足しています。キャラクター達に罪が全くないだけにこれは本当に残念です。
 しかしながら、このあたりの事情はあくまでも個人的な感覚の差異によって変わってくるものと考えます。私は本作を上位の作品として点数を点ける気持ちにも深く理解を示したいです。何より、前作では不遇と言わざるを得なかったエッテというヒロインを救済して下さった点。この点には感謝します。Navel様、本当にありがとうございました。また、このように長大な感想を最後まで読んで下さった読者の方々にもお礼申し上げます。本当にありがとうございました。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?