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★★★★★『ポストイクメンの男性育児』平野翔大

男性育児を巡る現状を整理する一冊。今後育児に取り組みたいと考えている中、大変参考になった。どんな心構えで育児に臨むべきか。また男性育児が世の中からどう捉えられ、どんな窮状に陥るリスクがあるか。訴求力がすごい。いかに自分が育児について何も知らないかに気づいた。読むのと読まないので人生が変わるレベル。育児に関心がある、或いは育児に携りたい考えている人は必読の一冊。

印象に残ったことを下記。

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妻を助けようとすると怒られる男性、苛立ちが募る妻。ネットで調べても正しい知識と個人の経験談が混在、結果として適切でない提案をしてしまう。

いない方がいい、と思われる父親。育児は時間との戦いになるから、母親の料理は省エネに。父親が凝った料理をすると、母親の後片付けを増やし劣等感を与える。それならいっそ子供の面倒を見てくれたら、と母親は思う。

母親は子供から離れる時間が欲しい。寝る時間に当てたい時もあれば、友達と買い物してリフレッシュしたり、仕事や作業を集中して進めたい時もある。(また、人それぞれで希望も異なる)

子供を安心して預けられるのは、父親が育児において「独立」していることが必須条件。何かあったら母親が呼ばれる、という状況から解放される必要がある。

親やプロに頼ったりするのは手だが、プロは早くて生後2ヶ月、遅くて一年後からしか使えない。生後しばらくの期間は、基本的には両親しか戦力はいない。一番大変な時期は生後すぐから半年まで。

母親は育児の手間を省きたい一方、父親は育児に手間をかけたい。

決して父親は育児に必要ないわけではなく、お互いが協力して取り組めば、生活満足度は向上させられる。

父母の考え方の違いは、自分中心か、赤ちゃん中心かという点から生じる。出産前は母も父も自分中心だが、母親は妊娠出産を通じて赤ちゃん中心の思考回路に変わっていく。家事を省エネにするのも、赤ちゃんの世話をするため。父親はどうしても赤ちゃんの実感を持ちづらく、自分中心の思考を抜け出せない。その結果双方のすれ違いが起こる。

赤ちゃんは未熟すぎる存在。あまりにも大きい育児負担。人間は社会性、つまり共同体での育児を持って対処してきたが、産業化に伴って男性は働きの担い手に、女性が育児にフルコミットするようになったが、やっぱり育児負担は大きすぎる。核家族は変わらぬまま、今度は共働きで育児を乗り越えないといけない。赤ちゃんは2000年前から変わらず、非常に手間のかかる存在のまま。

イクメン、という言葉の功罪。男性育児の概念をを広げた一方で、父親に過度な育児像を植え付け、迷惑な言葉だと感じる人も。「イクメン」はいるが、「イクウーメン(育児女性)」は居ない。母親が育児するのは当たり前という考えがある。男が育児ができるというのは、育児も仕事も何でもできるという過度な期待を背負っている。同じく、女性もバリキャリ、という言葉に過度な期待が含まれている。男性がバリバリ働くのは当たり前、という前提がある。女性は仕事に加えて容姿やお酌などの女性らしさも求められる。家事や育児との両立も求められ、出来なければ、仕事を諦める他ない状況。

日本は男性の家事・育児時間が他国と比べてかなり少ないが、一方で、仕事時間を除いた「可処分時間」の中での育児・家事に従事する時間の割合は他国と同等程度。

育児時間は150分が目標。そのためには、運動と仕事を9.5時間に減らす必要あり。睡眠食事が10時間、自由時間が2時間。残り2.5時間が育児。通勤時間を考慮すると、仕事時間は全く残業しないことになり、現実的では無い。
また、コロナを経て通勤しなくて良い場合も増えたが、通勤しない場合でも育児支援は足りない。

女性の社会進出の一方で、育児・家事に対する価値観は変化せず。父親は仕事、母親は育児・家事+仕事という偏った家事分担に。

社会の要請を受けて男性育児が推進されたが、男性育児への支援は追いついていない。支援がなければ、男性も産後うつになり得るし、そもそも真に進めるべきは、父も母も双方が育児と仕事を両立可能な体制づくり。

三重苦ー知識なし、経験なし、支援なし。
母親も試行錯誤。(母親だから育児が生来得意だという)母性神話はない。ラッチオンーー「授乳」ですら、正しい方法を学ぶ/試行錯誤する必要がある。

母親も父親も育児は学習していくもの。しかし、過去数十年の社会構造は、父親を長らく育児から引き剥がしてきため、上記のような三重苦に陥ってしまう。新入社員で何も教えてもらえず仕事するみたいなもの。

知識なしー日本人はあまりにも妊娠、出産について知らなさすぎる。

母親は妊娠40週の過程で母親教室があるが、父親には無い(両親教室はあるものの、父親にとっては肩身の狭い内容)。母親は身体の変化も伴う。父親には実感もなければ、専門家に聞ける機会もない。

父親は、受動的に育児を学べる場が少ないなら、能動的に学ぶ必要があるが、多くの情報は女性向けに提供されている。そもそも、情報発信を行なっているのも助産師を中心とした女性ばかり。また、助産師は共感/感覚を中心とする説明が多いが、男性はデータ/理論を中心とする説明の方が理解しやすい。女性/男性で伝え方を変えることで、相手にどのくらい情報が届くかに違いが出てくる。

性教育は義務教育レベルでちゃんと伝えるべき。性教育をすることで性行為の若年齢化や不適切化に繋がる、というのはデータ上明らかに逆。年齢別に適切な性教育を行う必要がある。家庭教育にも役立てよう。

赤ちゃんを見たことがない父親たち。母親は、友人の赤ちゃんなどに会う機会が多い(会いやすい)。男性が赤ちゃんのいる女性の友人に会う場合は、相手の夫婦両方の時間をもらう必要あり。また、親戚や地域社会との繋がりも薄れ、初産年齢も遅れる中、赤ちゃんに触れる機会は減っている。生後1歳未満の赤ちゃんを街中で見る機会も少ない。里帰り出産の文化によって更に、父親は赤ちゃんに接する機会から分断された。

高度経済成長期に伴い、父親は労働力の主体として求められ、母親の家事/育児負担が増えた。その結果、母親は様々な支援を必要とする状況となり、現在に至るまで様々な対策が模索されている。一方で、父親は最近急に育児参加を求められているが、仕事量は相変わらずであり、父親自身も「自分が支えねば」「育児を機にもっと頑張ろう」という気持ちでさらに自分を追い込むパターンも多い。ただでさえ慣れない育児をやるのに、仕事も多すぎてキャパオーバー、結果うつ発症、というケースもみられる。

有害な「男らしさ/父親像」。父親らは無意識に自分自身を追い込んでいないか。更に言えば、育児の上手い/下手も人によって異なるものであり、全員が「育児くらいは完璧にこなさないと」と気負う必要は無い。能力は「あるべき姿」に縛られるべきではなく、むしろグラデーション的に、個別で異なるもの。

父親のうつ病発症事例。仕事と育児の両立が困難なパターン。まずシンプルに働きすぎ。通勤含めて9時間半以内に収めないと、育児時間を確保するのが困難になる(あるいは睡眠が足りなくて、健康リスクが生じる。その結果仕事でもミスが生じる)。たとえ在宅ワークで、残業30時間の水準でもリスクあり。残業45時間の規定は、育児が無い人の前提。妻が共働きだと特に両立が大変。シンプルに仕事の負担を減らす必要がある。

また、育休を取った後に「仕事を取り返さないと」と考えてしまうと業務量を減らせない。仕事へのこだわりを、ある程度手放す必要がある。両立もできて当然、では無い。有害な男らしさが見え隠れする。

知識不足も加担。1歳-1歳半の夜泣きが大変だと思わないなど、想定の甘さが見て取れる例もある(これでも、妊娠時に両親教室に参加していた)。必要に応じて、両親の助けも借りる必要があるかもしれない。なお、この例では父親が1ヶ月、母親が6ヶ月の育休取得、しかし母親は要出社なので、在宅の父の育児負担は大きかった(ただ、父親は育児への取り組みには意欲的だった)。

マミートラックの父親版。長期の育児休暇に伴う社会との断絶、ひいては自分に能力が無いと思い込んでしまい、周りがどんどんスキルをつけていって自分は不要になるのではとの不安からうつ発症。一人で育児する中で、周りと相談できる時間/機会が必要。父親は母親に比べて周囲と繋がりにくく、孤立しやすいので気をつけるべき。また、育児に対する高すぎる理想像も修正する必要あり。育児をしていたら家事は雑になって当然。

妻の産後うつが父親の産後うつの引き金となるパターン。妻が倒れたあと、「勝手に使命感に駆られた」と分析。家を買う、異動というストレスの多いイベントにより負荷が重すぎた状況に。

たとえうつになったとしても、父親は(友人などに)共有できない辛さがある。育児で孤立すれば、誰でも育児うつを発症するリスクあり。

母親の育児うつは父親の育児うつリスクに繋がる。また両親の育児うつは、子供にも影響を及ぼす。子どもの睡眠や情緒発達のみならず、病気や事故のリスク上昇にも繋がる。

育休は企業にとって代替人員のリスクを生む。意思決定層は育児を経験してきておらず、男性中心社会で育ったことも背景に、経験なし/知識なしの状況が生じている。そのため、育児に対する支援において、何をしたら良いか分からない人が当然多くなっている。

男女平等はまやかし。女性の社会進出に伴い、女性は家事/育児+仕事と負担が増えたが、男性は変わらず仕事への集中だけ。男性は引き続き完璧な労働力として求められるが、育児参加には、労働時間を減らすという発想がどうしても必要なはず。女性の労働時間を増やしたら、男性は減らさないといけないでは。そうじゃ無いと男性の育児関連時間は増えない。

女性の労働力は長期的な戦力としては期待せず、あくまで低コストの労働力として活用してきた。その結果、少子化が止まらず、男性も育児参加が求められるようになった。だから現在は、男性の育児が推進されるが、結局は発想が労働基点ではないか。

共働きで育児参加する父親は、育児前のようには残業はできない。明らかに労務提供の量は減る。これを平等に評価したらどうなるか?企業からは、当然使い勝手の悪い労働力と認定される。共働きにて父親が育児参加すれば、昇進に影響を与えるのは明らか。男性の育休長期取得者は、社内のキャリアが犠牲になったとしても、他で生きていく道がある、と腹を括った人ばかり。育休を取ったら不利になるかもしれない(マミートラップの父親版)なら、誰も育休を取らない。子育てでキャリアの階段を下りたら、その後のキャリアが限られるか無くなるのが現状。育休を取ったら不利になるのではなく、むしろ有利になるくらいにしないといけない。

企業として考えられる対策。育児経験が無い社長が意思決定するのでは無く、女性や育児経験のある男性に権力を委譲するやり方も考えられる。変化の激しい時代において、年数を重ねないと裁量権を持てない構造そのものが、企業の競争力を低下させる要因になるのでは。

育児と介護両方を行う「ダブルケアラー」となる可能性も。介護は育児のように負担が減っていくことはなく、むしろ増えていく。経営層は介護の方が身近な問題と考えられるかもしれない。育児介護の関係なく、プライベートと仕事の両立を行える環境が必要。「女性」や「育休」として括るのではなく、広く「体調不良」「人の世話」というカテゴリーで見れば、問題がもっと具体的に見えてくるのでは。

女性の機会平等には、積極的差別是正措置(アファーマティブ・アクション)が必要。実力主義以前にそれが必要。女性優遇ではなく、機会平等を実現するために。労働時間の長い人がいいと評価するのではなく、育休を取っている人を、積極的に評価するアファーマティブ・アクションが必要。

育児をポジティブに捉える。まずマルチタスクスキルがつく。(自分の周りでも、「仕事の方が楽」という育児経験者の声があった。仕事は多少時間/量の調整が効くが、育児は一切の猶予が認められないから、と。)あとは、人材獲得の面でも育休取得者を受け入れるべきでは。株価においても、育休取得率の高い企業は株価が高い傾向あり。

(政策や社会構造の変革とは別に、)父親個人としてできること。積極的に外の支援を利用する必要あり。危なくない親、危なくない育児であればOK。「パーフェクトな育児」こそ、父を苦しめる(有害な男らしさ)。育児は、基本的には理想通りにならない。子供は理不尽。赤ちゃんの生活や両親の今後に影響が出なければOK、基準を下げる。

危なくない育児には、知識を学ぶことで対処可能。以下はNG集。1.強く揺さぶる。頭の血管が切れる場合があるので。2.はちみつ。ボツリヌス菌。3.粉ミルクを70度以下で作る。サカザキ菌が繁殖して赤ちゃんに感染することがある。2時間以上置いた粉ミルクも避ける。4.仰向け以外で寝かせる、毛布を使う。突然死のリスクが上がる。仰向けかつスリーパーを使用すること。5.足を閉じた状態で固定する。先天性股関節脱臼の原因に。

育児の支援者である妊娠期間のうちから妻をケアして、良いスタートダッシュを切る。
1.母子手帳を一緒に取りに行く。
2.妊婦健診に同伴する。おすすめは10週頃と20週過ぎ。30週台からも、もしこまめに同伴できるならなお良い。
3.入院バッグを作る。入院セットをひとまとめに。インターネットで調べれば出る。妊娠中に緊急入院するケースは決して少なくない。
4.バースプラン(出産計画)を一緒に考える。
5.出生届を準備する・出す。

他にも色々なポイントでの確認事項。例えば、育休をどう取るのか。一時保育を利用するか。いつから育児保育を利用するか。保育園に入れるのか、いつか。祖父母の力をどう借りるか。お互いが困った時にどこに頼るか。ベビーシッターや託児所を利用するか、どこを使うか。

夫婦を守るコツは「睡眠」と「食事」。長時間労働によるメンタルヘルス不調は、「睡眠時間の短縮」と「食事時間の不規則化」を通して起こされる。育児でも同じこと。睡眠と食事は、人間のメンタルヘルス安定にとって非常に重要。

妊娠初期はつわりがある。食べられる時に食べられるものを、が大事。匂いの感覚や嗜好も変わる。食欲と食べ方がちぐはぐな状態が続くことも。また、夜にまとまった睡眠が取れず、睡眠時間が長くなる妊婦も少なくない。出産後しばらくは痛みも消えない。産後すぐから2-3週間はマタニティブルー。意味もなくイライラすることも多いので、寛容に接する。

出産に伴い、育児も夜泣きも即スタートするので、妊娠時期に睡眠・食事について話し合っておくことが大事。

必要な睡眠時間。じっと座ってぼーっとしても眠くない、そして布団に入って5分以内に眠れるというのがなくなる状態。また平日と休日の睡眠時間の差が2時間以内。睡眠時間を確保して、昼のパフォーマンスを向上させた方が人生全体のパフォーマンスは上がる。(『健康づくりのための睡眠指針2014』も参考。)

育休の意義。育休はゴールではなく経過地点。育休前から妻は妊娠しているので育児はスタートしているし、育休後も夜泣きなどの育児が続く。育休後の人生設計が大事。育休後には「育児と仕事の両立」が待ち受けている。
育休は育児の準備期間、と再定義。

夫婦相談の上で、父親が育休を取らないのは問題ないが、「育児は女性がやるもの」「育児をよく知らない」という状況で育休を取らないのは問題。

育休の取り方のコツ(著者が色々な人の話を聞いた後の結論)
①産後すぐに育休を取る。父母一緒に育児を作っていく。父親を育児から排除しない(里帰り出産など)。これにより、母親が一番助けを必要とする時期に父親が育休に参加でき、父親が何をやっても怒られる、という経験の欠如や目線の違いをある程度防げる。
②父親の育児ワンオペデーを作る。母親には家から出てリフレッシュしてもらう。夫は育児家事を全て一人でやる。母親は休める。1日であれば、子供への危害さえ無ければいくらでもリカバー可能。(ただ、危なくない育児ができる、という安心感は必要。そのためにも妊娠中からしっかり育児を学んでおく。)夫は育児家事の大変さを理解する。
→産後、退院後すぐ、2週間以上、のタイミングでの育休取得を推奨。育休1週間だと、なんとか育児できるレベル。育休が2週間あれば、後半でワンオペ育児にトライすることができる。母親を逃げ場とするのではなく、お互いが「逃げ場になれる」という関係性を目指すべき。

自分らしい育児ができるといい。育児において男性に適性がある部分もある。具体的には抱っこ。労働基準法では、継続的に重量を持つべき重量を総体重の25%以下とすべきとしている。この指標は労働についてだが、育児にも通じる。男性の平均体重80キロ、25%は20キロ。女性の平均体重55キロ、25%は12キロ。赤ちゃんは1歳で10キロ。1歳はまだ抱っこを必要とするが、女性にはきつくなっていく。男性が代わりに抱っこすれば、母親の腰痛改善などにも繋がる。

プライベートと仕事の負荷は総量で考えるべき。切り分けられない。負荷が重すぎると鬱になり、メンタルヘルス不調は子供にも影響する。育児は大きな負荷となるので、仕事量は調整すべき。

メンタルヘルス不調の時に、一番必要なのは休息。全てを一旦切り離して、数日でいいのでひたすら寝て休むこと、これが一番回復につながる。

ありがとうございます!