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★★★☆『思い出せない脳』澤田誠

脳の仕組みについて解説する一冊。記憶や感情に関する話で非常に興味深い。

印象に残ったことを下記。

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最初から記憶についての話、面白い。記憶が生成されないのは病気だが、記憶を取り出せないのは正常。朝ごはんの内容を忘れるのは普通だが、朝ごはん自体を忘れるのは病気の疑い。

記憶を思い出せる(取り出せる)ようにするには。記憶はシナプスのネットワークで構成される。海馬で記憶が形成される。そのあと重みづけ。短期記憶から長期記憶へ。

アルツハイマーは、過去を覚えているが新しい記憶を生成できない。そしてやがて、脳細胞の死亡により過去の記憶も失われる。酒を飲んで記憶がない不思議。普通に行動できているが、記憶は無くなっている。記憶が作られなかったということ。

海馬は酸素不足やストレスに弱い。窒息した後には、記憶障害になる可能性がある。海馬は脳の衰退で真っ先に弱くなる、繊細な器官。

行動した後に記憶は無意識に作られる。記憶がないからと言って、行動できないわけではない。記憶障害の人がピアノを弾けることもある。体が覚えている、というのは脳が覚えていること。言語化や意識をしてなくても、脳がピアノの動きを覚えている。

脳は体重の40分の1の重さしかないが、酸素消費量は体の2割。毛細血管が詰まると、その先は酸素が行き届かなくなる。血流が大事。糖尿病になると血管が破壊されて酸素が行き届きづらくなる。糖尿病は糖が血中に多くなるが、糖は血管を傷つける。(血管の健康を保つためにも、運動が大事だな。。)健康な40代で小さな脳梗塞を持つ人が3割、60代で7割。

ワーキングメモリが低下すると話したことを忘れたり、相手の話を覚えておけなくなる。ただ、ワーキングメモリを鍛えるのは難しい(むしろ、鍛えようとしたら脳の負担が増えて疲弊する。)よって、脳が機能を発揮しやすい環境を整えることにフォーカスした方がいいかも。

脳の仕組みってよくできている。原始的な脳幹/大脳基底核(爬虫類の脳)は生命維持のため。大脳辺縁系(旧哺乳類の脳)は感情/感覚/記憶を司る。大脳新皮質(霊長類の脳)は理性/論理を形成する。扁桃体(大脳辺縁系の側)は、不安や恐れを司る。側坐核はモチベと楽しさ。すぐ横には、記憶を司る海馬。

睡眠不足は記憶障害につながる。夢をみるレム睡眠では眼球は活発に動く(大脳新皮質の視覚連合野は活性化)。感情を司る大脳辺縁系も活性化。前頭前野の働きは25%低下(だから夢は支離滅裂)。

夢は、短期記憶を長期記憶に仕分けするときに浮き上がってくるもの。睡眠で記憶の整理(長期記憶の形成)が行われる。夢はその際の副産物。夢は、ワーキングメモリ(作業台)で記憶を整理するときに一時的に発生するので、数分しか持たない。脳にとって不要なので、起きてもすぐに忘れる。普通の人は毎晩いくつも夢をみるが、起きる直前のものくらいしか思い出せない。夢の内容は論理破綻している(正しくない物事に紐づいている場合が多い)が、感情、感覚や象徴としての意味合いはあり得る。夢はただのデタラメではなく、脳から生まれた自分の一部分。

検索誘導性忘却。間違った記憶を思い出してしまうと、近くの似たネットワークが抑制されて、本物(思い出したい記憶)にたどり着きにくくなる。思い出せない時は、思い出す努力を一回やめてみると、ふっと思い浮かぶ。間違ったネットワークが解消されるため。

GABAは口から摂取しても脳には直接作用しない。末梢神経には作用するため、間接的な効果はある。アルコールは、GABAに結合する受容体の効果を強める。(前頭前野に多い)GABAが受容体に結びつき、前頭前野の働きが抑制されるため、理性が飛んで話が支離滅裂になる。

GABAは海馬、脳幹にも多い。酒の量が多くなると記憶が飛ぶのは、海馬の働きがGabaによって抑制されるから。そして、脳幹の動きが抑制されると、生命の危機に繋がる。

洗脳課程では、対象者に過度なストレスを与え、睡眠不足にする。その上で外部の情報を遮断して、信念や価値観を破壊する行為を繰り返す。すると前頭前野が抑制され、正常な判断ができなくなる。また、相手の恐怖心を煽りつつ過度に褒めることで、情動が激しく揺さぶられ、辺縁系の調節乱れによって正常な情報処理ができなくなる。すると、側から見て何でそんな事するのか、というような行動に出る。

解離症ー心の防衛メカニズム。ショッキングな出来事があった後に、受け入れ難い状況と自分を切り離すため、思い出すきっかけとなる記憶へのアクセスを出来なくする。

抑制性の神経伝達は、情報をクリア、かつシャープに伝えることが主目的。

記憶は変容しやすい。嘘の記憶を吹き込むことも可能。

サヴァン症候群は超人的な記憶力を発揮するが、自閉症などにより生活に障害が生じる。

違うことに注意が向いたり、他人の話から自分の経験を連想してしまうのは、脳が想像した際に周辺領域が活性化してしまうため。集中したいなら、気が散る対象を減らせばよい。逆に新しい発想やアイデアが必要なら、デスクを離れて違う環境に身を置く。散歩したり、人と話したり、歩いたり。脳に刺激が入ることで、集中していた時には思いもよらなかったアイデアが浮かぶ。

他人との会話を広げるのも、この脳の刺激の広がりを使えばいいのかもしれない。発散型の思考に切り替え、なるべく多くの情報に接触する、気を散らせる。

ありがとうございます!