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生きるとは祈ることを諦めないこと (映画「Perfect Days」感想)

早めに仕事が終わった日、レイトショーでPerfect Daysを鑑賞した。

私はあらすじ説明能力が皆無なのでストーリーについては公式サイトで見ていただくとして、ここには私の感想を書き記しておく。

※若干のネタバレを含みます


理由を聞かない優しさ


主人公の平山は東京でトイレの清掃員として働いており、古いアパートで一人暮らしをしている。

どういう事情があるのか聞きたくなるところだが、姪っ子のニコちゃんも、ニコちゃんの母(平山の姉)も、アヤちゃんも、詳細は聞かない。
そして平山自身も、行きつけの小料理屋のママの元夫と鉢合わせてしまったとき、事情は何も聞かなかった。
そのうち、元夫の方からぽつりぽつりと打ち明ける。
平山はただ耳を傾ける。

相手の口から出てくるのを待つ。
話したくないことは無理に話させない。

翻って考えると、私が休職した時や恋人と別れた時、理由を聞いてこず、「電話しよう」「○○ちゃんのこと大好きだよ」「次行こ次!」と声をかけてくれた友達が何人もいて、それが何よりも嬉しかった。

ちなみに乃木坂46の「やさしさとは」という歌にこんな歌詞がある。

やさしさとは何なんだろう
君を慰めることか
あるいは涙の訳を何も聞かないことか

やさしさとは/乃木坂46

映画を観た時にこの歌詞を思い出し、ストンと胸に落ちた。

私も相手の心に土足で入り込まず、玄関先で待てる人でありたいし、欲を言えば「この人になら少しだけ扉を開けてもいいかな」と思ってもらえる人でありたい。


生きるとは祈ることを諦めないこと


そして、
日々はささやかな期待や祈りの連続で、
生きるとはつまり祈ることを諦めないこと
なのだ、
と平山を見て思った。

物語は平山が朝起きて、仕事に向かい、帰宅し、読書しながら就寝するまでの一日を繰り返し映し出す。

同じ日々に見えるが、毎日沢山の期待や祈りで満ちている。

フィルムでいい写真が撮れていますように。
トイレの隅っこに丸ばつゲームの紙を置いた人が、
今日も来ていますように。
家の植物が元気に育ってくれますように。
書店で面白い本が見つかりますように。
行きつけのお店が今日も開いていますように。
姪っ子が元気に過ごしてくれますように。


自分のメンタルを守りたい現代人へのゆるふわライフハックとして「期待しない」というのをよく耳にするが、個人的には何も期待しない人生なんて張り合いがなくてつまらないと思う。

周りや自分に期待して、時に喜んで、時に傷ついて泣いて怒って、そういう感情の振れ幅があるほうが、人間らしくて泥臭くて、生きてる!って感じがするから好きだ。

小さな祈りの集積は、
今日を必ず昨日と違う一日にする。

近所の行きつけのカフェのマスターが
「仕事に追われると日々無自覚に過ごしてしまうけど、毎日新しい自分に気づく、出会えることを楽しみにするといいですよ」と言っていた。
これも一種の自分に対する期待、祈りなんだと思う。

どれだけ上手くいかなくても、裏切られても、
しぶとく祈り続ける人生でありたい。

毎朝祈るような眼差しで玄関から空を見上げる平山を見てそう思った。


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