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立野正裕 黄金の枝を求めてーヨーロッパ思索の旅・反戦の芸術と文学

2021年初めてのnoteを書く。年が明けてはや3週間、2021年の目標に100冊読書を掲げました。なるべく感想も綴っていこうと思っている。

さらには、師匠である立野先生の著書を全作再読、というのも目標の中に入れてある。最初の一冊に選んだのは「黄金の枝を求めて」という紀行集。この本が手紙の文体で書かれているのは、「若い人たち一人ひとりに向かってじかに語りかけたいと思ったから」ということです。
以下、Amazonレビューに執筆した文章に手を加えつつ、再掲します。

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著者の明治大学における最終講義は2017年3月11日に開講された。私が大学を卒業して5年が経ち、久しぶりに足を踏み入れた教室で、先生の話に耳を傾ける。今思い出しても印象に残る一日だった。このときされた話というのとこの本に収録された各篇の内容は大きく重なっている。

1992年、はじめての研究旅行で訪れたイギリス・スコットランドとベルギーのフランドル地方にて、著者は運命的な光景に出会った。著者が旅に出るようになった転機の旅であり光景だった。

ローマ神話における大地豊穣の女神ケレスをめぐって執筆した論文で立てた仮説を携えて、著者は小麦畑に真っ赤な罌粟の花が咲く風景を探し、ベルギーの穀倉地帯を車で走って回る。
そのさなか、白いものが整然と並んでいるのに出会した。しかし著者の関心は罌粟の花。あちらこちらを探して探してやっと見つけた、麦畑に咲いた罌粟の花が風に吹かれて舞い上がり、やがて舞い落ちたその先は白い墓標と墓標のあいだだった。白いものは、第一次大戦で没したイギリス軍およびその同盟国兵士の戦没者墓地だった。

以来著者は、若くして散った兵士の墓を訪ねてフランドル地方への再訪を繰り返すようになる。そのきっかけとなる転機の旅について書かれているのが本書だ。若者たちは何のために死ななくてはならなかったのか。人はなぜ旅に出るのかという主題を掴み取ることができるだろう。

罌粟の花と神話の関連性についてさらに詳しい考察を読みたい人は「根源への旅ー神話・芸術・風土」
著者のよりパーソナルな面に迫る紀行であれば、2020年4月に出版されたばかりの「紀行 ダートムアに雪の降る」もおすすめしたい。

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