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立野正裕 紀行 いまだかえらず

旅とは、移動がけっして容易ではなかったかつての時代には、宗教的な巡礼をさした。

本書の表紙にはスペイン巡礼路、サンティアゴ・デ・コンポステーラのサン・ロケ峠にたたずむ巡礼者の像の写真が掲げられている。こちらを向いているものの、日差しも強く、どんな顔をしているのかはわからない。昔の巡礼は道半ばで落命することも多かったのだ。それにもかかわらず、人は聖なるものに接近しようと巡礼の旅に出かけた。

そう、「それにもかかわらず」はこのトルソー集に触れるとき、かならず心に残る響きの一つである。
「人参の種を蒔くーアシジのフランチェスコ」
「答えが与えられることはないだろう」
この二つのトルソーには言葉そのものが現出しているが、このほかのトルソーにも通底する力強い思想であろう。

本書に収められた50編あまりの散文詩・トルソーは、尊ぶべき人々の生き様を教えてくれる。それを学ぶことで自分もある種の信仰が持てるような気がする。

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