アラブの大番狂わせを考察 - FIFA World Cup 2022 Group C 第1節アルゼンチン vs サウジアラビア マッチレビュー

こんにちはぐらんえきーぽです。
東京オリンピックのアーカイブ化企画に続いて、Windtoshさん (@Windtosh)の企画にお誘いいただき、ワールドカップのアーカイブ化企画に参加させていただきました。

名だたるレビュワーの皆さんに恐れ慄きながら、サウジアラビア対アルゼンチンのレビューを書かせていただきました。
試合終了からだいぶ時間が経ちましたが、メッシのために戦い見事決勝進出を決めたアルゼンチが唯一敗北した番狂わせの記録として読んでいただけると嬉しいです。
それでは、よろしくお願いします!


1. スタメンと戦前の予想

アルゼンチン、サウジアラビアともに4−4−1−1で試合に臨みました。

サウジは国内リーグのメンバーがほとんど。その中でも首都リヤドを拠点とするアルヒラルの選手がスタメンに9人名を連ねました。サウジは10月に国内リーグを中断し、ワールドカップに向けての準備を進めてきたようです。
試合翌日が祝日になったのも頷けるほど力が入っています。
対するアルゼンチンはトップ下にメッシを配置。中盤から最終ラインにタフな選手を配置して、メッシを活かせる体制を整えていました。

2. サウジの準備してきたものとアルゼンチンの対応

試合開始早々、サウジアラビアの守備配置に観戦したみんなが驚いたことと思います。
格上のアルゼンチンに対してサウジが準備してきたこと、それは極端とも言えるハイラインで中盤のスペースを消しにくる守備を行うことでした。

普通のチームであれば、サウジの奇策に出鼻をくじかれてしまうかもしれませn。
しかし、これに対してアルゼンチンは冷静に対応しました。
ボランチが1枚降りることでボールを安定的に保持しつつ、特に左サイドでサイドバッグが高い位置を取りながら、ゴメスが内側でビルドアップの出口を作り、効果的に前線にボール届けて行きました。

アルゼンチンがいとも簡単にボールを運んでいた背景には、サウジがハイラインを設定しながらも、それを成立させるための前線からのボール保持者へのプレスが不十分であったことが考えられます。

サウジはハイラインを敷くことで中盤のスペースを消すことはできていたものの、前線がアルゼンチンの最終ラインへ制限をかけられていないため、非常に危険な状態にあったと思います(槙野解説員はこれを誉めていましたが)。

となればと、アルゼンチンは後方でボールを動かしながら、あえて中盤に人を置かずダイレクトに背後を狙っていくことでサウジの最終ラインを切り裂いて行きました。
開始早々、アルゼンチンの右サイドでディ・マリアが抜け出してメッシがシュートを打った場面を皮切りに、上図のようにボール保持の構図からサイドの背後を狙っていく形でチャンスを作って行きました。

右サイドも下図のようにディ・マリアとモリーナの連携で背後を取って行きます。

前半、サウジ代表のルナール監督は何度も大声で指示を出しているように見えました。
恐らくハイラインを取るからには連続して強く相手最終ラインにプレスをかけていくことは試合前から要求していたものの、試合の中でそれが体現できていなかったためだと推測されます。

前に出るとした場合には、アルゼンチンの降りるボランチにもサウジのボランチがついていく必要がありそうですが、前半、特にアル・マルキは最終ラインのカバーを意識することが多く、チーム全体を前に押し上げてアルゼンチンの攻撃を慌てさせることはできませんでした。

上述のようにサウジは志高く試合に入りましたが、プレスの徹底が難しかったため、危険と隣り合わせの展開の中、アルゼンチンの攻撃を何とかしのぐ展開になりました。
(サウジの両CBは非常に良く対応していたように感じました)

勿体無いファウルによるPKによる失点のみでハーフタイムを迎えることができたのは、最終ラインの踏ん張りとVARに助けられたところが大きかったのではないでしょうか。

3.ルナール監督の檄と後半のサウジ

非常に危険な状況に晒されながらも、VARの恩恵を受けながらなんとか0ー1で試合を折り返したサウジ。もう一度、自分達の狙いを体現するためにルナール監督が檄を飛ばします。

この檄を受けて後半開始早々のサウジは躍動します。

前半と同じく強気のライン設定を見せつつ、最前線からアルゼンチンのボール保持に制限をかけて行きます。
前半中盤の底でカバーに力を注いでいたアル・マルキも前線へプレスに出かけるカンノに応じてポジションを上げて行きました。

本来のプレスとハイラインが機能したことでようやくアルゼンチンを慌てさせることに成功。狭い中盤のスペースでアル・マルキがボールを刈り取るとショートカウンターから同点弾を奪い取りました。

同点ゴールに全世界が驚いたと思いますが、ここは中東カタール。サウジアラビアから大挙したサポーターがものすごい後押しを見せます。
そこはもう既にサウジアラビア。会場の雰囲気でアルゼンチンを飲み込みます(観客数は実に8万人越え!)

そんな勢いそのままに追加点を奪ったのはまさかのサウジアラビア。世界を2度驚かしました。この得点では9番のアル=ブライカーンを右サイドに配置した狙いがうまくいかされました。

前半からも何度かGKのアル=オワイスからのロングフィードをサイドに入れる場面が見られました。アル=オワイス、左足のキックがかなり正確かつ飛距離も結構ありました。
この場面では、長身のアル=ブライカーンへ長い球を入れて身長差を活かした競り合いに持ち込みました。背後にはすかさず右SBのアブドゥルハミドが走り込みます。
チームとして狙った形を作ると右サイドで決定機を作ると、左に流れたボールを再び回収し、エースのアッ=ドーサリーが技アリのシュート。
マルティナエスの手をかすめてゴールに吸い込まれました。

前半の不出来からハーフタイムを経て、甦ったサウジアラビアが10分間で逆転する驚きの展開に火がついたのはアルゼンチン。3枚替えを敢行し、試合を握り直します。

プレス+ハイラインを続けるサウジに対して、アルゼンチンは中盤でつなぐ中でサウジのコンパクトな守備を外すことでチャンスを作っていく狙いを見せました。
サウジも相当なリスクを負った守備を続けているため、一つ外されると一気に前進を許す展開になりました。

サウジ最終ラインには相当な負荷がかかっていたでしょうし、最終ラインも揃わない場面が出ており、アルゼンチンとしては狙い目が出てきたように感じました。

苦しい展開になりましたが勝っているのはサウジ。アル=ブライカーンが最終ラインまで下がり、吸収される形での5バックも許容しながらなんとか守備を固めて行きます。

そんな中でも流石のアルゼンチン。サイドにボールが入ったときのハーフスペースへのランニングは徹底されており、そこからサウジDFとGKに流し込むクロスを何度も繰り出しました。しかし決定機を作るには至らず。もどかしい時間が続きます。ファーサイドへのクロスに飛び込んだメッシのヘッドも力無くアル=オワイスの手の中へ。

残り15分になるとサウジは5バックへ変更。5−4−1で逃げ切りに入ります。その中でもライン設定はあくまで強気であった点には中々痺れました。
アルゼンチンも諦めず、サウジの3CBに隙間をついてファーサイドのクロスにメッシがヘッドで合わせるも力無くサウジGKアル=オワイスの手の中へ。

最後には6バックでアルゼンチンの猛攻に耐え凌ぐと、サウジアラビアが歴史に残る勝利を掴み取りました。

4.歴史的快挙の立役者

ワールドカップの歴史においても語り継がれるであろう一戦。その中でもサウジGKアル=オワイスの安定したセーブ、最終ライン背後へのボールへの飛び出しての対応、そしてボール保持でのディストリビューションは素晴らしかったなと思います。
アッ=シャハラーニーとの激突ではすごく動揺した姿を見せましたが、その後もきちんと仕事をこなしました。
この試合のMoMに選出された彼、やっぱりしんどかったんだなぁというのがこちらの写真で感じれました。。おつかれさまです。

ちなみに負傷後退したアッ=シャハラーニーも無事だったようで何よりです。

フットボールの理論は勉強中の身ですが、恐らく原則からすれば難しさのある戦い方だったサウジアラビアが、優勝候補のアルゼンチンを飲み込んでしまいました。
これもワールドカップの醍醐味だと感じましたし、そのアルゼンチンがその後無敗で決勝まで勝ち進んだことも素晴らしいなと感じた振り返りでした。

ワールドカップという大舞台でとても深い爪痕を残したグリーンファルコン。
国民に感動をもたらすだけでなく祝日までプレゼントするなんて、きっとサウジのサッカー人気はさらに高まるのだろうなと感じました。
(著者はサウジ滞在歴がありますが、サッカーの話をすれば誰とも会話が弾むサッカー大好きなお国柄)

きっとKFCよりも美味しいと言われる(?)サウジ産フライドチキン、アルバイク
でお祝いしたことでしょう(これは本当に美味しいです)。


最後はくだらない内容になりましたが、最後までお読みいただきありがとうございました。

Group C 第1節
アルゼンチン 1-2 サウジアラビア

アルゼンチン 10分 リオネル・メッシ(PK)
サウジアラビア 48分 アル・シェフリ、53′ アッ=ドーサリー

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