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障害者も老後にそなえて

私はてんかん患者で、精神障害者3級である。

障害年金も受け取っていて、ふだんは障害者雇用で働いている。

そんな私に夫がよく言うのが、おそらく私のほうが長生きするだろうということである。

夫は健常者である。

毎年健康診断で血圧が高くて引っかかるのだが、所詮はその程度である。

毎日頑張ってめりめりと働いて稼いでいらっしゃる。

10年に一度、体調悪いだの熱が出ただの騒いで一日待ってようやく重い腰を持ち上げて病院に行ったところ、インフルエンザだったりもするのだが、全般的にいたって健康である。

そんな夫が言うには、おそらく自分はぽっくりと早死にして、妻のほうがなんだかんだ言って長生きするだろうということだ。

なぜかと聞くと、なんか昔からそういうキャラだからだと言葉を濁していたが。
(夫は高校の同級生である)

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夫から繰り返し言われているうちに、私もなんとなくその気になってきて、夫の死後どうしようと勝手な心配が頭の中を駆け巡り、対応策を繰り広げている。

なんせ障害者だ。

収入がガクンと減るだろうから住まいは公営の団地になるだろうか、いやいやそれまでに夫と共同名義でマンションを買っておけばいいではないか、折半くらいならなんとか節約すれば稼ぎから出せるだろう、お金が底を尽きたら売ればいい、
車の運転は怖いから公共交通機関が整備されているところがいい、買うなら中古マンションだろうな、などなどが頭の中をぐるぐると駆け巡り、気づくと毎週末に新聞に挟まっている不動産の広告を隅から隅までじっくりと舐めまわすほど調べるようになった。

この先の人生設計に向けて、いたって真剣なのである。

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仕事はおそらく、すでに始まっているように、日本の人材不足の穴埋めとして女性・高齢者・障害者が駆り立てられるのだろうから、働き口には困らないだろう。

障害者はさらに、今後より一層法定雇用率が上げられていくはずである。

働く(=収入を得る)機会を得ることはひとまず安心である。

しかし、障害者だって歳は取る。

女性・高齢者・障害者のトリプル要素を兼ね備えているだろう定年退職後の私を、どんなところが、どんな形態で雇ってくれるのだろうか?

わがままなことは分かっているのだが、働くことができるまで、働きたい。

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そんなことを考えているのだが、夫にはもちろん長生きをしてほしい。

だから日々の食事も徐々に薄味にしているし、一緒に公営のジムにも通っている。

これまでは晩酌がビールだけだったのが、今ではウイスキーの割合が増えてきた。(糖質オフダイエットの本を買ってきたところ、ウイスキーは見事に糖質ゼロらしい)

喜ばしいことに、最近夫が自分で買ってきたコンビニの鶏肉の照り焼きを口にして、彼は「味が濃すぎるね」と困惑した表情を顔に浮かべていた。

その反応を見て、歓喜のあまり大空に向かって叫ぼうとしたくらいである。

このまま夫には健康的に生きてほしい。

私がふくらませた、女性・高齢者・障害者のトリプル要素を兼ね備えた1人暮らし妄想が、幻想となるように。

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