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グ―グルにありふれた目標設定の気を付けるべき点を整理する

皆さん、こんにちは。いかがお過ごしでしょうか。
今回は目標設定についての基本的な点を抑える記事にしたいと思います。
また、とりあえずこのシリーズはこの記事で最後となります。
ご購読いただき、大変ありがとうございました。
研究者は、論文の数と質で評価される厳しい世界ですので、このように記事を書いて、皆さんと知識を共有しても評価されるわけではないのですが、個人的に、科学は社会の役に立って意味をなすと考えておりますので、また時間ができ次第、自分の知識を皆さんと共有できるような場を作れればと考えております。今後ともよろしくお願いいたします。

目標設定の重要性

前置きはこのくらいにして、今日のトピックである目標設定について基本的な部分を抑えていければと思います。まず前提として、なぜ目標設定をすることがスポーツ選手にとって重要なのかについて話していければと思います。
目標設定の”なぜ”を考えるときに、イメージしやすいのは山登りかと思います。山登りをするときに、考えることは

「頂上はどこか」
「頂上にたどり着くためにどのルートを行くか」
「何を持っていくべきか(例:水はどれくらい持っていくべきか)」

このあたりかと思います。
これをスポーツ選手にあてはめると、

「どのレベルまでいきたいか(例:リーグ戦を優勝する)(頂上)」
「そのレベルまで行くためにどのようなルートが必要か(例:勝ち点がどれくらい必要か)(ルート)」
「自分が成長すべきポイントは何か(例:シュートを5本に一本決める)(準備)」

こういった形になるかと思います。もちろん別の例もあるでしょうが、(例:頂上=プロサッカー選手になる)ここで言いたいことは、どうやら目標設定をすることは、山登りと似ていて、自分たちがたどり着きたい場所にどのようにたどり着くかという目印として重要であるということです。


目標の種類

次にどうやら重要らしい目標の種類についてお話できればと思います。目標の種類には大きく分けて結果目標、パフォーマンス目標、プロセス目標の3つあります(Hardy et al., 1996)。

目標の種類

結果目標

結果目標とは、文字通り、結果についての目標で、例えばトーナメントでどこまで行きたいか、リーグ戦でどの順位にいたいかといった目標です。


リーグ戦を優勝する
トーナメントでベスト4に入る
etc…

パフォーマンス目標

次にパフォーマンス目標ですが、これも文字通り、選手のパフォーマンスに関する目標です。例えば、リーグ戦で優勝するために、自分はどのスキル伸ばすべきか、に対する答えがパフォーマンス目標となるかと思います。


次の試合でインターセプトの成功率を80%にする
次の試合でシュート成功率を50%にする

プロセス目標

最後にプロセス目標ですが、これは、立てたパフォーマンス目標をどうやって達成するかに関する目標です。例えば、パフォーマンス目標でインターセプトの成功率を80%にするために気を付けるべきことは何かに対する答えがプロセス目標と言えると思います。


パフォーマンス目標が次の試合でインターセプトの成功率を80%にするの場合
ー>パサーの目線を気にする
ー>マーカーの予備動作に惑わされない
ー>ボールの移動中にマーカーとの距離を縮めておく
など

また、この3つの目標の重みづけを変えておくことも重要な点であると言えそうです。例えば、結果目標を常に意識してしまっては、なかなか自分のパフォーマンスを出しづらいかもしれません。なぜなら結果というのは自分でコントロールできる割合が非常に低いからです。例えばリーグ戦を優勝するという結果目標の場合、リーグ戦を戦う上で、重要選手がけがをしてしまうかもしれませんし、相手チームに非常にうまい選手が移籍してくるかもしれませんし、もしかしたら自分たちの監督が更迭されるかもしれません。こういったことは自分でコントロールできるものではないですよね。そう考えると基本的に自分がコントールできないことに目を向けてしまうことはあまり健康的ではないと言えるかもしれません。そういった意味で、より自分ごとであり、自分でコントールできるパフォーマンス目標とプロセス目標に目を向けることが重要であると言えるかもしれません。例えば、1対1で相手の膝の角度を意識するというプロセス目標は、完全に自分でコントロールできるかと思います。つまり、自分が意識するかしないかが問題であるということです。このようにコントロールできる度合の問題で、結果目標を立てることは決して悪いことではないという前提で、その”頂上”に到達するために自分がよりコントロールできるパフォーマンス目標とプロセス目標により目を向けるということが重要でしょう。

また、シーズン中に結果目標を変えることも効果的であるといえるかもしれません。例えば、シーズン前にリーグ戦優勝を掲げたにも関わらず、シーズン中盤で勝ち点3しかとれなければ残り半分のシーズンは登れない山を登っているようなものです。なので、より現実的な結果目標に変更していくことが必要になると思います。そういった意味で、それぞれの目標を1カ月や半年の単位で補正していくことが重要であると言えるかもしれません。またこのように記録しておくことでシーズンを通してどういったことに注目してプレーしていたかが分かるようになるかと思います。次のセクションではこのような気を付けたい点をもう少し紹介していければと思います。

気を付けたい点

最後に目標設定をする際に気を付けたい点についてお話して終わりにしたいと思います。これもグーグル検索すれば無数に拾える情報ですが、一応ここで整理できればと思います。よく使われるものがSMARTと呼ばれるものですね (e.g., Doran, 1981)。SMARTとは、specific, measurable, attainable, realistic/relevant, timelyの頭文字をとったものです。一つずつ見ていきましょう。

Specific


まずは具体的な目標であることです。これは、結果、パフォーマンス、プロセス目標のどの目標にも言えることでしょう。たとえば、「頑張る」「シュートをうまくなる」では、”どう頑張るのか””どうしたらシュートがうまくなるのか”がはっきりしておらず、実際に練習や試合になった時に自分が何に意識を向けるべきなのかがはっきりしません。そういった意味で、前セクションにあげたような「相手の目線をきにする」「ボールの移動中にポジションを変更しておく」など、何に自分は意識をむけるべきなのかを具体的に整理するとよいでしょう。

Measurable


次ですが、数えられる目標であるということです。これは特にパフォーマンス目標に言えることと言えるでしょう。例えば「インターセプトを上達する」では、どうしたら上達したと言えるのかがはっきりしません。ですから「次の試合でインターセプトの成功率を80%にする」「次の試合でインターセプトを4回成功させる」など、数値を設定することがより効果的かと思います。またサッカーのようなオープンスキルを要するスポーツでは試合ごとに相手の強さが変わることを考えると、毎試合ごとにパフォーマンス目標を設定しておくことが効果的であると言えるかもしれません。

Attainable

次は獲得可能な目標か、ということです。これは大げさに言うと、サッカーにおいてシュート100本を一試合で打つことはあまり現実的であるとは言えないと思います。そうではなく、現在の自分の力量を鑑みながら、どの目標であれば現在の自分が獲得できそうかを考える必要があるでしょう。これもすべての目標の種類にあてはまることかと思います。

Realistic/Relevant

Rをrealisticとして扱う論文とrelevantとして扱う論文があるので、両方載せておきました。つまりは、自分の価値観と目標がつながっているか、それは現実的な目標か、ということです。例えば、DFがシュートを決める目標を立てることは、DFのポジションから考えてあまり現実的ではなく、関係のない目標であるということができると思います。これもすべての目標の種類に言えることでしょう。

Time

最後に、時間軸を考慮するということです。例えば、現在の自分の改善点を列挙してみて、どの改善点が時間がかかりそうで、どの改善点が早く改善できそうか、もしくはどの改善点がより重要で、どの改善点があまり重要ではないかという軸で、改善点を時間軸にプロットすることも重要な点と言えそうです。

最後に簡単なワークシートの紹介です。下記のリンクをクリックすると目標設定シートの例が見れるようになっています。クラブのロゴをつけたり、年齢に合わせて目標の数と質を調整してもいいかもしれません。また、内省のセクションを設けて、試合後や、月ごとに目標が達成できたかの評価ができるようにすることも効果的かもしれません。

https://docs.google.com/document/d/1MDzsLigHnaRhbCgutMgJR_8X_RxkWXfarpHC-UXBzHU/edit?usp=sharing

冒頭にお話しましたが、とりあえずこのシリーズは今回で終わりとなります。今まで読んでくださった方はどうもありがとうございました。去年はツイッターで心理学のコンセプトを月1回スライドにまとめて投稿して、今年は2か月にわたって記事を投稿させていただきました。冒頭の通り、研究者は論文の数と質で「お前はいったい有能なのか」が決まるので、また論文書き書きに時間を割こうと思いますが、個人的に科学は社会に役に立って意味があるものになると思っておりますので、今後とも機会があれば僕が知りうる情報はできるだけ共有していきたいと思っておりますので、どうぞよろしくお願いいたします。

References
Hardy, L., Jones, G., & Gould, D. (1996). Understanding psychological preparation for sport: Theory and practice for elite performers. Chichester, UK: Wiley. 

Doran, G.T. (1981). There’s a SMART way to write management’s goals and objectives. Management Review, 70(11), 35–36.

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