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独創的な表情と漆の光沢 "黒桟革" -KUROZAN-

手縫い革小物職人エンフォケ…  有名タンナーを訪ねる。

"黒桟革"クロザンガワという伝統ある唯一無二の革を創り出している坂本商店さん。
革を扱う人なら知らない人はいないであろう、有名なタンナーさんである。

坂本商店 "Gallery" 
二体の立派な甲冑にお出迎えされる


坂本商店さんは創業1923年、今年で100年を迎えた長い歴史を持つ。
代表の坂本弘氏と次の世代となる御子息の悠氏とは過去にお話させてもらった事が何度かあり、"また遊びに来て下さい"とお声をかけていただいていたにも関わらず、結構な時を経て… 今回訪問させてもらった、失礼なわたし。

わたしの手縫い技術を上げ"黒桟革で何かしら製作"した後、お邪魔させてもらいたいと思っていた… 自分勝手で失礼なわたし。

そんな私ごときに、お忙しいところお時間を割いていただき、気さくに色々とお話していただいたコトを今回書く。いつものボケたり突っ込んだりや、わたしの主観は封印する…つもり。。。

では、カメラ素人のわたしが許可を得て撮影させてもらったいくつかの写真と共に坂本商店さんについて紹介させてもらう。


黒桟革クロザンガワ -SAKAMOTO corp.-

日本のタンナー 坂本商店さんが伝統技法と独自の高い技術で創り出す黒桟革は日本のみならず、海外でも注目される唯一無二、独創的な革である。

原皮には国産黒毛和牛のみを使用、皮から革へ鞣し染色し、一枚ずつ手作業で下地に工夫を施した後に、吟面に漆を塗っては乾燥を繰り返す。
"鞣しの技術""漆塗りの技術"を融合させるという繊細且つ独特な仕上げ、それら全ての工程を自社で行い製造している。

"黒桟革" KUROZAN
丁寧に何度も漆が塗り重ねられた吟面


主に製造される黒桟革には、武道具に使われる極上黒桟手揉み、革製品や衣料用となる型押し、極などの種類があり、中でも"黒桟革 極 -KIWAMI-"は、最も手間と技術を要する最高ランク。

古くは戦国時代、大将クラスの甲冑にも使われていた黒桟革、現在は剣道の防具などにも使用され、SAMURAIを連想させる…
ギャラリーに飾られている甲冑、この二体は実際に着ることが出来るように作られているらしい。

"黒桟革 型押し" 黒を使用した甲冑
"黒桟革 極 -KIWAMI-"
ジュエルスカーレット、 黄色みを帯びた赤


海外でも高く評価される"革の黒ダイヤ"

"革の黒ダイヤ"と呼ばれる漆の光沢と高いシボを持つ黒桟革。
植物タンニン鞣し、天然の材料、高い技術で表現された黒桟革は環境に負荷のかからないエコレザーであり、サスティナブルな革である。

日本では"経済産業省製造産業局長賞"や"日本エコレザー大賞"を受賞しているが、それだけに留まらず海外でも高く評価されている。

"黒桟革 極" 黒


-APLF LEATHER&MATERIALS+ HONG KONG-アジア パシフィック レザーフェア 香港
香港コンベンション&エキシビジョンセンターで行われるアジアと世界を結ぶ皮革産業の国際展示会、皮革素材・製造技術展。

2014年香港APLF 日本皮革企業初のグランプリを獲得 (黒桟革 極)


-Première Vision Paris-プルミエール ヴィジョン パリ
プルミエール ヴィジョンは、パリで毎年2回開かれる世界最高峰の国際的なテキスタイルの見本市。

2016年PVアワード レザー部門 ハンドル賞 受賞(極 インディゴ / 天然藍)
2019年PVアワード 入賞 (極 杜若カキツバタ)

その他、スイスで毎年行われるGrand Prix d'Horlogerie de Genèveジュネーブ ウォッチメイキング グランプリにて2022年クロノメトリー賞を受賞したグランドセールセイコーの時計ベルトに採用され、今秋行われたジャパンモビリティショー2023では、ニッサン ハイパーツアラーの座席後部に採用されるなど、"革の黒ダイヤ"の異名を持つ革は、人々を魅了する素材として使われている。

表側に見える表現や技術が目立ち、大事なことを見落としていまいがちだが、まずはベースに"環境に負荷のかからないモノ"を作ることに重点を置き革を製造する努力をされている。
賞の受賞や製品に採用される背景には、そういった事が含まれているのではないだろうか。

中央にPVアワード、その右にAPLF、その他数々の賞が並ぶ


革製品の素材としてバッグ、靴、ベルト、小物はもちろん、ファッションやオブジェのみならず、衣料用に特化した黒桟革は、海外コレクションのランウェイで注目を浴びる衣装などにも使用され、より幅広い分野の素材として使われている。

黒桟革衣料用 / 藍染め 漆無し
藍には天然藍と合成藍があり、手染め仕上げするモノもある


ギャラリーに展示されていた黒桟革使用のバングルやApplewatch用 高級レザーバンド製品、匠の技で作られた作家さんの作品や製品など。

バングル
Applewatch用 高級レザーバンド
匠の技 その1
匠の技 その2
匠の技 その3
匠の技 その4


撮影が下手で、実際の表情や色を写し出せず申し訳ない…
坂本商店さんのHPでも紹介されているので、是非ご覧になってくだされば。


天然素材 漆の乾燥

黒桟革に使われる漆は天然素材、精製作業を施した漆を使用している。
漆は時間が経過すれば乾燥するモノではなく、適切な湿度と温度の下で乾いて行く。湿度と温度が管理された設備、通称"漆室"うるしむろに入れて乾燥して行くとご説明していただいた。

下地である染められた革の吟面に漆が乗りやすい工夫を施し、また漆を塗り、乾燥させては、また塗り…  

"漆室" 
撮影のために開けてくださった


湿度があって乾燥???… 乾くのは水分が抜けてと、知識の少ないわたし。 
通常の洗濯物などの乾燥とは違う、空気中の水分から酸素を取り込み、漆に含まれる酵素が酸化反応起こす、酵素酸化のお話を聞かせて貰い???
わたしの小さな脳みそがフリーズ…

"乾く"という概念は一旦置いといて…
化学的な知識がほぼないわたしには、漆が化学変化し硬化すると理解することに留めた。w

代表とお話させてもらった中で、現代ではネットで情報を集められる事もあるが、過去は化学ばけがくを理解するために、大学の図書館へ通い本を読み、調べ、知識を増やし試行錯誤を繰り返していたという。

このむろがある作業場で、代表と共に坂本商店を築いて来られた奥様ともお話させてもらった。坂本商店さんは奥様の祖父母の代に興した会社、現代表の弘氏は三代目となる。
剣道の武道具用を主に作っていた時期もあったが、現在はほぼ革製品などに使用される黒桟革の生産になったと気さくにお話してくださった。

弘氏と奥様が試行錯誤し進化させた黒桟革は日本のみならず、海外でも広く知られるようになり、現在は次の世代となる悠氏が入社し職人から営業活動まで幅広く活動されている。中国に留学経験がある悠氏が中国語も操る語学の才能を生かし、仕事にも反映している。


漆を練る"練り台"
綺麗なモノではないけれど…と見せていただいた
練り台の側面に垂れ重なった漆の層を見て、これまでの積み重ねを強く感じる
棚に並べられていた出荷前の黒桟革の一部


幾層にも塗り重ねることで漆の光沢とシボと呼ばれる皺の凹凸のボリュームが生み出される。手間と根気、漆を塗り重ねて完成までに約3ヶ月の時間を要するという。皮を鞣す過程からすれば約半年ほどかかるという黒桟革は、全て受注生産である。


染の工夫、独創的な表情

革を鞣し、漆塗りと根気の必要な作業を先に書いたが、漆塗り以前の下地の段階では、"革の染色" 染料で染める色にも工夫を施す。
色の風合い、漆との相性、独創的な表情を創り出す作業が行われている。

染色する際などに使用される"タイコ"。樽のような形をした大きな容器をぐるぐると回転させる機械で、用途として原皮の洗浄や皮から革へ鞣す際、その他染色、加脂する際などにも使用される。

日本や世界のタンナーさんで長年使われているタイコをよく見かける
手入れなどは大変らしいが現役である
新しいタイプはステンレス製、温度管理など色々と制御できる
調整した染料を横からも入れられる仕組み
小さなステンレス製のタイコ
新たな試作のテストなどに使うとの事


黒桟革にはいくつかの色があり、色の他に独創的な表情に仕上げられた黒桟革がある。
人気ある黒や茶、天然藍を使用し手染めで仕上げるインディゴ、幸運は必ず訪れるなどの花言葉を持つ杜若カキツバタ/パープル。大胆に色斑を施したジュエルスカーレット、ジュエルグリーン、日本の峡谷とグレーの岩肌を表現したジュエルストーンなど。

-Black Diamond of Leather-
革の黒ダイヤ
カキツバタ、ジュエルスカーレット
ジュエルグリーン、インディゴ
ジュエルストーン
水墨画をイメージしている
エキゾチックレザー ver. リザード(トカゲ革)
もちろん、吟面に漆を塗り重ね仕上げられている


最後に

わたしは材料として革を使うが、わたし自身は革を作れない。
タンナーさんの作る革、材料がなければ… わたしはただのおじさんになる。

鞣しや染色、漆塗りの技術など多く書いたが、お話を聞かせてもらった中で、環境に負荷のかからない革を作ることを何度も口にされていた。

私事であるが、過去スペインに暮らし、ヨーロッパの街も少しばかり旅した経験がある。環境に配慮した生活を心掛ける意識は高いと感じた。
ファッション分野を学んでいた友人は、ヨーロッパ、ファッション業界などでは、環境に配慮した素材であること、その基準を満たしているかは、とても大事と語っていた事を思い出す。

黒桟革や他の革でも製造過程で手間と時間がかかるのは、何も目で見える表側の工夫だけではない。

伝統的製法のみならず、常に試行錯誤を繰り返し、新たな開発にも取り組み仕事をされている素敵なタンナーさんにお話を伺う事が出来て感謝すると共に、黒桟革を使い、また何か製作したい思いがさらに強くなった。

ではまた、¡Hasta luego!



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