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おもちゃ箱 中段

「サンタさん何歳までいた?」

特に面白かった回答が2つある。

「何かを疑わない子供だったので、小学5年生の時に親から″今まで黙ってたけど……″とカミングアウトをされた。それからは親が何かくれるシステムになった。」かわいい。

「サンタさん来たことない。」これは……!!

天にまします誰かの父よ。
どういうことですか?

クリスマスが近いので、女児玩具について書きます。メリークリスマス、かわいい皆様。
あったかくして過ごしてくださいね。


我がファミリーは壊滅状態だった。

ショコラうさぎちゃんとくるみリスちゃんの重厚でいて柔らかな体表は剥げかけ、抉れた跡が付いている。小花柄の可憐な白いワンピースも、緑色のショルダースカートも無惨に剥がされ散り散りになってしまった。

あかりの灯る大きなおうちの地下には腐った単3電池が埋まっており、暖色の花形ランプがお部屋を照らすことは二度とない。


「電池を買ってくればいいじゃない!」
賢い。私もそう思う。
いくらお願いしても我が家に電池は現れない。
大人が忙しいからだ。

実際のところ、物心つく前のアメーバみたいな自我の中で ″おもちゃで遊ぶ″ と ″単なんとか電池を買う″ という2つが結びつくことはなかった。
要はわたしの頭がよくなかったから家に電気が点かなかった。簡単だ。

では何故ショコラうさぎちゃん達が無惨な殉職を遂げたかといえば、もっと簡単だ。
我がシルバニアファミリーは、ハル(豆柴、メス)の玩具になっていた。

シルバニアで遊んだことのない方に向けてお話しすると、シルバニアの服は小さなマジックテープで着脱するのだが、どうやらハルはファミリーを脱がせるのが堪らなく楽しいらしかった。

シルバニア特有の体表の細やかな毛は体験したことのない舌触りを彼女にもたらしただろう。歯応えだっていい。


もちろん家主(わたし)は抵抗した。
わたしのファミリーを、全裸にしないでくれ。

しかしイヌの獲物への執着は凄まじく、全く歯が立たないどころか逆に牙を立てられる始末だった。諦めてイヌも一緒にシルバニアで遊んだ。
ハルがファミリーに関わったことで母も加勢してくれたりした。

ご存知の通り、ぬいぐるみ系ホビーを大切にする気持ちとイヌの好奇心は相性が悪い。
ただし破壊されるのが苦でなければ相性が良い。遊び相手がいるって最高だからだ。人形についた歯型だって最高の思い出になる。なった。


2022年12月。

休職した友人のデスクに座っている。

電話越しに怒鳴る現場作業員の妻。
「全然わかんない!埒が明かないんだけど」
「あ〜、上職にお繋ぎします」保留。
「…何?」
「Excel使えない元気なおばさんです、お願いします」
「はあ」

薄く茶色い目。人を刺す目。正義の目。
つかえなくてごめんね。思っても言わない。

天秤みたいな目をした女の、脂肪のついた指先に辛うじて貼りついている青色のラメ。
目が覚める色のついた肉が、薄く埃を纏った受話器に伸びる。さらに伸びやかな甘い猫撫で声が隣の席で響く。

この部屋にいる10人ちょっとの中で、私と派遣さんと嘱託職員のギャルだけが5コール以内に電話をとる。そういう日が3ヶ月は続いていた。

休職した友人が電話機の横に置いたシルバニアのウサギの赤ちゃんと時々目が合う。
たぶん支えになっていたんだよね、今までありがとう、わたしは大丈夫だよ、の気持ちでウサギの赤ちゃんを見る。


大丈夫です、よろしくお願い致します、とんでもないです、いえいえ、恐れ入ります、すみません、申し訳ございません、恐縮です、再度ご連絡いたします、失礼いたします、繰り返します。

こんな言葉を聞かされるためにシルバニアは生まれてきた訳じゃない。

友人とシルバニア赤ちゃんに悪いな〜と思いながら、プラスチックの木馬に乗った赤ちゃんには壁を向いてもらっていた。ときどき、マスキングテープで埃をぺたぺた拭った。
必死に生きてる彼女の代わりに。

高校1年生の時、クリスマスイブ前日に「入院します」と言ってコンビニのバイトを飛んだことがある。
なんか「辞める時は代役を立てて」と意味のわからないうわごとをほざいていた店長の顔が、ふいに浮かんで、あ、これもしかして私、代役になったのか?とか邪推したりもした。
それでもよかった。だってハチ公とかの方が待ってるし。どっちかっつーと走れメロスみたいだ。あ?デスクの上を死に物狂いで駆けてやろうか?

いつも彼女のデスクに座(らされ)ッているので部署の5割くらいの人は私の名前が分からない。
皆かなり耄碌してるので、何回か聞かれても覚えられない。なので適当に呼ばれても、間違えられても絶対に返事をして管理職にキモがられていた。
社員は会社に来ないし管理職には無視されていたから、″なぜか○○さんの席に座っている誰か″として仕事をしていた。
心地よかった。誰でもない換えが利く歯車だった。あっという間に折れた。

インターネットのあらゆる場面で″私はロボットではありません″の項目にチェックを入れる以上、代替可能でありながらカスみたいな職場で、生ぬるいパソコンぽちぽちで社会貢献することに耐えられなかった。

3月。
上司のエゴで2種類も作られた名刺と、法改正で役立たずの資源ゴミになったマニュアルをシュレッダーにかけまくったら裁断機がぴーぴー泣いていた。あたしとの別れが惜しいか、なあ。
これからは紙が詰まったら別の事務員に構ってもらえよな。あー、かわいい。

もっとシルバニアとかデスクに置いておけば、私もう少し壊れなかったかも。
デスクを持たない私の癒しは喫煙所で読むポルノ漫画と、誰も来ない一階のトイレで踊ることだった。毎日、溺れてるみたいだった。

出勤最終日に目黒川の桜を見に行って、その足で家を出た。
天にまします誰かの父よ。どうか。

2023/8/9 16:22


↓前回です。
偽たまごっちについて書きました。
よろしくお願いします。

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