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引力

春。
犬を攫う桜、青く光る新しい電車。

増幅した重力は血中をめぐり指先は地に臥す。
重みに抗うことに意識は向かない。
舌の裏に潜り込んだ死なないための死は、おまえの頭を蕩かしてとうとう呼吸まで奪ってしまう。

わたしが駅に着いた時、おまえは椅子に座って脇目も振らずに指先で星を散らしていた。

若い牡犬でもあるまい、簡単に手の内を明かせてしまえるおまえが恐ろしい。
来た道を忘れるみたいに軽やかに歩くんじゃない。

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