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幸福でいて

錆が縋りついて腐食したテナント募集の看板が、やけに目につくことも、もうなくなった。

駅までの道に満遍なく落ちていた、かつての光たちは形骸化し風景に。
全ての眩しさは我々の目を焼き思考を奪う。見たが故に認知を奪われた私たちは暗がりを歩き続ける羽目になる。

信仰に近い愛に触れることができた。返報のない未来を受け入れることで、祈りの堅さを確信できた。

あなたが、私が、2本の脚でいられること、食事を口に運べること、おいしいと思えること、ベッドの上で明日を迎えられること、悪夢にうなされないこと、落ち込んでいないことが幸福で、贅沢で、それ以上を望まなくても十分だった。

愛おしさや慈しみを失って、もう何も愛せない未来が怖かった。来る孤独は恐ろしかった。
神様が欲しかった。

心配だけじゃお腹が膨れないから、明日も2本の脚で会社に向かって、自我を肺いっぱいに溜め込んだ身体でキーボードを叩いて、喫煙所で白い自我を吐く。歯車になっている時間もきちんと私の人生として飲み込んであげる。

ずっと神様が欲しかった。
誰のところにもいない私だけの神様が。

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