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2023年に読んだ133冊から、特に面白いor印象的だった本をいくつか紹介させてください

今年もたくさん読みました。今年読んだ本は133冊(12月26日時点)。そのなかから「これは!!」という気づきがあった本や、とりわけ印象に残っている本を選びました。気軽に読めるものも気軽と対極にあるものもありますが、どれもすっっっっごく面白かったので、ご興味のあるものがあればぜひ読んでみてください。


千葉からほとんど出ない引きこもりの俺が、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の小説家になった話(済東鉄腸/左右社)

まずこれは外せなすぎる。めちゃくちゃ面白かったし、この本にまつわる思い出も含めて、今年読んだ本のなかでひとつだけ選ぶなら間違いなくこれだなと思う一冊。

本書は、タイトルの通り、一度も海外に行ったことがないままルーマニア語の作家となった済東鉄腸さんが、作家になるまで道のりが綴られた一冊だ。

外国語を学ぶ人にとって勉強方法の参考になるのはそうなのだけど、まず何より読んでいてめちゃくちゃめちゃくちゃおもしろい。千葉からほとんど出なくても世界はこんなに広がるんだな、と元気ももらえる。ご本人もおっしゃっているけれど、いい意味で自己啓発本ぽいところがある。

あとわたしが一番面白いなと思ったのが、この本の全体的に感じられる、言葉に対する鋭さとか物事に対するフラットさ。読んでいて発見がめちゃくちゃ多かった。楽しすぎて読み終えるのがもったいなかったくらい。

で、読んでいて「なんでこの人ってこういう考え方になったんだろう??」とめちゃくちゃ気になって、なんと済東さんにインタビューさせてもらった。通っていた宣伝会議「編集・ライター養成講座」の卒業制作だったので、メディアに載るものでもないのに快く受けてくださりとてもありがたかった……。済東さんその節はありがとうございました!

記事にした内容以外にも、今学ばれているルクセンブルク語のお話をお聞きしたり、取材後に『千葉ルー』のポップを見るために本屋さんを4軒ほど巡り、本を見ながらお話したりおすすめの本を紹介していただいたりしてほんと楽しかった。今思い返すと後半は完全にファンミーティング。ありがとうございます。

▼インタビューはこちら

ちなみにそのとき済東さんにおすすめしていただいて買ったのがこちら。わりとずっと「文系脳すぎるから理系の勉強したいな〜〜」と思っており、自然科学や生物学系の本も読まれているという済東さんに文系にも楽しめる理系本を聞いてみたところ、こちらをおすすめしてくれた。

これが本当にめちゃくちゃ面白くて、覗き見してた理系の世界への扉をバーンッと開いてくれた。メモを見返すと夏が近づいてくることだったためか、紫外線や日焼けのことばかり書き残してあったが、皮膚の機能はもちろんタトゥーなどの文化的な側面まで網羅的に書かれていて、皮膚というものを多面的に理解できるし非常に良い本だった。ちなみに、この本によると面接の時に採用担当者が重いものを持っていると、候補者をしっかりした人だと感じて採用に至りやすいらしいです。面接の際は超合金か何かでできた履歴書を持っていくといいかもしれません。

日本語に生まれること、フランス語を生きること:来たるべき市民の社会とその言語をめぐって(水林章/春秋社)

前項で紹介した本の著者である済東さんは日本にいながらルーマニア語で小説を書いている方だったけれど、ここで紹介する『日本語に生まれること、フランス語を生きること』の著者である水林章さんは、日本に生活の拠点を置きながらフランス語で文章を書く方だ。

フランス語で書いた著作『SUITE INOUBLIABLE』がフランスでもっとも権威のある文学賞であるゴンクール賞の候補作となるなど、めちゃくちゃすごい方である。

今年の9月頃、ちょうど友人と某アイドル事務所の問題について話すことが多かった。そしてその話がどんどん違う方向に転び「日本人って社会を自分たちが作ってる意識が希薄じゃない?」とか「それで言うと全体的に民主主義に向いてないと思う」みたいな話をしていた。

そんな時に見つけたのがこの『日本語に生まれること、フランス語を生きること』で「日本という国の腐敗と病理の根底には、日本語に固有の言語問題が横たわっており、その背後には天皇制の呪縛が控えている――」という帯の文言を見てこれは絶対わたし好きだし面白い!と思って買った。

読んでいくうちに、自分に「民主主義に向いてなさそう」と思わせた社会の雰囲気や国民性のようなものがどこから生まれているのかが、どんどん明らかになっていって非常に面白かった。

この著者の言うように、本当に日本語に原因の一端があると仮定するとすれば、外国語を学ぶ意味がさらに深くなるなと感じて、フランス語学習のモチベーションが上がったといういい効果もあった。日本社会を考える新しい視点を与えてくれただけでなく、改めて言語というものが人間心理に与える影響の大きさを思い知らされた一冊だった。

姑獲鳥の夏(京極夏彦/講談社)

あまりに有名すぎて、なんとなく今更感があり、ずっと手を出してこなかった京極夏彦さんに、満を持して今年手を出しました。

きっかけはふたつ。杉井光さんの『世界でいちばん透きとおった物語』(新潮社)を読み、本作でやたら出てくる京極夏彦さんの作品が急速に気になり始めていたこと。ちょうどそのタイミングで、京極夏彦ファンだというパーソナル編集者のみずのさんに「多分えなりさん好きだよ」とおすすめしてもらったこと。

結論:ほんとにすきだった。

まずめちゃくちゃ多い蘊蓄。最初からストーリーがめちゃくちゃ動くかと言うとそうではなくて、わりとしばらく蘊蓄。「小説じゃなくてちょっと読みやすい哲学書とかみたいだな」と思うくらいだった。でもそれが面白いし、このパートがあるからいいんだろうな感がすごかった。好き嫌いは分かれそうだけど。でも面白いので一度ぜひ読んでみてほしい。

あと、20ヶ月妊娠し続けている女性が出てきて題材が幻想的だからなのか、それとも彼の文体なのか、読んでる時に酩酊するような感じがあってなんだか気持ち良すぎる。一日ベッドに沈んで、読みながら昼寝して、起きてまた読んでって夢と現実の境界を曖昧にしながら読みたい系の小説。

この作品はシリーズもので、次巻の『魍魎の匣』と『狂骨の夢』も入手しているので、またこの年末年始にでも読んで酩酊したい。楽しみ。

ヒトラー(イアン・カーショー/白水社)

これは「ヒトラーについて知るならこれは外せない!」的な本だとどこかで聞いたことがあって、2年くらい前からいつか読みたいと思っていた。でも上下揃えると2万円を超えるとなるとなかなか気軽に買えず、ようやく勇気を出して今年のはじめに買った本。ちなみに私が持ってる本のなかで2番目と3番目に値段が高い(一番目は丸善出版の『フランス文化事典』)。

ヒトラーやナチスについては、本棚に関連本のコーナーを作れる程度には読んできたけど、確かにこれは面白いしすごかった。ヒトラーに迫るだけでなく、周囲の人間のことや当時のドイツ社会も多く描写されていて、ヒトラーを生んだものを含めて非常に多面的かつ深く彼のことが分析されていた。

読んでみて感じたのは、ヒトラーは李徴みたいだなということだった。特に若い頃は本当に李徴みたい。才能はないのにプライドだけはエベレストな感じ。あの「我が友、李徴子ではないか?」の虎になった李徴だ。尊大な羞恥心と臆病な自尊心を持つ李徴はその精神性ゆえに虎になってしまうが、ヒトラーは状況がたまたま味方し、国を治める人間になったのだと思った。そのため、どこにでもいる人が状況によってはこうなり得るんだなみたいな薄ら寒さも感じた。

この2冊は2ヶ月くらいかけて本当にめちゃくちゃ頑張って読んだので選びました。でも文章もとってもわかりやすいというか、ヨーロッパ人ぽいワードセンスが光っていて文体が好きでよかった。同著者の別の本も買っているので、これから読むのが楽しみ。

言語の七番目の機能(ローラン・ビネ/東京創元社)

わたし的・今一番の推し作家であるローラン・ビネによる作品。1980年に事故死したロラン・バルトの死は本当は事故死ではなかった。そんな設定のもと、彼の死の真相を追う小説だ。また、小説としてもそうだが、記号学を知る意味でもとてもいい本だった。

主人公のふたり以外は、ミシェル・フーコーにジャック・デリダにジャック・ラカン、ミッテラン大統領など実在の人物がゴロゴロ出てくる。それがこれ「よく怒られなかったね!」みたいな書き振りなのがまた面白い。フランス現代思想に明るい人ならなおさら面白いと思う。まだまだ無知な段階で読んじゃったのが残念。

ローラン・ビネはいつもこうしたフィクションと現実が混ざったような作品を書く人で、その塩梅がいつも絶妙なところがとても好きな作家だ。ナチス高官であるハイドリヒの暗殺を描いた『HHhH』は、実際の事件がそれを描く小説家の目線で描かれていて、こちらもとても面白かった。ゴンクール賞で最優秀新人賞を受賞しているそうなので、ご興味あればぜひ。

彼の作品はほぼすべてが翻訳されていて日本でもとても読みやすい作家だが、今年ルネサンス期のフィレンツェを舞台にした新作を発表しているので、それは翻訳前に原語で読めたらいいなと密かに考えている。

教養悪口本(堀本見/光文社)

わたしは昔から、おしゃれな悪口とか気の利いた悪口を言いたい願望がめちゃくちゃ強かった。今もそういうことを言える人になりたいと思っているし、皮肉とかも大好き。全然悪口とは関係ないけど、ボリス・ジョンソンが家に詰めかけた記者に対して、彼らの質問はフル無視して紅茶勧めまくって、最終的に紅茶飲ませた話とかも大好き。

そんなわたしが、この本を好きじゃないわけがなかった。

本書は、以前別のnoteでも紹介した『ゆる言語学ラジオ』の堀本見さんによる本で、堀本さんのさまざまな分野にわたる知識を活用した悪口が書かれている。

わたしが特に使っていきたいと思ったのは、「ヴァレンヌ逃亡事件じゃないんだから」という謎の余裕を持っていたせいで納期に遅れる人や遅刻する人に対する悪口だ。

ヴァレンヌ逃亡事件とは、フランス革命が起きてしばらくした頃に、マリーアントワネットとルイ16世がフェルセン伯爵の手引きで国外に逃亡しようとして失敗した事件だ。

フェルセンはピリピリしてるのにマリーとルイがあまりに呑気。フェルセンがめちゃくちゃ頑張って計画立てたのに逃亡の日もズレるし、フェルセンの先導がなくなってからはピクニックしたりする。まじで呑気すぎるけどなんかマリーとルイっぽい。でも逃亡してれば死ななかった可能性が高いのにまじで何してんの。

それはともかく、この事実が由来となって「ヴァレンヌ逃亡事件じゃないんだから」という悪口が生まれている。

使っていきたいというより、周りに『1789』とか『ベルばら』とかフランス革命ものの作品のファンが多いから、これなら「やばいヴァレンヌじゃん」みたいに使えそう、が正しいかもしれない。

悪口そのものもそうだし、なぜそれが悪口として成立するのかの解説も面白い。雑学的な読み物としてめちゃくちゃ面白い一冊だし、だいぶ笑えるので、手軽に明るい気持ちになりたい時におすすめしたい。


こうして並べてみると、今年は読書が偏ってると思ってたけど意外といろんなジャンルの本読んでた。ここで紹介したものに限らず面白い本にたくさん出会えて、著者や訳者のみなさまはもちろん、出版社の方々にも感謝しかないです。いつもありがとうございます。

来年はもう少し遺伝子とか脳科学とか理系の勉強をしたいな〜〜と思いつつ、でも改めて哲学もやりたいし近代思想の勉強もしたいし、フランス革命の話も読みたいし、推し思想家・シオランの本も読みたい。

とりあえずこれからはまず『銃・病原菌・鉄』を読み終えて、次はそれを意識して書いたというローラン・ビネの『文明交錯』と、『銃・病原菌・鉄』が取りこぼした部分を書いているらしいジョセフ・ヘンリックの『WIRED』を読もうと思う。でも先ほど書いたように京極夏彦も読みたいし、チャーチルの『第二次世界大戦』とウェルベックの『滅ぼす』も読みたい。あと東大の理系の先生が未来予測を語る本とCRISPRの本と免疫の本も……。

本当に時間に対して面白そうな本とか読みたい本が多すぎて楽しいけどキレそう。なんなんだ。錬金術じゃなくて錬時間術したい。そういう本あれば教えてください。ともかく、しのごの言わずに来年も(残りの今年も)気合い入れてたくさん読もうと思います。来年もよろしくお願いいたします〜〜

12月からフランスに行きます!せっかくフランスに行くのでできればPCの前にはあまり座らずフランスを楽しみたいので、0.1円でもサポートいただけるとうれしいです!少しでも文章を面白いと思っていただけたらぜひ🙏🏻