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【書評】奈倉有里著『夕暮れに夜明けの歌を 文学を探しにロシアに行く』

ロシアという国には、抗いがたい魅力がある。

隣国でありながらも決して東洋ではなく、ではヨーロッパかというと、ヨーロッパと聞いてわたしが真っ先に想起する西欧諸国とは、何かが決定的に違う気がする。独特な世界観を持った好奇心を刺激してくる国。そんなイメージを、いつの頃からか持っていた。そのせいかロシアと聞くとつい心惹かれてしまうところがある。
ロシアとウクライナとの戦争が始まって半年が経つ。この半年は、なおさらロシアがわからず、この大きくて、そして雪に包まれた隣の国のことをもっと知りたいと考えていた。

そんなときに出会ったのが、奈倉有里さんの『夕暮れに夜明けの歌を 文学を探しにロシアに行く』だった。

奈倉さんは、「ロシア国立ゴーリキー文学大学」を日本人ではじめて卒業したロシア文学者だ。ノーベル文学賞を受賞したアレクシエーヴィチの『亜鉛の少年たち』の翻訳のほか、ロシアの動向についての文章も執筆されている。
ちなみに、2022年本屋大賞を受賞した『同志少女よ、敵を撃て』の著者である逢坂冬馬さんは弟君だそうだ。

本書は、奈倉さんがロシア語に出会った頃から、ロシアに留学して文学大学を卒業するまでの出来事が中心に記されたエッセイである。

その瑞々しく流麗で、どこか優しさと物悲しさをもった文体は、読んでいてとても心地が良かった。ちょうど今も吹いている、夏の終わりの秋の匂いが混じった風のように。

ニーチェの「神は死んだ」という言葉に吐いてしまった信心深い女生徒、最初は服のボロボロさに懐具合を心配したが、そんなことはどうでもよくなるくらい面白い授業をしてくれた語学学校の先生。そして文学大学で出会ったかけがえのない友人と、恩師である教授。

こうした人々との、文学を通じて心を通わせる日々が綴られた本書からは、ニュースだけでは決してわからない、手触り感と温度のあるロシアが感じられる。

また、著者とはまったくレベル感が違うものの、特定の外国が好きでその語学を学ぶ者として、留学する前の語学を勉強している時期の描写は、特に共感できることが多く、その点でも楽しく読めた。

ロシアや文学に興味のある人だけでなく、語学や外国が好きな人にもぜひ読んでほしい一冊だ。


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