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エッセイ:友情

居酒屋の店内BGMを当てたことがある。

去年の7月末、秋葉原の居酒屋。大学時代の友人と飲み会をしていた時のことだ。

アルコールも回り、思い出話に花を咲かせていたその時である。ふと耳に店内BGMのジャズが飛び込んできた。管楽器の音が心地良い。

突如として、脳内に電撃が駆け巡った。
自分はこの曲に聞き覚えがある。それも昔ではなく、ごくごく最近の記憶。

とっさにSpotifyを開き、ライブラリに登録しているジャズアルバムを一瞥する。
ジェリー・マリガン、違う。
マイルス・デイヴィス……、違う。
ブルー・ミッチェル……でもない。

雑談を続ける友人たちには目もくれず、心当たりのあるアルバムを探す。

あった。

アート・ペッパー、『Art Pepper Meets the Rhythm Section』より「Tin Tin Deo」だ。軽快なパーカッションに、流れるようなサックスの音色。間違いない。

スマホを懸命にいじっている自分に、友人の一人が声を掛けてきた。
「何調べてんの?」

「この店のBGM聞いたことあったわ、これ」
そう言うと、自分はスマホの音量を上げ、友人たちにこの曲を聴かせた。

彼は顔を上げると、言った。

「んだよ、自分一人で気持ちよくなってんじゃねえ」

男同士の友情である。


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