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40歳で、コント台本を書き始める。

コントでメディアが溢れている。

ここ数年、コント師のメディア露出量は増え続けているように思う。過去20年と比べても、最もコントが元気な時代は、今だ。キングオブコントのファイナリストたちはもちろん、それ以外の芸人もよく見かける。地上波テレビでは「有吉の壁」の存在が大きいが、あわせてYouTubeやTikTokでのコント配信も目立つ。

たとえばジェラードン、レインボーのYouTubeチャンネルは、いずれも登録者が100万人超。ラバーガールもTikTokのフォロアーが60万人超。いずれも個性が色濃く出ているのが良い。自分たちのキャラクターに似合う題材を、そのまま提供できているように見える。

ジェラードンチャンネル

聞けば、多くのコント師は、コロナ禍以降、単独ライブの配信によって収入が安定し、ネタ作りに集中しやすい環境ができたそうだ。生活の安定は喜ばしいことだが、それ以上に、自分たちのスタイルを貫いたまま、それを収益に繋げられているのが良い。自分の世界観を貫いた方が、差別化できてウケる時代。そして、自分らしければ、無理なく、長く続けられる。

少し前、売れるための唯一解がテレビしかない頃、芸人たちはこぞって、慣れない1分ネタやリズムネタに自らを押しこんでいた。その時代に比べれば、お笑いの世界は多様になった。コロナ禍が結果的に、時代を良い方向へ進めたのかもしれない。

地上波テレビや、Abemaなどのネット系でも、コントの力は通底している。スタジオでセットを作って撮るような、いわゆる「テレビコント」の番組は、コストの都合で、あいかわらず作るのが難しいようだが、一方で、コントの魅力を軸にした番組はいくつもある。チャンスの時間やゴッドタンは、ミニコントをつないでいく番組だし、脱力タイムズは、全編コントの番組だ。そして賞レースも。キングオブコントはもちろん、R-1も、実質コントの大会だ。テレビもコントで溢れている。

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多くのコント師たちは、これまでの人生経験をコントに昇華させている。評価されている人ほど、芸人自身の物語がコントに滲み出ているように思う。もちろん、コントはフィクションであり、演技ではあるのだが、そこに「ニンが出ている」「体重が乗っている」コントの方が、真に迫っていて、観客も笑える。巨匠も、蛙亭も、ルシファー吉岡さんも、人間味が出ているからこそ面白い。

もしかしたら、近年の「スタイルを貫いても、収益化できる環境」は、それを実現しやすくしているのかもしれない。芸人が、人間ありのままでいられる状況が整ってきた、と言える。

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私の本業はゲーム開発者だ。ゲーム会社で、かれこれ20年近く、開発職をしている。そして今回、新たに、noteで「犬ゲームス株式会社」というコントの台本を書き始めた。これは、ゲーム開発現場を舞台にした、群像コントシリーズだ。

「人間味が出ているからこそ面白い」。これは、プロの興行師に限らない気がする。一介の会社員でも同じだろう。手垢にまみれた表現になってしまうが「人生はコント」なのだ。悲劇は、カメラを引いて俯瞰で撮ると、喜劇になる。

私は、ゲーム業界や、ゲーム開発者への愛着がある。ゲームそのものと同じぐらい、ゲーム業界も好きだ。メディアに出ているスタークリエイターだけが、ゲーム開発者ではない。私がこれまで接してきた人は、その多くが商業ゲームの開発者だ。彼らは表舞台には立っていないが、愛すべき人物がたくさんいて、美しく、感情豊かな日々を送っている。開発現場で起こる人間ドラマも、劇的ではない場面にこそ、面白みは満ちている。

ゲームは、プレイヤーの素直な欲求に応えるメディアだから、それを作る現場にもおのずと、素直な人間の業が露出しやすいのかもしれない。開発現場には、いたるところに人間味が浮かんでいる。

人生はコントだそうだ。ならば、このコントを、誰にも見せずに留めておくのはもったいない。私は、開発現場の素の魅力を伝えるべく、ゲーム開発あるあるをベースにしつつ、完全なフィクションとして描くことにした。

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私は、お笑いとゲーム開発が、両方大好きだ。ゲームへの愛は、そのまま仕事になったが、一方のお笑いへの愛は、どこにも発露する場がなく、ただ、こじらせたまま生きてきた。仕事で、多少、ゲームのシナリオを書くことはあっても、お笑いとはほぼ無関係だった。もしかしたら、この場所なら、その両方を活かせるかもしれない。コントを書くのは未知の領域だが、これまでに見た、偉大な先人たちのコント技術に敬意を払いつつ、少しずつ形にしてみようと思う。うまくいくかは分からないが、挑むのは楽しい。

これを、ゲーム業界に興味がある学生の方が読んで、ゲーム開発への親しみが少しでも増したなら幸いだ。フィクションとしての誇張はあるものの、職業ものエンタメとしては、踊る大捜査線と同程度のリアリティはあるだろう。また、同業者の人には、慰めの役に立てるかもしれない。異業種の、同世代のおじさんもだ。だって対岸で、自分と同じぬかるみに足を取られているおじさんがいたら、なぜか安心するだろう。それが私だ。

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表現するにあたっては、主にデザイン面で生成系AIの力をふんだんに活用している。AIは乱暴だが、パワフルな相棒だ。個人製作で作るには「AIが生む、多少の粗には目をつぶって、そのまま素材の味にする」意識で臨んだ方が、楽しみながらやれる。

※唯一、ドット絵だけは手打ちした。オールドゲームファンにはいわずもがなだろうが、1994年発売のとあるゲームへ、桁外れのリスペクトを持っている。

技術的には、コントをすべて動画にしてYouTube公開もできるのだが、時間の都合でいったん、あきらめている。(今は本当に一人でやっているので)仲間が増えたら、いずれ考えてみたい。

人間の手作業による台本制作に、いつまで価値があるかは分からない。全てをAIが作れるようになり、いずれ人間が関わる余地がなくなるかもしれない。ただ、その時は、まだ来ていないようだ。ならば日が暮れるまで、もうしばらく遊んでいよう。

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<犬ゲームス株式会社とは?>

ゲーム会社を舞台にした、群像コントシリーズ。

「事件は、小会議室で起きてるんだ!」10人のゲーム開発者が巻き起こす、公私混同、世代格差、仕様変更、バグ、残業、そして福利厚生。

「犬ゲームス株式会社」のコントはこちら


※文中のチャンネル登録者数のデータは、2024年3月末現在の情報を基にしています

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