ばいばい、またね、カルドラド
今日は壮大なラブレターをひとつ。
ただの想い出に浸る振り返り、自己満足、誰得な内容だけど書き残しておきたかったので。
わたしがいつも心に留めている言葉。道具を極めるよりも先にやること、あるよね?なんて言われたら誰だって返す言葉がない。
そりゃそうだよ、アスリートが仕事でもない限り、身を極める限界もあるし(ないっていったってそんなのうそだ)、自分の能力+αや安心感を求めたっていいじゃないか。
わたしにとっての道具の意義はなんだ
何を着てたって、何を履いてたって、なにも持っていなくたって、身ひとつで走れたらかっこいい。2014年に来日して沸いたトニー(アントン・クルピチカ)なんてそのものだったのかもしれない。いっぽうで、キプチョゲのBreaking2みたいに潜在的な能力を最新の技術で引き出すようなのだってかっこいいと思う。
最先端の道具で驚異的な記録を叩き出すブームと、動物的な本来の姿に戻るが良しとするブームが交互に訪れていたが(ブームってだいたいそういうもんよね)、いまはなんだって個性、多様性の時代だからかその両方が流行っている気がしてここ数年わたしは混乱している。
結論からいうと、わたしは結構なんでもアリなほうだ。
それは仕事柄、いろんなモノをレビューしなきゃいけないし、時には初めて使うモノでレースを絶対完走しなきゃならないこともある。なにかに固執していると仕事にならない。登山スタイルも同様で、UL界隈の人には「ULなんてできないでしょ、荷物重いもんね」と思われていて、ガチ山岳寄りの人には「重い荷物なんて背負えないでしょ、トレランだもんね」と思われているけれど、正直なんだってだいたい“いける”。あのー、どっちもほどほどにできるようにしていますから、どうかいろんなお仕事ください(笑)
それにトレイルランニングはどんどん新しい道具が出てくる。レビューなんか追いつかない。ザックも、ウエアも、アクセサリーも、シューズも、その他小物類もぼーっとしていたら乗り遅れるくらい目まぐるしい変化がある。消耗が早いスポ―ツなのに、気にいった道具がもう次のシーズンには販売終了(廃盤・モデルチェンジ)しちゃったりする。えー、次のモデルじゃ合わないよ~!みたいなね。
だから、なんも持たずなんも着ていない真っ裸のわたしを基本プランとして、そこへオプションとして加わっていくのがわたしにとっての道具の使い方だ。このプランならこうなりますよ、こっちのプランならこうなりますよ。あなたはどうなりたいんですか?それによって選ぶプランは違いますよ。
フツーの女に必要だった定番品
挑戦だの新しい世界だの、もっともらしいことを言ってはいるけれども、わたしって結構保守的だ。どの口が言ってんだと思うかもしれないけれど、買い物は自分でもメンドクサイと思うくらいには悩むし、悩んで悩んだ末に買えなかったりもする。買い物で何かに迷った時、めっちゃフツーの女なわたしは、「だいたいの方がこちらを選びますね」と言われたもので間違いない。みんなと一緒はあんまり好きじゃなくって個性を出そうとするけど、結局は定番品が一番良かったりする。
ちなみに身長は155cm、体重は××kg(標準+のぽっちゃり)、足のサイズは23.5~24cm、3人兄弟のまんなか、万年ダイエッター。「一般的な日本人の成人女性」にあてはまる。
バッチリはまるわけじゃないけど、ほぼ問題ない。平均的なもので良いというのは有難いことで、いちばん多く生産されているから在庫が豊富だし、買えないことも少ない。セールでは最初になくなっちゃうけど(売れ残りにくい)、取り寄せなきゃないって経験はあんまりない。
そんなわたしにもコマッタ時が来た。個性の時代である。道具まで個性的になってきた。超トンガったものがおおい。シンプルベーシックと思いきや、どこか優位性や独創性をもたせないとモノが売れないのかもしれない。ちょっと、ちょっと、定番の、めっちゃフツーの、だれにでもだいたい合うアレ、どこいったのよー!
黎明期から定番品だったモントレイル
トレランシューズに関してはそれが顕著だと思う。めっちゃ厚底だったり、めっちゃペラペラだったり。どういう足でどういう走り方で、どうなりたくてどう走りたいのか、自分で自分をわかっていないと迷子になりやすい気がする。見た目も個性的だし、ウエアも個性的なものが多いから、個性×個性みたいになっている。みんなうまいこと着こなしていて、「あぁぁわたしには似合わないどうしよう」ってお店の鏡の前で落胆している。
いままでいくつかのシューズを履いてレースに出た。自分で買うものだけでなく、タイアップやテスト&フィードバックなどのシューズ提供で、数回履きならしていきなりレースに出ることもあった。足型も体型も走力もフツーだし、(履き熟せるかは別として)わりとなんでも履こうと思えば履けるのが自分のいいところだと思っている。あまりに奇抜なシューズを履くことは少なく、比較的ベーシックなものが多い。で、これまで履いたブランドのなかで最も多いのはモントレイルだ。
モントレイルとの出会いはかなり長くて、えーっと・・・2014だと思う。初めて買ったシューズはsalomonのXT WINGS3ってやつで、2足目がモントレイルだった。モデルは「Bajada(バハダ)」。初代だったんじゃいかな。
モントレイルの名作と言えば、バハダの前に MOUNTAIN MASOCHIST(マウンテンマゾヒスト、今思えばすんごい名前)ってのがある。エントリーランナー向けのシューズで、現代の軽量シューズと比較したら重いし見た目もゴロッと感があるものの、耐久性、安定感に優れていた。登山からの初トレランでも、ロードからの初トレランでも「山を走るの?危ないじゃん!ランニングシューズじゃだめだし・・・何を履けばいいんだ!?」という心配があった時代に応えてくれるしっかりとしたシューズだった。
その次に出たもうひとつの超ロングセラーモデルがBAJADA(バハダ)。マゾヒストよりもスマートで足さばきもよく、ほどよいクッション性と柔らかさ、適度なグリップでまさに「軽快に走るトレイルランニング」を叶えた。軽トレッキングシュース感のあったエントリー層向けトレランシューズがロードシューズに一歩近づいたと感じた。モントレイルのフラッグシップモデルとなった。わたしもかなり履いた。
長年の相棒、カルドラドへの愛
でも最も長く履いたのはその次に登場した Caldorado(カルドラド)。初代はおそらく2016年発売だったと思う。9年も同じモデルのシューズを履き続けていたことになる。バハダと何が違うのって言ったら、個人的な意見としては「無難さを残しつつも柔らかくて足にも地面にも馴染む」ことだった。
カルドラドⅡからは、アッパーに施されていた重厚なサポートがなくなり、基本的には圧着のTPUフィルムになったから、前後左右の屈曲というか柔軟性がかなり増した。色んな路面の変化や凸凹に沿ってシューズが沿う感じがわたしは好きで、ベアフットほどじゃないけれどちゃんと路面状況(木や石)の様子も感じられる。
ラグの深さもソールパターンもグリップも正直言って無難なほうで、グリップしまくらないけど滑りもしない。天候も路面も変化を繰り返すエンデュランスでは、ちょっと滑るくらいが具合が良かった。アッパーは何度もモデルチェンジがあってかなり変わったけど、どれもソフトでレース後半の浮腫みで圧迫されなかった。
クッション性はほどほど(厚くも薄くもない)、ヒールカップやシュータンはやや厚めのソフトなパッドで、足のトラブル時にシューレースを調整しても足が抜ける感覚もなくキツすぎることもなくて本当に万能だった。耐久性についても、そりゃ履いているうちに、良くある親指や小指のアッパーの穴あき、つま先のソール剥がれはあったけど、ミッドソールが限界になるくらいまでの走行距離・期間に耐えてくれる丈夫さがあった。里山でもアルプスでも履いた。ヨーロッパでも東南アジアでも履いた。岩でも泥でも晴れでも雨でも履いた。
なにより、モデルチェンジをしても(たぶん)シューズの木型やソールユニットが変わらないのが良かった。変わっていたのかもしれないけど(笑)、わたしには全くわからないくらい変わらない安心感があった。だんびろ甲高の人には窮屈かもしれない。良い意味で際立った特徴がないことがわたしに合っていた。シューズの機能は色んな部分に散りばめられていて、最近はプレート云々が注目されがちだけど、それよりなにより優先すべきは絶対「足型に合うかどうか」だと思う。
絶対的な信頼をもってカルドラドを履いていた。2016年のUTMB前から履き始めて、最初はロードでも履いていたし、トルデジアンも最初から最後まで、2019年の海外レース連戦も、昨年のタイも、今年の球磨川でも履いた。6年半で何足履いたかもう数えられない。もちろんカルドラド以外もシーンに合わせて履き替える。最近のスタメンはsalomonのSENSE4とsportivaのサイクロン、ロードシューズはtopo、HOKA、NIKEも履いてる。でも、でもでも、100km以上のトレイルレースでブランドの指定がない時はカルドラドだった。何だってたぶん走れるけど、安心なんだ。経験を重ねる度に、あの嵐のなかでもこれを履いたんだから大丈夫、あの過酷なレースをこれで走ったんだから大丈夫、と思うようになった。
依存しすぎると、抜け出せなくなる
いつか別れがくるかもしれないモノやコトに対してに必要以上に頼らないように心がけているけれども、付き合いが長くなればなるほど信頼関係が醸成されてそれは難しくなり、そういう時に限って突然別れの時がやってくる。
なんでもアリ派なはずが、いつのまにかカルドラドに頼りきっていた。困った時のカルドラド、これなら大丈夫だから。トラブルの心配はない。雨でもOK、雪でもOK、浮腫んでもOK。そういうものをほかに見つける努力をしてこなかった。シューズ以外はそんなことないのに、なぜかわからない。あまりに相性が良すぎたのかもしれない。
バハダとカルドラドはモントレイルの超ロングセラー、いわばブランドの看板みたいになっていた。次々にモデルチェンジをして全く別のシューズになっちゃう業界のなかでめちゃくちゃ貴重な存在だった。マイナーチェンジはあってもなくならないもんだと思って安心しきっていた。
「来年、もうやらないんですよ」
えっ、そうなんですか?最初に聞いた時はあんまり信じていなかった。なぜだ。受け止めきれなかったのかもしれない。自分のなかで気持ちの整理がつかないままに、あっという間に姿を消してしまった。その存在の大きさに気付いた時には手遅れだった。なんだそれ、恋か。うーん、長年連れ添ったなんちゃら的な。
在庫を買い占めておけばよかったのに、気付けば売り場からなくなっていて、ボロボロのくしゃくしゃになったカルドラドをいまでもしがみつくように履いている。在庫を探してもいいけど、もう継続されないんだからそれもいつかは終わる。どうしても捨てられない。泥がついては洗い、端が破けそうになったら繕い、「古くなったシューズはよくないよ、故障に響いてるんじゃないの」と指摘されてさすがに重要なシーンでは履かなくなったが、いまも靴箱にある。まだ履けるんだけどなぁ、歩くくらいならいいかなぁと。ちょうど故障と重なって、トレランシューズの出番が少なくなったまま、何も新調できていない。想い出がいっぱいいっぱい詰まった相棒を撫でながら、困り果てている。
でも、もうないものは、ない。新しい相棒を探す旅は長いかもしれない。でも、そうだった、道具が走るんじゃない、自分が走るんだよ。その気持ちで新しい一歩を踏み出そう。
トレイルランニングシューズの新時代とともに自分も変化する時
モントレイルは今年はTRINITY AG(トリニティ AG)という1型になった。まだ試していないけれど、足型に合う近道はモントレイルかもしれない。わたしがトレイルランニングを始めた頃は、黎明期終盤?かブーム初期といったところだろう。さかいやスポーツシューズ館でシューズを買う時、店頭にはまだHOKAもALTRAもなかった。初心者はSALOMONかMontrailかASICSあたりが定番だったと思う。ゲルフジ!懐かしい!
そのあとHOKAが日本上陸したが、最初はスティンソンという1型だけだった。あの時大きなブランドになるとは想像できないくらいかなり奇抜な印象だった。あ、でもニューバランスのミニマスとかも奇抜だったな。ビブラムとか。厚底はその後だったかな?
2022年、どのくらいのブランドがあるんだろう。10か、いや、もっとある。めっちゃくちゃ選択肢があるんだからきっと合う一足があると思う。でもそれもまたすぐ別れがくるだろうから、いくつか合うのを見つけておいたほうがいい。シューズってだれが良いと言っても、自分の足のことは自分にしかわからないし、お店で足入れしていい感じでも、10km、100km、200km走ってどうかだなんてやってみなきゃわからない。そのくらい相性の良い相棒を見つけ出すのは難しいって思ってる。
モノもヒトも、常に変化が求められる時代なのかもしれない。変わらないものがあってもいいんじゃないかって思うのは古いかな。ちょっぴり寂しいな、定番がないって。
自分も変わり続けなきゃいけないのかもしれない、ね。
いままでたくさんのレースでわたしの足元を支えてくれて、たくさんの感動ありがとう。ばいばい、またね、わたしの相棒。
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