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メディアが教えてくれないUTMF完走のヒント〜テールエンダーの心得~

いくつかの100マイルレースに出てきましたが、実はわたしは100~120kmくらいが得意だったりします。あと、日本では100マイルがトレンドとか100マイル信仰的な空気感がありますが(100マイラーって言葉もそこそこ奇妙で/じろーさんのブログ参照)、わたし自身はさほどこだわりがありません。

むしろ苦手かもしれない。だって100kmよりも200kmよりも、走り続ける時間が長くて寝れないししんどいから。まぁそれは走力にもよりますね(笑)100マイルに挑戦したい!という想いを否定するものではありません。10km、ハーフ、フル、ウルトラ(100km)みたいなカテゴリのひとつであり、目標としてはわかりやすいものです。

では、UTMFはどんな100マイルなのでしょうか。今回のテーマは具体的なUTMFのエピソードを交えて、ビリッケツ時代が大変長いわたしが伝えたいことをまとめました。

どんな100マイルが完走率が高いのか?

UTMBは一度しか走ったことがありませんが、まだ引き出しの少ない頃で、熱中症になったり、吐いたり、眠くなったり、足が痛くなったり、とにかくめちゃめちゃになりながら45時間くらいで完走しました。路面はさほど悪くないですが、日本のトレランレースにはない何時間もかかるような登り、標高何千UPというスケールの大きさが特徴です。制限時間は46時間と長めですが、ボリューム後半は意外と関門に引っかかります。過去に天気が荒れて雪でコース変更になったり、雨でスタート時間が変わったりしたことがあります。天気が荒れた方が過酷に思えますが、実はピーカンの年の方がずっと完走率が低いです。日影が少なく、日中は体感では40度近いでしょうか。しかも空気が乾燥しているから汗がどんどん乾き、水を被っても冷たさは一瞬です。鉄板で焼かれているよう。樹林帯が多い日本からの参加者も皆苦しみます。UTMBの難しさと言っていいでしょう。

North Downs Way100というイギリスのレースに出る時にはかなり緊張しました。累積標高はたった3300mくらい。ただし、170kmくらいあるのに、制限時間は31時間。それまで100マイルに30時間以上かかっていた、ビリに近いわたしにとってはかなりのチャレンジでした。いわゆる走れるレースってやつです。公園や丘みたいなところを、とにかく走って走って走りまくりました。結果的にはかなり頑張って24時間ちょっとだったのですが、ギリギリで完走するにしてもなかなか大変なレースだと思います。気温も高く、走れるが故に補給も難しく、大量の汗をかいて、吐いてる人が結構いました。わたしも全身が攣って、ストレッチを繰り返しながら走りました。走れる=楽ではありません。日頃30時間も走り続けませんからね。

球磨川リバイバルトレイルはそのどちらでもない感じでした。前半は心地いい森がありますが、2/3は林道とロードという印象です。高低図でピョーンととがっているところは山だと思うじゃないですか。でもそのてっぺんまで全部林道で走って登らなければならないセクションがいくつもありました。下りも林道、登りも林道、繋ぎはロード。かと思えば短いトレイルが急登すぎたりと、「身体の使い方の引き出しの多さ」を試されるレースでした。筋肉や動きを使い分けないと脚を傷めてしまう。同じ場所ばかり使うと筋肉が張って、走り続けられません。関門は(前半以外)さほど厳しくない印象でしたが、簡単とは言い難いですね。

いずれにしても、楽な“100マイルレース”なんてなさそうです。

いまのUTMF、全部歩いても完走できる?

パワーウォークと言われるような超早歩きが得意な人なら全部歩いても完走できると言った人がいますが、わたしはそれは無理だと思います。富士山の周りをぐるりと一周繋がっていたころのUTMFはトレイル率が高く、いかにうまく歩きを取り入れるかという考えも必要だったかもしれません。

165.3km +7,573m。制限時間は44時間。全く停止しない(トイレもエイドも除く)として、15分58秒/kmペースです。

人が普通に歩くスピードは、一般的に20分/kmくらいだと思っていいでしょう。15分/kmってそこそこ早歩きです。その時点で、初心者が休憩なしで登り下りのある山も含むこのコースを1km15分ペースで進み続ければ完走なんて不可能だと明確です。

レース中、動いていない時間はどのくらい?

100マイルレースでは、動いていない時間ってどのくらいあるか考えたことはありますか?今年のUTMFはエイドが9つあります。わたしは「エイドは3分」を合言葉にしています。でも実際には3分で済ませられたことなんてほとんどありません。

ほぼサポートなしで走るわたしは前半(60~80kmくらいまで)はできれば3〜5分、トイレ込で10分、後半は10分~20分以内、ドロップバックポイントでは目標20分、長くても30分を目安にしています。トップランナーでもない限り、トータル1.5~2時間ならすごいんじゃないでしょうか。初心者なら少なくともトータル3時間以上みてもいいかもしれません。

制限時間44時間から3時間を引くと41時間。41時間で165.3kmを完走するには、平均して14分52秒/kmです。登り全部をこのペースで歩けるでしょうか?眠くて眠くて仕方がない時、後半のボロボロで歩くしかできない時、日常の歩きペースよりも速いスピードを維持できるでしょうか。

3時間で9つのエイド=各20分です。そんなにかかるか?と思うかもしれませんが、ほんとにエイドでの時間の経過はあっという間なんですよ。仮眠を取ったりなんかしたら、あっという間にトータル4時間、5時間と加算されていき、長いはずの制限時間はどんどん減っていくのです。エイド以外にもコース上では、レインウエアを脱ぎ着する、ふぅ、と息を整える、ライトの電池を入れ替える、背中に入っている補給を出す、たまには綺麗な富士山の写真を撮りたい、といったふうに実は何度もなんども足を止めています。それがたった1~2分でも、トータルすると何時間にもなります。

UTMFは、100マイルデビューに“ちょうどいい”

っとここまで散々脅しておいてナンですが、いまのUTMFは初心者向きだと思います。なぜならロード・林道率が高くほどよくトレイルもあるからです。165.3km +7,573mというスペックは、ほどよい獲得標高だと思います。多すぎず少なすぎず。この7,573mが全部テクニカルな山岳ならば非常に厳しいですが、林道やロード、走りやすいトレイルもあります。飽き飽きする、アスファルトで足が痛いといったことはさておき、走れるか走れないかでいうと、走れるセクションが多いはず。

アスリートのように速く走らずとも、最後までちゃんと走ることが初心者・テールエンダー(最後尾付近)にとってはとっても大切です。たまにテンション上がって前半で飛ばしすぎ、オーバーペースが全てを狂わせてしまう人もいます。オーパーペースは大量の汗、からの脱水、からの内蔵疲労、筋肉への影響などいいことなしですが、だからと言って「前半抑える」をはき違えて最初から歩きすぎでも間に合いません。大事なのは、走り続けるという意志。走れるところをがんばって走っていると、疲れて歩いている人を追い抜くことだってあります。コツコツでもいいから、走るんです。歩いていては完走できない、だってこれは、“トレイルランニングレース”ですから。

UTMF攻略のタメになるかもしれない小ネタたち

壮大なレースを便器からスタートする問題

信じられないかもしれませんが、UTMF2019では、わたしは便器の上でスタートのカウントダウンを迎えました。おしり丸出しです。おしり丸出しの状態で、5!4!という声に合わせてトイレットペーパーを超高速で巻き取り、3!2!でおしりを拭いて、1!でランパンを思い切り引き上げ、スタート~!!!という声と共に、バンッ!と扉を開けて飛び出しました。

200mほど向こうで人の群れが動き出すのが見えました。

並んで仲良く一緒にスタートするはずだったランスタトレラン部のメンバーの子とトイレ列ではぐれてしまい、人の波に揉まれながら彼女を見つけ出すのに必死で、中途半端にめくれたパンツのことなんてどうでもよくなるくらい混乱したスタートでした。

今年はコロナ禍によりウェーブスタートが導入され、15分ごとに500人ずつのようです。でもトイレはウェーブごとに区分されないでしょう。最初のウェーブから最後のウェーブまで1時間差がありますが、おそらく最後のウェーブの人も会場には到着しているはず。結局のところ2500人の選手をさばけるトイレのキャパシティは不可能なのです。

宿でトイレを済ませてきても、やっぱり会場で「最後にもう一回行っておこうかな?」となるものです。会場には仮設トイレがずらっと並んでいますが、おすすめは早めに並ぶか、駐車場近くのトイレで先に済ませることです。会場からは少し離れていますが、何十分も並ぶならあっちに行けばよかったと思いました。2019年の時は15分か20分くらい並んだような…いや、もっとだったかな…

ITJ2020の時も同様で、UTMFの二の舞になりたくないと、トイレを我慢してスタートしました(笑)2500人もの人を行列なしにトイレに行かせるのは簡単ではありません。会場としては、かなりたくさんの仮設トイレを用意してくれています。選手がうまく工夫して、トイレダッシュをしなくて良いようにしましょう!

暑くて寒い日本の春の山

今年の天気がどうなるかまだわかりませんが、日本の今の時期はすごくややこしいと思います。夏のような天気かと思えば冬に元通りで片付けたコートや毛布を引っ張り出してきたり。山ならなおさらです。

2018年に出た時は終始良い天気だった気がします。でも朝方は寒くて寒くて、休み過ぎて身体が冷えて、震えながらエイドを出たりもしました。2019年はスタートから雨でウエアや身体が濡れ、天子では泥だらけ。その後止んだものの樹海や精進湖あたりは寒くてガクガクと震えました。ぽかぽか陽気を挟んで一転、急にみぞれ雪です。山中湖で再開を願いつつサバイバルブランケットとフリースに包まりました。

昼間は暖かく(晴れなら暑く)、夜や朝方は寒い。山の上だけでなくエイドも寒いです。サポートがいる人はぜひブランケットを用意してもらってください。余裕があればTシャツの着替えも効果的だと思います。わたしは中間地点でパンツやブラトップも着替えたりします。アンダーウエアがいちばん冷えるんですよね。

いまから可能な範囲で、レイヤリングも十分に考えてください。わたしは普段寒がりなのにレースの時はなぜか暑がりで終始半袖短パンなのですが、ちょっと冷えはじめると一気に筋肉が動かなくなります。そのまま我慢して走って、でもやっぱり寒くて着たら身体が温まって脚が動くようになった経験が何度もあります(学ばない奴)。

最近までコースには雪があったみたいですね。つまりそういうことです。寒いんです。面倒かもしれませんが、脱ぎ着することが安定したコンディションを保つポイントです。着るのも大事ですが、脱ぐのも大事です。そして何事も体調が悪くなる前に「ちょっとはやめに」対処する、です!

エイドは3分

前半にも書きましたが、初心者やテールエンダーの心得として言うならば、エイドは3分です。実際にはなかなか3分に収まらないのですが、そのつもりでテキパキ出ることが大事。

例えば10分いたとして、7分前に出発した選手はどのくらい先にいるでしょうか。もう遥か先です。ドロップバッグのエイドで1時間いたとします。30分前に出発した選手はおそらく次の山でしょう。トータルのエイド時間が1時間少ない選手に追いつくにはどれくらいスピードを上げなければならないでしょうか。

逆に、1回のエイド時間を5分でも、3分でも、1分でも短縮するだけで、他ののんびりしている選手よりもグッと速くなります。同じスピードで走っていても、1時間くらい早く完走できる可能性だってあるのです。こんなオトクすぎる技をやらないなんてもったいないと思いませんか?わたしがレース後半に決まって順位を上げるのはほぼこの効果だと思います(あ~ネタバレ)。

もちろん休憩することで再び頑張れることもあります。ちょっと寝たほうが逆に眠気が覚めることも、横になって毛布に包まることで気持ち悪さが収まることもあるので、トラブル時は例外です。でも元気ならダラダラする意味はありません。パパッと水分を補給して、(うどんやスープを除き)持ち歩ける食べ物は手に持ったりポケットに入れて、エイドで座って食べるのではなくて、歩きながら補給します。F1のピットインのイメージです。

サポートポイントが4個所ありますが、これも注意が必要です。サポートがいるとトップ選手はエイド時間が短くなりますが、逆に初心者はサポートエイドのほうが長くなるんじゃないかと思います。仲間に会えてほっとしたり、サポートし慣れていなかったりされ慣れていなかったり(あれどこだっけ?うどんもう少しであったまるよ!など)、おしゃべりしたり。あれもこれもとなって、時間がかかってしまうことがあります。サポートにはタイムキーパーもお願いしてください。1分たったよ、3分たったよ、5分たったよ、「はい!出て!」とお尻を叩いてもらいましょう。居心地が良いとお尻に根が生えちゃいますから(笑)

サポートなしの人は、レース中は正常に脳が働かないこともあるので、ドロップバッグの中身はうまく小分けにして、中に入っているものが判るようにマジックで書いておくのがオススメです。ドロップバックは縦長の袋だと思うので、下のほうには何を入れて、上のほうには何を入れるかも考えています。「あれ?どこだっけな?(ガサゴソ)」とならないよう、作業する順番に上から取り出せるようにしています。

115kmまでが前菜

UTMFの前半の山場はU1とU2の間の天子山脈でしょう。でもまだ序盤でやる気満々なので案外走れます。天子ヶ岳の登りは長いし、ズルズル下りは大変だけど、まだ元気でしょう。麓までの下りは(コースが変わっていなければ)わりと傾斜のある峠でここで無駄にカッ飛ばすのは厳禁。前腿が終わらない程度にうまく下ります。下り切ってからのフラットも結構長くてなかなか着きません。でもまだ序の口です。

以前は竜ヶ岳がありましたが今年から山頂に行かないんですよね?コツコツ頑張るセクションが続くでしょう。富士急ハイランドに近付くと忍野あたりまではこれまたコツコツ走る区間です。長い登りがないものの下りも少ない=歩きたい気分MAXゾーンです。ここで遅くたっていいから頑固に歩かないを突き通すことが重要です。

もしちょびっと歩くなら、「10歩いて30走る」がオススメ。わたしが初心者の頃に先輩方に習っていまでも取り入れています。ダラダラ歩きを防げます。10歩いて30走るがどうにもこうにもつらい時は20歩いて20走るに変更、また走れそうになってきたら10歩いて30走る。もう少し頑張れそうな気分になってきたら走り続ける。そんな感じです。トボトボ、たらたら歩いていては一向にフィニッシュゲートは近づきません。これはぜひ使ってほしい!

で、U6忍野(115.1km)までが前菜です。レース当日の辛い時「忍野までが前菜とかアホやろあいつ」と思い出し罵りたくなるかもしれません(笑)。でもきっとその後なるほどと思ってもらえるんじゃないかと。

忍野のあとの小さいポッコリですが、大平山はいままでとコースが同じなら林道をダラダラ登る山です(試走区間でしょうか、間違っていたらご指摘ください)。これがなかなか長くてしんどい。その後には木段祭りです。100km超えての木段ってなんであんなにしんどいんでしょうね。

山中湖きららからの登りも目の前がくらくらするようなでっかい奴が待っています。わたしは2019年の時、大声で文句を言いながら登っていたそうです(笑)ヤベー奴。

二十曲のあとの杓子はご存じのとおりの岩岩です。ボリュームゾーン後半以降はなかなか足が上がらなかったり、岩が苦手な人で、ちょっと渋滞するかもしれません。あと最後の霜山ですよ。これがね、また登りが笑っちゃうくらいしんどいんですよ。最後の最後にこれかよ、って。

想像以上の登りやテクニカルなトレイルでなんとも変化が豊かな山が115km以降にギュギュギュッと詰まっています。メインディッシュでゾンビになるととんでもなく時間がかかります。そのためには、繰り返しになりますが冒頭の下りや雨森からの下りをカッ飛ばしすぎず、でもゆるいアップダウンや平地はコツコツ走り続ける

10時間寝るつもりで

スタート時間が14:30~15:30というのは嬉しいですね。早朝スタートよりも睡眠時間を確保しやすいんじゃないでしょうか。わたし自身があまり得意でないのですが、前日はたっぷり寝てください。ボリュームゾーン以降は、3日間かかります。二徹ですよ。二晩寝ないって人間そんなのできるんですねと思いますが、そりゃ~もう眠くて眠くて仕方ないです。アドレナリンが出ていても、身体がすぐ電源オフにしようとするんですよね。

眠気対策は色々ありますが、事前にできることは「前日たくさん寝る」です。わたしは前夜に荷物を出したり入れたりしちゃって寝るのが遅くなってしまうんですが、本当なら10時間は寝たいですね。普段そんなに寝ないので、目が覚めてしまうんですが、そのままベッドでウトウト、ゴロゴロ横になっています。月~水で、いつでも走りだせるくらいに準備を整えて、前日はササッと寝られたら優等生!

今週末はどのように過ごしましたか?
あともう数日ですね。

いまから練習しても速くなりませんから(笑)、ゆるジョグ程度にして、たくさん身体を休めてくださいね!

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