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メディアが教えてくれないUTMF完走のヒント〜トップアスリートにはトップサポートがついている〜

今日はいよいよ出発ですね!これで最終回です。どうしても最後に書きたいことがあったのでギリギリですがUPしました。昨日はコース変更のお知らせがありましたね。まずその話を。

わたしが考える変更後のコースで注意したいこと

コース変更の発表にかなり驚きましたが、たしかにあの下りはとんでもなくズルズルで、この連載でも書いたとおり、渋滞に痺れを切らしてそのズルズルを外れて下りる選手やトレイルをショートカットする人が出て、悲鳴混じりのカオスな状況でした。前の方は良かったとしても、後ろになればなるほどぐちゃぐちゃ。お尻で滑ったり横に転がるようなシーンもありました。私たちはレースの時は見ているけれど、そのあとがどんな状態だったか見ていません。直前で大きな決断をするにはそれなりの理由があったものと思います。

ショックだった人もちょっと胸を撫で下ろした人もいるでしょう。でもわたしはこのコース変更により、かなり気を付けてよくよく考えて戦略を立てるべきだと感じました。いつもボリュームゾーン〜それ以降の人は特に注意です!

かっ飛ばしたら脚が終わる

2019年のUTMFでは最初の林道下りでの周りの勢いにびっくりしました。100マイルだよ?そんなに走って大丈夫か?と。送電線下のシングルトラックは決まって渋滞するので少しでも前に、という気持ちからくるものかもしれません。で、案の定、当時の勝山エイドの前後からは脚が売り切れて再入荷待ち、トボトボ歩いている人が多かったです。かなりたくさんの人を抜きました(というか勝手に順位が上がっていった)。

これまでのコースでもそんな状況だったのに、天子山脈が迂回になって林道とロードで繋ぐとなると・・・。前半でめちゃくちゃがんばっちゃう人が大量発生しそうです。山中湖までほぼ走り続けなければならないことを念頭に身体を使うようにしたほうが良いと思います。めちゃくちゃ単純計算で例えるならば平均キロ6分半で走っても途中から歩いてしまったら、最初からキロ8〜10で安定して走っている人にいずれ抜かれるでしょう。

今日の夜は雨ですが、スタートからは晴れて暑くなる予報です。オーバーペースは心拍数の上昇、オーバーヒート、大量の汗、脱水、それらが引き起こす内臓トラブルも考えられます。

歩く暇がない

制限時間は変わらないようですが、スタート時間の変更によって変わる関門時間はU1富士宮のみです。これにも注意したいところ。迂回路がどんな場所かわかりませんが、もし多少幅のあるロードや林道なら渋滞がなく余裕が生まれるかもしれません。ただ、傾斜のあるロードや林道だったら?

前回の記事で書いたとおり、UTMFはもともと前半と後半に、文字の通り“山場”がありました。それ以外はほとんど走れる=走らされるパートです。緩急がないと次第に歩きたいMAXになり、歩き始めるととたんにダラダラ歩き続けてしまいがち。走れる(はずの)緩い登りほどしんどかったりするものです。

コツコツ走るゾーンが、なんと100km以上!2/3くらい?はコツコツ、コツコツ、ひたすらに走り続けなければなりません。歩きたい気持ちと闘うことになるんだろうな、と思います。

アップダウンが少ないと、同じ動きを繰り返すので股関節に疲労が溜まったり、蹴り出して膝下を使ってしまいふくらはぎにダメージ、あるいは地面の衝撃で足裏が痛くなる人もいるかもしれませんね。ロードを走り込んでない人ほど不具合が出るかもしれないのでエイドで少しでもストレッチをするといいかもしれません。

サポートが“レースを完走”するヒント

さて、本題です。あなたにはサポートがついていますか?それは家族ですか?友人ですか?経験値は大きなアドバンテージですが、選手だけでなくサポートにも言えることだと思います。初心者ランナーがいれば、初心者サポートもいます。選手の完走にはサポート能力もまた鍵を握っています。最終回はサポートの方へ“選手を完走に導くヒント”がテーマです。

1分1秒を削り出せ(る)

レースの動画でトップアスリートのエイドワークを見たことがありますか?前回の記事にも書きましたが、エイドワークでタイムは大きく変わる。つまりトップ選手は順位が入れ替わることがよくあります。トレイルランニングでは陸上のトラック競技ほどでないにせよ、世界的に高速化著しい今、1分1秒の争いです。

だからこそ、アスリートのサポートもプロ意識が求められるといっても大袈裟でないでしょう。頭の回転が早く、手際が良く、いろんな状況に合わせて即座に対応できる。自分がサポートする選手がエイドに入った数秒後に駆け込んだライバル選手が、先にエイドを出て順位が変わってしまうかもしれません。サポートはサポートの闘いがあると感じるほどです。

選手の状況を逐一チェックして、エイド到着までにあらゆる準備を万端にしておきます。テーブルには選手がパッと手に取れるようにジェルなどが綺麗に並べてあり、必要なものだけで不必要なものは置いてありません.

選手が補給している間に、選手はバックパックを背負ったまま、サポートがボトルを入れ替え、補給のゴミを取り除きます。(替えボトルがあり、すでに飲み物が入ったボトルごと入れ替える選手が多い)予定よりも到着が遅い場合には、コース上で何かしらのトラブルが起きていると想定して、エイドではトラブル対応策が複数パターン用意されるでしょう。サポートは、選手の能力を最大限に引き出す影の立役者なのです。

なぜそこまでするのか?理由は明白です。前回の記事で書いたとおり、1分1秒でも停まっている時間を削れば、うんと速くなる可能性があるからです。

それはトップ選手だけではなく、1分1秒関門に翻弄されるかもしれないランナーにとっても大切なことです。余裕だから大丈夫?100マイルでは大小あれど100くらいトラブルが起きる。たまたま何かの拍子に転ぶかもしれません。暑さには強いからいままで一度もなったことがなかった熱中症になるかもしれません。いつもは効くカフェインがなぜかまったく効かなくて気付いたらコースを逆向きに歩いているかもしれません(実際にあったエピソード)。35時間くらいの目標だった人がみるみる40時間台になり、それでも復活せず42時間、43時間...あぁ、ギリギリでも格好悪くてもいいから、なんとかして完走したい!関門がヤバい!そんな状況がないとは言えません。

経験者はそつなく熟せることが、初めてだとテンパってしまって悪循環。よくあることです。だからこそ、わたしら最初から少しでも『貯金』を作っておくようにしてきました。実力以上のスピードで飛ばすということではなく、削り出せる時間は削り出し、貯蓄にするのです。

サポート兼タイムキーパー

レース中、選手の身体の中は大忙しです。内蔵は補給食を消化してエネルギーに変えなければならないし、筋肉は常に動き続けなければならない。全てにエネルギーを要します。考えなければならないことが多いと、脳にまでエネルギーを使うことになります。できれば筋肉や消化に使いたいですよね。

↓昨日までの下書きにはこんなことを書いていたのですが・・・

サポートとタイムチャートは共有していますか?どのエイドに何時に着く、各エイドの滞在時間目安はこのくらいだと表にして渡していますか?わたしはサポートがいるときは完走タイムを3パターンくらい作っています。メインの目標タイムのほかに、調子が良い時と悪い時を前後1〜2時間に設定しています。

さて、サポートは、選手がエイドに到着したら、想定タイムより、何分早い、何分遅いかを伝えてあげるといいと思います。ノリノリで飛ばしすぎているなら、『調子良さそうだね!でもかなり早いからちょっと抑えてもいいかも?』くらいに伝えてもいいかもしれません。今日調子いいわ〜!と言っていてもオーバーペースなだけで後半ドッと疲れてゾンビになるかもしれません。選手が経験が少ないなら特に、ポジティブなノリノリ気分はキープしてもらいつつも、ひとこと冷静になれるように言葉を添えてあげるといいんじゃないかなと思います。

コース変更で台無し!作り直そうにも新コースがわからない!もうこればっかりは仕方ありません。でもこんな時こそサポートの出番。選手のタイムスケジュール巻き直しを一緒に考えるなり、手伝ってあげるなりするのはどうでしょうか。まだあきらめず、投げ出さず。わたしなら、迂回区間以外は当初の予定を踏襲しつつ、迂回ルートを想定して作ると思います。第一回のレースに出る時は誰もがコースのことはわかりません。それでも距離やわかる範囲の地図から導き出します。もちろん大外れすることだってありますが、少し余裕を持ったタイムにしています。

そんなわけで話を戻すと、当日選手が予定よりも遅れているときはサポートは気を引き締める必要があります。遅れてしまっているのをわかっているのに遅れていると言われると選手はイラッとするかもしれません。まずは状況を把握してために、簡潔に理由を聞きます。話すことで選手自身も頭の整理が付き、状況を冷静に把握することができると思います。少し遅れているくらいであれば『◯分予定よりも遅れているけどこの区間で巻き返せるかも!』など、遅れを取り戻す策を提案するのもといいかも。

本当に関門が厳しい場合には、わたしは、心を鬼にして、どのくらい厳しい状況にあるのかを淡々と伝えています。このあとどのくらいのペースで走らなければならないのか、次の区間を何時間で走らなければならないのか、あるいは何時までに次のエイドに着く必要があるのか。デッドラインではなく、その先も見越して完走のために着くべき時間です。もちろん関門も伝えた上で、目指すべき時間やペースを伝えます。(ペースが難しいなら“時刻”)

関門ギリギリの場合パニックになりすぎて、『とにかく頑張れるだけ頑張ってみる!一生懸命走る!!』となりがち。明確なターゲットがあった方が、間に合う可能性がグッと上がります。サポートは誰よりも冷静になり、まずは次のエイドまでに目指すべきわかりやすい時間やタイムを伝えて、それを全力で目指してもらうのがいいと思います。やみくもにただ頑張る、では、30秒間に合わなかった...(泣)なんてことになるかもしれません。

サポートもコース&タイム研究を

もうここまで切羽詰まってくると、選手は地図や高低表を見る余裕もないかもしれません。覚えたはずのコース内容もわけがわからなくなったりもします。

『エイドを出たら、◯km◯UPの登り、しんどいけど頑張ればそのあとは比較的走れるトレイルが◯kmくらい、下りは気をつけて、ロードに出たら◯kmで次のエイド!エイド前のロードは必死で走って!』

といったふうに次の区間の内容を伝えれば、壊れそうなハートに火が付くかもしれません。潰れて凹んで歩き通してしまったけれど、次の区間では復活してめちゃくちゃ早く帰ってくるなんてこともあります。本当に、わたしはサポートしていて何度もそういう経験がもあります。ベテランが潰れた時は厄介ですが、まだ経験がすくない人ほど復活劇が起こると思っています。

初心者のサポートをしたランスタトレラン部の時は、サポート1人1人がボードにタイムチャートや各選手が各エイドで何をしてほしいか書いた紙を持ちました。高低図やコースマップ、オフィシャルのタイム表も入れたかな。サポートが多い場合は効率的に連携が取れるように連絡先一覧も用意しました。

1選手に対し1サポートですが、1人のサポートが複数人を見る場合もあると思います。選手ごとに箱を分けるとモノを失くさずサポートもしやすい&されやすい。

前日には選手を休ませている間に重要なエイド付近をザッと下見に行くこともありました。何かあったときに買い出しに走れるように車の経路上にあるコンビニもチェックした気がします。みんな選手以上にレースに詳しく、めちゃくちゃ信頼していました。だからこそ、わたしも「次ってすぐ登りなんだっけ?」みたいに確認したこともありました。サポートなら今日は余裕があるでしょう。まだ間に合います、コース研究。

いっそのこと、居心地がわるいサポートのほうがいいかも

注意したいのは、居心地が良すぎて長居してしまうこと。厳しさが優しさであることも。待ってくれている仲間に会えるって、辛いときほど涙が出るほど嬉しいものです。選手は仲間に会えることを楽しみに、無我夢中で走ってきます。わたしは、仲間を少しでも驚かせたくて、すごいじゃん!速いね!と褒めてほしくて、面白いレース展開に喜んで欲しくて、一生懸命がんばったものです。

おしゃべりなわたしは、会えた喜びで、前の区間でどんなことがあったか、どのくらいがんばったのか、あるいは調子が悪くなってしまったワケなど、超絶マシンガントークを繰り広げます(笑)。なんならエイドの入り口まで見に来てくれた仲間に走りながら喋り倒します。

とりあえずしゃべりまくる奴。

おしゃべりに夢中になると、人はなぜか手が止まります。「しゃべってばっかいないで手を動かしなさい!」と叱られたこと、ありませんか?(あるー、めっちゃあるー)。しゃべるなということではないのですが、エイドでやるべきはマルチタスク!

サポートはアドバイスや次の区間について話したりしながら、ボトルや補給を入れ(渡して)、すこしでもマッサージをして・・・と同時にありとあらゆることをやって、“エイドは3分”で選手の背中を押して、見送ります。しんどい時はできるだけ短時間でしっかり休息を取れるように工夫してあげることは大切ですが、のんびりピクニックでもしたくなるような空間は不要!

信越五岳でも友人がサポートしてくれた

どんな厳しい状況でも選手に一筋の光を

わたしが尊敬するアスリートであり、コーチでもあるトモさんから、ポジティブ変換機というシステムを教わりました。

脚が痛い、疲れた、攣った→脚が熟成した
眠い、ウトウトしてしまっている時→まぶたの裏側を見てた
捻挫した→可動域広がった
靴に穴が空いた→ベンチレーションが効いてる
疲れた→気持ちいい
どうしても愚痴でも言いたい気分のときは「ゴー!ゴー!」と付け加える。(ゴー!ゴー!痛い)

全てポジティブワードに変換し、ネガティブなことを吐かず、自分を鼓舞し、楽しむ。そう、楽しんだもん勝ち。それをサポートが率先して、選手をポジティブムードで包んであげてほしいなと思うのです。

楽しいけど、でもどうにもつらくて楽しめない時もやってきます。真っ暗闇を彷徨い、出口が見えない不安。目指す先が見えないと進む気力を失っていく。わたしはそんな時、こんなに楽しいことってないよ、と思い出させてくれると「そうだそうだ、出たくって出てるんだ!楽しまないと!」(お金ももったいないし!笑)という気持ちになれるんです。

寒いときはどうしても気持ちが落ちがち

大丈夫、まだいける、もっといける、底力が出る、自分を信じて、あきらめないで。スポ根かよと思うけど、大人になってスポ根遊びできるなんて最高じゃあないですか。

サポートができること、たくさんあると思うんです。見ているだけじゃもったいない、立っているだけではもったいない、選手がこうしてほしいと言うのを待っているだけじゃもったいない。めいっぱい機転を効かせながら、選手と一緒にレースをしませんか。

サポートがいない、ソロ参加の勇者へ

ここまでの話をまったく自分ごととして読めない人がいると思います。ノンサポ、ソロ参加のあなたです。あなたは強い。頼める人がいないなどの事情はあれど、それでもチャレンジしようと決意をした時点で強い。サポートエイドは4つもあって、そのぶんサポートがいる人は持つ補給が少なくなるし、念の為的な道具も預けておくことができちゃうわけです。荷物が重いほうがキツいに決まってる。同じコースでも同じ制限時間でもずっと強い。少し前を走っている選手よりも実は強いかもしれない。

ひとりでエイドフードを食べて、ボトルに水を補給して、ストレッチもしたりして、トイレに行き、そして賑やかなエイドを静かに去る。ドロップバックポイントでは、自分で荷物を広げ、フードを食べながら荷物の整理もしなければいけません。それをわかっていてなお、わたしは(国内レースでサポートやペーサーをお願いしたことはありますが)多くのレースが単独です。海外であっても、一人で行って、一人で走って、一人で帰ってくることもあります。ペーサーが付けられるレースをあえてソロで走ることもあります。

海外はサポートなしが基本。奥の人は現地のスタッフ!このレースではなんでも手伝ってくれた

ソロにはソロの強みがあると思います。
まずは、レースにすごく集中できることです。エイドではコミュニケーションがない分、黙々とやるべきことを済ませていると、サポートとわちゃわちゃしている人よりもずっと早くエイドワークを済ませられることもあります。それから、頼る人がいるとなんとなく弱音を吐きたくなったり甘えが出たり心の支えを求めたりします。それが何かの拍子に心が折れるきっかけを生んでしまうこともあります(サポートがエイドに間に合わなかったなど)。でもそういった環境要因はあなたには一切ない、すべてが自分次第なのです。自分を励ますのも自分に厳しくするのも自分をアドバイスをするのも自分です。

ひとりエイドワークも慣れっこ

誰にも頼ることができない前提なので、サポートがいる選手よりも下準備が必要で、いざという時に“自分でなんとかしなければならない”という、なんというか生き抜く力に似たような鍛冶場の馬鹿力みたいなものが出ることがあります。これは本当です。

うじうじして、(自分で)なぐさめて、ハイテンションになって、みたいな繰り返し

でも、かならずしもたったひとりで闘う必要はありません。周りの選手と励まし合うことはできます。規則上サポートはお願いできないけれど、周りを見渡して勇者同士、サポなしでもやってやるんだぜ!と声を掛け合ってみるのもいいかもしれません。2500人もの選手は皆、同士です。ライバルもいるかもしれませんが、敵ではないはず。めちゃくちゃでっかいグループランみたいなものだと思ったら笑っちゃいますよね。

あなたは勇者。誰の力も借りず、荷物もたくさん背負って走るというんだから、間違いなく勇者です。自分の力で、自分を信じて、このチャレンジを完遂してみせることを祈っています!

ひとりでも多くのランナーが、フィニッシュゲートをくぐれますように。

Emma Nakajima

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