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オンライン講義は、どこまで大丈夫なの? (著作権が心配・・・)

こんにちは。名古屋の弁護士、鈴木恵美です。

4月終わりから、私が担当する大学の知的財産権の講義やゼミが始まる予定です。(でした。やむを得ず、ゴールデンウイークから講義が始まる大学も・・・。)

コロナウィルスの影響もあり、オンライン講義の検討もしなければならない状況になっています。

みなさんも、リモートで会議をしたり、オンラインでセミナーやイベントを企画されているところではないかと思います。新年度、予定されていた新入社員研修などを、リモートでの開催に切り替える会社などもあるでしょう。

さて、セミナーや研修では、パワーポイントの資料を、配布したり、スクリーンで見せたりすることも多いですね。その中には、イラストや、他の書籍からの引用などが含まれていることも多く、全てが全くのオリジナル、ということは意外と少ないかもしれません。

私たちは、今まで見たり聞いたりして学んだり触れたりしたことで、自分の思考が形成されてきていて、何にも影響されていないという人は少ないと思います。真似するつもりはなくても、どこかで頭の片隅に残っていた既存のアイデアや表現が自分の中のフィルターを通して改めてアウトプットされることは通常だと思います。(それゆえに、著作権法でも、知らなかった、依拠していない、という場合には侵害とならないとされています。)

また、既存の資料を用いることで、より正確に何かを伝えたり、より議論を深めることができる場合も多くあります。そこで、「引用」という方法を含め、著作権者の許可を得なくても使える場合のカタログが、著作権法の中に、「著作権の制限」として規定されています。

オンライン講義に関する「著作権の制限」も、定められているのです。

35条改正

教育の情報化の推進のための著作権法改正の概要(文化庁P4)より

他の人が創ったイラストや文章には、著作権がありそうだな、とみなさんもお気づきだと思います。では、全ての著作権者(作者)に逐一許可をとっているかというと、必ずしもそうではないと思います。

実は、著作権法自体が、教育の場合に、許可をとらなくても、使っていい場合のルールを定めているのです。(ただし、下記の*のとおり、必要な範囲に限られます。このような場合:高校の先生に罰金30万円 は、35条によって適法にはなりません。)

【現在の 著作権法35条】

(学校その他の教育機関における複製等)
第三十五条 学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における使用に供することを目的とする場合には、必要と認められる限度において、公表された著作物を複製することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びにその複製の部数及び態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。(*)
2 公表された著作物については、前項の教育機関における授業の過程において、当該授業を直接受ける者に対して当該著作物をその原作品若しくは複製物を提供し、若しくは提示して利用する場合又は当該著作物を第三十八条第一項の規定により上演し、演奏し、上映し、若しくは口述して利用する場合には、当該授業が行われる場所以外の場所において当該授業を同時に受ける者に対して公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。)を行うことができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該公衆送信の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。(*)

【もうすぐ変わる新しい35条】

(学校その他の教育機関における複製等)
第三十五条 学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)において教育を担任する者及び授業を受ける者は、その授業の過程における利用に供することを目的とする場合には、その必要と認められる限度において、公表された著作物を複製し、若しくは公衆送信(自動公衆送信の場合にあつては、送信可能化を含む。以下この条において同じ。)を行い、又は公表された著作物であつて公衆送信されるものを受信装置を用いて公に伝達することができる。ただし、当該著作物の種類及び用途並びに当該複製の部数及び当該複製、公衆送信又は伝達の態様に照らし著作権者の利益を不当に害することとなる場合は、この限りでない。
2 前項の規定により公衆送信を行う場合には、同項の教育機関を設置する者は、相当な額の補償金を著作権者に支払わなければならない。
3 前項の規定は、公表された著作物について、第一項の教育機関における授業の過程において、当該授業を直接受ける者に対して当該著作物をその原作品若しくは複製物を提供し、若しくは提示して利用する場合又は当該著作物を第三十八条第一項の規定により上演し、演奏し、上映し、若しくは口述して利用する場合において、当該授業が行われる場所以外の場所において当該授業を同時に受ける者に対して公衆送信を行うときには、適用しない。

何が、変わったの?

分かり易く、簡単にお話をすると、

現在は、許可をとらなくても利用できるのは、

〇 基本は、コピー(「複製」)のみ

〇 インターネット(「公衆送信」)は、限定された場合にのみOK

ということです。

限定された場合?というのは、今の35条の太字部分です。条文は難しいかもしれませんので、文化庁の資料P4の図をみてみましょう。右下にあるように、「直接」「同時に」配信する講義だけが、許可不要の対象になっています。

つまり、オンデマンド研修や、スタジオ型講義(生徒がいないスタジオから講義を配信する場合)には、勝手に著作物を利用することができないのです。それでは、教育に支障があるということで、逐一許可をとらなくても利用できるように改正されました。

でも、勝手に使うことができる範囲が増えるのは、著作権者(作者など)にとっては権利が制限されることになります。(著作権法35条は、「第5款 著作権の制限」という目次の箇所にある条文です。)そこで、その利用料を「補償金」として払ってくださいね、というルールが設けられました。

え?結局、お金を払うなら、許可をとらなければいけないのと同じではないの?と思われた方もいるかもしれません。

まず、許可を事前にとらなくても利用できるというのは、タイムリーで、ライセンス交渉などの手続きの手間も少ないというメリットがあります(条件が合わず、権利者が拒否する場合もあることを考えると、使えるということ自体がメリットともいえます)。

しかも、「相当な額の補償金」は、通常の利用許諾を得るよりも、少額になるものと予想されます。教育目的のために、安価に、迅速に使うことができ、著作権者(作者)も一定の対価を得ることができるという、中間的な制度になりました。(これまでは、無償利用可能か、不可能か、の二択でした。)

新しい35条のルールは、いつから?

新35条公布の日(2018年5月25日)から起算して3年を超えない範囲で政令の定める日です。

令和2年4月スタートが、予定されていると発表!

平成30年著作権法改正により創設された「授業目的公衆送信補償金制度」については、今般の新型コロナウイルス感染症の流行に伴う遠隔教育等のニーズに緊急的に対応するため、令和2年4月中に施行する予定であるところ、それまでに同制定に関する本省令を制定することが不可欠であることから、行政手続法(平成5年法律第88号)第40条第1項の規定に基づき、パブリックコメントの実施期間を短縮する。(電子政府の総合窓口:パブリックコメントの募集webサイト

誰でも、教育目的なら、許可をとらなくても良いの?

35条は、「学校その他の教育機関(営利を目的として設置されているものを除く。)」が、著作物を利用できる場合のルールを定めています。

ですから、営利目的の場合、たとえば、予備校、私塾、カルチャースクール、営利企業の社員研修は、35条の対象にならず、原則通り、許可を得て利用することになります。

一方で、「学校その他の」とあるので、「学校」ではなくても、非営利である教育機関、青年の家、公民館、図書館などの社会教育施設も含まれると考えられています。

コロナ対策 オンライン講義をもっと容易に!

オンライン講義をしやすくするための新35条の改正施行へ急ピッチで進められていますが、このような方針も発表されました。

〇 教科書をインターネット上で公開できるようにする動き

文部科学省は新型コロナウイルス感染拡大を防ぐために学校の休校措置が長期化する可能性を踏まえ、教科書をインターネット上で公開できるようにする方針を固めた。新型コロナ対策による休校期間に限った特例措置で、月内にも政令を改正する。ネット上での教科書公開は著作権法で原則禁じられていた。子どもが遠隔授業を受けやすい環境を整え、休校に伴う学習の遅れが生じないようにする。(日本経済新聞

〇 著作権法よりも柔らかなルールを、出版社が提案

今般の新型コロナウイルス感染症の拡大に伴い、大学等のオンライン授業で弊社出 版物の利用を予定されている先生方につきましては、下記に必要事項を御記入の上、送信してください。
現行の著作権法上、著作物を教材として無許諾・無補償で公衆送信することは、原則として認められておりません。
しかしながら、今般の新型コロナウイルス感染症の拡大という深刻な事態に鑑み、 オンライン授業での弊社出版物の円滑な利用について、緊急措置として可能な限り協力をさせていただければと存じます。(有斐閣

どちらの記事も、「原則禁止」とありますね。その意味は、著作権者等が独占している権利だから許可が必要なのが原則ですよ、でも、「著作権の制限」、たとえば著作権法35条で使うことができる範囲では、例外的に許可が不要ですよ、という著作権法の構造を意識した説明なのです。

ルールを知ったうえで、こうしたらどうだろう、を考えていくと、今のような大変な時期、社会の状況に合った在り方をみなで創っていけるのだと感じます。

企業や塾は、やはり著作権者の許可を取らないといけないなんて、不便?

この記事を読んでいただき、なんだ結局原則通り使うことができないんだ!もっとこういうルールだったら良いのに!と感じられた方も少なくないと思います。(ぜひ、そういう方は、4月10日までと短い期間ですが、パブリックコメント募集のページもご参照ください。)

そんなみなさんには、この雑誌を手に取って、眺めてみて欲しいです。たちまち、著作権の別の顔を覗くことができるのではないでしょうか。もっと知りたくなるヒントが、宝石のように散りばめられています。

『どこまで公言するかはありますが、既存の作品の要素を取り入れ、誰かの経験や考え方、市場の反応を取り入れることは、何かをつくるうえで当然の行為なのです。
「取り入れる」ことが当然の行為だとすると、重要になるのはその線引きです。どこまで取り入れるのはOKで、どこからがNGなのか。
そもそも、こうしたルールやモラルに関する教育は、どこで受けられるのでしょうか。もちろん著作権や意匠権、特許権などの法律を勉強すればよいのかもしれません。』
『また、法律を学べば済むわけでもありません。法的にはOKでも、心情的にはNGな場合やその逆も頻繁にあるように思います。
さらには、法律自体が古くて、現代のものづくりをとりまく環境に追いついていないということもよく耳にします。
いまや、誰もが簡単に世界中の良質なソースにアクセスでき、ものを生み出し、発表することができてしまう世の中。すべての人がつくり手になりうる時代です。
だからこそ、いまの時代にあったルールやモラルについて、もっと議論されるべきではないでしょうか。つくり手自身が、作品をどう生み出し、作品がどう使われるかに、もっと自覚的になることが重要なのではないでしょうか。
今回の『広告』では、全体テーマである「いいものをつくる、と。は何か?」を思索する第二弾として「著作」を特集します。オリジナリティや作家性、そして、著作物の保護や利用のあり方についての視点を集めていきたいと思います。』
2020年3月 『広告』1頁 編集長 小野直紀さんの巻頭言

雑誌は、いしわたり淳治さんの小野さんとの対談から始まりますが、とても印象的です。私は、新しさや、オリジナルであること、についてのクリエイターからの生の視点に刺激を受けました(朝井リョウさん著の「発注いただきました!」の構想にも通ずるものを感じます)。ルールを考えるとき、そもそもの文化の在り方、作り手側の想い、受け手側の想い、に立ち返る発見を貰える雑誌です。

著作権法のルールを知り、活用いただけたら嬉しいです!

なお、オンライン講義に関し、続々と、特例措置などが発表されています(日経新聞記事)。

著作権ゲームのデザイン、ルール原案、意匠、すべてを、あまりクリエイティブでない私が担当しています。 noteの手描きイラスト画像も自作ですが、いつかデザイン面など、プロの方にお願いできたらいいな、と考えています。 応援いただけたら嬉しいです!