PGTの国内、国際的評価と私見


どうも!ぶらす室長です。

今回は、着床前遺伝子検査(PGT)の意義に関してまとめたいと思います。

今回の記事でまとめたい内容は

1.日本国内でのPGTの立ち位置
2.国際的なPGTの評価
3.私が感じた臨床での印象

以上について、まとめていきたいと思います。

また、②以降はe-Labメンバーおよび有料限定記事となります。

では、解説スタートです。

PGTとは?

PGTとさらりと言っていますが、 PGTって何?って方のために簡単に解説しますね。

PGTとは、pre-implantation genetic testingの略で、日本語にすると着床前遺伝子検査となります。

何をする検査かというと、着床する前の受精卵に染色体異常や遺伝子変異がないかを調べる検査です。

染色体異常がある受精卵を子宮に移植すると、高確率で着床しないか、流産してしまいます。

そこで、受精卵の細胞を一部採取して染色体を調べて、移植前に染色体異常のある受精卵を選別してしまおうという技術が PGTとなります。

以前はPGSやPGDと呼ばれており、testのところがscreeningやdiagnosisとなっていましたが、適切ではないとのことで国際的に変更となりました。

現在のPGTには、 PGT-APGT-SR、そしてPGT-Mの3種類に分類されています。


◯ PGT-A: Aはanuploidyの略で、異数性という意味です。主に、受精卵の染色体の数が多いか少ないかを調べて正常か異常かを判定して選別する技術です。

◯ PGT-SR: SRはStructural Rearrangementsの略で、直訳すると構造的再配列という意味ですが、染色体構造的異常と訳されている場合が多いですね。

PGT-SRは夫婦のどちらかが染色体の構造異常を保因している場合に、受精卵に高率で出現する染色体の数的異常を検出するために行います。

実際の手技や検査の内容は、あまりPGT-Aと変わりません。

◯ PGT-M: Mはmonogenicの略で、単一遺伝子という意味です。PGT-Mが他のAとSRと大きく異なるのは、染色体数の異常を調べるというよりも、ひとつの遺伝子の異常を調べる検査になります。

単一遺伝子疾患の説明は複雑を極めるので、非常に非常にざっくりと説明しますが、人の遺伝子の種類は無数にありますが、中にはその遺伝子の配列(コードしている記号の順番)が少しでもおかしくなる(変異する)と、人体が正常に機能しなくなってしまう遺伝子が存在します。

大抵の遺伝子変異は、全く問題にならない場合かもしくは致死的な問題となり、そもそも産まれてこないものがほとんどなのですが、中には産まれては来れるけど、成人に達する以前に日常生活を強く損なう症状が出現したり、生存が危ぶまれる状況になる疾患を引き起こす遺伝子変異があります。筋ジストロフィーなどが有名ですね

疾患を引き起こす遺伝子変異はもう明らかになっているので、受精卵にこの単一の遺伝子変異がないかを調べる検査がPGT-Mとなります。

(1)国内でのPGTの適応と状況

現状

国内では、臨床研究がようやく終了し、一般の不妊クリニックでも登録施設となればPGT-AやPGT-SRが実施できるようになりました。

しかし、保険診療による実施は今のところ行われず、採卵からPGT、胚移植まで全ての治療が自費となってしまうのが現状です。

2023年に、いくつかの施設のみで保険診療と併用できるPGTが先進医療Bとして認められ、今後実施されていく予定です。

対象となる症例(日本産科婦人科学会の見解と細則)

PGT-A

・ 反復する体外受精胚移植の不成功の既往を有する不妊症の夫婦
・反復する流死産の既往を有する不育症の夫婦

※ 反復する、とは2回以上としています。
※ 夫婦のいずれかに染色体構造異常を有する場合はPGT-SRの対象となります。

PGT-SR

夫婦のいずれかの染色体構造異常(均衡型染色体転座など)が確認されている不育症の夫婦。ただし、妊娠既往や流死産の有無は問わない。

→説明がちょい難しいのでざっくりと説明しますが、代表的な夫婦の染色体構造異常として転座というものがあります。
これは、染色体の形が産まれつき少し変わってしまっている事をいいます。

形がちょっと違うだけで、中の遺伝子の量に全く問題がない転座を「均衡型転座」と呼びますが、これは本人にほぼ影響を与えません

その代わりに、次世代つまりは受精卵に致命的な染色体異常を引き起こす可能性が高くなります。
そのため、PGTの対象となるのです。

(染色体の種類や転座の種類にもよりますので、詳しくは遺伝カウンセリングを受けてくださいね)

PGT-M

単一の遺伝子疾患がわかっている夫婦が対象となりますが、実施に関しては個別に審査委員会で審査されます
また、実施可能な登録施設は全国でかなり少ないです。

対象となる定義としては「原則、成人に達する以前に日常生活を強く損なう症状が出現したり、生存が危ぶまれる状況になる疾患で、現時点でそれを回避するために有効な治療法がないか、あるいは高度かつ侵襲度の高い治療を行う必要のある状態」となっています。

何がPGT-Mの対象となるかは、実際に審査されて承認されなければいけないのでハードルが高く、実施までにかなり時間を要する事が問題となっています。

今回の記事でのPGT-Mの解説は以上として、あとはPGT-AとSRの内容を解説します。

引用: 不妊症および不育症を対象とした着床前遺伝学的検査に関する審査小委員会

国内でのPGT-A・SRのパイロット研究結果

さて、今年になってクソ時間のかかった国内でのパイロット研究がようやく論文として発表されました。

クソ時間かけただけあって、症例数としては10602周期と申し分ないですね。

対象は、反復着床不成功、反復流産、そして染色体構造異常保因の症例に限定されています。

また、対象者の平均年齢も39.3歳と世界的なPGTの報告よりも高齢なのは日本ならではなデータかと思います。

見るべきは妊娠率や流産率ですので、そのグラフだけ見ていきましょう。

年齢別の妊娠率

Aは正常胚、Bはモザイク胚の移植あたりの妊娠率を表したグラフです。

モザイクの話はまた長くなるので、とりあえず正常胚のグラフだけ見ていきましょう。

平均の妊娠率は68.8%で、かなり良い成績ですね。また、年齢の上昇に伴う妊娠率の低下が見られないのも成績として重要なところかと思います。

年齢別の流産率

こちらも、Aは正常胚、Bはモザイク胚の妊娠あたりの流産率を表したグラフです。

全体平均の流産率は10.4%でこちらも良い成績です。正常胚では年齢が上昇しても10%前後を維持しています。

著者の結論では、

Preimplantation genetic testing for aneuploidy or chromosomal structural rearrangement may improve the pregnancy rate per ET and reduce the miscarriage rate per pregnancy, especially in patients of advanced maternal age.

PGT-AとSRは胚移植あたりの妊娠率を改善して、妊娠あたりの流産率を低下させるかもしれない。特に、女性年齢が高齢の症例で。

と結論づけています。

概ね賛成なのですが、このパイロット研究ではPGTの意義についてはあまり評価できません。

なぜなら、この報告ではPGTを実施しなかった症例をコントロールとして比較をしていませんし、live birth rate、つまり出産率に関しては論じてないんですね。

つまり、45歳で何度も採卵やPGTを試みたけど、移植胚が得られなかった症例は、移植あたりの妊娠率や流産率からは除外されてしまっています。

このデータは大変貴重なものですが

「PGTを行うべきか?」という疑問には答えてくれてないのです

引用: Preimplantation genetic testing for aneuploidy and chromosomal structural rearrangement: A summary of a nationwide study by the Japan Society of Obstetrics and Gynecology

(2)国際的なPGTの評価

お馴染み、ESHREガイドラインシリーズの不妊治療のadd-onの論文から引用していきます。

結論から、PGT-Aの評価としては

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