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カードプールが同じなのに評価が変わったカード


前置き

実は海外では6月以降、環境に影響を及ぼす新カードがあまりなく、10月1日までほとんどカードプールが変わらなかった。日本でいうとパオジアンとディンルーが入った拡張パック「スノーハザード」「クレイバースト」からほぼ変わっていない。

ミュウexが入っている151はなぜか「黒炎の支配者」より後に発売されたため、10月2日以降まで使えなかった。そのためルギアVstarは無色型はほぼいなく、一撃型ばかり。
またサーナイトexデッキを大幅に強化したと言われている「月明かりの丘」もなく、封入されているパックのリリースは11月以降になる。

リザードンexは9月から使えるようになったが、151に封入されているhp70のヒトカゲが使えないため、ロストマインにボコられるhp60のヒトカゲしか使えない海外環境ではtier1に食い込むほどではなかった。

よってほぼ同じカードプールで4か月ほどやらされることになった海外勢。日本と違い新しい拡張パックが出るまでの期間が長い(だいたい2~2.5か月)というのもあるが、WCSを挟んだり、リザードンのパックが弱かったりで今回は特に長く感じた。

また、最近は日本で入賞したシティやCLのレシピが簡単に公開されるようになったことで、カードプールが後追いになる海外勢は日本で既に開拓され尽くして洗練されたレシピを知った状態で新環境を始める。カードプールどころか、環境デッキのレシピさえほぼ固定で4か月やっていたことになる。新鮮なものが何一つない、濁り切った水槽の中でずっと戦っているようで本当に地獄だった。

ただそれでもガチ勢の多くは世界大会に出ることを目標にしているため、ポイントがもらえるシティ規模の大会を何度も出て勝つ必要があった。カードゲームで安定して勝つには運以外の要素として、新しい戦略を考えなければならない。カードプールが同じ状態で、新しい戦略を見つけるのはとても難しい。
そして、4か月もの間、濁り切った水槽の中で皆が新しい戦略を見つけようと模索した結果、明確に評価が変わったなと感じたカードが一枚ある。それは「ツツジ」である。


ロストギラティナで無双期


筆者はこの4か月ロストギラティナ(以下ロスギラ)ばかり使っていた。理由は二つ。
同プールだったときに日本でヨネタク様が同デッキを使っていたことと、ぶっちゃけカモれる相手が多かったからだ。

この環境が始まった6月最初の大型大会は北米のインターナショナル、NAICだったが、同プールの頃の日本では「サナかロスギラか」とか言われていたほどにロスギラのシェア率が高かったのにもかかわらず、NAICのデッキ分布は以下の通りで全くといっていいほどロスギラがいなかった。

lost zone boxにロスギラは含まれていない

先ほど述べた通り、海外勢は日本の上位レシピを知った状態で新環境をスタートする。にもかかわらず、何度も入賞していたロスギラの影がなかった理由として、このデッキが構築以上に使い方が重要であるデッキだったからだと推測する。言語に壁があるため、レシピは画像で見れてもnoteを読めないのでちゃんとした使い方をすぐに知ることができなかった。

ロスギラは事故る。でもちゃんと使い方を知っていれば勝てる。そういうデッキだったので、画像で見たレシピを完コピして回すだけではその強さに気付けない。よって、封印石が使える点で安定性があるように見えるロストバレット(以下ロスバレ)を皆好んで使っていた。

だから最初の1,2か月はロスギラで本当にめちゃくちゃ勝てた。ロスギラを使う人口が少なかったので、対ロスギラの立ち回りが浸透しておらず、事故ってもツツジとロストマインを駆使すれば大抵のゲームはひっくり返せていた。ほぼ同じレシピでシティ規模の大会を2本取れたり、優勝はなくとも入賞は必ずするといった良い感じの勝率だった。ミラーでもロスバレでもサナでも捲り勝ちできた。
正直調子に乗っていたと思う。

しかし8月頃から明らかに勝てなくなった。ツツジは使いにくくなったし、使えてもその後の手札6枚が弱すぎて攻撃できないみたいなことがめちゃくちゃあった。ポケカ歴も4年になるので、この事象を不運で片づけるのは無理があることは分かっていた。
カードプールが一緒なのに、ツツジという手札干渉が弱くなっているという現象が起きていることを認めざるを得なかった。

ツツジが弱くなった理由


ツツジの花言葉は「節度」「慎み」

「相手の手札を2枚にして、自分は6枚引く。」
TCGプレイヤーの目線から見れば、こんな強いテキスト、「相手のツツジを無効化する」みたいなカードでも刷られない限り弱くなりようがないと感じる。でも、4か月前と比べて、こいつは明らかに弱くなっていた。

当たり前であるが、ロスギラの強さに気付き始めたプレイヤーが増えるにつれて、ツツジで捲り返されるという経験はプレイヤー間で共有され、蓄積されていく。デッキの戦略を言語化して不特定多数に拡散するnote文化はないためそのスピードは日本より遅いが、確実に蓄積されていた。また彼らは暇さえあればスマホでPTCGLやっていたり、BO3形式であるが故シンプルに対戦回数が多いので、そういう意味では日本人よりも実戦での濃い経験が蓄積されていたと思う。

よって当然ではあるが、上位勢はツツジライン(サイド3枚)を超えないようにロストマイン合戦をするようになったり、パオジアンや連撃ウーラオスといったデッキでツツジどころの話ではないみたいなレベルで盤面を崩壊する等、プレイングやデッキ選択で対策するようになってきた。

その結果、ツツジがそもそも使えない場面が増えたり、ツツジが役に立たない状況が増えたことで、相対的に弱体化していたといえる。
カードプールの変化がカードの強弱を決めることが多いTCGにおいて、知識の共有のみによって、カードが弱体化した例はあんまりなく、あったとしてもかなり気付きにくい。(既存のカードプールから特定のメタカードが掘り起こされることはよくあるが)

よって、恥ずかしながら筆者もこの事実に気付くのが遅れ(というより受け入れたくなくて)、ツツジを前提にしたレシピとプレイングに固執していたせいで勝率がしばらく落ちていた。逆にツツジが弱いことに気付いてレシピとプレイングを変えてからは勝率が明らかに上がったので、この仮説は正しいと考えている。

ツツジは逆境であればあるほど弱い??

これまでは他プレイヤーの練度と知識による相対的な弱体化について述べたが、実はツツジそれ自体が抱える弱さ、ロスギラとの噛み合いの悪さがあることにも目が行くようになっていた。

「このカードは相手のサイドの残り枚数が3枚以下のときにしか使えない。」

このテキストから溢れる「逆境をひっくり返せ!」感のせいで我々の認知が歪まされていると主張したい。実のところツツジは本当の意味で逆境のときかなり使い物にならない。

ロスギラを長く使っている人にとっては既知の事実かもしれないが、ロスギラ使いにとって一番きついのはアクロマが引けないことではなく(そんなことは当たり前だから)、ミラージュゲート等の必要札が引けず、代わりにエネばかり引いてしまうパターンである。

「必要札を引くためにたくさんドローできるが、エネは引きたくない。」
これはプレイングとか練度とかの話ではなく、誰もが直面するロスギラ特有のジレンマである。運悪く何度もエネが絡む花選びをさせられると、ある枚数を超えてからは必ずエネをピックしなければならなくなる。つまり、必要札は引けてないのに、デッキに眠っていてほしいはずのエネが手札に集まっているという最悪の状況になる。

世界で一番嫌いな花選び


この状況になったときに何が辛いかというとツツジがめちゃくちゃ弱くなる点である。

当たり前だが、手札がエネだらけになっているときは大抵ミラージュゲートが打てていない。なぜならミラージュゲートを撃てて、エネをすっぱ抜いてデッキを圧縮できていたならそもそも花選びでエネが来ないからである。なので、「ミラージュゲートを引けていない」と「手札がエネだらけで事故っている」はほぼイコールである。そしてこの状況はすなわち自分は攻撃できていないので相手に攻撃されていて押されている逆境でもある。

ではこの逆境をツツジはひっくり返せるのか?という話である。
筆者の経験上、これはかなり難しい。その理由は、ツツジのテキストに書かれているとある1文のせいである。

「それぞれのプレイヤーはそれぞれ手札を山札に戻して切る。」

ミラージュゲートを当たり札、エネを外れ札と考えた場合、今手札は外れ札だらけのゴミであり(しかも自分は手札干渉を受けていないので結構な枚数になっているはず)、デッキにはミラージュゲートという当たり札が眠っている金山である。そんな状況で、わざわざゴミを金山に混ぜて当たり札を引こうとする。それがこの文の弱い点である。

筆者は何度もこの逆境でツツジに祈った経験があるが、結果はだいたいそっくりそのままエネや不要札が戻ってきてミラージュゲートが引けずに攻撃できないパターンが多かった。相手の手札を減らせたとしても、自分が攻撃できていなければ相手の盤面は強いままであり逆境をひっくり返せていない。

じゃあ逆にツツジが強い状況っていつやねんって考えたとき、それは逆境ではなく、割とドローの調子がよく、押せ押せ展開のときである。
エネ以外のカードがテンポよく引けていると、VIPパスでポケモンはすっぱ抜けているしアクロマは撃ててるしミラージュゲートも撃ててるしギラティナの上は無事に乗れてるしでデッキが良い感じに圧縮されている。
デッキが良い感じに圧縮されていると、ツツジを撃って手札をデッキに混ぜたとしても当たり札を引きやすい。よってツツジの本当の役割は、押せ押せ展開で互いに殴り合っている最中に強力なハンド干渉を挟むことで相手を追い詰めるという、どちらかというと攻撃的なサポートであるといえる。
「相手のサイドが残り3枚」という条件は無意識に自分のサイドが負けている、不利な状況を想定してしまうが、冷静に、客観的に考えればサイドレースに勝っていても使えるのだからこのカードは「終盤にだけ使える強いカード」でしかないのである。言葉によって生じるバイアスの怖さを実感する。

しかし、そんな攻撃的なサポートも、前述した通り他プレイヤーはサイドを3枚以下にしないようにケアするようになったため、撃てるタイミングもない最早ガラクタ同然のサポートとなってしまった(何度も裏切られたせいでちょっと嫌いになっている)。

ナンジャモは??

似たテキストであるが故によく比較対象になる「ナンジャモ」は逆に評価がめちゃくちゃ上がった。

絵も可愛い

ツツジと比較する際によく争点となる部分は「サイドが3枚かどうかという条件」であるが、これまでの議論を踏まえれば「自分の手札を山札に混ぜて切るかどうか」が大きなポイントとなる。

例の手札エネだらけ地獄に陥ったとき、このカード程おあつらえ向きなものはない。エネという外れ札を山の一番下に戻して上から6枚引くということは、ミラージュゲートという当たり札が眠った金山を、外れ札に絶対触らずに掘ることができるということである。
また、最初にエネを引ききってしまっていて山にエネが残っておらず、ミラージュゲートが撃てなかった場合の救済措置にもなっている。この方法で上手くミラージュゲートを引けたとき、ロスギラを上手く使えている感じがして気持ちがいい。

またこの逆境において、まず間違いなく自分はサイドを取っていない(ちゃんとプレイしていれば)ので、デメリットである「引く枚数が減る」は気にならない。

また先ほど述べていた通り、ツツジラインをケアしてサイドを4で止めるロスバレプレイヤーが増えたが、そういったプレイングに対してもナンジャモは非常に効果的である。ぶっちゃけサイド3に行くまではまだ大丈夫だろうとかなり舐められていることが多いので、油断している相手にナンジャモを撃って4枚にすることでロストマイン合戦に勝ちやすくなる。

以上のことから、守備的に考えた場合、ロスギラに一番合っているサポートはツツジではなく、ナンジャモであるといえる。
ただ逆にいえばツツジが強かった状況である、押せ押せ展開で相手を追い詰める際には、自分の手札がかなり少なくなるというデメリットが裏目に出ることが多いので、攻撃的な役割はツツジの方に軍配が上がる。

筆者は当初、この押せ押せ展開におけるナンジャモの弱さが気になっていたためツツジを優先して採用していた。しかし、使えば使うほど気になるロスギラ特有のジレンマに悩んだ結果、今ではナンジャモの方が評価がかなり高い。4か月も同じデッキを使用していなかったらこの結論には至らなかっただろう。

カードプールが同じでも環境はしっかり動く

ここまで長ったらしくツツジの弱体化について述べてきたが、ようはこういうことである。
人間は一度成功体験をしてしまうとなかなかその手法に疑いを向けなくなる。特にカードゲームにおいては、新カードの登場によって自分たちのデッキを悉く破壊されてきたプレイヤー達は、逆にカードプールが変わらない限り同じデッキを同じように使おうとしがちである。新カードによって、次いつゴミ束になるか分からない恐怖があるため、せっかくお金をかけて作ったデッキを有効活用したいという心理的な要因があるのだろう。
しかし、このリズムに慣れてしまうとカード一枚一枚に対する評価の見直しを新弾直後しかやらなくなってしまい、新カードが出てないのにだんだんなぜか勝てなくなるといったことが起きるかもしれない。おそらくこれはTCG歴が長い人の方が陥りやすいと思う。

これは自戒も込めているが、カードプールが変化する、しないにかかわらず、こまめにカードの評価を見直すことが、勝率を安定させる秘訣かもしれない。

また、強調したいのは、同じカードプールでもカードの強さが変化するということはすなわち最初から最後までずっと正しい答えはないということである。

例えばもし筆者がタイムマシンで6月に戻れたとしても、当時と同じようにナンジャモよりもツツジを優先するだろう。6月時点では安易にツツジラインに踏み込むプレイヤーは多かったし、何よりアルセウスデッキやミュウが多かったため、ロスギラ特有のエネのジレンマに直面する前に相手のハンド干渉で勝手にエネがデッキに戻っていたからである。つまりこの時点ではナンジャモは正解ではなく、ツツジが正解であったといえる。

運の要素が強いカードゲームにおいて、人間は絶対に信頼し続けることができる唯一の正解を欲する。だって楽だから。
でも残念でした、そんなものはないです。諦めてコツコツこまめに考察を頑張りましょう。

カードゲームしんどいなって話でした。


おまけ

6月頃からのレシピ変遷

リーグカップ優勝(6月)
リーグカップ優勝(7月)

パオジアンが少なかったので雪道の枚数を入れ替え札等に割いていてかなり押せ押せ展開ができていた。おかげでツツジも強く使えていた。

リーグカップベスト8(8月)

この辺りから勝てなくなってきた。
押せ押せの動きを無理矢理しようとする考えになりポケギアを入れてみたものの上手くハマらず。ゲッコウガでエネを切って無理にミラージュゲートを引きに行く動きもしんどいことに気付き始める。

リーグカップベスト4、ベスト8
リーグチャレンジ優勝 (9月)

最後の月にようやくナンジャモを複数枚投入するに至り、勝率が安定。
ロストマイン合戦で邪魔になるため、ゲッコウガも抜いている。