「なんで怒らないんですか?」優しい上司から返ってきた意外な答え
「なんでそんなに怒らないんですか?」
新卒2年目の私が、執行役員でもある上司に聞いたことだった。
当時の私の上司は、とてつもない人格者だ。ビジネスマンとして仕事ができるのはもちろんだが、社内外のいろんな人に慕われている。
そんな上司は人に対して感情的になることはないし、めったに怒ることもない。(適切に“叱る”ことはあるけれど)
そんな上司が人に怒らない理由、それは「人に期待しない」ことだった。
部下に感情的になってしまう私が変わった、ある一言
当時、私は新卒1年目の終わりに初めて部下を持った。(部下というより同じ目線の仲間だが、私が指示を出すことが多いので、あえて<部下>と表記します。)
だけど、仕事に慣れていない部下や仲間たちと、指示の出し方に慣れていない私はなかなか折り合いがつかなかった。部下との仕事がうまくできない私は当時、めちゃくちゃ悩んでは感情的になり、強い言い方をしてしまい、周りを困らせていたと思う。
思えば、学生時代もそうだった。バイトリーダー的な立ち位置から、早く片付けをしたい私は動きの悪い人がいると、苛立ちをおぼえ、時には強く声をかけることもあった。
「<上司>さんはなんでそんなに怒らないんですか?」
そんな質問に返ってきたのは、上司の意外な言葉だった。
「期待をしちゃあ、いけないよ」
「あなたはね、人に期待をしすぎてるんだよ」
「“勝手に”期待をするから、失望する。それで怒りという感情が出てしまうんだよ。だから、俺は(いい意味で)人に期待をしてない」
優しい上司から出てきた、意外な言葉だった。でも「期待をしていない」のは、冷たいことではない。
「期待はただのエゴだ」と気付かされた瞬間だった。
当時や、学生時代の私を振り返ると、たしかに人に期待をしすぎていた。
この人はきっと、これくらいはやってくれるだろう
このくらいの仕事は“当たり前”だから、言わなくでもできるだろう
できないなら相談してくれるだろう
でもその“普通”や“当たり前”は、私の勝手な基準だ。私は期待という名のエゴを押し付けているだけだったのだ。
そこから、私は人に“期待”をすることをやめた。
期待をしなくなったら、感情的になることがなくなった
期待することをやめたら、不思議なくらいに人に怒ったり感情的になったりすることが少なくなった。
期待をやめたことで「自責」ができるようになったことも大きい。
たとえば、資料作成をお願いして、意図に沿った資料がでてこなかったら「私の伝え方が悪かった」「前提条件や依頼背景のすり合わせが足りなかった」「今度から資料イメージを一緒に伝えよう」と、“自分が変えられる問題”に置き換えられるようになった。
何かトラブルが起きても、「自分で予期できたのではないか?」「次回からはここを確認しよう」と自分ごとにとらえて、コントロールできる。
期待しないと人にも優しくなれるが、結局は自分のためにやっていることだ。
人を変えることは難しい、というかそれはエゴである。他人に起因する問題は、自分の中で折り合いをつけるのも難しい。
だから、起きた問題は「自分が変えれば解決する問題」と捉えることで、前に進める。感情を自分起点でコントロールできると、メンタルが安定することに気づけた。
(もちろん、自分が悪くない問題もあるので、そういうのは「しょうがない」と割り切ることも大切。)
「当たり前にできること」なんてない
いま、フリーランスで編集やディレクターをするなかで、会社員時代よりも人に関わることが多くなった。
ありがたいことに「えるもちゃんの優しいコミュニケーションは強みだね」と言ってもらえる。きっと、当時の上司の言葉が今でも私に息づいているんだと思う。
ライターさんから初稿が予定通りに上がってきただけで、感動する。もちろん、遅れても事前に連絡があれば、報連相ができる人だと高評価になる。
納期前に上がってきただけで、私の中の評価はうなぎのぼり。ほんとに。
一方で、納期を過ぎたり、期待したアウトプットが上がってこなかったりする場合は、ちゃんとリマインドをしよう、一定の記事をつくれるレギュレーションをつくろう、という改善につなげる。
それは、人を見下しているわけではなく、「このくらいはできるだろう」「当たり前にやってくれるだろう」という“勝手な期待”をしていないだけ。
そもそも、人に仕事をお願いしている時点で相手は自分ができないことをしてくれているわけだし、尊敬しかしない。そこには「当たり前」なんてないし、すべてのアウトプットが素晴らしいと思える。
もしいま、あなたが人に失望したり、怒ったり、感情的になってしまったりして悩んでいるのであれば、「人に勝手に期待をしていないか?」と振り返ってほしい。
そして、少しずつでいいのでその“エゴ”を手放してみてほしい。
きっと、激しい感情に支配されない自分に出会えるはずだから。
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